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精神遅滞児における文理解の発達 松村多美恵*・郡司奈緒美**

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(1)

精神遅滞児における文理解の発達

松村多美恵*・郡司奈緒美**

  (1988年9月12日受理)

The Development of Sentence Comprehension in Mentally Retarded Children

Tamie MATsuMuRA and Naomi GuN)1

   (Received September 12,1988)

は じ め に

 精神遅滞児の言語発達に関して,語,文の発話・産出能力の領域においては多くの研究がされて いる(池 1978,1982,大木他 1985)が,理解能力,特に文の理解能力の研究は少ない。

 健常幼児については,文を理解する際発達的に自己中心的方略,意味的方略,語順方略,およ び助詞方略を用いることが指摘されている(Hayashibe 1975,林部1976,岩立1980,鈴木1977)。

自己中心的方略とは,文を理解する際文中の行為者が自分であるとして理解する方略であり,意 味的方略とは,意味的な制約に従って文を理解する方略であり,語順方略とは,語順を手がかりに 文を理解する方略であり,助詞方略とは,助詞を手がかりに理解する方略である。各方略の使用年 齢について,林部(1976)は動作実験(人形を用いて刺激文に合った動作をさせる)により,各方 略が優勢となる年齢を検討している。その結果,自己中心的方略は平均3歳7カ月,意味的方略は 平均4歳,語順方略は平均4歳9カ月,助詞方略は平均5歳であることを明らかにしている。さら

に,鈴木(1977)も,動作実験において認1頂方略の優勢な時期を4歳9カ月とし,岩立(1980)は,

動作実験とカード実験(刺激文に合った絵カードを選択させる)により語順方略による反応が3歳 後半から4歳にかけて始まることを示唆している。また,Strohner&Nelson(1974)も動作 実験より,3歳児は意味的方略,4歳児は語順方略,5歳児では助詞方略を用いることを指摘して

いる。

 本研究では,文理解における精神遅滞児の特徴的傾向を文理解の方略という観点から,健常児と 比較検討することを目的とする。

*茨城大学教育学部障害児教育学科.

**茨城県大野村立大野中学校.

(2)

方  法

 被験者 茨城県内の養護学校に在籍しているMA 3歳台から8歳台の精神遅滞児56名,および水 戸市内の保育所,幼稚園に在籍しているCA 3歳台から6歳台の健常児36名を対象とした。精神遅 滞児,健常児ともにMAやCAによって,表1のように分けられた。

表1 被験者の構成

群 N  CA

irange)  MA

qrange)  IQ

irange)

3.4才 5   12.2

P0.0−14.9)

  4.3

R.8−4.7)  36

R0−43)

精神遅滞児

5才 17    13.10 i10」−18」1)    5.4

i5.0−5.11)   40 i28−54)

6才 25    15.6 i11.11−18.3)

   6.6

i6.0−6.11)   43 i36−58)

7.8才

・9

    16.4

i14.11−18.3)

   7.11

i7.1−8.11)   49 i41−59)

3.4才 12    4.3

i3.8−4」1)

健常児

5才 12    5.4 i5.0−5.11)

6才 12   6.3 U.0−6.6)

表2 刺激文

セ   ・   ト  1 セ  ・  ト  2

AB

白い馬が黒い馬をたおす。 男の子が女の子をふむ。

黒い馬を白い馬がたおす。 女の子を男の子がふむ。

C い,がビンをたおす。 男の子がまくらをふむ。

D ビンを白い馬がたおす。 まくらを の子がふむ。

E ビンが白い馬をたおす。 まくらが男の子をふむ。

F い をビンがたお 。 の子をまくらがふむ

AB 女の子が男の をける。 黒い、が白い馬を押す。

男の子を女の子がける。 白い馬を黒い馬が押 。

CD

女の子がボールをける。 黒い馬がハコを押す。

ボールを女の子がける。 ハコを黒い馬が押す。

E ボールが女の子をける。 ハコが黒い馬を押す。

F 女の子をボールがける。 黒い馬をハコが押す。

男の子が女の子をだっこする。 女の子が男の子をおんぶする。

ABC

女の子を男の子がだっこする。 男の子を女の子がおんぶする。

男の子がバケツをもつ。 女の子が赤ちゃんをおんぶする。

D バケツを男の子がもっ。 赤ちゃんを女の子がおんぶ る。

E. バケツが男の子をもっ。 赤ちゃんが女の子をおんぶする。

F の  バ ツが つ の  燃君 んがおんぶ

A:逆転可能ガヲ文

C:逆転不可能意味整合ガヲ文 E:逆転不可能意味不整合ガヲ文

B:逆転可能ヲガ文

D:逆転不可能意味整合ヲガ文

F:逆転不可能意味不整合ヲガ文

(3)

 実験材料 刺激文は,林部(1976)およびStrohner&Nelson(1974)の刺激文を参考にして表 2に示す6タイプ各3文ずつ計18文のリストが2種類用意された。また,動作の実行には,表3の 人形やおもちゃが用いられた。

 手続き 個別に実施された。人形やおもちゃ の名前を被験者が言えることが確かめられた後,

練習文について動作の実演が実験者によってな された。さらに,同じ練習文で被験者に動作さ せ,指示が理解できていることが確かめられた。

次に,「これからいくつかのお話をします。お 話をよく聞いて,その通りに人形を動かして下 さい。」と教示され,被験者の半数にリスト1,

残りの被験者にリスト2が呈示された。刺激文 は3回まで呈示され,3回目の呈示後20秒以内 に反応がない場合には,無反応とされ,次の刺 激文が呈示された。刺激文の読み上げは,特殊 な強勢や音調をさけ,できるだけ単調な調子で なされた。

表3 実験に用いられた人形やおもちゃ

人形 大きさ,色など

男の子 プレイモービル 高さ約3㎝、緑の服、手足が動く

女の子 プレイモービル 高さ約3㎝、赤の服、手足が動く

まくら 自 作 3x3㎝、白、中に米

ボール プレイモービル 直径約2㎝の白いボール

ノ、    コ

サイコロキャンデー 3x3x3㎝のハコ 赤ちゃん プレイモービル 高さ約3㎝、クリーム色

バケツ プレイモービル 高さ約2㎝、赤色

ビ   ン プレイモービル 高さ約2.5㎝のビン

白い馬 プレイモービル 高さ約3砿幅約6伽、首が動く

黒い馬 プレイモービル 高さ約3㎝、幅約6㎝、首が動く

結  果

 総得点 意味不整合文(E,F)を除くA, B, C, Dの文について,名年齢群ごとに平均点と 標準偏差を示したのが,表4であり,表4を図示したのが図1である。尚,表4は,後述の各方略 に明確に割り当てることのできる被験者のみの成績であるが,各方略に明確に分けられない被験者

表4 各年齢段階における各文の平均得点 (標準偏差)

A B C D E

健常3.4歳児 1.8(0.97) 1.7(1.1) 2.9(0.3) 2.3(0.64) 8.7(2.32)

健常 5 歳児 2.63(0.77) 1.54(0.98) 3 (0 ) 2.45(α49) 9.63(1.61)

健常 6歳児 2.88(0.31) 2 (1.11) 3 (0 ) 2.44(0.49) 10」1(1.96)

精神遅滞3.4歳児 L62(0.48) 1 (0.7) 2.5(0.7) 2.75(0.43) 7.87(1.26)

精神遅滞5歳児 1.09(0.89) 0。63(0.64) 2.45(0.65) 2.18(0.83) 6.36(1.87)

精神遅滞6歳児 2 (0.93) 1.18(0.80) 2.93(0.24) 2.25(0.55) 8.37(1。69)

精神遅滞7.8歳児 2.12(0。78) 1.25(0.66) 2.87(0.33) 2.5(0.5) 8.75(1.47)

A:逆転可能ガヲ文 B:逆転可能ヲガ文 C:逆転不可能意味整合ガヲ文 D:逆転不可能意味整合ヲガ文

(4)

を含めた各文の得点も,表4とほとんど同様であった。

 精神遅滞児および健常児について年齢×文の種類の分散分析を行った結果・健常児については主 効果も交互作用も認められなかったが,精神遅滞児については文の種類の主効果が認められた。ラ イアンの法で精神遅滞児の文間の差を検討したところ,C>D>A>Bの順で成績が悪くなり,

2

A    B    G     D

  (3,4歳児) A 7,歳児1

図1 各年齢段階における各文の平均得点

      (6歳児)        (7, 8歳児)

       口・健常児 團・精神遅滞児

 A:逆転可能ガヲ文      B:逆転可能ヲガ文  C:逆転不可能意味整合ガヲ文 D:逆転不可能意味整合ヲガ文

C,DはB,Aよりも有意に成績がよく(C−B・t−11.13, df=168, p〈.01;C−A:t=

右.56, df= 168, p<.01;D−B:t=9.49, df=168, p<.01;D−A:t=4.88, df=

      ,df=168, p<.01)。次に同 168,p<.01),さらにAはBより成績がよかった(t−4.57

−MAにおける精神遅滞児と健常児の4つの文の総得点について比較すると,3,4歳児では差が 認められないのに対し,5歳児と6歳児では精神遅滞児より健常児の方が成績がよかった(t−

5.53,df=20 p<.01;t ==2.23, df=23,p〈.05)。さらに文ごとに比較すると,3,

4歳児ではB,5歳児ではA,B, C,6歳児では, A, Bにおいて精神遅滞児より健常児の方が 有意に成績がよかった(t=2.95,df−・ 16 p〈0.1;t−=4.13 df−20,p〈.01;t−

2.44, df =20, p<.05 ; t=2.63  df == 20 , p <. 01 ; t=2.65  df = 23 , p 〈. 01;

t−1.86,df=23, p<.05)。また,精神遅滞児5歳児は,精神遅滞児6歳児より成績がよく(t−

1.87,df=25,p〈.05),特にそれはAにおいて認められた(t=1.79, df− 25 p<.05)。

 方略 Hayashibe(1975)や林部ら(1976)の分析に従って,被験者の反応パターンにより被験 者を以下の4群に分類した。

 1群:自己中心的反応(例えば「白い馬がビンをたおす」という文に対して被験者自身が白い 馬とビンの両方を押すというような反応)が1つでも現われた被験者。

 ll群:逆転不可能意味整合文に対しては,ほとんど(6文中5〜6文)正反応をするが,逆転不 可能意味不整合文に対しては,実際にあり得る事態に適合するような反応(例えば,「バケツが男 の子をもつ」という文に対して,「できない」「わからない」などと不整合であることを認知せず,

男の子がバケツをもつというような反応を1文以上示す被験者。

 皿群:ガーヲ構文については,ほとんど(6文中5〜6文)正反応をし,ヲーガ構文に対しては

その多くについて(3〜6文)まったく逆の反応(例えば,「黒い馬を白い馬がたおす」という文

(5)

に対して,黒い馬が白い馬をたおすというような反応)をする被験者。

 IV群:ガーヲ構文についてもヲーガ構文についてもほとんど誤反応をしない(12文中10〜12文に 対して正反応)。さらに,意味不整合文について「できない」「わからない」「おかしい」など意 味不整合であることを指摘する被験者。

表5 各年齢段階における1,ll,皿,N群の人数 1群 皿群 皿群 w群 健常3.4歳児 2 2 2 4 10 健常 5歳児 0 2 2 7 11

健常6歳児 0 0 3 6 9

2 4 7 17 30

精神遅滞3.4歳児 1 6 1 0 8

精神遅滞5歳児 4 5 2 0 11 精神遅滞6歳児 1 5 6 4 16

精神遅滞7.8歳児 0 2 3 3 8

計 6 18 12 7 43

健  常3,4歳児

健  常5歳児 健  常6歳児

宿神遅滞3,4歳児

精神遅滞5歳児 精神遅滞6歳児

精神遅滞7,8歳児

屡:1群 昌:ロ群 圏:脳 口:Ngr 図2 各年齢段階における1,皿,皿,

  lvr群の割合(%)

以上の分類基準に従って,各年齢段階における1,H,皿, IV群の人数を示したのが,表5であり,

それぞれの割合を図示したのが図2である。上述の分類基準に合わない被験者は除外した。

 図2より,健常児においては1群は3,4歳児のみにみられ,II群は3,4歳児および5歳児で みられるのに対し,6歳児ではII群はみられない。さらに,皿群は全年齢で認められ,6歳児で一 番多い。IV群は3,4歳児から6歳児までの年齢が高くなるにつれて人数が多くなっている。精神 遅滞児については1群は6歳児までみられるのに対し,7,8歳児ではみられない。H群は3,4 歳児から年齢が高くなるにつれて減少しているのに対し,皿群は年齢が高くなるにつれて増加して

いる。さらに,IV群は6歳で初めて現われ,7,8歳児では増加している。

 同一MAの精神遅滞児と健常児を比較すると,3,4歳児ではH群は精神遅滞児の方が健常児よ

    1V群トー一一一一一一__一一⊥___一一→

  皿群←______一一_一_一一一一一一。一一一↓一一一一一・一。一一一一一一一一一一一一一・一・一一一;

旙ト__一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 −t−一…一…一一。一一一一一一旦       1群トー一一一一一一一一一一」ム。一一。一一一一1

曙トー一一一→ 謄ト___」」一_______1        皿群トー−L−一一」一→

      1群幽

9:0 8:0 7:0

図3 各群の年齢範囲と平均年齢

6:0  5:0        4:0 トrl:健常児   卜司:精神遅滞児

(↓は平均)

3:0

(6)

り有意に多い(x2−5.44, df=1,p〈.05)のに対し, W群は健常児の方が有意に多い(x2=4.88,

df==1,p<.05)。5歳児では1群は精神遅滞児の方が有意に多い(z2=4.88, df−1,p〈.05)

のに対し,IV群は健常児の方が有意に多い(z2== 10.26, df−1,p〈.01)。6歳児ではIV群につ いて健常児の方が有意に多い(x2 ・4.16, df−1,p〈.05)。 IV群については,精神遅滞児7,8 歳になってようやく健常児6歳と差が認められなくなる。

 各群の平均年齢と範囲を示したのが,図3である。この図の示し方は,Hayashibe(1975)の方法 に従ったものであるが,岩立(1980)が指摘しているように,この方法は被験者の年齢を上げると平 均も範囲も増加してしまうという欠点がある。従って参考までに図示しておくのみとする。

考察およびまとめ

 総得点については,精神遅滞児においてのみ文間の差が認められた。すなわち,逆転不司能文が 逆転可能文より有意に成績がよく,同じ逆転可能文では,ガヲ構文の方がヲガ構文より成績がよかっ た。逆転不可能文では行為者(主格)と対象(目的格)を逆転すると意味が不整合になるため,逆 にすることが少なく,逆に,逆転可能文では行為者と対象を逆にしても意味を整合するため,逆に して誤りだということに気づきにくい。特に精神遅滞児においては,皿群すなわち語順方略を用い て文を理解する被験者が多いため,逆転可能ヲガ構文の誤りが多く,逆転不可能文が逆転可能文よ

り成績がよくなったと考えられる。

 同一MAの精神遅滞児と健常児を比較すると,3,4歳児では差がなく,5歳児,6歳児では健 常児の方が成績がよかった。文毎に比較すると,3,4歳児でA,5歳児で,A, B, C,6歳児 でA,Bにおいて,精神遅滞児より健常児の方が成績がよかった。こうした結果は,後述するよう に,精神遅滞児における文を理解する際の方略が同一一・MAの健常児に比べてより稚拙であるためと 考えられる。

 被験者の反応パターンの分析の結果,精神遅滞児においても健常児においても,発達的にみて文 を理解する際に,自己中心的方略(1群),意味的方略(∬群),語順方略(皿群),助詞方略

(IV群)の順に用いることができることが示唆された。これは,健常児を対象とした従来の研究結 果(Hayashibe 1975,林部1976,岩立1980,鈴木1977)と一致する。しかし,本研究の結 果より,精神遅滞児は同一MA健常児と比較すると,各方略の使用時期がかなり遅れることも示唆

される。

引 用 文 献

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(7)

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参照

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