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精神発達遅滞児における短期記憶に関する研究

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(1)

精神発達遅滞児における短期記憶に関する研究

松村多美恵*・佐藤純一纏

(1989年9月9日受理)

Short−Term Memory in C卜ildren with Mental Retardation

Tamie MATsuMuRA and Junichi SATo

(Received September 9,1989)

は じ め に

過去における多くの研究にもかかわらず,短期記憶と知能レベルの関係に含まれる原因的要因に ついては,ほとんど知られていない。歴史的にみると,この領域の初期の研究においてEllis(1963)

は,精神発達遅滞児・者(以下,遅滞児・者と呼ぶ)における記憶成績の劣弱の原因を特に記憶の 容量や衰退速度といった構造的要因に求めた。その後1970年代には,その原因は制御過程にあると する主張が一般的になり(Brown,1974;浜重,1977;Taylor&Turnure,1979),1970年代の後半以降 になると,詑憶方略に関する種々の訓練が実施された。その結果,訓練の直接的な効果やその維持 は認められたが,般化については疑問視された(Brownn,1974;Campione&Brown,1977)。そして,

1980年代になると,般化が可能となるためにはメタ記憶が必要であることが指摘され(Borkowski&

Cavanaugh,1979;Borkowski&Kurtz,1987;Campione, Brown,&Ferrara,1982;Justice,1985),

特に実行機能に焦点を当てた訓練の有効性が認められた(Borkowski&Varnhagen,1984;Kendall,

Borkowski,&Cavanaugh,1980)。しかし,その一方で制御過程や実行過程の劣弱さだけでは,遅滞 児と健常児の違いを説明できず,やはり構造的限界を考慮せざるを得ない研究結果が最近多く報告

されている。

すなわち,認知的方略を必要としない持ち上げた重さの記憶(Clark&Detterman,1985)や純音 の記憶(Laine&Baumeister,1985)においても遅滞児が劣ること,また,従来その記憶にリノ\一サ ルのような認知的方略を要しないとされていた新近位置での再生の劣弱さも報告されている(Cohen

&Nealon,1979;Cohen&Sandberg 1977)。さらに,記憶走査課題における反応時間の遅れも指摘さ れている(Harris&Fleer,1974;Maisto&Jerome,1977;Mosley,1985)。こうした研究結果から遅 滞児・者の記憶における構造的限界が示唆される。

本研究は,遅滞児と健常児の記憶において構造的な差が存在するか否かをブラウン・ピーターソ ン課題を用いて検討する。ブラウン・ピーターソン課題は,2〜3のテスト項目を呈示し,保持間

*茨城大学教育学部障害児教育学科,

**茨城県立伊奈養護学校.

(2)

隔の間にリハーサルを防ぐため妨害課題を与える。この課題を用いた従来の研究では,遅滞者の成 績が健常者のそれより悪かった。すなわち,リハーサルといった認知的方略の使用を妨害されても 健常者の方が成績がよいことから,やはり構造的な差が遅滞者と健常者の間にあることが指摘され ている(Ellis, Deacon,&Wooldridge,1985;Ellis&Wooldridge,1985)。しかし,これらの研究 は,成人同志を対象としており,同一MAの遅滞児と健常児の検討は行なわれていない。そこで,

本研究では,MA4〜6歳の遅滞児と健常児およびMA7〜10歳の遅滞児を対象とする。また,

刺激タイプ(絵,語)と符号化の時間(1回命名,2回命名)の要因が保持間隔との関係でどのよ うに影響するかをも合わせて検討する。

方   法

被験者 茨城県内の養護学校に在籍しているMA4〜10歳児52名,および水戸市内の保育所 に在籍しているCA4〜6歳児26名を対象とした。遅滞児,健常児ともにMAやCAによって,

表1のように分けられた。

実験計画 3×2×2×4の要因計画が用いられた。第1の要因は被験者タイプ(健常児,低MA 遅滞児,高MA遅滞児)であり,第2の要因は刺激命名回数(1回,2回),第3の要因は刺激タイ

プ(絵,語),第4の要因は保持間隔(0秒,10秒,20秒,30秒)である。第1,第2の要因 は被験者間要因であり,第3,第4の要因は被験者内要因である。

実験材料 1)刺激カード:杉村・栗山(1972)と菱谷(1980)から主に選択した見慣れた事物(表 2)72個を3個1組として24組用意した。1組内の3個は,同一カテゴリーに含まれておらず,

発音した時,韻をふまないことを条件に組み合わされた。3個の事物(線画)を垂直に並べた絵カー ドとその名前を横書きのひらがなで配置した語カードが用いられた。各被験者群内の約半数の被験 者には1〜12組については絵カード,13〜24組については語カードが呈示され,残りの半数 の被験者には反対に1〜12組については語カード,13〜24組については絵カードが呈示され た。2)数字マトリックスカード:リハーサルの妨害課題に用いられるカードであり,一桁の自然数

(算用数字)が縦14行,横5列の計70個配置されている。数字の配列が異なるマトリックスカ 一ドが18枚用意された。3)再生要求カード:クエッションマークが書かれているカードであり,

刺激の再生を求める時に呈示される。なお1)〜3)のカードは縦190mm,横279mmの白ボウル紙 に書かれている。

実験手続き 1)絵カードまたは語カードを呈示し,カード内の事物または語を1回または,2回 声に出して命名または読ませ,それらを覚えるように教示する。2)保持間隔が0秒を除く各試行で,

数字マトリックスカードを10秒間,20秒間,あるいは,30秒間読ませる。その際,実験者は,

左上隅から右に,第1行が終わったら次ぎの行に数字を指差しする。3)再生カードを呈示し,1)で 呈示した刺激の再生を求める。各被験者は上記1)〜3)の手続きを絵カードについて12試行,語力

一ドについて12試行行なう。各被験者群内の半数の被験者は絵カードを先に残りの被験者は語力 一ドを先に行なう。4試行を1ブロックとし,1ブロック内に0秒,10秒,20秒,30秒の保 持間隔をランダムに割り当てる。なお,絵カード,語カード各々の試行の前に練習試行を行なう。

(3)

表1 被験者の構成

N CA平均(範囲) MA平均(範囲) IQ平均(範囲)

14.9 6.0

44

1回命名群 13

MA

(12.1−17.9) (4.6− 6.8) (32−61)

遅滞

14.7 6.1 53

2回命名群 13

(12.2−18.6) (4.3− 6.9) (35−56)

16.0 8.2 53

高 1回命名群 13

MA

(13.3−17.9) (7.2− 9.9) (46−60)

遅滞

15.6 8.4

60

2回命名群 13

(12.5−19.2) (7.2−10.8) (40−81)

健 1回命名群 13 5.5

( 4.7− 6.4)

5.3

2回命名群 13

( 4.5− 6.3)

結   果

各要因に関する結果の分析に先立ち,刺激の字数および呈示位置の相違によって成績の差が生じ ているか否かを検討した。字数については2字(例えば, せみ )から5字(例えば, さくら んぼ )の違いがあったが,t検定の結果,字数の相違は正答数に影響していなかった。しかし,

呈示位置による影響は,部分的に認められた。すなわち,絵カードにおいて高MA遅滞児群は上段 に呈示されたものが下段に呈示されたものより成績がよく(t=2.35,df篇50,p<.05),

語カードにおいて低MA遅滞児は上段に呈示されたものや中段に呈示されたものが下段に呈示され たものより成績がよかった(t・=2.35,df=・50,p<.05;t=3.09,df・=50,p

<.01)。

呈示位置については,以上のように部分的に有意な差が認められたが,ブラウン・ピーターソン

課題のように3個の絵または語を1枚のカードに垂直に呈示するという実験スタイル上,致し方な

(4)

表2 刺激項目

練習試行用

○でんしゃ    たまねぎ    てんとうむし ○きりん     てれび     めうん

本試行用

1)みかん    ねずみ     くるま 13) ちょうちょ  まいく     いちご 2)せみ     ちゅうりっぷ  えんぴつ 14)めがね    いぬ      のこぎり 3) りんご    ばす      うさぎ 15)だいこん   かまきり   ふうせん 4)だるま   すずめ    とまと 16)にわとり  はっぱ    なべ 5) はさみ    ねこ      ほうき 17) ばけつ    ぶた      あめ 6) かさ     ひよこ     くり 18) ぼうし    たまご     ろうそく 7) さかな    ふね      りぽん 19)あさがお   たいこ    ぺんぎん 8) じてんしゃ  かえる     さくらんぼ 20) らいおん   ぎゅうにゅう  かばん 9) ほん     くつ      かぶとむし 21) やかん    とんぼ     つくえ 10)ずぼん    なす     ひこうき 22) くじら    ぶどう     はしご 11)かに     ひまわり    いす 23)ぞう    とけい    ばなな 12) ながぐつ   うま      すいか 24)でんわ    かたつむり   てぶくろ

いと考える。以下の分析においては,字数と呈示位置については特に要因には含めない。

各被験者群における平均正答数および標準偏差を表3−1および表3−2に示す。正答数につい て4要因の分散分析を行なった結果,被験者タイプの主効果(F=13.47,df=2,72,p

〈。01),刺激命名回数の主効果(F=5.43,df=1,216,p〈.05),刺激タイプの主効 果(F=51.51,df=1,72,p<.01),保持間隔の主効果(F=549.38,df=3,

216,p<.01),刺激命名回数と刺激タイプの交互作用(F=6.85,df=1,216,p<.

01),および刺激タイプと保持間隔の交互作用(F=3.62,df=3,216,p<.05)が有

意であった。

1)被験者タイプ問の比較

各要因を込みにした各被験者群の成績を図1に,保持間隔に分けた成績を図2に示す。t検定の 結果,健常児群は,遅滞児両群よりも正反応数が多かった(t=5.68,3.30,df=50,

p<.Ol)。保持間隔毎にみても,健常児群は低MA遅滞児群よりすべての保持間隔で有意に多く

(5)

表3−1 各条件での平均正答数と標準偏差(1)

0秒     10秒     20秒     30秒

健 常 児

17.85(0.36)    11.96(2.36)    9.23(2.28)     8.19(2.51) 47.23(5.44)

全体 低MA遅滞児

15.92(1.52)     9.08(2.18>    7.23(1.83)     6.19(2.40) 38.42(5.49)

高MA遅滞児

16.58(1.31)     9.73(3.11)    7.62(2.94)     6.96(2.72) 40.88(7.91)

健 常 児

8.96(0.19)    6.42(1.50)    5.19(1.66)    4.54(1.50) 25.12(3.37)

絵 低MA遅滞児

8.12(0.80)     4.92(1.52)    4.12(1.62)     3.19(1.14) 20.35(3.26)

高MA遅滞児

8.46(0.84)     5.46(1.52)    4.27(1.70)     3.92(1.92) 22.12(4.77)

健 常 児

8.88(0.32)     5.54(1.60)    4.04(1.37)     3.65(1.49) 22.12(2.89)

語 低MA遅滞児

7.81(0.88)     4.15(1.43)     3.12(1.09)     3.00(1.84) 18.08(3.37)

高MA遅滞児

8.12(0.93)    4.27(2.18)    3.35(1.77)    3.04(1.34) 18.77(4.27)

健 常 児

17.77(0.42)    11.62(2.68)    8.85(2.14)     7.77(3.04) 46.00(6.13)

1回

低MA遅滞児

15.54(1.34)     8.38(1.78)    7.15(1.61)     5,77(2.22) 36.85(3.50)

命名

高MA遅滞児

16.38(1.44)     9.00(3.19)    6.92(3.12)     6.38(3.20) 38.69(9.50)

健 常 児

17.92(0.27)    12.31(1.94)    9.62(2.34)     8.62(1.73) 48.46(4.33)

2回

低MA遅滞児

16.31(1.59)     9.77(2.33)    7.31(2.01)     6.62(2.50) 40.00(6.56)

命名

高MA遅滞児

16.77(1.12)    10.46(2.85)    8.31(2.55)     7.54(1.99) 43.08(5.03)

(t=6.23,4.50,3.45,2.90,p<.01),高MA遅滞児群より0秒,10秒,20 秒において有意に多かった(t=4.70,2.86,p<.01;t=2.18, p<.05)。

絵および語のリストの成績を全体と保持間隔に分けたもので示したのが図3と図4および図5で ある。絵リスト,語リストともに健常児群は遅滞児両群よりも正反応数が多く(絵リスト:t=

5.07,p〈.01;t=2.56, p<.05,語リスト:t=4.54,3.25,p<.01),保 持間隔毎にみても健常児群は低MA遅滞児群より絵リストにおいてすべての保持間隔で有意に多く

(t=5.25,3.49,p〈.01;t=2.33, p<.05;t=3.55,p<.01),語リス

トにおいて0秒,10秒,20秒で有意に多かった(t=5.63,3.23,2.63,p<.01)。

(6)

表3−2 各条件での平均正答数と標準偏差(2)

0秒     10秒    20秒    30秒

1回

9.00(0.00)    6.31(1.43)    5.23(1.97)    4.31(1.81) 24.85(4.05)

健常 児

2回

8.92(0.27)    6.54(1.55)    5.15(1.29)    4.77(1.05) 25.38(2.47)

1回

8.08(0.73)    4,77(1.72)    4.31(1.68)    3.08(1.07) 20.23(2.64)

絵 低MA遅滞児

2回

8.15(0.86)    5.08(1.27)    3.92(1.54)    3.31(1.20) 20.46(3.77)

1回

8.38(0.83)    5.31(1.26)    4.23(1.76)    3.54(2.24) 21.46(5.39)

高MA遅滞児

2回

8.54(0.84)    5.17(1.74)    4.31(1.64)    4.31(1.43) 22.77(3.94)

1回

8.77(0.42)    5.31(1.73)    3.62(1.27)    3.46(1.69) 21.15(2.85)

健常 児

2回

9.00(0.00)    5.77(1.42)    4.46(1.34)    3.85(1.23) 23.08(2.59)

1回

7.46(0.75)    3.62(1.00)    2.85(0.77)    2.69(1.94) 16.62(3.50)

低MA遅滞児

2回

8.15(0.86)    4.69(1.59)    3.38(1.27)    3.31(1.68) 19.54(3.59)

1回

8.00(1.18)    3.69(2.30)    2.69(1。73)    2.85(1.35) 17.23(5.10)

高MA遅滞児

2回

8.23(0,58)    4.85(1.87)    4.00(1.57)    3.23(1.31) 20.31(2.40)

また,健常児群は高MA遅滞児群より絵リストにおいて0秒,10秒,20秒で有意に多く(t=

2.94,p<.01;t;2.23,1.92, p<.5),語リストにおいて0秒,10秒で有意に多 かった(t=3.80,p<.01;t=2.35, p〈.05)。

1回命名と2回命名の成績を全体と保持間隔に分けたもので示したのが図6と図7および図8で ある。1回命名,2回命名ともに健常児群は遅滞児群よりも正反応数が多く(1回命名:t=4.4

9,df=24,P<.01;t=2.24,P<.05,2回命名:t=3.73,2.80,p<.

01),保持間隔毎にみても健常児群は低MA遅滞児群より1回命名においても2回命名においても すべての保持間隔で有意に多く(1回命名:t=5.44,3.48,p<0.1;t=2.21,1.

83,p<.05,2回命名:t=3.43,2.89,2.60, p<.01;t;2.27,p<.0 5),高MA遅滞児群より1回命名において0秒,10秒,20秒で有意に多く(t=3.23, p<.

01;t=2.18,1.77,p<.05),2回命名において0秒 ,10秒で有意に多かった(t

(7)

得点

20

織点

50 16

40

1 12

84

歪歪≡…i≡i

ゴ三1霧

艪P雛

i≡ミミ≡萎蓑

器.≒:::;影

10

G 健常 低甑遅滞   高血遅滞

口    〔:]    圏    匿劉

o

健常   低HA遅滞

        0秒   10秒  20秒  30秒高】膿遅滞

図1 全体成績    ,       図2 各保持間隔における全体成績

縁点       得点

50「

.10

40

8

30

20

P0

Oi

1

茎i妻≡1華 4!

Q

  i… 雛  ヒ:::辮  ∋∋≡1雛  こi芝:霧;

鉛Xi嚢i  :2:1霧

0

絵     語       健常     低甑遅滞   高HA遅滞 口    〔コ    圏        口    〔コ    圏    國

健常  低猷遅滞 高HA遅滞     0秒   10秒  20秒  30秒

図3 絵と語の成績       図4 各保持間隔における絵の成績

(8)

.      織点       得点

10      50

8      40

ミi≡三

■.r

妻     ミ1≡≡

:≡言     毫

6      30

ii≡  ミ1ヨ峯  奪

:1:至     ≡:≡

4      20

@   ≡妻雛   ・・・……灘ll   ≡影妻1髪   皇≡擁.

i妻 、i謬…歪≡1   ・垂

2  萎霧1   ・≡・雛   ・…・灘1   10    茎雛    ≡‡i雛    灘1霧

護i   ≡1

・≡灘1 ・  ・≡・雛    零雛 き≡     匿‡

≡孝≡霧冒㌔.膠555∫錫 :三:;影     ヒ:二彫1:∴一 二朋        …= 鰯二

欝    ミミ≡

0 o

健常    低腱滞   高HA遅滞         1回命名  2回命名 口    [:コ    Eヨ    匪麹      口    [コ    国

0秒  10秒  20秒  30秒        健常  低甑遅滞 高漁遅滞

図5 各保持間隔における語の成績         図6 1回命名と2回命名の成績

得点

20「 20

16

16

12 12

84

1

藁華

:≡:≡:

F£

iiiiiliiii≡:≡蠣li茎1雛 雛 奪iiiil甕雛藍:雛1}}:髪髪ll

840

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ci『『『i㍊

 叢_. @慧辮

@喪雛 @薫雛1

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@釜雛

@難雛.::.,.:∵』55ニニ

 ,

c}lii ii;

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i;

 ∈:藍_,,

@塞髪ll髪

@藍二;雛

@…:≡雛

@孝≡:雛

@叢雛

@毒叢lll...:=一一一5二多ニニ

o

健常     低質A遅滞   高HA遅滞       健常     低MA遅滞   高撚遅滞 口    [:コ   圏    賜       □    [:コ   團    幽

0秒   10秒  20秒  30秒      0秒   10秒  20秒  30秒

図7 各保持間隔における1回命名の成績      図8 各保持間隔における2回命名の成績

(9)

==3.4 8, p<.0 1 ; t = 1 .8 5, p<.0 5)。

刺激タイプ×命名回数の各4群における成績を図9に,それを各被験者群毎に保持間隔に分けた ものを図10〜図12に示す。健常児群は低MA遅滞児群より全条件で(絵リスト・1回命名:

t=3.30,df=24,p<.01,語リスト・1回命名:tニ4.23,p<.01,絵リスト・

2回命名:t=3.78,p<.01,語リスト・2回命名:t罵2.27, p<.01),高MA遅滞 児群より語リスト・1回命名と語リスト・2回命名において正反応数が多かった(語リスト・1回 命名:t=2.23,p<.05,語リスト・2回命名:t=2.72, p<,01)。保持間隔毎にみ ても健常児群は低MA遅滞児群より絵リスト・1回命名において0秒,10秒,30秒で(t=4.

38,p<01;tニ2.37,2.02,p<.05),語リスト・1回命名と語リスト・2回命名に おいて0秒,10秒,20秒で(語リスト・1回命名:t=5.24,2.91,p<01;t=2.

42,p<.05,語リスト・2回命名:t=3.40, p〈.01;t=1.74,2.04,p<.0 5),絵リスト・2回命名においてすべての保持間隔で(t=2.96,2.52,p<.01;t=2.

12,p<.05;t=3.17,p<.05),高MA遅滞児群より絵リスト・1回命名と語リスト・

1回命名において0秒,10秒で(絵リスト・1回命名:t=2.58,p<.01;t=1.82,

p〈.05,語リスト・1回命名:t=2.14,1.95,p<.05),絵リスト・2回命名におい て10秒で(t=2.04,p〈.05),語リスト・2回命名において0秒で(t=4.53, p<.

01)有意に多かった。

次に健常児群の1回命名における成績と遅滞児群の2回命名の成績を比較すると,前者は低MA 遅滞児群より成績がよく(t=2.31,df=24,p<.05),その差は特に絵リストにおいて 認められた(t=2.74,p<.05)。

2)刺激タイプ問の比較

各被験者群における絵リストと語リストの成績(図3,図4,図5)について検定した結果,全 被験者群ともに絵リストのほうが語リストより成績がよかった(t=3.37,df=50,p<.

01;t=2.41,p〈.05, t=2.62, p<.01)。保持間隔別にみると健常児群は10秒,

20秒,30秒(t=2.00,2.67,2.12,p<.05),低MA遅滞児群は10秒と20秒

(t=1.83,2.56,p<.05),高MA遅滞児群は10秒,20秒,30秒(t=2.25,

1.88,1.87,p<.05)で絵リストが語リストより有意に成績がよかった。

刺激タイプ×命名回数の各4群の成績(図9〜12)について検定した結果,1回命名において はすべての被験者群で絵リストのほうが語リストより成績がよかった(t=2.59,df=24,

p〈.05,t=3.54, p<.01, t翼1.98, p<.05)。保持間隔に分けてみると健常児 群は0秒と20秒(t=1.92,2.37,p<.05),低MA遅滞児群は0秒,10秒,20秒(t

=2.07,2.02,2.75,p<.05),高MA遅滞児群は10秒と20秒(t=2.13,2.

17,p<.05)で絵リストの成績が有意によかった。2回命名においては健常児群と高MA遅滞

児群で絵リストのほうが語リストより成績がよかった(t=2.23,1.85,p<.05)。保持間

隔に分けてみると健常児群と高MA遅滞児群が30秒(t=1.96,1.93, p<.05)で絵リ

ストの成績が有意によかった。

(10)

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健常  低甑遅滞 高撚遅滞       0秒   10秒  20秒  30秒

図9 絵・語×命名回数の成績        図10各保持間隔における健常児群の成績

10 10

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1回絵    1回語    2回絵 2回語 1回絵    1回語    2回絵    2回請

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図11各保持間隔における低MA群の成績      図12 各保持間隔における高MA群の成績

(11)

3)命名回数間の比較

各被験者群における1回命名と2回命名の成績(図6,図7,図8)について検定した結果,全 群どの保持間隔においても1回命名と2回命名の差は認められなかった。

刺激タイプ×命名回数の各4群の成績(図9〜12)について検定した結果,絵リストにおいて は1回命名と2回命名の差は認められなかったが,語リストにおいてはすべての被験者群で2回命 名が1回命名より成績がよかった(t=1.74,2.35,1.89,df=24,p<.05)。保 持間隔に分けてみると健常児群は0秒(t=1.92,p<.05),低MA遅滞児群は0秒と10秒

(t=2.09,1.97,p<.05),高MA遅滞児群は20秒(t=1.94,p<.05)で2回

命名が有意に成績がよかった。

4)保持間隔間の比較

各被験者群における保持間隔毎の成績(図2)について保持間隔間の成績をみると,全被験者群 ともに0秒とそれより長い保持間隔(10秒,20秒,30秒〉,10秒とそれより長い保持間隔(20 秒,30秒)との問に有意な差が認められた(t値省略)。

絵リストと語リストでの保持間隔毎の成績(図4と図5)を比較したところ,絵リストについて は,全被験者群ともに0秒とそれより長い保持間隔,10秒とそれより長い保持間隔との問に有意 な差が認められ,その他に低MA遅滞児群において20秒と30秒の間に有意な差が認められた(t 値省略)。語リストについては高MA遅滞児群で10秒と20秒の問の差が認められなかったことを 除いて,0秒とそれより長い保持間隔,10秒とそれより長い保持間隔との間に有意な差が認めら れた(t値省略)。

1回命名と2回命名との保持間隔毎の成績(図7と図8)を比較したところ,1回命名について は,高MA遅滞児群で10秒と20秒の間の差が認められなかったことを除いて,0秒とそれより 長い保持間隔,10秒とそれより長い保持間隔との間に有意な差が認められ,その他に低MA遅滞 児群において20秒と30秒の間に有意な差が認められた(t値省略〉。2回命名については0秒と それより長い保持間隔,10秒とそれより長い保持間隔との間に有意な差が認められた(t値省略)。

刺激タイプ×命名回数の4条件における成績(図10〜図12)を比較したところ,絵リスト・

1回命名については,全被験者群ともに0秒とそれより長い保持間隔,健常児群で10秒と30秒 の間,低MA遅滞児群で10秒,20秒と30秒,高MA遅滞児群で10秒と20秒,30秒の間

に有意な差が認められた。語リスト・1回命名については,全被験者群ともに0秒とそれより長い

保持間隔,健常児群で10秒と20秒,30秒の間,低MA遅滞児群で10秒と20秒の間に有意

な差が認められた(t値省略)。絵リスト・2回命名については,健常児群と低MA遅滞児群で0秒

とそれより長い保持間隔,10秒とそれより長い保持間隔との問に有意な差が認められ,高MA遅

滞児群で0秒とそれより長い保持間隔との問に有意な差が認められた(t値省略)。語リスト・2回

命名については,健常児群と低MA遅滞児群で0秒とそれより長い保持間隔,10秒とそれより長

い保持間隔との間に有意な差が認められ,高MA遅滞児群で10秒と30秒の間に有意な差が認め

られた(t値省略)。

(12)

考   察

本研究の結果,遅滞児の成績は同一MAの健常児のそれより悪かった。保持間隔中リハーサルを 妨害するブラウン・ピーターソン課題においても遅滞児の劣弱性が認められることから,MAマッ チにおいても遅滞児における構造的限界が示唆される。

次に遅滞児におけるMAの増加による記憶成績の変化をみると,全体的には,低MA遅滞児と高 MA遅滞児の成績に差は認められなかった。しかし,健常児との比較をしてみると低MA遅滞児と 高MA遅滞児の違いが部分的に認められた。すなわち,低MA遅滞児の成績はほぼすべての保持間 隔で健常児より悪かったのに対して,高MA遅滞児の成績は20秒と30秒の保持間隔においては 健常児との差は認められなっかた。また,低MA遅滞児2回命名群の成績は健常児1回命名群の成 績より絵リストで悪いのに対して,高MA遅滞児2回命名群の成績は健常児1回命名群の成績と差 がなかった。こうしたことから,全体としては低MA遅滞児と高MA遅滞児との差は,認められな かったが,MAの増加は多少の成績の向上を引き起こしているように思われる。すなわち,本研究 で対象とされた被験者より高いMA(10歳以上〉の被験者か,本研究の対象児と同じMAでも高 い方のMAの被験者のみ(9〜10歳)に本研究と同一の課題を課せば,本研究の低MA遅滞児よ

り有意によい成績を示すことが予想される。すなわち,遅滞児においても健常児(健常児において MAが増加することによって記憶量が増加することはビネー知能検査等で指摘されている)と同様,

MAの増加による記憶量の増加の可能性が示唆される。しかし,その場合でも遅滞児は前述のよう に同一MAの健常児に対して,短期記憶に構造的限界を持つと考えられるので, MAの増加による 記憶量の増加率は健常児より低く,絶対値も低いと考えられる。

次に刺激タイプの相違による成績の差をみると,全被験者群で絵リストの方が語リストより成績 がよかった。Ellis&Wooldridge(1985)は,本研究より年長(平均CA約20歳範囲17〜30 歳)の遅滞者とそれと同一CAの健常者を対象とし,遅滞者は絵リストの成績が語リストのそれよ

りよく,健常者は絵リストと語リストの成績に差がないことを報告している。さらに,Ellis, Deacon

&Wooldridge(1985)は,同一CA(平均CA約19歳,範囲14〜29歳)の健常者と遅滞者を対 象とした実験IVで,遅滞者は絵リストが子音リストより成績がよいのに対して,健常者は子音リス

トが絵リストの成績よりよかったことを指摘している。これらの研究結果と本研究結果から,MA の低いものは健常児,遅滞児にかかわらず,甜憶しやすい刺激タイプは絵画的刺激であり,MAが 増加するにつれて言語的刺激が記憶されやすくなり,ある程度のMAに達すると言語的刺激が絵画 的刺激よりよく記憶されるようになることが示唆される。しかし,言語的刺激が優位になるMA段 階については,本研究を含めこれまでの研究結果からはまだ特定され得ない。

命名回数の効果については,全成績および絵リストにおいてはどの被験者群においても認められ なかったが,語リストにおいて全被験者群で2回命名の方が1回命名より成績がよかった。Ellis,

Deacon&Wooldridge(1985)は,彩色画を刺激として用いた実験1で同一CA(平均CA約19歳,

範囲14〜19歳)の健常者も遅滞者も2回命名の成績が1回命名のそれより有意によく,書かれ た子音を刺激として用いた実験mで,刺激呈示時間を長くすると遅滞者の成績がよくなったことを 報告している。Ellisら(1985)が対象とした被験者より本研究の被験者はMAにおいてもCAにお いても低い。大人においては絵でも子音でも命名回数(あるいは刺激呈示時間)の効果があったの

r

(13)

に対して,本研究の遅滞児や健常児は語リストにおいてのみ命名回数の効果が認められた。なぜ絵 リストにおいて命名回数の効果が認められなかったのか,この点については再検討の余地があるよ       一

、に思われる。

最後に刺激保持のどの時期に有意な忘却が生じたかについて考察する。健常児と低MA遅滞児は 最初の20秒(0秒〜10秒,10秒〜20秒)の問で有意な忘却が生じたのに対し,高MA遅滞 児では最初の10秒(0秒〜10秒)でのみ有意な忘却が生じた。本研究の被験者より高いMA・

CAの被験者を対象としたEllis&Wooldridge(1985)の実験H, IH, IV,およびEllis, Deacon&

Wooldridge(1985)の実験では,健常者,遅滞者ともに最初の10秒で有意に忘却が生じたという結 果が得られている。これらの結果,および本研究においてほぼ同じCA(平均CA約15歳)の遅 滞児2群問で有意な忘却の生じた時期は一致しなかったことより,有意な忘却の生じる時期はCA によって決定されるようには考えられず,被験者タイプにかかわらずその時期はMAによって影響 され,MAが高くなるにつれ有意な忘却は刺激保持の初期の頃にのみ生じる傾向があることが示唆

される。

ま と め

本研究は遅滞児・者の記憶研究において焦点となっている構造的限界の有無について保持間隔中 のリハーサルを妨害する手続きをとるブラウン・ピーターソン課題を用いて検討した。CA4〜6 歳の健常児,MA4〜6歳の遅滞児(低MA遅滞児),およびMA7〜10歳の遅滞児(高MA遅滞 児)を対象として,刺激タイプ,刺激命名回数,および保持間隔の要因の違いによる各群の記憶の 特徴を比較した結果,1)遅滞児は健常児より成績が悪く,MAマッチにおいても遅滞児における構 造的限界が示唆される。2)遅滞児においてもMAの増加に伴い,わずかであるが成績がよくなる可 能性が認められる。3)全被験者群で,絵リストの方が語リストより成績がよかった。Ellis&Wool一 dridge(1985)およびEllis, Deacon&Wooldridge(1985)の研究結果と合わせて考察した結果,低 MAでは絵画的刺激を言語語的刺激よりよく記憶するが, MAの増加に伴い言語的刺激をよく記憶 するようになることが示唆された。4)絵リストでは1回命名と2回命名の違いは認められなかっ たが,語リストでは2回命名の方が1回命名より成績がよかった。5)健常児と低MA遅滞児は最 初の20秒で有意な忘却が認められたが,高MA遅滞児では最初の10秒でのみ有意な忘却が認め

られた。Ellis&Wooldridge(1985)およびEllis, Deacon&Wooldridge(1985)の研究結果と合わ せて考察した結果,MAの増加に伴い有意な忘却は刺激保持間隔の初期でのみみられるようになる

ことが示唆された。

今後,MAの範囲を細かく分け,さらにより高いMAの遅滞児を対象として上記の点についてさ

らに検討することが必要と思われる。

(14)

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参照

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