奈良教育大学学術リポジトリNEAR
精神遅滞児の視知覚発達に関する研究
著者 田辺 正友
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 16
ページ 127‑134
発行年 1980‑03‑23
その他のタイトル A Study of Development on Visual Perception in Mentally Retarded Children
URL http://hdl.handle.net/10105/6447
精神遅滞児の視知覚発達に関する研究*
田 辺 正 友**
(障害児学教室)
間 麗
視知覚機能が発達という現象のなかで果す役割は極めて重要なものである。とくに最近の乳児 発達心理学は、この領域で多くの知見を得てきている。子どもの発達が環境からの働きかけによ
って受動的に形づくられていくという考え方が長い闇支配的であった狐子どもを能動的な存在 としてとらえる必要性が具体的な発達研究においても指摘されてきている。生後数カ月という非 常に早い時期から、視覚刺激などに対して選択的に反応を示しており、子どもの行動は、能動的
・探索的な色彩をもつものとして理解されることが必要である。
視知覚機能は、新生児期にすでにその萌芽をみせ、他の諸機能と同様、発達過程のなかで成熟 し、その機能を複雑に構造化させながら発達の重要な構成部分のひとつを成していく。多くの研 究者によって指摘されているが、初期の発達段階においては、子どもは対象の諸特徴を認識する のに実際に手で物を操作することをとおして行ない、視知覚過程は手の操作による行為から分離 しておらず、 r手」が対象を認識する様式として中核的な機能を果たしている。3〜4歳ごろに なってくるとこれが分離しはじめ、知覚的行為の体系が出現しはじめ、5〜6歳ごろになって成 立するといわれている。より進んだ発達段階においては、 r眼」が相対的優位性を発揮しはじめ、
視知覚の果す役割が重要になってくる。子どもの生活の中では、諸機能が密接に相互に連関し合 いながら働き、子どもが新しい段階へと発達するにつれ諸機能の連関の仕方の構造が変わり、諸 機能の中で中核的役割をになうものが変わっていく。
さらに、事物に対する正確な知覚・認知によって、われわれは外界の情報を統合し、判断し、
外界に働きかけていく。したがって、知覚はすべての学習の基礎となるものであり、文字や数の 学習などの教科学習とも深く関連してくるものである。視短覚機能の未発達あるいは障害は、さ まざまな学習を非常に困難なものにする結果を生むことになるであろう。子どもを理解し、教育 的アプローチを行なっていくためには、この側面での発達の様相を的確にとらえていく必要があ
ると考えられる。
従来筆者は、精神遅滞児の図形の方向性に対する認知能力の問題を検討してきた(田辺、1971
;田辺・真砂、1971)。さらに、かかる方向性に対する認知能力の形成がどのような条件によ って左右されるかという問題について、とくに方向性に関する言語との関連から発達的に分析し てきた(田辺、1972)。今回は、方向性の認知発達の問題に限定せず、広く視知覚発達という
‡ A Study of Development on Visual Per㏄ption in MentaHy Retarded Children
榊Masatomo Tanabe(Department of Defecto1ogy,Nara Universityof Education,Nara)
観点から検討を試みることにした。
Frostig,M.は、学習障害や情緒的な問題をもっている子どもに視知覚一運動機能の発達のお くれや機能の減退を示すことが多いことに注目し、Deve10pmental Test of Visual Percep−
t10n一視知覚発達検査を考案した。FrOst19は、視知覚機能を5領域一I.視覚一運動協応、
皿:図形と素地、皿:形の恒常性、IV:空間位置、V:空間関係にわけており、視知覚機能の分 析的な診断に有利であり、しかも、診断結果と関連した訓練プログラムを用意している点で教育 的にも役立つものと考えられる。筆者が従来行なってきた方向性に関する課題も含まれており、
今回は、Frosti9の視知覚発達検査を用いて、その発達的変化をみでいきたい。
なお、現在筆者らによって視知覚機能の発達を、田中昌人(1977)のいうr発達の質的転換期
」における他の行動特性との関連で明らかにしていこうとする試みがなされているので詳しい分 析は続稿に譲ることにするが、ここでも、r発達の質的転換期」に焦点をあてた発達段階区分に よって分析を試みた。
方 法
実験材料 実験材料として、FrOsti9の視知覚発達検査が用いられた。この検査は次の5領域 の下位検査で構成されている。
検査I:視覚一連動協応(Eye−Motor Coordinati㎝)一目と手の協応動作に関する検査で、
検査課題は、いろいろな幅をもった2本の境界線の間に、連続的な直線や曲線や角のある線を描 いたり、ガイドラインなしに点と点を結ぶ線を描くものから成っている。
検査工I:図形と素地(Figure−Gromd)一一般に2つの異質な領域が視野内に存在するとき、
一方の形のみが見え、もう一つの領域はその背景を形成する。わたしたちが受ける種々の刺激の 中から、ある特定のものを選択するときにこの能力が働くのである。順次複雑さを増す素地に対 する図形の知覚を検査するもので、検査課題は、指定された図形を見つけだすものから成る。
検査皿:形の恒常性(Constancy of Shape)一ある形(円・正方形)が、その大きさや位置 等の異なる条件のもとで提示されても、基本的な形は変わることなく保持されることを認める能 力を測定しようとする検査である。検査課題は、円と楕円、正方形と長方形・平行四辺形といっ たまぎらわしいものや、他の多くの図形が入り混ったものの中から、大きさや位置の異なった円 や正方形を見つけだすものである。
検査W:空間位置(POsitionin SPace)一肌、椅子などの略画を用い、並んで提示されてい る図形の中で、回転しているものや反転しているものを弁別する検査である。
検査V:空間関係(SPatial RelationshiPs)一複数のものの相互の位置関係を知覚する能力 を測定するもので、検査課題は、点を道しるぺとして、見本として与えられているパターンと同
じパターンを並べて書くものである。
手続きおよぴ結果の処理上言己検査を、個別あるいは2〜4名の小集団で実施し、茂木茂八ら
(1977)の日本版標準化表によって各領域ごとに粗点(得点)と知覚年令(PA:Percept㎜1
Age)を算出した。
被験者 被験者は、奈良市内小・中学校障害児学級の児童・生徒計74名で、その構成は、北ble 1に示す通りである。
本研究は、奈良市丁小・中学校およびN中学校障害児学級における発達診断活動の一環として なされたものであって、実験の実施時期は、1977年10月〜12月、1978年2月、1979年1月、
5月および9月にかけて行なわれた。
Table1被験者の構成
段階 2次元形成期 2次元可逆期 3次元形成期 3次元可逆期 1次変換形成期〜
MA.Mean
@ Range 3:0 Q;8−3:6
4:5
R:6−5:0
5:11
S:11−6:10
7:3
U:6−9:0
10:0
W:9−11:8
Cム.Mean
@ Range 11:0 V:11−13:7
12:5 X:3−15:4
ユ3:4
、O:2−16;3
13:9
P0:0−15;5
14:1
P3:0−15;5
N 6 9 22 23 14
結 果 と 考 蒙
1 各発達段階、領域ごとに平均得点および平均PAを示したものが、Table2である。また、
Fig.1はその平均P Aを各領域別に図示したものである。なお、本検査(日本版)で測定され る各領域別の上限のP Aおよび最高得点は、検査I−9;9,30点、検査皿一8:6,20点、検 査Iト9:3,17点、検査W−8;0,8点、検査V−8:O,8点である。
これらの結果から明らかなように、PAは各領域とも、発達段階を追って上昇を示している。
これは、各領域の発達段階別平均得点を分散分析した結果(検査I:F=21−26、検査皿:F E 30.57、検査皿1F=21.39、検査IV:F=18・48、検査V:F=28・78、いずれもdf=4/69、
戸<。O1)からも明らかである。そして、r形の恒常性」を除いて、1次変換形成・可逆期てほ ぼ上限の年齢に達している。また、各隣接段階間の平均得点の差を検定したところ、検査Iおよ び亙では、2次元形成期と2次元可逆期、3次元形成期と3次元可逆期との間に、それぞれ1%
水準で有意差が認められた。検査皿では、3次元形成期と3次元可逆期、3次元可逆期と1次変 換形成・可逆期との間に1%水準で、検査IVおよびVでは、2次元形成期と2次元可逆期、3次 元形成期と3次元可逆期、3次元可逆期と1次変換形成・可逆期との間に、それぞれ5%ないし
1%水準で有意差が認められた。したがって、発達段階とともに均一の割合いをもって上昇して いるのではなく、その発達曲線に一定の傾向がみられる。つまり、2次元形成期から2次元可逆 期および3次元形成期から3次元可逆期にかけて急速な発達的変化を示し、さらに、r形の恒常 性」r空間位置」r空間関係」では、3次元可逆期から1次変換形成・可逆期にかけても、急速
な伸びがみられる。これは、各領域ごとの平均得点を発達段階ごとにプロットしたFig.2,3,
4からも明らかである。
Table2 発達段階別平均知覚年令および得点
2次元形成期 2次元可逆期 3次元形成期 3次元可逆期 1次変換形成期〜
I視覚一運動協応 4,0(2.71) 14.4(3.73) 14.7(5.90) 20−2(412) 21.5(2.06)
粗 皿図形一素地 2.0(1.53) 9.2(4.66) 9.2(5,22) 17.8(4.13) 18.9(1.57)
皿形の恒常性 2−2(1.57) 4.6(1.92) 7.O(3.05) 10.8(4.22) 13.5(2.03)
点 lV空間位置 1.O(1,OO) 3.7(1.60) 4.6(1.44) 5.7(2.01) 7.4(1.33)
V空間関係 O.5(O.50) a2(1.48) 3.0(1.99) 5.9(1,65) 7.1(O.80)
知 I視覚一運動協応 3:3 6:4 6;7 8:5 9:5
党 皿図形一素地 3:5 4:9 4:10 7:9 8:1
年 皿形の恒常性 3:3 3:10 4:8 6:5 7:9
齢 IV空 間位置 2:7 412 4:1O 5:10 7:4
V空 間 関係 3:3 4:9 4:1O 6:7 7:7
( )内はSD
P^
一〇
得
点 20
]0
I ■ ㎜ 、
Fi9. 各検証=こお=守る十。止』PA
I … 一■
r I
I
I I
■ 視覚一通助協応 ・・… 図形と業地
2次元2次j[3次元3次元1次変換 形成期ロー逆期形成期可逆期形成期一 発達般晴 Fig.2 視覚一運動協匝;、図形と桑地
0・一i一一0 2≡共j亡形一皮掘1
日 2次j[1リ逆期
H㈹舳 H舳棚
] 1次姓縦形成距ト
得 点 14
得 点 8
1o
戸・・一・。
一 年間位置
・…