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『精神発達遅滞児へのコミュニケーション指導過程の検討』

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(1)

『精神発達遅滞児へのコミュニケーション指導過程の検討』

一遊びを通しての一・指導の実際一

吉 田 信 仁*・吉 田 昭 久**

(1996年11月1日受理)

Examing Process of Communication Leading for Child with Mental Retardation and Developmental Disability

一〇ne Case Study over PLAY一

Nobuhito YosHIDA*and Teruhisa YosHIDA**

(Received November 1,1996)

はじめに

文部省編平成元年度改訂の精神薄弱養護学校学習指導要領によると,養護・訓練の指導は五つの柱 18項目からなっている1)。その解説書の中では,養護・訓練の指導の特色として,発達の遅滞そのも のへの対応は各教科等で,精神発達遅滞以外の発達の偏りへの対応が養護・訓練でとされている2)。

また,指導計画の作成に関しては個別的指導が望ましいとされ,各教科,道徳及び特別活動にはそ れそれ独自の目標があるので,これら三つの領域における養護・訓練の指導に当たっては,それらの 目標達成を著しく損なったり,目標から逸脱することのないよう留意し,養護・訓練の具体的な指導 事項との関連を図るよう工夫する必要があるとされている3)。養護・訓練の指導形態には,学校の教 育活動全体を通じて行われる「関する指導」と,特設時間に行われる「時間の指導」が挙げられ4),

更に「時間の指導」の一形態として別室で一対一で行う「抽出指導」が挙げられる。実際の指導現 場のほとんどの精神薄弱養護学校では「関する指導」が中心であり,茨城県内でも精神薄弱養護学 校で「抽出指導」を実際に行っている養護学校は3校にすぎない。また,「関する指導」の実態をみ

ると,課題別学習などの小グループ化した時間に実施したり,日常生活の指導の時間などに実施し ているが,実際には各領域・教科の指導目標が重視される傾向にあり,児童・生徒各個人の養護・訓 練の指導目標が二次的になってしまう傾向の起こる可能性は否めない。

以上のような反省に基づき本校(茨城県立勝田養護学校)では,平成5年度より抽出による養護・訓 練の指導を小学部において開始した。小学部で開始した理由については,聾教育で言われているい わゆる「9歳の壁」5)を鑑みてのことである。本校の抽出養護・訓練の指導課題は,先に挙げた学習

*茨城県立勝田養護学校(〒312−0032ひたちなか市津田1955)

**

?髑蜉w教育学部(〒310−8512水戸市文京2−1−1)

(2)

指導要領の養護・訓練のうち,5.意思の伝達の分野を中心としており6),この点に関して過去4年間 継続している。他の精神薄弱養護学校でも同様の傾向にあると思われるが,本校小学部の場合,発 語のない児童が約6割を占め,発語はあっても不明瞭であったり会話が成立しないなど,コミュニケー

ションの障害を有している児童がほとんどである。そこで,抽出養護・訓練の指導には3名の教員が 専科として指導に当たり,それぞれ低学年・中学年・高学年を担当して,各教員が4名ずつの児童を,

週あたり2時間を原則として指導を行っている。指導を行うに当たっては,先に述べた意思の伝達の 分野を中心課題としているが,児童の課題に応じて環境の認知や運動・動作も指導課題に含まれるこ

ともある。本研究は,平成5年度に抽出指導の対象となった小学部1年のダウン症男児の,発語促進 に関する事例指導経過に基づいている。

1 言語発達と障害との関連

1 コミュニケーション手段としてのrことば』

コミュニケーションの諸相を考えるにあたって,SPEECHとLANGUAGEとについて検討してお こう。通常我々は他者とのコミュニケーションを交す際に言葉(SPEECH)を用いる。この事に異存 はないと思われるが,伝達手段としての言葉のみではコミュニケーションとしての伝達は十分では ない。そこで問題とされるのが言語(LANGUAGE)である。意志や感情,観念などの伝達にもっと も重要な役割を果たしている言語が,コミュニケーションとりわけ精神発達遅滞児のコミュニケー ションを考える上で重要な視点となる。コミュニケーションを考える上で,言語を媒介としたコミ ユニケーション(verbal communication)と同様に,非言語的コミュニケーション(non−verba1 communication)の視点もまた大切な諸相であると思われる。言語学的に考えると,意志や感情,思 考や思想などを記号化し伝達するための,記号体系としての言語の視点は重要であるが,他方言語 の持つ機能的側面,すなわち象徴機能(symbolic function)も言語発達を考えていく上で重要な指標

となる7)。

2言語発達に及ぼす障害の影響

言語に障害を有するという場合初めに聴覚障害が挙げられるが,同様に言語に障害を有する精神 発達遅滞児も多数挙げることができる。障害としては言語面に関する障害であるので,同様に扱わ れてしまいがちだが,その諸相は大きく異なっている。聴覚に障害を有する場合は,入力系に問題 が多く,他方精神発達遅滞ではその処理能力に問題があると言えよう。聴覚に障害を有する児童・

生徒に対しては,主に聾学校もしくは聞こえの教室でその処遇がなされる。聴覚障害の場合,異常 が発見されるとすぐにその処遇がなされることも特質といえよう。聴覚に障害があるが故に,外界 からの音響刺激が乏しく,そのために入力された音がフィードバックされず,言語発達も遅滞の傾 向が強くなってしまう。しかし,知的な側面での発達を伴わない,もしくは少ないために,補助手 段としての口話法や指文字,サイン言語,手話などのコミュニケーション手段の活用が可能なケー スが多い。課題としては,社会生活においてどれだけ補助手段が活用できるかという点が挙げられ

よう。

それに反して精神発達遅滞児の言語発達をみると,その障害に応じて様々な位相を示しているこ

(3)

とが伺える。精神発達遅滞の場合,遅滞が重度化するにつれて言語発達も遅滞の傾向が強く,精神 薄弱養護学校の場合,言語を有さない児童が多数在籍しているのは先に述べたとおりである。また,

自閉症児ではエコラリア(反響言語,一・般的にはオウム返し)という特有の言語表出を示す場合も ある。一般的には知的発達レベルと言語発達レベルとは相関関係があると思われるが,指示理解な どコミュニケーションを指標とした場合,言語を有さない児童・生徒でも指示理解は十分可能であ る場合も多く,そこには社会性の発達や概念・認知などの知的要因が関連しているものと思われる。

また,精神発達遅滞児は聴覚には問題がない場合が多く,さらに口,舌,声帯などの発声・発語器 官にも問題を有していないにも関わらず発語がみられないというケースが多い。このことも知的発 達のレベルと言語発達のレベルとの相関関係を裏付ける一因と考えられる8)。

H 遊び(PLAY)の教育臨床心理学的意義

1言語発達と遊びとの関連

子どもが発達していく上で最初に他者との関係性を形成するのは多くの場合母親であり,母親の 言葉かけは言語発達には必要不可欠の要件であろう。話し言葉の獲得以前では 泣く という行為 が意思の伝達手段の中心であり,母親との関係によってその 泣く という行為の意味が了解され ることとなる。そして,成長・発達するにつれて母親・本人・ものという三項関係9)が形成され表 出言語が成立してくる。そこで重要視されてくるのは母親から子どもへの関わり方であり,教授的 方略によっては言語発達があまり期待できないと言う点である。言語発達においては哺語の状態か ら伝達機能があり, 伝わった という気持ちの動きが大切となってくると考えられる。そこで遊 びと言語発達との関連を考えると,第一義としては子どもの自主性が優先されるということが挙げ られよう。先にも述べたように,母親との関係性が母親からの一方的な教授関係であるときに言語 発達はあまり期待できない。母親と子どもとの関係がフラットな状態,すなわち遊びを切り結べる 関係が必要となる。発達が進むにつれて社会化された言葉の獲得が進むこととなるが,現在の競争 社会において母と子のダイナミックな関係が課題とされてはいるものの10)11)子ども同士の関係が 重要となってくる。遊びを通してパーソナリティが発達し,そのことを通して自己中心的な言語か ら社会的意味合いを持った言語が発達してくると考えられる。これらのことより,言語発達におい ては遊びの持つ子どもの主体性が重要な要素となると考えられる12)。

2障害児教育における遊び

障害児,特に精神発達遅滞を伴う場合の一般的学習特性として,精神構造が未分化なため,抽象,

総合,判断などの働きが弱く,学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく,実際の生活の

場で応用されにくいと指摘されている。そのために,精神発達遅滞児に対しては,総合的な活動を

中心におき,実際的な状況の下で指導を進める必要がある。そこで,精神薄弱教育関係では,昭和

54年の学習指導要領改訂に伴い,「遊び」が「生活単元学習」に関連して取り上げられ,さらに平

成元年同改訂によって,「遊び」は「日常生活の指導」「生活単元の指導」「作業学習の指導」と並

んで,領域・教科を合わせた指導の一形態として位置付けられた13)。先の項でも述べたが,元来子

どもの遊びは子どもにとって主体的なものであるが,指導場面での遊びでは,教師による条件設定

(4)

が不可欠となってしまう。そのために,児童・生徒が主体的に遊ぶ場面が教師の指導目標先行とな る危険性をはらんでいる。この点について,教師は十分に留意しなければならないことである。

皿 遊びを通しての言語指導の実際

本研究は,平成5年度に実施したダウン症児の発語促進の過程を整理・検討するものである。本研 究をあえて一事例研究とした事由は,伊藤も言うように,一人の人物の変容過程を追うことで,人 間としての理解を深めたい14)と考えたためである。以下にその指導過程を述べる。

1児童の実態

①本児のプロフィール

A男;小1男児(平成5年度時点).主障害:ダウン症 療育手帳:判定B.

生育歴;出生時   体重:3200グラム,帝王切開,母の年齢:33歳.

乳幼児期  始歩:24か月,おむつ解除:48か月,人工栄養.

既往歴;麻疹:1歳時.

家族構成(平成5年4月現在);父(39歳,自営業),母(39歳,在家庭),本児(6歳).

標準検査の結果;

《S−M社会生活能力検査,平成5年6月7日実施》

身辺自立:3歳6か月,移動:2歳4か月,作業:3歳3か月,意志交換:1歳8か月.

集団参加:2歳2か月,自己統制:4歳3か月.

社会生活年齢(SA):2歳10か月,社会生活指数(SQ):45.3.

《遠城寺式乳幼児分析的発達検査,平成5年5月20日実施》

移動運動3:0−3:4,手の運動2:9〜3:0,基本的習慣310〜3:4.

対人関係 1:9〜2:0,発語 1:4−1:6,言語理解 1:4−1:6.

②教育の経過

平成4年4月 M市内社会福祉施設入園,平成5年3月まで通所.

平成5年4月 茨城県立勝田養護学校小学部入学  1年次抽出養護・訓練対象

平成8年4月     同    小学部4年  語彙の拡充をねらい抽出養護・訓練対象

2抽出指導の実際

①本児の課題と指導方針

言葉を用いて自分の気持ちや要求を伝えることが少なく,動作で済ませてしまう傾向が強い。

また,周囲も本児の動作での伝達を了解しており,言葉をあまり必要としていない。そのために,

遊びの中で教師が率先して言葉を用い,言葉の必要性を意識させ,さらに遊びを通して語彙の広 がりを目指す。また,活動の中で,ミラリングやエキスパンジョンにより言葉で伝わる喜びを味 わわせる15)。

②指導の経過表1−1から表1−5を参照.

(5)

表1−1抽出指導の経過16)

回・日 学習課題 教師の関わ り 児 童 の 反 応

相撲 本児の模倣をして横になる 初めて笑顔がでる 動物積木 「これなあに」と尋ねる 返答なし 1 5/24

積木同士で挨拶 Tの音声模倣で「わ」

不明瞭ながら音声模倣

「ばいばい」と言う

動物積木 「これなあに」 「こっこ,こっこ」

積木が倒れると「あれ一」

2 6/8

一緒に「フーフー」

木の模型を吹く

倒れないと「あれ一」

風船 膨らませて飛ばす 大喜びで笑う.自分でも膨らまそ うとするができない

3 6/10

一緒に活動 うまくできると「お一」,できな

ストローの

袋とばし いと「あれ一」を繰り返す

シャボン玉 一緒に活動 初めはできない.できるようにな ると,「お一」と言い続iける 4 6/15

ストローを落としてしまい 模倣をしてわざと落とし,

「失敗」と言う 「っぱい」と行って笑う

シヤボン玉 シャボン玉を擬i人化 音声模倣をしようとする.語尾み

「ぱいばい」「さようなら」「おいで」 の場合が多い.「ったった?」と 5 6/18

「行っちゃった」と投げかけ 尋ねる.「ったった,あ一あ」と 自分から話すことが多い シヤボン玉 一緒に活動 「おいで一」と言い手招き

「おいで一,あれ,ったった」と 6 6/22

単語をつなげて発語 模倣をし「えて一」と発語

「冷めて一」と言う

シヤボン玉 大きい輪で作る やりたがり取ろうとする 反応なし

「貸してって言おうね」

7 6/23

「どうぞって言おうね」 反応なし

「っぱい」と発語

「いっぱいだね」

シヤボン玉 一緒に活動 「あれ一,ったった」「お一, っぱ い」の発語多い

8 6/29

電話 「もしもし」「A君元気?」 「し一し一」「あ一い」

やりたくて「ちょうだい」

シヤボン玉 一緒に活動

「蝶々だね」と指さす 模倣して指さしのみ

散歩

相撲 「はっけよ一いのこった」 「っよ一こった」

9 7/2

「勝った一」 模倣して「った一」

自分が勝つと「った一」と自発語

(6)

表1−2抽出指導の経過

回・日 学習課題 教師の関わ り 児 童 の 反 応

シヤボン玉 一緒に大きなシャボン玉作り 壊れてしまうと,「あれ一」「っぱ

10 7/6 い」「おいで一,あ一あ,ったっ

た,っぱい」が出る 輪を受け取り「どうも」 「い一も」と模倣 かくれんぽ 物陰に隠れる

uここだよ一」

「お一い」と呼ぶ

11 7/8 「った一」と言いながら喜ぶ

シヤボン玉 一緒に活動 失敗時,「れ一」「っぱい」.

成功時,「おいで一」「ったった」等

相撲 「っけ一った」と相撲に誘う

12 7/13 負ける 「った一」と喜ぶ

せんせい 模倣 消してはいろいろな動作を行う

ボール遊び 一緒に活動 「おいで一」「あれ一」等 ボール遊び 一緒に活動 「あれ一」「っぱい」「お一」など,

13 7/14 ボールが机の下に入ってしまうと

「あれ一」と言いながら探し,見 つけると「あった」という発語

せんせい 消して「あれ一」「あららら」

「消えちゃった」

14 9/7 反応なし

ラッパ 音が出ず「あれ一」

師範 できると「お一⊥ガッッポーズ

LD視聴 画面の動作模倣

帽子をさして「これなあに」

15 9/9 「ぽうし」と答える

擬音笛 師範 「ちょうだい」

一緒に活動 いろいろな笛に興味を示す

音と絵の 猫の鳴き声を聞かせ 「にゃ一」とは言うが,絵カード 16 9/14 マッチング

≠ォ矢

「これなんだ」 は取らない

一緒に活動 「やった一⊥ガッツポーズ

「反対だよ」 指示に従うことができる

シヤボン玉 「おいで一」と言う 動作を交えて「おいで一」

一緒に活動

17 9/17 失敗すると,「あ一あ,っぱい」

割れたとき「パチン」と言う はじめは「あ一あ」次第にTのを 割って,不明瞭ながら「パチン」

ボール遊び 上に投げて遊び始める

「ボーン」と言う

18 9/21 「ボーン」模倣.故意にカーテン

の向こう側に投げ,「あれ一」

「あった」と言い喜ぶ

(7)

表1−3抽出指導の経過

回・日 学習課題 教師の関わ り 児 童 の 反 応

ボール遊び 「ボーン」を投げかける Tに向かって投げる 前回同様の活動 19 10/5

相撲 Tの足をつかみ 立って を要求

動作模倣し「っかい」と発語 人差し指を立て「もう一回」

自由画 ホワイトボードに描き始める

「お一」と喜んで発語し,消す

「グー(キャラクター)だね」

20 10/12

「ゴシゴシ」 言語反応なし

「やだだだ」Tの手を制止

『ぞうさん』を歌い描く

自由画 大きな円の中に円を数個描く

反応なし.黙って描き続ける

「なに描いてるの?」

21 10/19

ピンポン玉 片方の手に握り両手を差し出し Tの指を開いて確認見つかると

「どっちだ?」と尋ねる 「お一」と言って喜ぶ 家族の写真 「これだあれ?」     一 uパパ」は言える

「マー」は言語模倣 22 10/22

「じいちゃん」「ばあちゃん」 「じ一」はでるが,「ば一」は うまく言うことができない

動物積木 観察 立てて「お一」と言って遊ぶ

別の積木で倒して「ったたた」

23 10/26

風船 うまく膨らまずTに渡してくる

「お一」と言い取りに行く 膨らまして飛ばす

シヤボン玉 一緒に活動 「おいで一」「あ一あ」「ったった」

単語のみ 24 11/4

ストローでつかまえ 動作模倣を行おうとするが

「つかまえた」 うまくできない

シヤボン玉 一緒に活動 すぐに「おいで一」,

「あ一あったった」など表出 25 11/9

「パチン」 反応なし

不明梁ながら模倣しようとする つかみ損ねて「おしい」

ボール遊び 「コロコロ」 言語模倣はないが転がして戻す

「ボン」と言ってTの捕れない所

「ボーン」と言って投げる 26 11/12

に投げる

自分で捕った時「とった」

「とった」と言って捕る

ボール遊び 「コロコロ」「ボーン」 言語反応なし.ハンガーに当て落 とす  まずい という表情 27 11/16

「やっていいよ」 喜んで活動

全部落としたとき「やった一」 「った一」と言って喜ぶ

(8)

表1−4 抽出指導の経過

回・日 学習課題 教師の関わ り 児 童 の 反 応

動物積木 ぶつけながら発語意味不明

積木を持って介入

28 11/30 夢中になり受け入れない

相撲 負ける 「やった一」「お一」と言いながら

ガッツポーズ

円柱積木 1個積む毎に「うわあ」と拍手

本児と交互に積む

29 12/3 わざと倒し始める

相撲 手招きで 立って

相撲をとる おなかをたたいて 相撲 要求

魚釣り 一緒に活動 釣れると「お一」,はずれると

30 12/10 「あれ一⊥魚に「おいで一」

「ありがとう」 Tに針に魚をつけて「はい」

大型積木 観察 汽車を作り「できた」

大型積木 一緒に積み上げる Tの邪魔をし「あ一」「お一」

31 1/11 食べ物模型 バナナを食べるまね「うまい」

ままごとセットを渡す 調理のまねをし,食べるまねを しながら「うまい」

魚釣り ロッカーを指さし意思表示

「これ?」

32 1/14 笑顔が出る.夢中で行う

食べ物模型 「先生にもちょうだい」 無言で渡す

「どうぞ」を投げかける 言語反応なし 食べ物模型 「どれで遊ぶ?」 食べ物模型を指さす

「先生にもちょうだい」

33 1/21 「はい」と言って渡す

「はいどうぞ」と言って渡す 繰り返すうちに言語模倣

「ありがとう」と言い受け取る 「ありがとう」は出ない

食べ物模型 「はい」と言って渡す

さまして食べるまね

34 1/25 模倣して吹く

相撲 「けよ一,こった」と言い動作

「まいった」と言い横になる 畳をたたき「ねえねえ」と誘う

食べ物模型 食べるまねをし「うまい」

「先生にもちょうだい」

36 2/4 「はい」と言って渡す

動物カード Tに1枚つつ見せる

鳴き声をする ぶた 以外は意味不明

食べ物模型 「はいどうぞ」と言って渡す 「はい」と言って受け取り手を合

37 2/22 わせて食べるまね.「うまい」

大型積木 「これなあに?」 積み上げて形を作る

言語反応なし.こわして遊ぶ

(9)

表1−5 抽出指導の経過

回・日 学習課題 教師の関わ り 児 童 の 反 応

魚釣り 「やった一」と言う 言語模倣.ガッツポーズ

円柱積木 人差し指を立て「っかい」

38 3/4 「もう1回」

自由画 キャップをつけたまま描く

「描けないね」 「あれ一」と言い,はずして描く

IV 精神発達遅滞児へのコミュニケーション指導

1遊びの視点の有用性

ここに紹介した事例は,遊びを中心として各セッションを行ったものであるが,各セッションご とに児童の自発性を大切にして指導を行ってきた。先に述べたように,遊びは本来子どもの自主的 な活動であり,大人ないし教師が構成し過ぎたときにその機能は衰退してしまうと思われる。

各セッションにおいては,児童に選択肢を与えることで児童の自主性をできるだけ損なわないよ うに配慮してきた。6,7,10回頃にシャボン玉遊びで獲得・定着した「あ一あ,いっちゃった」と いう発語が,その後12,13,18回のボール遊びの場面で見られるように,教師が促すことなく場 面にあって児童が自発的に発語できたことは,遊びによって獲得した語の定着の強さを伺わせるも のであろう。また,7回のスクリプトからもわかるように,教師と児童の関係が指導者と被指導者 という上下関係の状態になった場合,児童の反応が乏しくなってしまった。しかし,11回のかく れんぽに見られるように,教師と児童の関係がフラットな状態で遊びが展開できている場合には,

予想もしない場に適した反応が見られる場合もある。これらのことは,遊びを媒介とした指導の場 合,いかにフラットな関係が重要で,子どもの自発性を尊重すべきかを裏付けるものであろう。

2伝達意欲の向上

本児は指導開始当初は発語も少なく,教師の言語模倣もあまり多くなかった。しかし,回を重ね るにつれて発語も増え,何で遊びたいかを身振りと併せて,不明瞭ながらも発語で伝えようという 姿勢が多く見受けられるようになった。指導の経過の中では,8回目に初めてこれまで行ってきた

シャボン玉を行いたくて,不明瞭ながらも「ちょうだい」と言うことができた。また,21回には rやりたいけどいいかな』ということを表情で伝え,さらに本児が喜んで行っていた相撲に関して は,12回で教師を遊びに誘う行動が見られ,19回や29回では「相撲を行いたい」という内容を,

本児の持つ伝達手段を駆使して伝えようという姿勢がよく伺えた。遊びの有用性でも述べたが,こ

れら伝達に関しては,児童の遊びたいという欲求が誘引してのことであり,そこに遊びの持つ自発

的側面が起因しているものと考える。これらの経緯をふまえて,学級や家庭でも言葉を用いての伝

達を,フラットな状況の下に促すよう働きかけてきた。その後本児は,言葉の使用頻度が増え,伝

わらない場合はジレンマを起こすこともあったが, 伝わった と言う成就感・達成感を本児が味

わえるよう周囲の大人が丁寧に関わることで,さらに発語の機会が増えることが予想される。

(10)

おわりに

本研究は一人のダウン症児のコミュニケーション指導の過程を検討したものであるが,本検討を通 して,自分自身の児童との関わりをあらてめて見直すことができ,今後の指導の一つの指標として 捉え直す機会になった。本児の場合不明瞭ながらも若干の発語があり,遊びを教師と一緒に楽しむ

ことができた。しかし,様々な児童を指導していると,発語のない児童や意志表示の少ない指導な ど,多様な課題を有している児童に遭遇する。コミュニケーション指導という視点から実践・研究を 行うに当たって,養護学校における学校不適応の諸問題17)も鑑みながら,発語を有さない児童の伝 達手段,とりわけ,サイン言語の有用性と,社会的に使用でき得るかといった,生きていくための rことば』の問題に迫っていきたいと考える。

なお,本研究は,吉田(信)の具体的指導事例を整理・点検し,吉田(昭)とともに心理ダイナミズ ムの視座から検討したものである。

1)文部省 1988r盲学校,聾学校及び養護学校教育要領・学習指導要領』大蔵省印刷局, pp23−25.

2)文部省 1991 r特殊教育諸学校小学部・中学部学習指導要領解説一養護学校(精神薄弱教育)

編一』東洋館出版社,p.140.

3)前掲書2),p.150.

4)茨城県教育庁教職員第二課特殊教育室 1992r特殊教育資料第32集養護・訓練の指導』pp.24

一39.

5)田中美郷 1989『コミュニケーション障害児の見方と指導』安田生命社会事業団,p.37.

6)茨城県立勝田養護学校抽出養護・訓練担当 1994r抽出養護・訓練の実践』47p.

7)前掲書5),pp.2−13.

8)前掲書5),pp.53−59.

9)武井章 1994「ことばの障害とその指導」r群馬県総合教育センター研究紀要』pp.117−124.

10)吉田信仁・吉田昭久・小熊均 1992「児童・生徒における攻撃性の発現と優劣感情一因子分析に よる心的構造の検討一」r茨城大学教育学部教育研究所紀要』pp.117−125.

11)吉田信仁・吉田昭久・小熊均 1992児童・生徒における攻撃性の発現と優劣感情〔H〕一教室 場面に反映する攻撃性を指標として一」r茨城大学教育学部教育研究所紀要』pp。127−135.

12)C・ガーヴェイ 高橋たまき訳 1980r「ごっこ」の構造』サイエンス社,218p.

13)文部省 1993r遊びの指導の手引き』慶鷹通信, pp.10−24.

14)伊藤隆二 1996「教育心理学の思想と方法の視座一「人間の本質と教育」の心理学を求めて一」

r教育心理学年報』pp.127−136.

15)竹田契一・里見恵子 1994 rインリアル・アプローチ』 日本文化科学社,160p.

16)「」内は教師及び児童の言語表出,矢印はダイナミックな関わりと反応の方向を示す。

17)吉田信仁他 1996「シンポジウム学校不適応に対する具体的対応方略」r教育心理学年報』pp,7

一15。

参照

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