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精神発達遅滞児・者における情報処理速度 松村多美恵*

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茨城大学教育学部紀要(教育科学)41号(1992)233−250       233

精神発達遅滞児・者における情報処理速度

松村多美恵*

(1991年9月13日受理)

Speed of Processing Information in Persons and Children with Mental Retardation

Tamie MATsuMuRA

(Received September 13,1991)

1.は じ め に

精神発達遅滞児・者(以下遅滞児・者)が短期記1意に劣ることは多くの研究が指摘している。松 村(1989)は従来の研究を概観し,遅滞児・者における短期記憶の劣弱さの原因として制御過程,

メタ記憶および構造的要因を挙げている。その3点に関する従来の研究成果を要約すると以下のよ うである。

①制御過程

情報を感覚記憶から短期貯蔵庫に,さらに短期貯蔵庫から長期貯蔵庫へ転送したり,短期貯蔵庫 に維持する時に働く注意,符号化,リハーサル,および精緻化といった制御過程の障害が指摘され ている。この点に関しては,多くの研究でこうした方略の訓練がなされた。その結果,訓練効果の 維持はみられたが,般化はみられず,健常児・者との差も克服されなかった。そのため,遅滞児・

者における記憶の劣弱さの原因はメタ記憶の障害(特に,実際の方略を選択したり遂行する実行機 能がうまく働かない)と,構造的限界を反映すると考えられるようになった。

②メタ記憶

メタ記憶としては,「自分自身の記憶過程や課題の構造や方略の使用といった言引意に関する知識

(メタ記憶的知識)」と,上述の「実際の記憶場面において計画したり,モニターしたり,チェッ クする調節能力(実行機能)」が考え.られる。前者については遅滞児・者もある程度の知識は有し ており,MAの上昇や経験によって増加することが示唆されているが,メタ記憶的知識を評価する 方法の適切性が疑問視されるとともに,従来の研究方法の偏りもみられる。さらに,実行機能に焦 点を当てた訓練の有効性が指摘されてはいるが,その訓練によってどの程度健常児・者の成績に近 付くのかについては検討されていない。すなわち遅滞児・者のメタ記憶に関する研究はまだ不十分

と言える。

*茨城大学教育学部障害児教育講座(〒310 茨城県水戸市文京2丁目1−1).

(2)

③構造的要因

前述のように訓練に限界があること,さらに認知的方略を要しない課題においても遅滞児・者が 劣っていることから,構造的限界があるのではないかと考えられる。構造的要因の指標としては,

知識,方略,そして動機づけとは比較的独立していると考えられる記憶容量,処理速度,および衰

研究されてはいるが,最近特に処理速度について再び関心がもたれてきている。

本論文は,松村(1989)において検討されていない記憶課題における情報処理の各段階における 遅滞者と健常者の時間的成績(特に処理速度)を比較し,遅滞児・者の短期記憶における劣弱性の 原因についてさらに検討する。その際,情報処理の流れに沿って,感覚記憶,符号化過程,中心的 処理,および反応過程に分けて,従来の研究成果を概観する。

H.各情報処理過程における時間的成績

1.感覚記憶

外界の刺激情報はまず感覚貯蔵庫に送られる。視覚的な刺激の感覚記1意はアイコニック・メモリ 一(アイコン)と呼ばれる。アイコンは刺激の物理的存在よりも長く続くことが指摘されている。

1秒以内(250から2000msといわれている)で衰退してしまうというような非常に短時間の記憶で はあるが,それでも記憶であることに変りはない。

Pennington&Luszcz(1975)は文字配列を用いて,部分報告のcueを呈示するまでの時間(遅延 時間)を変化させ,遅滞者のアイコンからの衰退速度を調べた。その結果,図1が示すようにどの 遅延時間においても同一CA(19歳)の健常者より再生成績が悪かったが,遅延時間と被験者間に 交互作用はなかった。このことから,遅滞者の感覚記憶に貯蔵される情報量は同一CAの健常者よ

り少ないが,感覚記憶からの衰退速度は両群に差がないことが示唆される。

2.符号化過程

感覚記1意に貯蔵されている情報の一部は符号化され,短期貯蔵庫に転送される。この符号化時間 を測定する方法としては,①タキストスコープで短時間呈示された刺激を同定させる方法,②バッ クワード・マスキング法,③マッチング課題における刺激呈示間隔から測定する方法,④記憶走査 課題におけるy切片から推定する方法が挙げられる。

①タキストスコープで短時間呈示された刺激を同定させる方法

Libkuman&Friedrich(1972)は数字配列を用い,刺激持続時間を変化させて再認の域値を調べ たところ,遅滞者は,1538.194msで,同一CAの健常者(16歳〜17歳)は424.861msだった。さら に,連続呈示と同時呈示の区別が可能であるためには,長い分離(刺激間間隔:ISI)を必要と する(Thor,1970)ことも指摘されている。こうしたことから, Maisto&Baumeister(1984)が指 摘するように,遅滞者においては感覚記憶から情報を引き出し,短期記憶に情報を転送するのが遅 いと考えられる。

(3)

松村:精神発達遅滞児・者における情報処理速度      235

②バックワード・マスキング法

符号化時間を測定するもう一つの方法が,バックワード・マスキング法である。前述のように,

我々は刺激が物理的に呈示されている時だけ情報を抽出するのではなく,物理的刺激が消えた後も,

一定時間は感覚記憶に刺激を保持し,画像イメージ(アイコン)から情報を抽出できる。バックワ 一ド・マスキング法においては,ターゲット刺激が呈示された後,一定の間隔をおいてマスキング 刺激が呈示される。このマスキング刺激の呈示によって,感覚貯蔵庫におけるターゲット刺激のア イコンは消失する。感覚貯蔵庫からの符号化は,ターゲット刺激の呈示からマスキング刺激の呈示 までの間に制限される。一般に,ターゲット刺激の正確な同定を可能にする最短ISI(ターゲット 刺激とマスキング刺激の間の間隔)は,感覚記憶の情報が処理される(符号化)のに必要な時間を反 映する。

Saccuzzo&Michael(1984)は,バックワード・マスキングを用いて遅滞者の文字の符号化速度 を検討した。その結果,同一CAの健常者と比べても,同一MAの健常児と比べても,ターゲット 刺激の同定には長い時間を要した。さらに,Hornstein&Mosley(1987)も,遅滞者は言語刺激

(2文字語)でも非言語刺激(多角形)でも刺激を正確に同定するのに,MAマッチやCAマッチの 健常者より多くの時間を要することを示唆している。

また,バックワード・マスキング法を用いて,視察時間(inspection time)を調べた研究も多い。

これは,著しく異なる長さの2本の線のどちらが短いかを判断させるもので,2本の線が短時間呈 示された後,マスキング図形が出される。視察時間は「被験者の判断が正しい時の刺激呈示時間」

と定義される。従来の研究結果から,健常者の平均視察時間は100msから150msで,遅滞者はそ の2倍であることが示唆される(Hulme&Turnbu11,1983;Lally&Nettelbeck,1977;Lally&

Nettelbeck,1980;Nettelbeck 1985;Nettelbeck, Evans,&Kirby 1982;Nettelbeck, Hirons,&

Wilson,1984;Nettelbeck, Kirby, Haymes,&Bills,1980;Nettelbeck&Lally,1979;Nettelbeck

&McLean,1984;Sacuzzo, Kerr, Marcus,&Brown,1979)。

このように,遅滞者は高レベルの認知やリハーサル,あるいは方略的活動にだけ健常者との差が みられるのではなく,基礎的な情報処理の速度においても差が認められる。

③同一性判断課題における刺激呈示間隔から測定する方法

修正されたポズナー同一性判断課題を用いて符号化時間を測定する方法がある。Sperber&Mc一 Cauley(1984)は,図2のように一対の絵(例えば,「dog−dog」:この2つのdogの形態は異なる,

「dog−truck」)を呈示し,2つの絵が同じものかいなかを判断させた。その際,2つの絵の呈示間 隔を変化させた。第1の絵が符号化(長期記憶から情報を想起)される前に第2の絵が呈示される

と,第2の絵が呈示されてもまだ第1の絵を符号化しており,第2の絵の処理はその後になる。そ の結果,第2の絵に対する反応時間は長くなる。すなわち,2つの絵の呈示間隔が増加するにつれ て,反応時間は減少する。そして,第1の絵の符号化が終了する時間以上の間隔であると,反応時 間が変化しなくなる。符号化の速度はこの反応時間が変化しなくなる時点までの呈示間隔であると 考えられる。Sperber&McCauley(1984)は実験の結果,遅滞者の絵の符号化時間は500msで,

健常者の絵の符号化時間は400msであり,遅滞者は健常者より遅いことを報告している。さらに Sperber&McCauley(1984)は,上位概念の符号化時間も調べた。例えば,「dog−horse」,「dog 一truck」とし,2つの絵が同じ上位概念のメンバーかいなかを判断させた。その結果,上位概念の

(4)

符号化時間も基礎的概念と同様に,遅滞者が500msで健常者が400msであった。この点について,

Sperber&McCauley(1984)はこうした手続きで同一の上位概念のメンバーかいなかを判断する 場合も,絵の符号化は名称レベルで行なわれるため,この方法では上位概念の符号化時間は調べら れないと考察している。

Merril}, Sperber, McCauley, Littlefield, Rider,&Shapiro(1987)はこの点を修正して,物 理的符号化,名称的符号化および上位概念の符号化の速度を調べた。すなわち,物理的に同一かい なかのマッチング,名称が同じかいなかのマッチング,さらに第2刺激を聴覚的に呈示される上位 概念ラベルとし,第1刺激がその上位概念のメンバーかいなかのマッチングをさせた。その結果が 図3から図6である。図3が示すように物理的符号化は遅滞者が410ms, MAマッチの健常児が 310ms, C Aマッチの健常者が290msであった。さらに名称的符号化は,図4が示すように遅滞者 が480ms, MAマッチの健常児が370ms, C Aマッチの健常者が360msであった。上位概念の符 号化は,図5および図6が示すように典型性の高い事例では遅滞者が460ms, MAマッチの健常児 が380ms, C Aマッチの健常者が370msであり,典型性の低い事例では遅滞者が650ms, MAマッ チの健常児が580ms, C Aマッチの健常者が480msであった。著者達は典型性の高い事例の上位概 念はすべての被験者によく学習されているため,この符号化時間の差は意味的知識へのアクセスと は独立した名称の符号化速度の差であろうと考察している。ともあれ,遅滞者の物理的符号化,名 称的符号化および典型性の高い事例の上位概念の符号化の速度は,健常児・者より100ms遅く,この 差はMAよりIQに関係すると示唆される。それに対し,典型性が低い事例では上位と下位の関係 が弱いため意味的知識にアクセスする必要があり,それだけ符号化速度が遅くなった。さらにこの 場合,MAマッチの健常児も符号化に長い時間を必要としており,典型性の低い事例の上位概念の 符号化はMAとIQの両方の要因を含んでいると考えられる。

④記憶走査課題におけるy切片から推定する方法

甜憶走査課題は,図7のように1個から5個の刺激セットを記銘した後,テスト刺激が呈示され,

それが記銘セット内にあったか否かを判断させるものである。この反応時間にはテスト刺激を符号 化する時間,テスト刺激が記憶セットのメンバーと比較される時間,および反応する時間が含まれ る。記銘セットの項目数が増加しても符号化や反応する時間は一定であって,比較する時間のみが 増加していく。反応時間を記憶セットの項目数の関数としてプロットしてみると,項目数が増加す るにつれて直線的に増加し,その関数のy軸との切片が符号化と反応の時間を合計したものと考え られる。したがって,この方法から直接的に符号化時間のみを算出することはできないが,相対的 な関係は推定できる。遅滞者を対象とし,記憶走査課題を用いたほとんどの研究が,健常者と比較 してy切片が高い,すなわち,符号化と反応の時間は遅いと指摘している。さらに,Merrill(1985)

は聴覚的単語刺激を用いた記憶走査課題において図7のようにテスト刺激として記憶セットと同一 の上位概念(S−S条件)と,記憶セットの上位概念に含まれる基本的概念(S−B条件)を用い,

テスト刺激の符号化時間(正確には反応実行時間を含む),すなわちy切片を算定した。その結果,

表1のように上位概念の単語は基本的概念の単語より符号化時間が長いことが示された。

3.中心的処理

中心的処理は,刺激の符号化と反応実行の間に生じる全事象と考られるが,ここでは,従来から

(5)

松村:精神発達遅滞児・者における情報処理速度      237

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図1 感覚言己億における遅延時間と        図4 物理的マッチング条件における 正反応率の関係(Pennington&Luszcz,     反応時間(Merri11ε∫α .,1987)

1975)

(ms)

(第1絵の呈示) (第2絵の呈示) (反応) 1000 一遅滞者一一。MAマッチ健常児 900 一一・ bAマッチ健常者

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図2 同一性判断課題における実験方法      図5 高典型性事例の上位概念マッチング 条件における反応時間

(Merrillε α1.,1987)

(ms)       (伽)

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図3 名称マッチング条件における        図6 低典型性事例の上位概念マッチング 反応時間(Merrill e α1.,1987)         条件における反応時間

(Merrmθ∫α1.,1987)

(6)

中心的処理として研究されている記憶走査の時間と,最近注目されている意味的処理を取り扱う。

1)短期記憶の走査時間

上述のように記憶走査課題における記憶セット数に対する反応時間の関数の傾きの値は,短期記 憶内の1つの記銘刺激を走査する時間を反映すると考えられる。従来の研究結果より,遅滞者は視 覚的言語刺激(数字や文字)や聴覚的単語刺激が用いられた時,同一CAの健常者より傾きの値が 高い(走査が遅い)ことが指摘されている(Dugas&Kellas,1974;Harris&Fleer,1974;MerrilL 1985;Mosley,1985;Phmips&Nettelbeck,1984a;1984b;Phillips&Nettelbeck,1985;Silver man,1974)。しかし,非言語刺激が用いられた時には,走査が遅いとする研究(Maisto&Jerome,

1977;Maisto&Sipe,1980)と同じとする研究(Owings, Baumeister, Laine,&Lewis,1980)が ある。図8は,Mosley(1985)の結果である。刺激がアルファベットであっても漢字であっても遅 滞者の傾きは健常者より険しい。さらに,Merrill(1985)は走査の傾きについて,表1のS−S条 件の結果が示すように,遅滞者は65msであり健常者は31msであると算定している。

さらに,Harris&Fleer(1974)は, C Aの異なる健常児問では速度(傾き)に差が認められない ので,遅滞者の走査時間の遅さは発達的遅れではないと指摘している。

以上のように短期貯蔵庫に蓄えられた情報を処理する効率を調べる研究の代表的なものとして,

記憶走査が研究されてきたが,最近,毎日の経験で遭遇する実際の世界の上位概念と下位概念の知 識の処理(意味的処理)の効率の研究が精力的に行なわれている。

2)意味的処理

意味的処理とは,概念や単語の意味について永続的に貯えられた情報(長期記憶における意味論 的記憶)を想起し,それに基づいて呈示された情報を符号化し,評価することである。

意味的処理には,意図的コントロールなしで進行する自動的処理と注意を必要とする活動的処理 が考えられる。遅滞児・者はカテゴリー知識もこの知識を使用する自動的処理も質的には劣ってお

らず,活動的処理において健常児・者との間に差があることが指摘されている。

①自動的処理

ブラウン・ピーターソン(Brown−Peterson)課題は,短期記憶における符号化の特徴を検討す るために用いられてきた。この課題では2〜3のテスト項目を呈示し,保持間隔の間にリハーサル を防ぐための妨害課題を与えた後に,テスト項目を再生させる。その際,同一カテゴリーの連続リ ストで呈示された新しいリスト項目の再生が悪くなる。この現象が順行抑制の形成と言われ,短期 記憶に符号化している間,前に呈示された同じカテゴリーの項目との類似性によって干渉が生じる ために起こる。さらに,その後,別のカテゴリーの項目が呈示されると,干渉が取り除かれ,成績 が改良する。この現象が順行抑制からの解除と言われる。符号化は無意識のレベルで行なわれると 考えられるので,こうした順行抑制の形成と解除も自動的処理と考えられ,このような現象が生じ

るのは,無意識的にカテゴリーをうまく符号化しているからであると解釈される。

カテゴリーの符号化の際,順行抑制の形成と解除が遅滞児・者にも生じることが従来の研究で指 摘されている(Winters,1982,1985;Winters&Cundari,1979;Winters&Hoats,1988)。 Winters

&Cundari(1979)は,遅滞者と健常児(遅滞者と同一MAの9歳児,遅滞者より低いMAの7歳

(7)

松村:精神発達遅滞児 ・者における情報処理速度       239

(記憶セットの呈示)(テスト刺激の呈示)(反応) (ms)

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STMに貯蔵 の符号化

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i i 図8 記憶走査課題におけるセットサイズと

{     ・ 平均正反応時間の関係(Mosley,1985)

i 反応時間  i

P    i

図7 記憶走査課題における実験方法

表1 Merrill(1985)による実験結果

25

切片 傾き 2心

15 L5

遅滞者 健常者 遅滞者 健常者

1.0

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統制欝       実験群

(msec) 図9 ブラウン・ピーターソン課題における

@  試行毎の再生成績(茂木,1990)

(8)

児,および遅滞者より高いMAの13歳児)を対象に順行抑制の形成と解除を検討した。4試行を1 ブロックとし,実験群では最初の3試行では動物(あるいは果物〉の項目,最後の1試行では果物

(あるいは動物)の項目を呈示した。一方,統制群では4試行ともに動物(あるいは果物)を呈示し た。その結果,統制群においては4試行にわたって順行抑制の形成がみられ,実験群では3試行 目まで順行抑制の形成,4試行目で111頁行抑制からの解除がみられた。茂木(1990)は,Winters&

Cundari(1979)の手続きを7試行まで継続した結果(たとえば3試行まで動物,4試行から6試行 まで果物,7試行で乗り物の項目にする),図9のようにやはり順行抑制の形成と解除がみられた。

このことから,遅滞者のカテゴリーの符号化過程は健常児と質的に同一であり,遅滞者もカテゴリ 一的特徴を自動的に符号化することが示唆される。なお,ブラウン・ピーターソン課題においては,

全体的な再生量が健常児・者より低いこと,短期記憶からの衰退速度が健常児・者より速いことが 指摘されている(Ellis&Wooldrige,1985;松村・佐藤,1990)。

遅滞児・者が自動的符号化において質的には健常児・者と異ならないことを示唆する他の証拠は Sperb。,, R、g。i。,&M・C・・1・y(1976)の第1実験より示される・この実験では・対になった絵

(例えば「cat−horse」,「cat−guitar」)が呈示され,その絵を命名するように教示される。実験 の結果,互いに関連した対の絵(「cat−horse」)は互いに無関係の対の絵(「cat−guitar」)より 速く命名された。いわゆる意味的なプライミング効果が遅滞者にも認められた。Davies, Sperber,

&McCauley(1981)もこれと一致した結果を報告している。すなわち,図10のように遅滞児(CA 15,16歳)においても同一CAの健常児と同様,「これは動物です」という文(上位概念プライム)

を呈示した後に呈示された絵の命名時間と「このための手がかりはありません」という文(中性プ ライム)呈示後の絵の命名時間の差が認められ,プライミング効果があることを指摘している。さ らに,遅滞児の平均プライミング効果は33msであり健常児は38msであって,プライミング効果は両 群間に差がないことを指摘している。

以上のようなブラウン・ピーターソン課題における順向抑制の形成や解除の現象,そしてプライ ミング効果が遅滞児・者にも認められることから,遅滞児・者においてもカテゴリー関係の情報が 記憶構造内(長期記1意)に貯蔵されており,個人の意図や自覚的な意識なしで働き得る自動的処理は 健常児・者と異ならないことを示唆する。

②活動的処理

上記のように遅滞児・者の自動的な意味的処理が健常児・者のそれと質的に異ならないのに対し,

活動的な意味的処理においては劣ることが従来の研究結果より示唆される。

Davies, Sperber,&McCauley(1981)は,図11のように「これは動物である」という上位概念 レベルの叙述,あるいは「これは犬である」という基本的概念レベルの叙述に絵がマッチしている かいなかを判断させる絵画照合課題を実施した。そしてこの2種の叙述条件での反応時間の差をカ テゴリーメンバーについての決定時間とし,それを算定したところ,遅滞児が109msであり健常 児が56ms.であって,遅滞児は同一CAの健常児の2倍の時間を要した。前述のカテゴリー知識や 自動的処理においては健常児と差がないことから,この遅滞児の決定時間の遅さは,そうしたカテ ゴリー知識や自動的処理の劣弱性によるものとは考えられない。さらに,Davies, Sperber,&M一

,Caul。y(198・)は,・t,ue試行、においてカテゴリー事例(絵)の典型性を変え(例えば・「これは動 物である」という叙述に対して犬の絵とあしかの絵),「false試行」において事例と基本的叙述の

(9)

松村:精神発達遅滞児 ・者における情報処理速度      241

(言語的叙述)   (絵の呈示) (反応) (プライムの呈示)(ターゲット対の呈示)(反応)

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(言語的叙述)    (絵の呈示) (反応) 図12絵画照合課題のtrue条件における典型性と 反応時間の関係(Daviesθ∫α1.,1981)

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高典型性        低典型性

図11絵画照合課題における実験方法       図15プライミング課題(b)における 実験方法

(10)

関連性を変え(例えば,猫の絵に対して「これは犬です」と「これは椅子です」)たところ,図12に 示されるように典型性が低いと遅滞児の反応時間は非常に遅くなり,典型性の高い条件と低い条件 の決定時間の差は,遅滞児が健常児の1.7倍(遅滞者:89ms,健常者:53ms)であった。さらに,関 連のある叙述になると遅滞児の反応時間は非常に遅くなり,関連性の効果は健常児の1.9倍(56ms 対29ms)であった。典型性や関連性は活動的な決定過程に直接影響すると思われるので,活動的な 決定過程は知能の差に敏感であることが示唆される。

では,遅滞者はどのような種類の活動的処理においても劣っているのであろうか。Sperber, Da一 vie、, Merrill,&McCauley(1982)は絵画照合課題を用い,「昆虫」のように各事例が視覚的に似て いるカテゴリーにおいても「玩具」のように視覚的に似ていないカテゴリー(この場合,事例をま ず基本的レベルで同定し,それと上位概念の意味的比較をして,そのカテゴリーを確認しなくては ならない)においても上位概念確認時間は遅滞者が健常者より30ms遅いことを報告している。さら に,Merrill&Mar(1987)は,遅滞児は同一MA(10歳)の健常児より聴覚的文章処理時間が遅いこ とを指摘している。

また,Merril1(1985)は,前述(図7)のように記憶走査課題において,上位概念確認時間を検討 した。上位概念同一(S−S)(記憶セットの項目が「玩具」や「家具」といった上位概念であり,

テスト刺激も上位概念である)条件とカテゴリー決定(S−B)(記銘セットの項目が「玩具」や「家 具」といった上位概念であり,テスト刺激が「人形」「机」といった下位概念である)条件を設定 した。この2条件における記憶セット数に対する反応時間の関数の傾きの差は,カテゴリー決定条 件で上位概念と下位概念を比較するのに必要な時間と考えられる。表1で示されるように遅滞者に おけるこの差は健常者の2倍であった(153ms対87ms)。

4.反応過程

多くの研究が遅滞児・者の単純反応時間と選択反応時間を健常児・者と比較している。・例えば,

Keating&Bobbitt(1978)は,①光が点くとボタンを押すという単純な課題鯉滞者は単純反応時 間が遅く,変動が大きいこと,②赤い光が点くとあるボタンを押し,青い光が点くと別のボタンを 押すという課題で遅滞者は選択反応時間が遅いことを報告している。Wade, Newell,&Wallace

(1978)は遅滞者は反応の組織化の段階で健常者ほど効率的ではないことを指摘しており,Brewer

&Nettelbeck(1979)も反応プログラミングを要求した課題では反応実行が比較的難しいことを指

摘している。

しかし,このような実験成果にもかかわらず,反応時間のみを検討した研究では,符号化や中心 的処理,あるいは反応過程のどの過程に障害があるのかを明確にできない。Nettelbeck&Brewer

(1981)は,従来用いられた課題は反応要因というよりむしろ,弁別や,刺激から反応への移行,行 為のタイミングの決定に関係する中心的な過程が影響し,このような処理がゆっくりしているため

に反応時間が遅いのだと指摘している。

(11)

松村:精神発達遅滞児・者における情報処理速度      243

皿.遅滞児・者の情報処理速度における遅さの原因

1.中央実行機能

以上,情報処理の各段階において遅滞児・者の非効率性が実証された。このことは,遅滞児・者 は情報処理のすべての側面を計画し,コントロールする中央実行機能の障害を有していることを示 唆する。この中央実行機i能の障害は改善されないものであろうか?Nettelbeck&Brewer(1981)

は,中央的実行機能の限界を検討することに関して2つのアプローチを提案している。その第1の アプローチは速度と正確さを要求する課題における遅滞者の成績の特徴を検討することであり,第 2のアプローチは処理速度に及ぼす広範囲の練習と訓練の効果を検討することである。

第1のアプローチに関してBrewer&Smith(1984)は,左手中指,左手人差し指,右手人差し 指,右手中指のどれかで反応させる4選択反応課題において,「できるだけ速く正確に」という教 示に自分の遂行をいかに適応させるかを調べた。エラーのない遂行を維持しながらできるだけ速く 反応するためには,被験者は試行毎に反応の速度と正確さを敏感にモニターし,調節しなければな らない。すなわち,この課題は中央的実行機能の働きを検討するのに非常に適した課題である。第 1実験の結果,遅滞者は健常者と同様に効率的に自分のエラーを発見したが,反応時間は遅かった。

また,エラーの直後,反応時間が遅くなった。このことは,エラー反応の弁別ができていることを 示す。エラーしたことを認め,次の試行でエラーを繰り返さないようにしようとするために反応時 間が遅くなったものと思われる。第2実験では,すべての正反応とエラー反応の反応時間を50ms の間隔に仕切り,各間隔のエラーの確率を調べた。その結果を図13に示す。遅滞者は健常者に比べ て非常に速い反応時間でのエラーがある反面,非常にゆっくりした反応時間でのエラーがあり,そ の両極端でエラーの確率が高い。非常にゆっくりした反応時間でのエラーについては,刺激弁別力 の一時的変動と刺激に対する注意の消失が原因と解釈された。

図14は,エラー前後10試行の正反応の反応時間の平均中央値を示している。図14より,エラーの 前の連続試行において遅滞者も健常者もエラーが起きるまで反応時間を少しつつ速くしているが,

エラーの直後遅くなり,その後序々に速くなって,エラーレベルのすぐ上の狭い範囲内に反応時間 を押さえている。しかし,遅滞者はエラーの前の連続試行での反応時間の減少が急で,エラー後,

極端に反応時間を遅くし,その後もエラーレベルのすぐ上の比較的狭い速くて安全な反応時間域に 収束できていない。Brewer&Smith(1984)は,エラーレベルのすぐ上の狭い範囲内に反応時間 を押さえるためには,効果的な過去の経験(EPEX:effective past experience)の積み重ねが 必要であるとし,エラーから始まりエラーで終わる種々のシークエンスの正反応についての反応時 問パターンについて遅滞者と健常者を比較検討した結果,遅滞者は試行毎の反応時間を調節する EPEXが短く,不適切であることを指摘した。すなわち,健常者においては速くて正確な反応と 速すぎて間違った反応についての適切なサンプルを前の試行で学習しておくことによってランダム で場当たり的な反応を少なくすることができる。それに対して遅滞者は速い反応時間域を確立して いる以前の正反応よりも,すぐ前の反応(短い不適切なEPEX)によって影響される。 Brewer

(1987)は,試行毎に反応の速度と正確さを敏感にモニターし調節する反応において,遅滞者が不適 切なEPEXによって特徴づけられる限り,練習の結果としての速度の改良には限界があると結論

(12)

(ms)      1      50試行以上の 540 櫓一一゜働一ω 一鱒一一一一鱒゜囀ュ一の嶋゜一伽゜讐一゜°一一ロ働 正反応の中央値 520 正反応の中央値   1

一一一一・一一・。・g  ・・ ・・…  一 一・一。

500 ●       ●        ●

°1 9・ °!∴、 搾∴・㌔!°∴ °∵ @・㌔%°・9 ρξ・; }21〜50試行の

480 S60

      1      正反応の中央値遅滞者        1

440

420

400 1

342 R20

    正反応の中央値   1      50試行以上の

??ワ難碧;畢・蕪誓響.彙琴…;二轟畿欝

正反応の中央値 300 健常者      1

280

一10 −8  −6  −4  −2 エラー・ +2  +4  +6  +8  +10 図13エラーの前後10試行における反応時間の平均中央値(Brewer,1987)

80 70 遅滞者

60 50

40 健・中央値

〜   遅・中央値堰o     /1    ・3     巴暑    1量     1    量

0

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0    200    400    600    800   1000   1200   1400    3900〜7500

(ms)

図14反応時間とエラーの割合の関係(Brewer,1987)

(13)

づけている。

次に中央実行機能の限界を検討することに関する第2のアプローチ,すなわち,練習効果につい て概観する。Hoover, Wade,&Newel1(1981)は,反応時間と運動時間を調べる不連続照準(dis一 crete aiming)課題について15日間の訓練を実施した。その結果,運動時間は改良し,その成績は5

ヵ月後も維持されたが,反応時間は改良されなかった。Nettelbeck, Evans,&Kirby(1982)は800 試行の後,弁別反応時間を調べたところ練習効果はあったが,なお健常者の反応時間の2倍であっ たことを報告している。また,Phillips&Nettelbeck(1984b)は記憶走査課題における訓練効果を 検討したが,効果がないことを指摘している。

以上の研究から,基本的な処理操作の速度を媒介するメカニズムは練習によってはあまり影響さ れないことが示唆される。

以上,速度と正確さを要求する課題の研究においても処理速度に及ほす広範囲の練習と訓練の効 果を検討した研究においても,遅滞者の中央実行機能の改良には限界があることが示唆される。

2.注意

また,この中央実行機能は,情報処理全般の遂行に共通する要因としての注意が関係していると 考えられている。Merril1(1990)は「遅滞児・者は各情報処理過程にどれだけの注意を向ければよ いのかを正確に評価できず,注意を適切に分配できない」と考察している。さらに,遅滞児・者の 情報処理と注意との関係について,Hasher&Zacks(1979,1984)が指摘した自動的処理(auto一 matic processinng)と努力的処理(effortful processing)といった観点からも検討されている。

努力的処理は注意を要する意図的な処理であるが,自動的処理は意図しないで生じ,最小の注意で 可能な処理である。

前述のように,意味的処理における健常児・者と遅滞児・者の差は自動的な処理条件下では観察       一

ウれず,意味的情報を活動的に使用しなければならない時に観察される。すなわち,注意を要しな い処理では両群の間に差がないのに対し,注意を要する処理において差がみられる。この点に関し て,さらに他の研究結果を概観してみよう。

Meader&Elhs(1987)は, Posner&Snyder(1975)によって開発されたプライミング手続きを 用いて遅滞者の自動的処理と努力的処理の特徴を健常者と比較した。この課題は図15のように,プ ライム刺激の後に一対の文字を呈示し,それらの文字が同じか異なるかを判断させるものである。

一般に関連プライム(マッチング対の文字の1つと同じ文字)はマッチングを促進し,無関連プライ ム(マッチング対の両方の文字と異なる文字)はマッチングを抑制すると考えられる。中性プライム

(プラスの記号)と関連プライムの反応時間の差が促進効果であり,無関連プライムと中性プライム の反応時間の差が抑制効果となる。自動的処理は意図なしで生じほとんど注意を要しないが,記憶 システムを活性化し,促進効果を生じさせる。それに対し努力的処理は注意を要する意図的な操作 であり,抑制効果と促進効果が生じると考えられる。さらに,プライム刺激とターゲット対の呈示 間隔が短いと自動的処理のみ行なわれ,促進効果のみが認められるのに対し,その呈示間隔が長い と努力的処理が行なわれ,促進効果と抑制効果の両方が認められると考えられる。実験の結果,呈 示間隔が短い条件では健常者と遅滞者の促進効果に差が認められず,自動的処理から生じる促進が

2群とも非常によく似ていることが示唆された。それに対し長い呈示間隔での進効果と抑制効果,

(14)

すなわち努力的処理は遅滞者において発達がゆっくりしていることが示唆された。Ellis, Pal−mer,

&Reeves(1988)は偶発的に学習される刺激の呈示頻度は被験者の意識や意図なしで自動的に符号 化されると考え,この頻度情報の記憶課題を実施したところ健常者と遅滞者の間に差が認められな かった。さらにEllis, Katz,&Williams(1987)とEllis, Woodley−Zanthos,&Dulaney(1989)

は,呈示頻度と同様,注意をほとんど要しない自動的処理が行なわれると考えられる空間配置の記 憶についても,健常者と遅滞者の間に差を認めなかった。

これに対し,注意を要する課題では両群の間に差がみられる。Merrill(1990)は,一一連の数字の 記憶を保持しながら図2のような同一性判断課題をさせた。もし,第1の絵の符号化を遂行するの に注意が必要とされるなら,全負荷(被験者のdigit spanと同量の数字を記憶させながらマッチン グ課題を遂行させる)の時の方が半分の負荷(被験者のdigit spanの半分の量の数字を記憶させな がら同一性判断課題を遂行させる)の時より符号化時間が長くなると考えられるし,決定過程(マ

ッチング時)において注意を必要とするなら,全負荷の時の方が半分の負荷の時よ全体の反応時間 は長いであろうと考えられる。実験の結果,符号化時間においても反応時間においても遅滞者,健 常者ともに,全負荷の方が半分の負荷より時間がかかった。

さらに,自動的処理は練習によって習得される側面があるとされる(Hasher&Zacks,1979;

1984)が,遅滞者においては練習による自動化は遅いことが指摘されている(Merrill,1990)。この 点から考えると,遅滞者の場合,健常者が自動的処理をしている過程に多くの注意を要するため,

他の過程に注意を充分配分できず,処理が遅くなっているのかもしれない。

また,自動的処理と拮抗する努力的処理が要求されると遅滞者はうまく遂行できないとする報告 もある。Ellis, Woodley−Zanthos, Dulaney,&Palmer(1989)は,「あか」「あお」「みどり」「き いろ」の4語が各語とマッチしない色のインクで書かれた各カードについて,そのインクの色を命 名する課題(Stroop課題〉を遅滞者と健常者に課した。一般に「色を命名すること」より「語を読 むこと」の方が自動的であるため,Stroop課題を遂行する(色命名反応を優先する〉ためには語の 読み反応は抑制されなければならない。「x」を書いたインクの色を命名する課題(色命名課題)

における命名時間とStroop課題における命名時間の差(Stroop効果)は,遅滞者の方が大きかっ た。すなわち,遅滞者は語を読む傾向を押さえることができにくいと解釈することができる。

遅滞者は符号化が完了した後,利用できる注意容量が少ししか残っていないのかもしれないし,

注意容量を効率的に分配しないのかもしれない。すなわち,各情報処理過程にどれだけの注意を向 ければよいのかを正確に評価できず,注意を適切に分配できないとも考えられる。上述のDavies 8 α .(1981)やMerrill(1985)の実験において「易しい決定と難しい決定の間の差のひとつが,認 知課題を遂行するのに要求される努力や注意的処理容量の程度である」と仮定できるとすれば,遅 滞児・者と健常児・者の意味的処理速度の差を説明できるように思われる。

IV.ま と め

遅滞児・者の記憶に関する従来の研究においては,制御過程,メタ記憶,および構造的要因の劣 弱性が指摘されている。さらに最近になって,情報処理速度の側面から遅滞児・者の記憶における

(15)

松村:精神発達遅滞児・者における情報処理速度      247

特徴が検討されている。遅滞児・者の情報処理速度における特徴としては,

①感覚記憶に貯蔵される情報量が少ない。

②符号化時間を測定する方法としては,短時問呈示される刺激を同定させ,同定できた時の刺激 呈示時間を測定する方法,同一性判断課題における刺激呈示間隔から測定する方法,および記憶走 査課題におけるy切片から推定する方法が考えられるがこれらの方法から得られた結果から,遅 滞児・者の符号化時間は遅いことが示唆される。

③短期記憶内の記銘刺激を走査する時間が遅い。

④意味的処理の中でも意図的コントロールを要しない自動的処理においては遅滞児・者は劣って

いない。

⑤意味的処理のうち,活動的処理において劣っている。

⑥反応過程については反応までの過程と区別することが難しいが,全体的な反応実行時間が遅い ことが指摘されている。

以上のように情報処理の各段階において遅滞児・者の非効率性が実証された。このことは,情報 処理速度のすべての側面を計画し,コントロールする中央実行機能の障害を示唆する。遅滞児・者 における中央実行機能の限界については,速度と正確さを要求する課題における検討と練習や訓練 効果の検討から実証されている。さらに,この中央実行機能は情報処理全般の遂行に共通する要因

      曹

ニしての注意が関係していると考えられている。上記の④⑤と関連して,ほとんど注意を要しない 自動的処理においては遅滞児・者は劣らないが,注意を要する処理においては劣ることが指摘され

る。

遅滞児・者の情報処理速度が遅いことの主要な原因として,注意容量が少ない,注意容量を各過 程に適切に分配できない,あるいは努力的処理から注意を要しなくても処理できる自動的処理に,

練習によって移行することが難しい,といった注意に関連した要因が考えられる。

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