精神薄弱児の弁別学習過程に関する実験的研究
松 村 多美恵
(1980年10月20日受理)
Experimental Studies of Discrimination Learning Process in Mentally Retarded Children
*
samie MATsuMuRA
(Received October 20,1980)
Abstract
The effects of attention to the stimulus dimension upon the discrim一
一一一一
ination learning in the normals and the retardates of the same・MA were in一 vestigated through 15 experiments. After being measured for their dimension一 一
≠戟@dominance, the Ss were trained on the discrimination task which consist一 一
?п@of form(circle and square)and color(red and blue)dimensions. The results suggested that the performances were related to dimensional domi・
nance, that in the retarded there was the tendency of being bound to one dimension without switching to another, and that the short−term mem一 ory might influence the performances.
1 精神薄弱児の弁別学習に関する研究の成果と問題点 「
ク神薄弱児の弁別学習過程を分析するためにこれまで用いられてきた課題には大きく分けて,単純 弁別学習課題と弁別移行学習課題が挙げられる。単純弁別学習課題においては1っの刺激が正刺激と され,この正刺激は学習全体を通して変わらない。したがって被険者は単純に1つの適切な刺激を反 応を繰り返す過程で習得すればよいわけである。同一MAの精神薄弱児と正常児に対して単純弁別学 習課題を実施した研究を概観すると,精神薄弱児の弁別学習の速さは正常児と違わないとするもの
1) 2) 3)
(Hetheri㎎ton,Ross&Pick 1964;Kass&Stevenson,1961;Martin&Blum,1961;
St,v,n、。n、9諭と,正常児より遅いとするもの(Baum,i、ter,脱,dl,&H。wk甑・96 IB,。w皿
・978);H田ter,B,。w。&Zigler,・97f)、 R。、s, H,theri。gt。n&冊。y・96♂/など一致した結 果が得られていない。
弁別移行学習とは1つの弁別課題を学習したあとで別の弁別課題を学習するような事態をいい初め の弁別学習を先行学習,あとの学習を移行学習と名づける。移行学習では先行学習の正刺激とは異な
* 茨城大学教育学部(Faculty of Education, Ibaraki University)
る刺激が正刺激となる。移行学習には弁別逆転移行学習(discrimination reversal−shift learning)
と弁別非逆転移行学習(discrimination norreversal−shift learning)の2種類があり,前者で は先行学習と移行学習における適切次元が同じで,先行学習の時の負刺激が移行学習において正刺激
となる。また後者では先行学習と移行学習で適切次元が異なってくる。従来の弁別移行学習課題を用 いた研究を概観してみると,動物や正常児・者を実験対象としたものがほとんどであり,精神薄弱児 9)
対象とした研究は非常に少なく,一致した結果は得られていない(Milgram&Furth,1964;茂 リ,阿部,呉,福本,、96訊Plerd,,1,ith、95♂ISt,v,n、。n&Zig1,,,195ゲi)梅谷197ゲ1。
上述のように,単純弁別学習においても弁別移行学習においても一致した結果が得られていない理 由として,これまでの研究では弁別学習を規定する要因の統制がなされていなかったことが指摘され る。そうした要因の中には被険者の要因(MAやIQのレベル,次元偏好性など),学習刺激の要 因(図形の種類,不適切次元の変化のしかた,次元や価の数など),および訓練方法の要因(過剰訓 練,言語反応など)が考えられる。しかし,これまでの研究で一番見落されてきたのは被験者の次元 偏好性の効果である。従来の研究においては関与する次元がすべて等価であるとの前提のもとで行な われてきた。しかし,被験者によってこれらの次元が等価でないとすると,これまでの研究結果は再 検討されなくてはならないだろう。たとえば,ある課題で精神薄弱児群の方が正常児群より成績が悪 かったとすると,これはその適切次元が正常児群の多くの被験者にとっては注意しやすい次元であっ 14)
トも,多くの精神薄弱児にとっては注意しにくい次元であったためかもしれない。Evans(1968)は,
精神薄弱の青年の場合には適切次元が形や大きさであるときよりも明暗であるときに学習が非常に速 かったと報告している。これは,明暗という次元が精神薄弱の青年にとって注意しやすい次元(優位 次元)であったためではないかと考えられる。
次元偏好性と弁別学習の成績との関係に関心が向けられたのは最近のことであるが,まずSuchman
16) 15)
浮srabasso(1966)は三角提示法(Brian&Goodenough,1929)で測定された幼児の色と形に対 する偏好性が,色と形からなる分類学習に影響することを実証した。すなわち,被験者の優位次元と 分類学習における適切次元が一致しているときには学習が促進され,一致していないときには抑制さ れることを見出した。色と形の次元を用いて次元偏好性と弁別学習成績の関係を調べた研究はその後 もいくつか行なわれており,それらの研究においても次元偏好性と学習成績の間に関係があることが 実証されている(Mitl,,&H肛,i、,、9667!。d。m&M。mbauer,、97望I T,abass。,Stav,&
Ei,hberg,・9681.さらに弁男U移行学習におV・てもこの次元偏雛の効果が実証されている(C_,、9識D曲1,m&M,Laughli。,・96ξPH。al,B,㎝、ky&Manki。,n,・96ぎ1もmil,y&W,i,,・9認1
T,ab鎚、。,Stav,&Ei,hberg,・96認.しかし請禰弱児の弁男U学習過程に及ぼす次元偏雛の
効果はほとんど検討されていない。
弁別学習を規定する要因の中でこれまで統制が十分でなかったもう1つのものは学習刺激である。
これは課題の難易度との関係で考えなくてはならない。課題の難易度については,易しい課題や非常 に難しい課題では精神薄弱児と正常児の学習成績には差がなく(floor effect&ceiling effect),
中ぐらいの難易度の課題において精神薄弱児の方が成績が悪くなると言われている。ところが,その 難易度を何らかのパラメーターで規定して,段階的に難易度と両被験者群の成績の差を検討した研究 はみられない。
皿 精神薄弱児の弁別学習に関する理論と問題点
前節において,精神薄弱児の弁別学習に関するこれまでの研究の問題点として,これまでの研究に おいては次元偏好性や課題の難易度に関して十分統制がとれていなかったことを指摘した。しかし,
これまでの研究を概観してみるともう1つ大きな問題点がある。それは,精神薄弱児の弁別学習過程 を総合的に考察する決定的な理論がまだ確立されていないということである。
26) 25)
ク神薄弱児の学習能力に関しては従来いくつかの理論が提唱されている。Zigl er(1966,1973)は,
精神薄弱児の知的行動に関する種々の理論を概観して,大きく以下の2つの立場に分けている。その 1っは差異的立場(Difference or Defect Viewpoint)であり,他の1つは発達的立場(Develop一 mental Viewpoint)である。前者の立場は, MAが同じでもIQが異なれば認知機能は量的にある 27)
「は質的に異なるとするもので,精神薄弱児の言語媒介欠除を唱えているLuria(1961)や0℃onnor
&H,,m,li。(、9謝精禰弱児の繍記憶欠陥説を主張するElli、(、96署)、97、聖〜Elli、自身はこ のような分類あるいは自分がこの立場に組み込まれることに批判を加えている),精神薄弱児の認知
31) 32)
¥造における諸領域の間の相対的な非流通性を主張するLewin(1935)やKounin(1941),そして,精 33)
̲薄弱児に注意を適切な次元に向けることの障害があると主張するZeaman&House(1963)など がその提唱者と言える。一方,発達的立場は,家族性精神薄弱児(差異的立場は精神薄弱児を病因に よって分けることはしないで,家族性精神薄弱児と器質性精神薄弱児を一緒にして一般に精神薄弱児 として論じている)の認知発達が正常児のそれと異なるのは,発達の速度と到達される最終段階の程 度だけである(すなわち,精神薄弱児はゆっくり発達し,途中で発達が止まってしまう子どもである)。
したがって,「MAが同じであれば,精神薄弱児と正常児の認知機能は同じである。」と主張してい る。この立場の代表的な研究者はZigler自身である。
以上,差異的立場によるとMAが同一であっても弁別学習事態において精神薄弱児は正常児より成 績が劣ると考えられ,反対に発達的立場によるとMAが同一であれば認知能力も同じであるので,動 機づけが適切であれば,精神薄弱児と正常児の成績に差がないと考えられる。以下,この2つの立場 に含まれる主な理論を概観してみよう。
1.言語媒介理論による解釈
言語媒介理論について,特に弁別移行学習に関係させてもっとも適切な理論を展開したのが,Kendler
&K,ndl,,他(、96髪)、鍋である。彼らは逆転移行と非逆転移行1、関する発達的研究の成果にも とついてS−r…s−Rの図式をとり込れた媒介的S−R説を提唱した。すなわち,外的刺激(S)
が内的反応(r)をひきおこし,それが内的な手がかり(s)となって外的反応(R)がなされると仮定 する。そして,5,6才以上の年長児や成人では,この媒介的S−R 連合による反応が優勢になる ため,先行学習で形成した媒介反応を逆転学習事態でそのまま利用できることから,非逆転移行より 逆転移行が容易になる。それに対し,動物や4,5才以下の年少児では,単純なS−R連合による 反応が強いために,非逆転移行の方が逆転移行より容易になると解釈している。
媒介的S−R反応は言語の発達に関係しており,子どもの発達の初期の段階では,言語はただ大人 や他の子どもに意思伝達する手段にすぎない。ところが,子どもが成長するにつれて,言語は子ども
自身の経験を組織化し,子ども自身の行為を規制する手段となる。そうして,子どもの活動は言語を 通して媒介されるようになる。したがって,年少児の学習は単純なS−R反応にとどまっているが,
年長児や大人になると,媒介的S−R反応ができるようになるわけである。では,精神薄弱児の場合 はどうであろうか.L。,i。(、9δ81、96碧は「精神翻児の場合,言語系カミ未発勧るいは不活発な
ため自分自身の言語的指示が運動行動を円滑に調節し得ない司と主張している。さらに,0℃onnor 浮germelin(1959,1962)やMilgram&Furth(1963),およびMilgram(1966)は,「精神薄弱 児は言語機能が未発達あるいは不活発なために,言語を媒介として利用することができない。」 と解 釈している。すなわち,正常児に比べて上述の媒介的S−R反応が成立しにくいと考えられる。
したがって,前節で述べた課題の難易度の違いによる正常児と精神薄弱児の成績の差に関しては,
言語的な媒介過程を必要としない弁別課題では精神薄弱児は同一MAの正常児と同じ速さで学習する が,言語的な媒介過程を必要とする課題では正常児より学習が遅くなることになる(Furth&Milg一
,am,、96§21G,iffith,、9681 G,iffith,Spit、&Lipman 19564/。
2.注意説による解釈
Z,aman&H。u,e(・963)rを「弁別学習の過程は適切な轍次元1・対する観察反応(。b、ervi。g response)と,その次元内の手がかりに対する道具反応(instrumental response)から成る」と 仮定している。彼らは,学習速度の異なる多くの被験者の学習曲線を詳細に分析した結果,学習達成 の速いものと遅いものの試行数の差は顕著な学習効果がみられるまでの試行数の差であって,顕著な 学習効果がみられ始めてから学習達成までの試行数には差はないことを見出した。この点で,彼らは,
学習曲線の最初のチャンスレベルの部分の長さは主に観察反応の学習を示し,曲線の最後の鋭い上昇 部分は道具的な弁別学習を示すのだと解釈する。したがって,注意説によると,弁別学習を達成する 速さの個人差は道具反応ではなく,観察反応がいかに速く達成されるか否かによっている。精神薄弱 児は同時に多くの属性を分節化して注視することができず,また,関係のありそうな属性と関係の なさそうな属性を見分けることができにくいため,関係ある属性に注視する蓋然性が低くなり,本来 の学習(道具反応)を開始するまでに多くの試行数を要すると説明される。すなわち,精神薄弱児は 2つの観察される手がかりのうち,どちらが正しいかを学習する能力が劣っているのではなく,むし ろ適切次元に注意する最初の確率が低いと考えられる。
この説によれば,課題の難易度という要因は,次元数,あるいは適切次元への注意のしやすさによ り規定されることになる。すなわち,一次元課題や適切次元が精神薄弱児にとっても注意しやすい課 題では同一MAの正常児と差はないが,次元数の多い課題や精神薄弱児が注意しにくい次元を適切と する課題では正常児より学習が遅れる。また,次元数が多すぎたり,正常児にとっても注意しにくい 次元が適切な課題では正常児も学習が困難になるため,両被験者群の成績に差がみられないと考えら れる。また,移行学習に関しては,先行の弁別学習によって形成された観察反応は後続の移行学習に 転移されると考えられるため,どの年齢段階においても,また正常児であっ二ても精神薄弱児であって も,逆転学習の方が非逆転学習よりも速いことになる。
3.短期記憶欠陥説による解釈
問題解決の際には,過去の経験の情報が記憶されていて,それが適切に想起されることが必要とさ 46)
黷驕iScott&Scott 1968)。精神薄弱児の場合,この記憶能力に障害があるために,学習過程に障 47)
Qをもたらすのであると主張する研究者がいる(Brown,1974, Butterfield, Wombold&Belmont
、97彦81Elli、,、96§1)197♂?R。bi。、。n&R。bi。、。n,、9781、)Spit、,、9認調.彼らは,精繭弱 児の記憶能力の障害は長期記憶にあるのではなく,短期記憶にあると主張し,特にEllis(1970)は,
その原因として精神薄弱児は情報を記銘する時に,それらをリハーサルすることをしないためだと指 摘している。しかし,この短期記憶の障害と関連させて精神薄弱児の弁別学習過程を分析した研究は 54) 55)
嘱榾少なく(Lobb,1974, Lobb&Stogdill,1974),さらに逆転移行学習と非逆転移行学習の 成績の差など,弁別学習にみられる種々の現象をすべて短期記憶欠陥説によって説明するには,まだ
時期が早いようである。
4. レピン・クーニンの理論による解釈
これは,ゲシュタルト心理学,とくにLewin(193516旗中心となり,展開してきた理論である。こ の立場は移行学習における精神薄弱児の学習過程を,先行学習でつくりあげた反応習慣を転換する速 さといったいわゆるパーソナリティの一特性としての硬さの観点から解釈しようとするものである。
L,wi。(、935)やK。uni。(、94、洗種々の実験を行ない,「精神漏弓児は同一MAの正常児よりも一 つの反応に固執する傾向が強い」と主張した。したがって,この理論によれば,精神薄弱児は先行学 習の正刺激に固執する傾向があるため,移行学習において正常児より遅れると考えられる。しかし,
58)
アの理論に対しては,多くの批判が加えられている(Stevenson&Zigler,1957;Werner,1946
̲1°ンigl,,&d, L。b,y,、96冴?Zigl,,&U。,ll,・96象3,さらにこの理論は,弁別学習を規 定する要因による成績の違いにっいて十分な説明をすることがでさないという欠点を有している。
5.動機づけ仮説による解釈
Zigler(・9681)・9織ま,もし同一MAの精禰弱児と正常児の学習能力に違V・がみられるとすれ ばそれは動機づけの違いによることを提唱した。彼は,LewinやKouninのいう精神薄弱児の硬い 行動は彼らが過去の生活の中で大人との接触や大人の是認を奮われている傾向が相対的に高いため,
大人との接触や是認を得ようとする要求が正常児より強い。そのために課題に対して正反応すること よりも実験者との接触そのものに高い動機づけがあることによると述べている。したがって,動機づ け仮説によると,動機づけが適切であれば,弁別移行学習において精神薄弱児が同一MAの正常児に 比べ特に劣るということはないことになる。しかし,この理論もやはり精神薄弱児の弁別学習過程を 総合的に解釈することはできない。
以上,精神薄弱児の学習能力に関する理論を概観してきたが,各項で指摘したようにレビン・クー ニンの理論や動機づけ仮説は精神薄弱児の弁別学習過程を総合的に解釈するには不十分である。また 短期記憶欠陥説による解釈もそれにもとつく研究例が少なく,今のところこれだけで精神薄弱児の弁 別学習過程を説明するわけにはいかない。したがって,現在のところ一番有力なものは言語媒介理論 による解釈と注意説による解釈ということになる。では,精神薄弱児の弁別学習過程をある程度一貫
した理論により考察するには,このどちらの理論が妥当であろうか。本研究では,以下のいくっかの 点で注意説の方が妥当であると考え,注意説を中心に研究を進めていく。筆者が注意説を支持する理 由の第1は,言語媒介理論では説明できないような実験結果が多く存在すること。第2は,これまで 言語媒介理論で説明できた実験結果が注意説で十分説明できること。第3は,言語媒介理論では説明 できなかった過去の弁別学習実験結果が注意説で説明すると納得できること。第4は,注意説を裏づ ける実験結果がいくつか存在することである。以下,筆者が注意説の妥当性を理由づけた上記の4点 について詳説する。
まず,言語媒介理論では説明できない実験結果を紹介する。一般に聴くこと(hearing)は言語媒 介の正常な発達を促進すると考えられる。したがって,Kendlerの言う「年長児の逆転移行の非逆転 移行に対する優位性1は,同じ年齢の聾児より正聴児の方が大きいであろうということが期待される。
ところが,Y。uniss(、962秘よびRussell(、968%実験結果は両者間に差がなく,この仮説は確
認されなかった。また,反意語の連想は逆転を易しくする重要な役割を:果たすと考えられる。そこで 67)
kachman&Sanders(1963)は黒と白の移行学習を比較した。彼らは,黒と自は灰色と白あるいは 灰色と黒より言語的に連想されやすいので,黒と白の間の移行が他の移行より易しいだろうという仮 説をたてたのであるが,その結果ではそのような相違は見られなかった。
次に言語媒介理論で説明できた実験結果が注意説によっても説明ができることを示す。言語媒介理 論では,弁別学習における精神薄弱児の劣弱性を言語発達の未発達性や不活発性に帰しているが,こ れは精神薄弱児の注意の不適切さによっても説明できる。また,逆転移行学習が非逆転移行学習より も速く達成されるという結果は,言語媒介理論では媒介反応の転移によって解釈されるが,注意説に おける適切次元に対する観察反応の転移によっても解釈され得る。さらに言語化の効果(Kendler,
・96野IMilg,am&N。ce 196ぎ?杉村,・96㌍);W。lff,・96る11や過剰訓練の効果(B,n、berg,、959%hl,i,h&R。ss,、96乙3);Sh,pP&Turri、i,、9681については,言諜介理論では言語
的な媒介が促進されるためと考えられるが,注意説においては適切な観察反応の確率が高まるためと 解釈され得る。
注意説と言語媒介理論の主張において対立している大きな違いは,言語媒介理論では動物や年少児 では媒介反応がないため非逆転の方が逆転よりよいとするのに対して,注意説では動物や年少児でも 年長児と同様観察反応の転移が生じる逆転の方が非逆転よりよいとする点である。この点については 言講介理論を肯定する研究結果(K,ndl,,&K,ndler他,、95る?、96菱?、978/と,注意説を肯定
78) 79) 80)
キる研究結果(Campione, Hyman&Zeaman,1965;Eimas,1966;House&Zeaman,1962 rh。pP&Ei㎜、,、96男);S。gim。,a・96亨2/がみられる.しかし,前者については先行学習の醐 次元(逆転の場合,先行学習と移行学習の適切次元は同じ)は注意しにくいが,非逆転学習(移行後,
適切次元が変わる)での適切次元により注意しやすい子どもが多かったとも考えられる。年少児ほど 次元の偏好性の効果が大きいと考えられる。また,Kendlerは媒介反応は精神発達に伴なって形成さ れると考えているが,動物や年少児においても過剰訓練によって逆転後の学習が速くなることが多く の研究において確かめられている。動物や年少児の学習が単にS−Rの連合でなされているとすれば,
過剰訓練で逆転後の学習が容易になるとは考えられない。この現象については言語媒介理論では過剰 訓練の過程で媒介反応に相当する学習の質の変化が起きたのだと考えられているが,動物でも年少児 でも過剰訓練によって逆転後の学習が速くなるとすれば,媒介反応ということばで表わされるような 学習の機制が欠如していることにはならないであろう。むしろ,過剰訓練によって適切次元に対する 観察反応の確率が高まったと考える方が妥当であろう。またKendlerは,「MA 4〜5才以上の子
どもは言語を媒介とすることができないため,言語化により弁別学習成績を改良することができない司 83)
ニ述べているが,Woerner(1963)は保育園児においても言語化の効果を認めている。こうした言語 媒介理論とは矛盾する実験結果も注意説では説明がつく。すなわち,何歳の子どもであっても言語化 することが言語化された適切次元に対し注意するように働くと解釈される。
注意説を裏づける決定的な実験結果は第1節で述べた次元偏好性に関するものである。Suchman 84)
浮srabasso(1966)らは,被験者が注意しやすい次元が適切次元と一致していれば学習が速く達成 され,一致していなければ学習が遅くなると報告しており,これは学習が適切次元に対する観察反応 の確率の高さに依存しているとする注意説を支持する。この次元偏好性と学習成績の関係は言語媒介 理論では説明できない現象である。
以上,4点について注意説の妥当性を論じてきた。しかし,この注意説の立場からも弁別学習の規 定要因に関して総合的に研究が進められているわけではない。
皿 精神薄弱児の弁別学習過程における観察反応に関する実験(その1)
以上,これまでの研究における問題点として,弁別学習を規定する要因一特に重要なものとして
被験者の次元偏好性と課題の難易度一の統制がなされていなかったこと。さらに,精神薄弱児の弁 別学習過程がある一つの理論で総合的に考察されていないことが指摘された。そこで,本研究では被 験者の次元偏好性を分析の主軸にする。そして,規定要因のいくつかは全被験者に共通的に統制し,
他の要因による成績の違いを分析する。すなわち,被験者のMAやIQは固定的にとらえ,弁別刺激 も一貫して幾何図形を用い,不:適切次元は試行内変化,優位次元は1つ,刺激価は2つの弁別課題と した。そして,不適切次元の数,優位次元と適切次元の一致・不一致,移行型,訓練方法などの違い における精神薄弱児と正常児の成績の変化および両者の差を被験者の次元偏好性の面から検討する。
そのような統制のもとで本研究では,①精神薄弱児の弁別学習過程にみられる特性を明らかにする。
②注意説の妥当性と限界を検討することを主な目的とした。
本研究で用いられた被験者はCA4〜7才の正常児計249名とMA4〜8才の精神薄弱児計382名 である。なお,精神薄弱児は顕著な言語,運動および情緒の各障害を示さず,IQ40〜80の者であ る。正常児は標準的な心身の発達を示す者である。これらの被験者は弁別学習に先行して,優位次元 の決定と予備訓練が実施された。各被験者の優位次元を決定するために用いられた刺激カードは色と 形の異なる2枚の図形カード(カード1とカード2)に対し,その2枚のカードと色,形いずれかの 次元が等しい図形カード(カード3)の3枚1組計5組である。三角提示法によりカード3はカード
1とカード2のどちらに似ているかを被験者に尋ねる。5組全部形に反応した被験者を形優位者とし,
反対を色優位者とした。混合反応者は以後の実験から除外された。予備訓練では 熊 の絵と 朝顔 の絵を刺激材料として,裏に レモン のシールが貼付してある方の刺激カードを当てることが課題 であることを理解させる。また,この予備訓練において位置(右,左)に対する固執を取り除く。学 習基準は20試行以内で3試行連続正反応をすることである。
実験1_Al?(目的)不適切次元の数の違いが弁別学習に及ぼす効果を検討する。(方法)色,形 大きさによる1次元課題,2次元課題,3次元課題が平均MA 7才台の精神薄弱児と正常児に課せら れた。3課題ともに色適切課題では赤色か青色が正刺激であり,形適切課題では丸か四角が正刺激で ある。学習基準は40試行以内で5試行連続正反応をすることであった。(結果と考察)図1および 表1は形優位者の各課題における成績を示したものである。精神薄弱児群も正常児群も不適切次元の 数が増えるにつれて所要試行数も増加している(F=23.95,df=2,139,P〈.01;F=30.32,df=
2,139,P〈.01)。このことは注意説により説明できる。すなわち次元数が増すにつれて学習開始時 に適切次元に注意する確率が減少するためと考えられる。また,1次元課題においては精神薄弱児群,
正常児群ともに適切次元の違いによる成績の差はほとんどみられない。しかし,2次元課題と3次元 課題においては,両群ともに色適切課題より形適切課題の方が所要試行数が少ない(精神薄弱児F=
2962;F=87.45,正常児群F=7.17;F=19.70以上すべてdf=1,139, P<.01)。さらに,精神薄弱 児群と正常児群の成績の差は2次元の色適切課題においてのみ認められた(F=α68,df=1,139,P
く01)。また,学習達成者の割合においても平均所要試行数と同じ傾向が認められた。
86)
者を中心に検討する。(考察)両被験者群とも2次元課題と3次元課題で形適切の方が色適切課題よ りも成績がよかったことは,被験者の優位次元と課題の適切次元の一致・不一致によって考察できる ように思われる。すなわち,本研究の形優位の被験者にとって形適切課題は注意しやすい次元が適切 な課題であった。そのため,適切次元に対する観察反応の確率が高くなることから,学習が速く行な われたと考えられる。それに対して色適切課題は形優位者にとって注意しにくい次元が適切な課題で あったため,注意しやすい次元(形)から注意しなくてはならない次元(色)に注意を転換する必要
甲
(%) 協塩
100 Tabl e l磨@ M,㎝num悦,。f t。i瓠、 t。 criteri。n Color
80 (γ冥transformed scores)
60 衆
task relevant ret. nor.
40 簗 color mean 1.91 1.69
one SD 1.06 1.06
20 茨 二次 一二 dimension from mean
rD
1.77 O.96
1.67 P.05 0 元課題 元課題 課題元 color mean 5.39 3.48
twO SD 1.23 1.81
20 dimensions from mean 2.05 1.84
SD 1.16 0.91
40 color mean 5.88 5.50
私 three SD 1.47 L78
60 dimensions from mean 3.74 4.44
% SD 2.33 2.36
80 Form
100
(%) 塩塩 塩塩
口R・t・ 囮N…
Fig 1学習達成者率
があり,そのため学習が遅れたのだと考えられる。このことから,この色適切課題において精神薄弱 児が正常児より有意に劣っていたことの理由が推察できるように思われる。すなわち,精神薄弱児に おいては優位次元から適切次元である非優位次元への注意の転換が困難なのではないかということで ある。この点について後の実験でさらに検討する。
実験1−C:(目的)優位次元と適切次元の一致・不一致の違いが弁別学習に及ぼす効果を色優位 者を中心に検討する。(方法)2次元色適切課題と2次元形適切課題が平均MA 5才台の精神薄弱児
と正常児に課せられた。(結果と考察)両被験者群とも色適切課題の方が形適切課題よりも平均所要 試行数が多く(F=24.15,df=176, P<.01;F=1α98,df=1,76,p〈.01),色優位者においても 形優位者でみられた優位次元と適切次元の一致・不一致の違いによる効果が確かめられた。また,形 適切課題において精神薄弱児は正常児より成績が悪い傾向が認められた(F=3.95,df=1,76,P<
.1)。すなわち,ここでも精神薄弱児の注意の転換の困難性が示唆された。
87)
タ験皿一A:(目的)移行型の違いが弁別学習に及ぼす効果を形優位者を中心に検討する。(方法)
先行学習が達成された後,逆転移行と非逆転移行を実施した。その際,先行学習で形を適切とした群,
色を適切とした群ともに約半数の被験者に対しては形が適切,残りの半数の被験者に対しては色が適 切とされた。(結果と考察)表2は各群の基準までの平均所要試行数を示したものである。移行弁別 において,正常児では各群間に有意な差は認められなかった。それに対して,精神薄弱児は移行後優 位次元(形)を適切とした方が非優位次元(色)を適切とした場合よりも成績がよかった(t=211,
df=32,P〈.05)。 これは,正常児では優位次元から非優位次元への注意の転換がある程度速か ったのに対し,精神薄弱児の場合その転換が遅かったためだと考えられる。その差が優位(形)一
優位(形)逆転移行と優位(形)一非優位(色)非逆転移行間において顕著であった(t=2.26,df=19,
P〈.05)こともこのことを裏づけている。精神薄弱児と正常児の差は移行後形を適切とした場合には 認められず,移行後色を適切とした場合に認められた(t=2.83,df=35,Pく01)。しかもその差は形一色非 逆転移行において顕著であった(t=2.18,df=35,Pく01)。この点についても上記の説明により解釈されよう。
実蜘一課(目的)鮪型の違いが弁男瞠習に及ぼす効果を色優位者を中心1こ検討する。(結果)
表3は各群の基準までの平均所要試行数を示したものである。移行弁別において,正常児では各群間 に差は認められなかったのに対し,精神薄弱児では優位(色)一優位(色)逆転移行と優位(色)
一非優位(形)非逆転移行の間の差が有意であった(t=232,df=17,P<.05)。さらに精神薄弱 児と正常児の差は色一形非逆転移行で有意であった(t=2.36,df=18,P<.05/上記の結果は 学習達成までの平均所要試行数についてであるが,学習達成者率においても同様な傾向が認められた。
Table 2 Table 3
Mean n㎝ber of trials to criterion in the Mean number of trials to criterion inthe initial learning and the shift learning initial learning and the shift leaヱning
(反transformed scores) (γ反transformed scores)
▼
Initial Shift Initial Shift
Group
Reし Nor. Ret. Nor. Group
Ret. Nor. Ret. Nor.
form−form 2.65 1.65 form−form 5.04 3.89
2.39 1.89 5.38 4.38
form−c olor 4.42 2.74 form−color 4.26 3.58
color−color 3.75 2.54 color−color 3.62 2.82
5.14 3.62 2.89 2.70
color−form 3.28 2.59 color−form 5.31 3.89
実験皿一A:( 目的)過剰訓練が逆転移行学習に及ぼす効果を検討する。 (方法)実験皿一Aより 精神薄弱児(形優位者)の注意の転換の障害がその成績にもっとも強く影響していると現われる色一 色逆転移行を実施した。先行学習で基準に達した後,20試行の過剰訓練を行ない,移行学習に入った。
(結果と考察)過剰訓練の効果は認められなかった。その主な原因として移行後の刺激価が先行学習 の刺激価と同じであったことが考えられる。
実験m−B:(目的)過剰訓練が次元内移行学習に及ぼす効果を検討する。(方法)移行後の刺激 価(黄色VS桃色,三角VS楕円)が先行学習の刺激価(赤色VS青色,丸VS四角)とは異なったも のを用いる。(結果と考察)次元内(色一色)移行学習においては過剰訓練の効果が認められた。こ れは,先行学習における適切次元が非優位次元であっても,過剰訓練の間に適切次元(色)に対する 観察反応の確率が高まり,移行後の適切次元も色であるため学習が促進されたのであろうと考えられ る。そしてその際,移行後の刺激価は先行学習での刺激価とは異なっていたために,道具反応の負の 転移の影響はなかったのであろうと考えられる。
89)
タ験W−A:(目的)非優位次元を適切とした2次元課題において精神薄弱児が学習困難であるの は,主として何に帰因しているのかを形優位の学習不能者を中心として分析検討する。(方法)実験
1−B,実験∬−Aおよび実験1皿一Aにおいて弁別学習が達成されなかった14名のうち11名が実験 対象とされた。課題は記憶課題,概念抽出課題および分類課題である。記憶課題では2枚のカードを 提示し,正刺激のカードをあらかじめ被験者に教えておいてその2枚のカードを5秒間(弁別学習の
1試行間隔)隠した後に再提示し,正刺激のカードをあてさせる。5組中4組以上できたものを合格
■
● ● とした。概念抽出課題では図2のよう
回回 囚回 国[iコ な色が適切とされ上の3組に レモン
● 回 ●囹早@●回[コ ●国 ●巨]国 シールが貼付してあるカード3枚を順
ヤに提示する。被験者はその レモン hのシールの貼付のしかたを見て,
[ヨ ]図 番下の組の左右どちらにシールをつけ
スらいいかを尋ねられた。3問題と
:赤色 :黄色 :澄色 正解の場合に合格とした。分類課題
:青色 黒:桃色 黒:緑色 では1次元刺激(形と色)と2次元刺
激を用いた。2次元刺激の分類においFig.2 概念抽出課題用刺激図
は色と形の2通りの分類を要求した ただし,色で分けなさいとか形で分 なさいとは教示しない)。3組において2通りの分類ができれば合格とした。(結果と考察)形か の1つの関与次元しか持たない刺激図形の分類は全員可能であったのに対し,形と色の2っの関与 元を有する刺激図形を2通りに分類することが非常に困難であり,その成績は記憶課題や概念抽出 題より有意に悪かった(〆=455,df=1,p〈.05)。このことから学習が達成できない大きな原 として,同じ1つの刺激図形内のもう1つの次元である非優位次元に対して注意が向かないことが えられる。
験IV−B:(目的)実験IV−Aと同じことを色優位の学習不能者を中心として分析検討する。
方法)実験1−Cにおける非優位(形)適切2次元課題の学習不能者10名を対象とした。課題は実
】V−Aと同じであるが,概念抽出課題は形次元が適切になるようにシールが貼付されたものが用い れた。(結果と考察)色優位の学習不能者では2次元分類課題が1人もできず,形優位の学習不能 と同様に非優位次元(形)に注意できないことが示唆された。
上の実験より,精神薄弱児は優位次元から非優位次元へ注意を転換することが困難であることが 唆された。そこで以下の実験では,非優位適切2次元課題において適切次元に注意させる種々の試 を実施することにより,その試みが学習を改良させ得るか否か,さらにどのような試みが効果的で るかを検討する。
精神薄弱児の弁別学習過程における観察反応に関する実験(その2)
験V−A9°!(目的)非優位次元を醐とする2次元弁別学習において,弁別学習に先行して実施
れる適切次元への注意づけの効果を形優位者について検討する。(方法)分類訓練あるいは教示に る方法で注意づけが行なわれた。分類訓練群は弁別学習に先だって,自発的に2とおり(色と形)
分類が連続3回できるまで訓練を行なう。教示による注意づけでは,弁別学習の第1試行において これとこれでは,レモンのシールは青に貼ってあると思いますか。それとも赤に貼ってあると思い すか。」と教示する。 (結果)正常児の分類訓練群の成績は非常によく,形適切統制群の成績と有 な差はない。それに対し,精神薄弱児の先行注意づけの効果は認められなかった。すなわち分類訓 群および注意づけ教示群と形適切統制群の間に1%水準で有意な差が認められた(t=4.08,df=23;
=3。44,df=25)。なお,分類訓練群と注意づけ教示群の間には有意な差は認められなかった。
91)実
アV−8:(目的)先行注意づけの効果を色優位者にっいて検討する。(方法)色優位者は人数
が少ないため分類訓練群のみ設け,統制群と比較した。(結果)分類訓練群と色適切統制群の間に有 意な差が認められ(t=3.35,df=16,p<.01),分類訓練の効果がなかった。
精神薄弱児において先行注意づけによる効果が認められなかった理由として,優位次元から非優位 次元への注意の転換が正常児に比較すると困難であり,弁別学習に先行する注意づけだけではその転 換がうまく行われないことを示唆している。そこで,次の実験では弁別学習の過程で常に適切次元に 注意させる試みを実施した。
実脚一課(目的)非優位次元を醐とする2次元弁別学習において,弁別学習時の醐次元へ の注意づけの効果を形優位者について検討する。(方法)毎試行言語反応を要求すること,あるいは 色と形の分離した刺激(白ボール紙に四角あるいは丸を黒マジックで描き,その中央に正三角形に切 り取った赤色あるいは青色のつや紙を貼付したもの)を用いることにより注意づけが行なわれた。
(結果)言語反応群および刺激次元分離群は形適切統制群との間に有意な差は認められず,色適切統 制群より平均所要試行数が有意に少なかった(t=4.53,df=26,p<.01;t=2.64,df=24, p
<.05)。すなわち学習時注意づけの効果が認められた。また言語反応群と分類訓練群(t=265,df
=26),および言語反応群と注意づけ教示群(t=2.16,df=28)の間に5%水準で有意な差が認め られた。同じ学習時注意づけである言語反応群と刺激次元分離群の間には有意な差は認められなかっ
た。
実験v[一ぜ3):(目的)学習時注意づけの効果を色優位者について検討する。(方法)言語反応群の み設け,統制群と比較した。(結果)色優位者については言語反応の効果は認められず,色適切統制 群との間に有意な差が認められた(t=3.01,df=18,p<.01)。
以上精神薄弱児形優位者において学習時注意づけの効果が認められた。特に各試行毎に適切次元の 刺激価を言語化することは効果的であった。これは,言語化することにより最初適切次元でない優位 次元に注意を向けていた被験者も徐々に適切次元に注意を向けるようになり,非優位次元に注意が向
くことをさまたげるためだと考えられる。以上のように学習時注意づけの効果が認められたことは,
弁別学習過程において適切次元への観察反応が重要な要因であること,また精神薄弱児の注意の転換 の困難性も学習時に非優位次元に対する注意づけを実施することにより改良されることる示唆する。
しかし,色優位者においては学習時注意づけの効果は認められなかった。この点にっいては優位次元 の発達的変化(色→形)をも考慮して再検討する必要があるであろう。
以上の結果より,正常児は先行注意づけにより学習が促進されるのに対して,精神薄弱児は先行注 意づけによる効果は十分ではなく,学習時に毎試行注意づけをすることにより初めて効果が認められ
ることが示された.精繭弱児に短期記憶能力の轄がある(Elli、,、97141浜重、9荊ことを考え
ると,こうした結果より,弁別学習過程においては短期記憶も影響しているのではないかと考えられ る。そこで実験〜狂と実験皿ではこの点について検討する。
V 精神薄弱児の弁別学習過程における短期記憶に関する実験
実験W:(目的)正反応を随時強化することと間欠的に強化することによる成績の違いを精神薄弱 児と正常児において検討する。(方法)1次元課題において正反応を100%,66%,および33%と強 化した。1次元課題を用いたのは実験1−Aより,1次元課題では 適切次元に対する観察反応の確 率 という要因の影響がほとんどないと思われたからである。間欠強化群の強化のしかたは不定率で ある。(結果)両被験者群とも強化率が低くなるにつれて平均所要試行数が増加した(精神薄弱児群
F=13.99,df=2,84,P<.01;正常児群F=6.63,df=a84, P〈.01)。これは,強化率が低いほ どすぐ前の強化と結びっいた正反応から現試行までの時間が長いために正刺激を忘れる傾向が強くな ることによると考えられる。また,33%強化条件において精神薄弱児群は正常児群より所要試行数が 多い傾向がみられた(F=3,41,df=1,84,p<.1)。
実験伽:(目的)被験者の短期記憶能力の違いが弁別学習過程に及ぼす効果を検討する。(方法)
弁別学習に先行して記憶課題を実施した。その学習材料は田中ビネー式知能検査の「絵単語」で用い られるカードのうち5枚(とけい,めがね,はさみ,つくえ,かさ)である。これらのカードの名前 が言えるかどうか確かめてから,これらのカードを隠し,5枚のカードの名前がすべて再生できるま での試行数を調べた。3試行以内で再生できたものを記憶能力上位群とし,4試行以上必要としたも のを記憶能力下位群とし,この2群の非優位色適切2次元課題の成績を比較した。(結果と考察)記 憶能力上位群の方が下位群より平均所要試行数が少なく(t=2.07,dfニ27,p<.05),このことか
ら記憶能力も弁別学習における重要な要因であることが示唆された。
W 考察とまとめ
まず,本研究の主要な目的とはされなかったが,今世紀のはじめから発達心理学的に研究されてき た形色問題(色と形のどちらに注意しやすい傾向をもっているか)に関して本研究の結果を紹介する。
実験1−Aから実験皿までの被験者は弁別学習の前に Ret.
優位次元湘であるかを測定され・形優儲と色優位 (%) 4 5 678才
者に対して各実験が実施されたわけであるが,各実験 100 藁 1 編 駕
の被験者を総合して各年齢毎の優位次元の相対的割合 80 犠揚 56
を示したのが図3である。図3によると,精神薄弱児
も正常児もMAが高くなるにつれて色優位者が減り, 60 20 態
2 11】
形優位者が多くなっている。また,同じMA段階では 40
惣 痂 箋
精神薄弱児の方が色優位者が多かった。
つぎに本研究の主要な目的に即して各実験結果を検 20 犠
111 討する。以下の点は注意説により解釈できる結果であ 0 茜 晶
った。 髪
1.単純弁別学習において不適切次元の数が増すに 20
1 甕
つれて学習が抑制され,また非優位次元を適切と
@ 40
2 畏
した方が優位次元を適切とした場合よりも学習が
抑制された。 60 場
2 弁別移行学習において,優位次元から非優位次 80 る 塩 に注意を転換する必要のある移行型で学習が抑制
ウれた。 100 髪 窮
監 畿 幾
3 次元内移行において過剰訓練の効果が認められ (%) 4 5 6 7才
た。 ㎜形優位者 N°「
以上の点はすべて・「弁別学習の速さは醐な轍次元 □色優儲 に対する被験者の観察反応の確率に依存しており・そ
Fig.3 年齢別の各優位者の割合
を支持している。
また,精神薄弱児においては以下の特長が認められた。
生 優位次元から非優位次元に注意を転換する必要のない課題では正常児の成績と差がなかったが 転換の必要のある課題では正常児より学習が抑制された。
5,非優位適切2次元課題で学習不能の精神薄弱児は,2次元刺激を優位次元で分類できても非優 位次元で再分類することが困難であった。
6.非優位次元に対する先行注意づけは正常児と異なり,効果が認められなかった。
こうした結果は,精神薄弱児が優位次元から非優位次元へ注意を転換することが正常児より困難であ るためではないかと考えられる。
しかし,以下の結果については,注意説からは解釈されにくい。
7.正常児では非優位次元に対する注意づけは弁別学習の前に実施するだけで効果的であったが,
短期記憶能力に障害があると言われている精神薄弱児では,その効果は低く,学習過程時にずっ と注意づけさせる必要があった。
8 精神薄弱児も正常児も正反応に対する強化率が低くなるにつれて学習が抑制された。
9.精神薄弱児は33%強化条件で正常児より学習が遅れた。
10.記憶力のよいものの方が記憶力の悪いものよりも学習が速くなされた。
こうした結果は,適切次元に対する観察反応の確率だけで弁別学習の速さが決定されるのではなく,
その注意がどの程度固定されているかということも重要な決定因であり,それには短期記憶能力が重 要な役割を果たすことを示唆している。
以上,被験者の次元偏好性を統制して,弁別学習を規定する各要因における違いによる成績の変化 を精神薄弱児と正常児について検討した本研究の結果から以下のことが示唆された。すなわち,弁別 学習過程を説明する理論として注意説は非常に妥当性が高いが,注意説で主張する適切次元に対する 観察反応の確率だけでなく,適切次元や正刺激を記憶する能力の違いも弁別学習の速さを規定する重 要な要因である。さらに,精神薄弱児の弁別学習過程における特性として,優位次元から非優位次元 へ注意を転換することが困難であることが考えられる。なお,今後に残された発展的課題としては,
以下の点が挙げちれる。
1.弁別学習過程に及ぼす短期記憶能力の影響を課題の種類あるいは難易度との関係で検討するな かで,観察反応の確率の高さと短期記憶能力が相互にどのように作用しあうかを検討する。
2 本研究では被験者を色優位者と形優位者に分けて検討したが,こうした要因も加味して,発達 的に弁別学習過程を検討することも必要と思われる。
本論文は,東京教育大学教育学博士論文の要約である。御指導下さいました元東京教育大学教育学 部教授西谷三四郎先生に改めて感謝の意を表します。
注
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