博士(理学)濱端 崇 学′位論文題名
Biochemical analysis of follipsin, a novel serlne proteinase found in porclne ovarian follicular fluid
(ブ夕卵巣濾胞液中に見いだされた
新規セリンプ口テアーゼfo川psinの生化学的解析)
学位論文内容の要旨
哺 乳 類 の 卵 細 胞 は 、 ホ ル モ ン の コ ン ト ロ ー ル を 受 け 、 漉 胞 組 織 を 形 成 し て 成 長 す る 。 成 熟 し た 漉 胞 に 兒 ら れ る 顕 著 な 特 徴 は 、 濾 胞 液 で 満 た さ れ た 溌 胞 腔 の 増 大 で あ る 。 漆 胞 液 は 血 漿 か ら の 漫 出 成 分 と 濾 胞 細 胞 が 分 泌 し た 成 分 か ら 構 成 さ れ て い る 。 近 年 こ の
溝胞 液中 に、卵細胞の成長や排卵に不可欠な、様々な物質が含まれている事が明らか になってきた。
高 橋 ら(1992) は ブ タ の 卵 巣 漉 胞液 中 に 、 ア ル ギ ニ ンを含 む合 成ペ プチ ドを特 異的 に切 断し、瀉胞の成熟と共に活性が増大するプロテアーゼを発見した。このプロ テ ア ー ゼは 、DFP、 ロ イペ プチ ン、 アン チバイ ン等 の阻 害剤に よっ て強 く阻 害され るこ とか ら、セリンプロテアーゼであると考えられる。このプロテアーゼの合成基質 に対 する 基質特異性は、排卵直前の瀉胞の鴻胞液に存在することが知られているプラ スミンとは明らかに異なっていた。
本 学位 論文の 第1章は 、こ の酵 素の 精製と生化学的特性の調査、及び組織内での分 布にっいて述べられている。この酵素はf ollipsinと名付けられ、合成基質に対する活 性を 指標 として ブタ 濾胞 液から 精製 され た。40%硫 安沈 殿、DE52カラム 、CM52カラ ム、ペンザミジンセファロースカラム等の棺製ステヅブを経て、約12,400倍まで精製 した。SDSーPAGEで約85kDaの単一バンドが確認され、同バンドは還元条件では45kDaと 32kDaの 二本のバンドに分かれた。したがってfollipsinは、二本のポリベプチド鎮が S― S結 合 で 連 結 し た 構 造 を 持 っ タ ン バ ク 質 で あ る と 思 わ れ る 。 こ の二 本のポ りペ ブチ ド鎖の アミ ノ末 端側 のアミ ノ酸 配列 を計32残基 決定したと
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ころ、両頒ともヒト血漿カリクレインやヒ卜血液凝固因子XIaと高い相同性があった。
また、f ollipsinは抗ヒト血液凝固因子XI。抗体とは反応しないが、抗ヒト血漿カリク レイン抗体とは若干反応すること、逆にマウス抗follipsin抗体もヒト血漿カリクレイ ンと若干反応することから、follipsinはブタ血漿カリクレインである可能性が考えら れた。 しかし、ブタ血漿カリクレインを精製してf ollipsinと比較してみたところ、棺 製時 の 数 種 の カラ ムに 対す る親 和性が 明ら かに 異な ってい た。 さら に15種 類の 合成 基質 を 用 い た 基質 特異 性の 比較 からも 、ブ タ血 漿カ リクレ イン 、ヒ 卜血液 凝固 因子 XI|、follipsinの三者で明瞭な差が見られた。以上の結果から、follipsinは血漿カリ クレ イ ン や 血 液凝 固因 子XI‐と 近縁の 、耒 報告 のブ ロテア ーゼ であ ると結 諭し た。
次に血鋲中のfollipsin活性の存否を知るために、ブタ血漿タンパク質をDE52カラム で分画 し調 べた 。follipsinが溶出 されるはずの塩濃度(0.04H)では活性は全く認め られなかったことから、少なくとも活性型follipsinは血漿中には存在しなぃと言える。
更に、ブタ卵巣皮質の切片を作成し、免疫組織化学的にfollipsinの分布を調べた。
溶胞液、問質、血管内が強い陽性を示したが、顆粒層細胞や夾膜細胞は陰性であった。
通常、 漉胞 液内 に蓄積 する 物質 は顆粒層および夾膜細胞で合成、分泌されることが多 いが、この結果はfollipsinが問質細胞で合成され血流によって漉胞内に運ぱれること を示唆 して いる 。また 濾胞 液以 外の 卵巣組 織に 存在 するfollipsin活性は卵巣全体の 10%以下であることや、血液中にfollipsin活性は検出されなかったことを考えると、
問質あるいは血管内に存在するfollipsinは不活性型前駆体であり、濾胞液中に入って 初めて活性化されると思われる。
follipsinは濾胞の増大と共に活性が高くなることから、漉胞成熟あるいは排卵に深 く関わ って いる ことが 予想 され る。また、ArgーXを選択的に切断することは、他のタ ンバク 、例 えぱ 酵素や 生理 活性 ペブチドのブロセシングや分解を行う可能性を示唆し ている。
第2竃でIよ、follipsinの生理謾能解明を目的として、その生理的基貿を推定するた めの実験を行った。まず数種の市販のペプチドをf ollipsinとインキュペートし、その 産物をIIPLCで分取し、アミノ酸組成を分析することにより、follipsinが分解の標的と しやすいアミノ酸配列を調べた。その結果follipsinは、ArgーXの前に疎水性アミ丿酸 があるときに、高い活性を示すことがわかった。瀉胞液中に存在し、 このようなアミ ノ酸配 列を プロ セシン グま たは 活性化部位に持っ酵素として、組織プラスミ丿ゲンア
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ク テ ィ ペ ー タ ー(tPA)前 駆 体 が あ る 。 tPA前 駆 体 は1本 鎖 型 の 不 活 性 な 酵 素 で あ り 、 活
性化部 位で 切断 を受け て2本 鎖の活性型酵素になる。活性型tPAは不活性型ブラスミノ ゲンを 活性 型の ブラス ミン に変 換し、プラスミンは不活性プ口コラゲナーゼを活性型 のコラ ゲナ ーゼ に変換 する 。プ ラスミンとコラゲナーゼは湾胞壁を分解し排卵を助長 する。 排卵 時に このよ うな プ口 テアーゼ活性化の連頒反応(カスケード)が起こるこ とは知 られ てい るが、tPA前 駆体の 活性 化酵 素は耒 だ同 定さ れていない。この酵素が follipsinではないかと考 え、follipsinのtPA前駆体に対する作用を調べてみた。まず tPA前 駆 体 の 活性 化部 位を含 む10残基 のぺ ブチド を合 成し 、こ れをfollipsinとイ ン キュペートした ところ、活性化部位が正確に切断されることがわかった。次に1本頒 型のtPA前駆体をfollipsinとインキュベートし、モの後にfollipsin活性を阻害剤によ って抑えtPA活性のみを測定したところ、 1時間のインキュペーションでtPA活性はプ ラトーに達し、 6時間のインキュペーションの後でも活性は全く低下しなかった。コ ン卜ロ ール とし て用い 走trypsin倣、同じく1時間でtPA前駆体を活性化したが、 6時 間で はt PA活 性は最 大時 の5分の1程度に まで 低下 した。 さら に1本頒 型のtPA前駆 体 をfollipsinとインキュペー卜し、2本鑓への分子変換を還元条件のSDSーPAGEで経時的 に観 察 し た と こ ろ 、 時 間 と とも に1本 頒 型tPA( 分子 量66,000) が減 少し、 分子 量 36,000と34,000の2本のバンドが増加するのが明らかであった。この2本のバンド嶺、
既に報告されている、活性型tPAを構成する2本のポリペプチド鑞と同じ長さであった。
以上 の実 験結 果は、follipsinがtPA前駆体の活性化に適した酵素であることを示し てい る 。 さ ら に 、 上 述 の 排 卵カ ス ケ ー ド の 上流 に、tPA前駆 体の 活性 化酵素 とし て follipsinが位置することを示唆している。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Biochemical analysis of follipsin, a novel serlne proteinase found in porclne ovarian follicular fluid
( ブ タ 卵 巣 濾 胞 液 中 に 見 い だ さ れ た
新 規 セ リ ン プ □ テ ア ー ゼfo川psinの 生 化 学的 解 析 )
哺 乳 類 の 卵 形 成 は 、 卵 母 細 胞 と そ れ を と り 囲 む 多 数 の 細 胞 か らな る 濾胞 組 織 の中 で 進 行 す る 。 こ れ ら の 過 程 で 共 通 に 見 ら れ る 現 象 の ー つ に 、 濾 胞 液と 呼 ぱ れる 組 織 液の 濾 胞 内 蓄 積 が あ る 。 こ れ ま で の 研 究 か ら 、 濾 胞 液 の 中 に は 卵 母 細胞 の 成 長や 排 卵 に不 可 欠 な 、 様 々 な 物 質 が 合 ま れ て い る こ と が 明 ら か に さ れ つ っ あ るが 、 物 質の 化 学 的同 定 や 生物 学 的役 割 の 解明 に ついて 、分子レ ペルで詳 細に研究 された例 は極めて 少ナょい。
本 学 位 論 文 で は 、 プ タ 卵 巣 の 濾 胞 液 に 含 ま れ る タ ン パ ク 質 分 子 の同 定 と その 生 体 内で の 役 割 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 行 っ た 研 究 の 成 果 と し て 、 新規 プ ロ テア ー ゼ の発 見 、 そ の 酵 素 学 的 特 性 の 詳 細 な 検 討 、 お よ び 生 理 機 能 解 明 の 試 みに つ い て記 述 さ れて いる 。得られ た結果は 次のごとく 要約され る。
(1) プ タ 卵 巣 濾 胞 液 か ら 、Follipsinと 名 づ け ら れ た 新 し い プ ロテ ア ーゼ を 、 合成 ペ プチ ド基質Boc−Gln−Arg一Arg―l/ICAに 対する活性 を指標と して精製した。40X硫安沈澱、
DE−52お よびCM−52ゲル を 用 いた イ オン 交 換 カラ ム 、Benzamidine―Sepharoseゲ ルを 用 いた アフィニ ティーカ ラムにより 、酵素の 純化に成 功した。
(2)Follipsinは 分 子 量 が 約80,000の タ ン パ ク 質 で 、45kDaと32kDaの ポ り ペ プ チ ドがS−S結合し た二本鎖 酵素である ことを示 した。
(3)本 酵 素 が ジ イ ソ プ ロ ピ ル フ ル オ 口 リ ン 酸 、 ベ ン ザ ミ ジ ン 、 ロ イ ペ プ チ ン 、 ア ン チ パ イ ン に よ り 強 く 阻 害 さ れ る こ と を 示 し 、 セ リ ン プ ロ テ ア ー ゼの 一 種 であ る こ とを
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行浩 男 孝 範 橋 木 高堀 鈴 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
明らかにし た。また各 種の合成ペプチド基質を用いた基質特異性の調査から、本酵素 がArg−X結合の 加水分解の みに関わる ことを示し た。濾胞(Follicle)に存在するト リプシン様 セリンプ口 テアーゼで あることか ら、Follipsinと呼ぷことを提唱してい る。
(4)Follipsinがヒト血 漿カリクレ インや血液 凝固因子XIaと、構造上、相同なタン パク質であることを明らかにした。
(5)本酵 素の卵巣 内での分布 を免疫組織 化学的手法 により検討 し、卵巣の 濾胞腔お よび問質細 胞に陽性で あることを示した。間質由来の組織抽出液が酵素活性を示さな いという生 化学的事実 から、Follipsinは卵巣の問 質において不活性前駆体タンパク 質として合 成され濾胞 組織に輸送された後、濾胞腔内で活性化を受けるという考えを 提出している。
(6)Follipsinの天然ペ プチド基質に対する作用を調べ、切断部位近傍におけるアミ ノ酸配列と 切断効率の 関係を明ら かにした。 切断を受け るArg残基のアミノ基側に疎 水性残基(特にPhe)が存在する時、本酵素は高い切断活性を示すことを見いだした。
(7)不活性前駆体の一本鎮プラスミノゲンアクチペー夕(sc−tPA)が、Follipsinの生 体内における基質の候補として検討された。その結果、本酵素がsc−tPAを遮やかに二 本鎖の活性型プラスミノゲンアクチベー夕(2c−tPA)に変換することを実証した。以上 の実験結果 に基づいて 、哺乳類排卵における濾胞壁破壊の過程で作動するプロテアー ゼカスケー ド(プラス ミノゲンア クチベー夕 /プラスミ ン系)において、Follipsin がsc―tPAの 活 性 化 酵 素 と し て の 役 割 を 果 た し て い る と 提 唱 し て い る 。 以上の成果 は、これま で全く報告されたことのない新知見であり、排卵過程の分子 レペルでの 理解に大き く貢献するものである。審査員一同は、申請者が博士(理学)
の学位を得るのに充分な資格があるものと認める。
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