『精神発達遅滞児へのコミュニケーション指導過程の検討』
一遊びを通しての一・指導の実際一
吉 田 信 仁*・吉 田 昭 久**
(1996年11月1日受理)
Examing Process of Communication Leading for Child with Mental Retardation and Developmental Disability
一〇ne Case Study over PLAY一
Nobuhito YosHIDA*and Teruhisa YosHIDA**
(Received November 1,1996)
はじめに
文部省編平成元年度改訂の精神薄弱養護学校学習指導要領によると,養護・訓練の指導は五つの柱 18項目からなっている1)。その解説書の中では,養護・訓練の指導の特色として,発達の遅滞そのも のへの対応は各教科等で,精神発達遅滞以外の発達の偏りへの対応が養護・訓練でとされている2)。
また,指導計画の作成に関しては個別的指導が望ましいとされ,各教科,道徳及び特別活動にはそ れそれ独自の目標があるので,これら三つの領域における養護・訓練の指導に当たっては,それらの 目標達成を著しく損なったり,目標から逸脱することのないよう留意し,養護・訓練の具体的な指導 事項との関連を図るよう工夫する必要があるとされている3)。養護・訓練の指導形態には,学校の教 育活動全体を通じて行われる「関する指導」と,特設時間に行われる「時間の指導」が挙げられ4),
更に「時間の指導」の一形態として別室で一対一で行う「抽出指導」が挙げられる。実際の指導現 場のほとんどの精神薄弱養護学校では「関する指導」が中心であり,茨城県内でも精神薄弱養護学 校で「抽出指導」を実際に行っている養護学校は3校にすぎない。また,「関する指導」の実態をみ
ると,課題別学習などの小グループ化した時間に実施したり,日常生活の指導の時間などに実施し ているが,実際には各領域・教科の指導目標が重視される傾向にあり,児童・生徒各個人の養護・訓 練の指導目標が二次的になってしまう傾向の起こる可能性は否めない。
以上のような反省に基づき本校(茨城県立勝田養護学校)では,平成5年度より抽出による養護・訓 練の指導を小学部において開始した。小学部で開始した理由については,聾教育で言われているい わゆる「9歳の壁」5)を鑑みてのことである。本校の抽出養護・訓練の指導課題は,先に挙げた学習
*茨城県立勝田養護学校(〒312−0032ひたちなか市津田1955)
**
?髑蜉w教育学部(〒310−8512水戸市文京2−1−1)
指導要領の養護・訓練のうち,5.意思の伝達の分野を中心としており6),この点に関して過去4年間 継続している。他の精神薄弱養護学校でも同様の傾向にあると思われるが,本校小学部の場合,発 語のない児童が約6割を占め,発語はあっても不明瞭であったり会話が成立しないなど,コミュニケー
ションの障害を有している児童がほとんどである。そこで,抽出養護・訓練の指導には3名の教員が 専科として指導に当たり,それぞれ低学年・中学年・高学年を担当して,各教員が4名ずつの児童を,
週あたり2時間を原則として指導を行っている。指導を行うに当たっては,先に述べた意思の伝達の 分野を中心課題としているが,児童の課題に応じて環境の認知や運動・動作も指導課題に含まれるこ
ともある。本研究は,平成5年度に抽出指導の対象となった小学部1年のダウン症男児の,発語促進 に関する事例指導経過に基づいている。
1 言語発達と障害との関連
1 コミュニケーション手段としてのrことば』
コミュニケーションの諸相を考えるにあたって,SPEECHとLANGUAGEとについて検討してお こう。通常我々は他者とのコミュニケーションを交す際に言葉(SPEECH)を用いる。この事に異存 はないと思われるが,伝達手段としての言葉のみではコミュニケーションとしての伝達は十分では ない。そこで問題とされるのが言語(LANGUAGE)である。意志や感情,観念などの伝達にもっと も重要な役割を果たしている言語が,コミュニケーションとりわけ精神発達遅滞児のコミュニケー ションを考える上で重要な視点となる。コミュニケーションを考える上で,言語を媒介としたコミ ユニケーション(verbal communication)と同様に,非言語的コミュニケーション(non−verba1 communication)の視点もまた大切な諸相であると思われる。言語学的に考えると,意志や感情,思 考や思想などを記号化し伝達するための,記号体系としての言語の視点は重要であるが,他方言語 の持つ機能的側面,すなわち象徴機能(symbolic function)も言語発達を考えていく上で重要な指標
となる7)。
2言語発達に及ぼす障害の影響
言語に障害を有するという場合初めに聴覚障害が挙げられるが,同様に言語に障害を有する精神 発達遅滞児も多数挙げることができる。障害としては言語面に関する障害であるので,同様に扱わ れてしまいがちだが,その諸相は大きく異なっている。聴覚に障害を有する場合は,入力系に問題 が多く,他方精神発達遅滞ではその処理能力に問題があると言えよう。聴覚に障害を有する児童・
生徒に対しては,主に聾学校もしくは聞こえの教室でその処遇がなされる。聴覚障害の場合,異常 が発見されるとすぐにその処遇がなされることも特質といえよう。聴覚に障害があるが故に,外界 からの音響刺激が乏しく,そのために入力された音がフィードバックされず,言語発達も遅滞の傾 向が強くなってしまう。しかし,知的な側面での発達を伴わない,もしくは少ないために,補助手 段としての口話法や指文字,サイン言語,手話などのコミュニケーション手段の活用が可能なケー スが多い。課題としては,社会生活においてどれだけ補助手段が活用できるかという点が挙げられ
よう。
それに反して精神発達遅滞児の言語発達をみると,その障害に応じて様々な位相を示しているこ
一