奈良教育大学学術リポジトリNEAR
精神遅滞児の歩行運動に関する発達的研究
著者 田辺 正友, 田村 浩子, 岡本 壮
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 23
ページ 29‑44
発行年 1987‑03‑01
その他のタイトル A Study of Development on Physical Locomotion in Mentally Retarded Children
URL http://hdl.handle.net/10105/6621
精神遅滞児の歩行運動に関する発達的研究*
田辺正友・田村浩子・岡本 壮**
(障害児学教室)
要旨:本研究では、精神遅滞児の歩行運動の発達傾向を明らかにし、歩行運動 と他の運動機能との関連についての検討および歩行運動にみられる障害別傾向 性についての検討を試みた。1次元可逆操作期から1次変換形成期・可逆操作 期の精神遅滞児35名に歩行運動および運動機能検査課題が実施された。
その結果、① 全体的傾向として、加齢および発達年齢の上昇に伴って歩行 運動得点の増大がみられた。② 歩行違動得点と本研究で取り扱った運動機能 検査課題との間に有意な相関関係が示されれ③ 自閉的傾向児においては、
rその場歩行」r開眼両足立ち」課題にみられるように一定時間、その場で一 定の運動や姿勢を持続させることの困難さがみられた。
キーワード:歩行運動、運動機能、精神遅滞児 問 題
精神遅滞児の運動機能に遅れあるいは障害が見られることは多くの研究で指摘されている(Bru−
ininks,1974;笠巻、1972;小林・松瀬、1984;小宮、1970;Malpass,1963)。子どもの成長や 発達にとって、運動機能の発達は中枢的働きを意味し、運動機能の遅れや障害は生活そのものを 遅らせてしまうといわれている。筆者らは、運動機能・能力の発達にどのような要因が関与して いるかについて検討し、そこから精神遅滞児の運動機能の遅れのメカニズムを明らかにしようと して計画した一連の実験的研究を行なってきた(田辺、1985;田辺・田村・小出、1986;田辺・
田村・桑田、1986)。最近、疲れやすい、体力がない、骨がもろく骨折しやすいといったことから 背すじがまがっている、土踏まずの形成が悪いなど、子どもたちのからだをめぐる種々の問題が 指摘されている。ましてや、障害をもつ子どもたちの場合それはもっと極端なかたちであらわれ てきている。河原・坂下(198ユ)は、小・中学校障害児学級の児童・生徒の実態から、障害をも つ子どもたちのからだの「もつれ」「つまずき」は様々な形であらわれてきているが、その中で
も「からだが極端にクニャクニャ曲がっており、直立姿勢がきちんととれない」、r前傾姿勢で 上体がゆれ、足が十分にあがらないといった歩き方」、r腕をだらりとおろしたり上にあげたり
しながら、小踊りするような歩き方」などにみられるように、「直立姿勢」r二足歩行」にかか わる遅れ・問題が非常に多くみられることを指摘している。そして、こうした子どもたちの実態
* A Study of Development on Physical Locomotion in Menta11y Retarded Children
** Masatomo Tanabe,Hiroko Tamura and Tsuyoshi Okamoto(D帥。〃mmサガ
D功・〃0〃,MOmσ舳…〃〆〃mOi m,Mm)
一29一
をふまえて、小学校の体育の実践課題の一つとしてr歩く」ことが重視されている。
これまでの研究でも、「歩行」といったきわめて日常的な運動動作においても、精神遅滞児に は遅れ、あるいは、歩行時の姿勢の悪さや上半身が大きくゆれる、足の裏全体で接床するといっ た歩行パターンの特徴などの種々の問題がみられることが報告されている(池田・岡崎・中村、
1980;上林・池田、1985;小住ほか、1976・1977;森下・藤田、1985・工986)。太田(ユ974)は、
人間の運動の基本となる形態として、這、歩、走、跳、投、捕、押、引、打、蹴、泳、懸垂、回 転などの運動があげられるが、なかでも、「歩く」という運動は人間の最も基本的な運動の一つ として取りあげられると指摘している。歩行の確立は、一連の運動発達過程の中でもとくに大き な意義をもつものであり、歩行時の運動パターンや姿勢が広く他の運動機能の発達に何らかの影 響をおよぼしているものと仮説される。
そこで本研究では、精神遅滞児の歩行運動について以下の3点から検討することを目的とした。
ユ.歩行運動を、歩行時の1)リズム、2)姿勢、3)手と足の協応、4)つま先の向き、の 4側面からとらえ、その発達的変化について検討する。
2.歩行運動が、広く他の運動機能の発達といかなる関係にあるかを見るために、静的運動と 動的運動(移動を伴わない運動および移動運動)を取り上げて、これらの関係について検討する。
3.上記1,2の問題についての障害別(知恵遅れ児と自閉的傾向児)傾向性を明らかにする。
方 法 1)対象児
本研究は、奈良市N小・中学校障害児学級における発達診断活動の一環としてなされたもので あるが、本稿での対象児は、課題の性質上とくに四肢に顕著な麻痺のある児童・生徒を除いた、
36名である。ただし、このうち検査を拒否した児童が1名おり、分析の対象となっているのは表 2中に示した、35名であった。なお、表中に示した各対象児の操作特性は、新版K式発達検査資 料を主に、日常行動観察などの諸結果も考慮しつつ、田中(1977.1985)の可逆操作特性の高次 化における「階層一段階」理論にもとづいて決定された。
2)評価課題およびその実施・評価手続
11〕歩行運動課題一歩行運動課題は、7肌の距離をあけてその直線上に検査者と検査補助者が 立ち、その問を自然歩行することが求められた。歩行運動課題の評価は、歩行時の「リズム」r姿 勢」「手と足の協応」rつま先の向き」の4側面について、それぞれ、A,B,Cの3段階で行 なった。その評価基準は、表1−1に示す通りである。なお、分析の際の参考資料とする目的で、
歩行時の「視線の据え方」が観察・評価された。
12〕運動機能検査課題一全対象児の運動機能の実態の把握にあたって、次の6検査課題が実施
された。
静的運動一「開眼両足立ち」、「開眼片足立ち」
動的運動・移動を伴わない運動一「その場両足とび」、「その場片足とび」
動的運動・移動運動一「両足とび」、「片足とび(ケンケン)」
一30一
表1−1. 歩行運動の評価基準 評伝
評価項目
A B
Cリ ズ ム 一定のリズムで目標地点 目標地点まで歩くがリズ リズムが大きく舌しれ、目 までまっすぐに歩く ムがみだれる 標地点まで歩けない まっすぐである(頭一頭 背筋が伸びずやや前傾、 極端に前傾、あるいは後 姿 勢 一肩一背筋一腰一膝一か あるいは後傾している 領している
かとがほぼ一直線
手と足の動きが協応して 手と足の協応にやや欠け 手と足の動きが協応して
手と足の協応 いる る いない
自然な歩行である 不自然な歩行である
つま先の向き 正常である やや外反、あるいは内反 極端に外反、あるいは内
している 反している
(視 線) まっすぐ目標を見て歩行 自分の足もとを見て歩行 キョロキョロして視線が 固定しない
表1−2. 運動機能検査の評価基準
課題 開眼織 手や首を動かさ
A
上肢は動くが足はB 最初かbモゾモゾ動くC
できないD静 静 両足立ち ずじっと立ち続 動かさず立ち続け
的 (30秒以上) ける る
運 開眼 バランスを取っ バランスを取るた 姿勢を取ろうとするが できない 動 止 片足立ち てじっと立ち続 めに手や足は動く すぐに足が床につく、
(10秒以上) ける が立ち続ける あるいは姿勢を取るた
めに足を持つ
移 その場 一定のリズムで リズムは乱れるが リズムが大きく乱れ2、 できない 動 動 両足とび 両足をそろえて 両足をそろえてと 3回とぶのみ
を (20秒以上) とび続ける び続ける、あるい
的 伴 は両足にばらつき
わ は見られるがとび
運 な つづける
い
動 その場 一定のリズムで リズムは乱れるが リズムが大きく乱れ2、 できない 運 片足とび とび続ける とび続ける 3回とぶのみ、あるい
動 (15秒以上) は足をもってとぶ
両足とび 一定のリズムで リズムに乱れはあ リズムが大きく乱れ目 できない 動 移 (5肌以上) 両足をそろえて るが両足をそろえ 標地点までとべない
目標地点までと て目標地点までと
的 動 ぶ ぶ
運 運 片足とび 一定のリズムで リズムは乱れるが リズムが大きく乱れ目 できない 動 (5肌以上) 目標地点までと 目標地点までとぶ 標地点までとべない、
動 ぷ あるいは足をもってと
ぷ
一31一
評価は、各課題ともA,B,C,Dの4段階で行なわれたが、主として、一定のリズムで設定 された距離・時間以上課題とされる姿勢・運動を持続できるかどうかについて測定された。各運 動機能検査課題ごとの評価基準は、表ユー2に示す通りである。なお、分析の際の参考資料とす る目的でrその場歩行」の課題が実施・評価された。歩行運動および運動機能検査の各課題の実 施に際しては、課題遂行に関する言語教示の後に、まず検査者が各課題を演示して見せた。その 後に、対象児が各課題を実施した。運動機能検査課題の動的運動・移動運動の課題の実施に際し ては、目標地点に検査補助者が立ち、その間を両足とび、片足とびで移動することが求められた。
これらの課題は、すべての対象児に対して一定の順序で実施された。なお、各課題ごとに設定さ れた規準の時間以上、課題が持続可能であった場合は、検査はそこで打ち切られた。評価は、課 題遂行時に検査補助者1名と観察者1名とがそれぞれ個々に行ない、合せて、対象児の課題遂行 の様子がVT Rにより録画された。
結果と考察
1 歩行連動の発運傾向
全対象児の生活年齢(C A)、発達年齢(DA)、身長、体重および歩行運動課題における評 価段階・得点を、表2に示した。数量化にあたっては、歩行運動課題については、A,B,Cの 評価をそれぞれ3,2,1点と得点化し、運動機能検査課題については、A,B,C,Dの評価 をそれぞれ4,3,2,1点と得点化した。まず、歩行運動の発達傾向について検討を試みるが、
ここでは、1次変換形成期(児Nα35)および1次変換可逆操作期(児N皿36)の該当児は各々ユ名 であったので3次元可逆操作期と合せて取扱うこととする。表3に、歩行時の「リズム」「姿勢」
r手と足の協応」 「つま先の向き」それぞれの評価項目における得点およびそれらの評価項目を 合計した得点とC A,DAとの相関係数(Pearsonの係数)を求めて示した。また、歩行運動課 題の合計得点とC AおよびDAとの関係を図示したものが、図ユー1、図1−2である。歩行運 動の合計得点とC A,DAそれぞれとの問に7=O.533、ドO.622と有意な相関が認められ、全 体的傾向として、C AおよびDAが高くなるにつれて歩行運動得点の増大がみられる。歩行の評 価項目ごとにみると、DAとの問にはすべての項目との問に1%ないし5%水準で有意な相関が 認められたが、C Aと「手と足の協応」および「つま先の向き」との間には有意な相関関係が認 められなかった。
D Aとすべての評価項目との間に有意な相関関係が認められたので、ここで、これらの4項目 における評価段階について、操作特性との関連で分析する。 「歩行のリズム」は、「一定のリズ ムで目標地点までまっすぐ歩く」の評価Aのものは、1次元可逆操作期および2次元形成期では 対象児9名中の1名のみであった。本研究での対象児全員が「目標地点までまっすぐ歩く」こと は可能であったが、1次元可逆操作期および2次元形成期ではrリズムが乱れる」ものの占める 割合が高い。しかし、2次元可逆操作期以降の段階では、対象児全員がA評価であって歩行運動 時における一定のリズムが確立されている。r姿勢」では、1次元可逆操作期の対象児にr極端
一32一
表2 対象児の歩行運動課題の評価段階・得点
操作特性
[N=35コ児
NΩ
性
別
CA
身長 体重DA
〔㎝) (k9) 歩 1■I . ■一一 山止…リズム 姿勢
手と足の協応行
つま先の向き 合計(12)
備考
(視線)
1次元可逆操作期
[n=5]
女 男 女 男 女
ユO:6714
6:58:2 12:O
2二〇 133,3 34.0 .B (2) C (1)
2:2120.4 211ユB(2)B(2)
2:61ユ2,7 19.8B(2)B(2)
2:8125,2 20,4A(3)A(3)
2:ユ0147,6 37.2B(2)B(2)
B (2)
B (2)
B (2)
A(3)
C (1)B
A A A
B
(2)
(3)
(3)
(3)
(2)
7 9 9 12 7
A(3)B(2)
A(3)C(1)
C(1)
人 %人 % A1(20)1(20)
B4(80)3(60)
C0(O)1(20)
人1 3 1
%
(20)
(馳)
(20)
人 男
3 (60)2 (40)
O(0)
人 %
2(40)1(20)
2(40)
2次元形成期 [n=4]
ωω
6 7 9 10
女 男 女 男
8:10 6:10
9二57:5
3:3115,1 24.2B(2)B(2)
3:5120,5 30.8B(2)B(2)
3:6116.6 2210B(2)B(2)
4:3118,1 19.1B(2)B(2)
BB CB
(2)
(2)
(1)
(2)
A
B BA
(2)
(3)
(2)
(3)
8 9 7 9
A(3)A(3)
B (2)
C (1)
人 %人 %
A0(0)O(0)
B4(100)4(100)
CO(O)0(0)
人 %
0(O)3(75)
1 (25)
人 2 2 0
%
(50)
(50)
(0)
人 %
2(50)1(25)
1(25)
2次元可逆操作期
[n=9]
男 女 女 男 男 男 女 女 男
13:713:2 14:2 14:813:9
14:11
12:3 ユ3:5 11:1O
3:10154,6 38.6A(3)B(2)
4:2135,0 32.9A(3)A(3)
4:215516 45.3A(3)B(2)
4:6167,0 49.9A(3)B(2)
4:8169,5 49.8A(3)A(3)
4:8157,4 41.7A(3)A(3)
5:1ユ47,0 32.0A(3)B(2)
5:3142,6 42.2A(3)B(2)
6:9158,0 49.2A(3)B(2)
A
B BBA
B BB A
(2)
(3)
(2)
(2)
(3)
(2)
(2)
(2)
(3)
A
BA A A A A A A
(2)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
A(3)B(2)
B(2)B(2)
A(3)A(3)
A(3)B(2)
C(1)
人 %人 %
A9(100)3(33.3)
B0(0)6(66.6)
CO(O)0 0)
人 %
3(33.3)6(66.6)
0(0)
人 %
8(88.8)1(11.1)
0(0)
人 %
4(44.4)4(幽.4)
1(11.1)
ω仁
児 性 身長 体重 歩 行 備考
操作特性 N皿
別CA DA (㎝) (㎏) リズム 姿勢 手と足の協応 諦雲
合計(ユ2) (視線)
3次元形成期[n士10コ 2021 女男 14:8 5:3
141.1 38.6 A(3) A(3)
B(2) A(3) ユ1A(3)
13:8 5:4
ユ47.3
37,2A(3) A(3)
A(3) A(3) 12A(3)
22 男
1413
5:8 156.347.7 A(3) A(3)
A(3) B(2) 11A(3)
2324 男男 10:112:3 5:10
135.1
30.OA(3) B(2)
B(2) A(3) 1OA(3)
5:10 157.5 47.3
A(3) B(2)
A(3) A(3) 11B(2)
25 男 ユ2:5 5:1O 148,8 43.2
A(3) A(3)
B(2) A(3) 11B(2)
26 女 13:2 6:2 139.ユ
24.4 A(3) A(3)
A(3) A(3) 12A(3)
27 女 14:5 6:4 148.3 4ユ.2
A(3) A(3)
A(3)A(3)
ユ2C(1)
28 女 ユ3:4 6:6 160.1 46.3
A(3) A(3)
B(2)A(3)
11 C(玉)29 男 14:4 716 161.7
57.7 A(3) A(3)
A(3) A(3) 12A(3)
人 %
人 %
人 %人 %
人 %A
1O(1OO) 8(80) 6(60) 9(90) 6(60)B 0(O) 2(20) 4(40) 1(ユO) 2(20)
C O(O) 0(O)
0(O)
O(O) 2(20)3次元可逆操作期 30 女 12111 7:3
152.1 33.6 A(3) A(3)
B(2) A(3) 11B(2)
[n=5] 3132 女男 14:212:4 7:4 153.3 80.9
A(3) B(2)
B(2) A(3) ユ0B(2)
7:8 145.5 42.7
A(3) A(3)
A(3) A(3) 12A(3)
33. 男 12:3 7:9 152−6 33.5
A(3) A(3)
A(3) A(3) 12女
C(1)
34 14:5 7:11 155.7
57.O A(3) A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
1次変換形成期 35 男 ユ4:6 8:11 161.3 幽.7
A(3) A(3)
B(2) A(3) ユ1[n=1コ
A(3)
1次変換可逆操作期[n=1] 36 男 14:8 1O:O 161−8 53.O
A(3) A(3)
A(3) A(3) 12A(3)
人 %
人 %
人 %人 %
人 %A
7(100) 6(85.7) 4(57.1) 7(100) 4(57.2)B. O(O) 1(ユ4.2) 3(428) 0(O) 2(28.5)
C 0(O) O(0) O(O) 0(O) 1(14.2)
に前傾(評価C)」のものが1名みられたほかは評価AあるいはBであったが、評価Aの占める 割合は1次元可逆操作期から2次元可逆操作期の段階では低い。3次元形成・可逆操作の段階に なると評価Aの占める割合は80%以上となり急上昇を示す。rリズム」の評価項目では2次元可 逆操作期以降は対象児全員が評価Aであったが、r姿勢」では、3次元形成・可逆操作の段階にお いても若干の児に「背筋が伸びずやや前傾」姿勢のものがみられる。なお、本研究では歩行時の 姿勢とC Aとの問にも有意な相関が認められたが、森下・藤田(1986)の調査では、MAとの問
12
.I
歩 10
行 連 動^ o得 点
〕 目
■●■
■
●
^
巫 gω坐△
O▲▲△▲ ▲ O
o o g o O
● ■ ■
■1次元司逆操作期
●1次元形成期
。!次元可逆握作朔
▲3次元形成期
△3次元可逆操作期 1次変撮形成・可逆接住期
○ 后 7 島
図1−1
9 10 H 11 13 1そ 15(蔚〕
C^
C Aと歩行運動の相関
1星
H
歩 10
行 連 動 得■
■■
OO▲ ▲▲ ▲△△△ ム
o▲▲会▲o△ ^ OO OO▲ △
●o●
●
■ ■ ●
■1次元可逆操作期
●!次元形成期
02次元可逆操作期▲=主次元形成期
△ 3次元可逆操作朗 一次変換形成・可逆側「≡期
日
0 1 2 ヨ
図1−2
4 5 苫 7 8 日 10
D^
D Aと歩行運動の相関
一35一
には有意な相関が認められたもののC Aとの間には有意な相関関係が示されていない。彼らの調 査では、歩行時の姿勢の評価を頭、頸、背筋といった身体各部位ごとに分けてみており、本研究 での全体的評価とは評価基準・方法を異にしている。こうした評価基準・方法の違いによるもの かどうか検討を要する問題である。と同時に、歩行時の姿勢の評価にあたっては、客観的な判断 のモデルを設けるなどの評価方法や評価基準についてのさらなる吟味が必要であろう。「手と足 の協応」は、本研究で設定した評価項目のうちで最も評価段階が低く、3次元形成期、3次元可 逆操作期でも評価Aの占める書1」合は約釦%であった。発達段階の低い精神遅滞児においては、歩 行時の手と足が協応しない等にみられる歩行のぎこちなさが臨床的にも指摘されるところである が、全体的に評価Bの占める割合が高く、1次元可逆操作期および2次元形成期の児には「手と 足の動きが協応せず、不自然な歩行(評価C)」もみられた。「つま先の向き」では、ユ次元可 逆操作期および2次元形成期では評価Aの占める割合は50〜60%であるが、2次元可逆操作期以 降では馳〜100%となっている。r極端に外反あるいは内反」の児はいなかった。
歩行時のr視線の据え方」では、各操作特性段階を通じて評価Aを得た児が如〜60%の範囲内 でみられるが、C評価の児も常に10〜卿%の範囲でみられ、r視線の据え方」とD Aとの間には 有意な相関関係は認められなかった。このr視線の据え方」の問題については、障害種別による 特徴が顕著にみられたので後述の歩行運動における障害別傾向性の項で検討を試みたい。この項 の最後に、歩行とくに歩行時の「リズム」と比較検討することを目的として実施・評価されたrそ の場歩行」につ・いて検討する。rその場歩行」は、その場で30秒以上歩行(足踏み)することを 求めた課題であって、その評価は、A:一定のリズムで足踏みし続ける、B:リズムは乱れるが 足踏みし続ける、C:リズムが大きく乱れて2〜3歩足踏みするのみ、あるいは、すぐ前進して
しまいその場での歩行ができない、の3段階でなされた。rその場歩行」もC AおよびD Aとの 間にそれぞれ7=O.521,7=0,671と有意な相関が認められ、加齢および発達年齢の上昇ととも にrその場歩行」の得点が高くなる傾向が示されている。しかし、r歩行のりズム」では2次元 可逆操作期以降は全員が評価Aを得たのに対してrその場歩行」の場合は全員が評価Aで通過す るのは3次元可逆操作期の段階に至ってからで、課題獲得の時期において両者の間に発達的なず れがみられる。全体的にみてr歩行」よりもrその場歩行」の方が困難であったが、とくに操作 特性の低い段階(1次元可逆操作期および2次元形成期)においてその傾向が著しい。1次元可 逆操作期の3名と2次元形成期の1名は評価Cであった。低次の操作特性の精神遅滞児にとって は、r歩行」のように移動を伴う運動に比して、その場で一定時間運動をし続ける課題の方が困 難なようである。しかし、この「その場歩行」での問題も障害別傾向性がみられるので、先の「視 線の据え方」の問題とも合わせて検討したい。
なお、全体的傾向としてC AおよびDAが高くなるにつれて歩行運動得点が増大することが示 されたが、とくに児N皿4の場合に顕著に示されているように(表2および図1−1、図ユー2参 照)、C A・DAが低くても本研究で設定した歩行運動の4評価項目すべてで評価Aを得ている 児がみられる。これは、歩行運動の発達にはC A・・DAといった要因のみならず、前報告(田辺
・田村・小出、1986)でも取り上げた視知覚や身体意識、調整力といった要因や、さらには日常
一36一
生活における運動量とか生活実態といったさまざまな要因が関与していることを示唆するもので あると考えられる。
2 歩行運動と他の運動機能との関連
次に、歩行連動と他の連動機能との関連についての検討を試みたい。全対象児の歩行運動の各 評価項目における得点およびその合計得点と運動機能検査課題の得点との相関係数を求めて、ま
とめて示したものが、表3である。また、歩行運動の全評価項目での達成率と静的運動、移動を 伴わない動的運動および移動運動それぞれとの関係を図示したものが、図2−1,2−2,2−
3である(ここでの達成率は、対象児の各課題における得点のそれぞれの満点に対する百分率を 算出したものである)。表3から明らかなように、rリズム」と本研究での総ての運動機能検査 課題との間に、r姿勢」およびr手と足の協応」では「開眼両足立ち」を除く他の課題との問に 有意な相関関係が認められたが、「つま先の向き」は「その場両足とび」rその場片足とび」の 移動を伴わない動的運動との間にのみ有意な相関が認められたに過ぎず、歩行運動をその評価項
目別にみると、運動機能との関連において若干様相を異にしているようである。しかし、歩行運 動課題における合計得点とでは総ての運動機能検査課題との問に1%ないし5%水準で有意な相 関関係が認められた。さらに、運動機能検査課題を静的運動と動的運動とに分けて比較してみる と、歩行運動と静的運動とよりも動的運動との間により高い相関係数が得られている。これは、
歩行運動が動的運動の形態の範鴫に入るものであることから当然の結果であるとも考えられる。
表3 歩行運動得点とC A,D Aおよび運動機能検査得点との相関係数
静的運動
動 的 運 動C
D
静 止 移動を伴わない運動移動運動
A A
開眼1開眼両足1片足1小計立ち≡立ち、 その場1その場1両足1片足1小計
とび1とび1 跨1昧小計
リズム 0,779料 O.656赫 0価3料10,621科10,701減 0800料10806淋10挑料 α693吻673材10悩料
姿 勢多1繍 O.486神 0,571榊 0.33510.搬10,532料 O.659神10,649科10,686株 O.643料10,663料10,704紳 0.293 0,455料0.15ポ0,515株10.3激 0郷紳10珊料10別料 0価7料10,380・10529斜
行1書高奪 0.137 0,426* O.07010.15210.132 ○醐・1O棚・1α416・ 0.34610.13ぺ0.243 0,533料 0,622神O.350・10糊料10−567減 0,790神10用料10,797料 0,748料10,600料10,715料
(視線) 0.鵬 O.082 0m・・;0.13210.57脚
02011025410螂
0.12810.15610.155**戸く〔.01、 *P<二.05
「その場歩行」との関連で比較してみると、「その場歩行」と静的運動との間にも、7二0,739 と動的運動との場合とほぼ同程度の比較的高い相関係数が示された。これらの結果は、歩行運動 とr開眼両足立ち」「その場両足とび」といった運動機能との問に一定の関連があることを示唆 するものである。
一37一
(1留
。幾醗
・o o 去 △
■ ● ひ ^
50
● o■ ■
■
50
歩行運動{達成率〕
lOO{%〕
図2−1 歩行運動と静的運動の相関
注)図中の操作特性を示す記号は、図1−1,1−2と同じであ孔
(彪〕
Ioo
艀 的 運 動 達 成 率
50
孚魁
○ ミ。 loo(刎 歩行運動リ丘成・宇〕
図2−2 歩行運動と移動を伴わない動的運動の相関
注)図中の操作特性を示す記号は、図1−1,1−2と同じである。
一38一
(篇
〇四壁駿 g出
移 動 運 動 達 成 睾
畠。
● o ▲
● ● o o
■
● ●
50
歩行辿動{迎曲率〕
lOOt%〕
図2−3 歩行運動と移動運動の相関
注)図中の操作特性を示す記号は、図1−1,1−2と同じである。
ここで今後の検討に向けて、歩行連動と他の運動機能との関連にかかわる若干の問題について 考察しておきたい。まず、本研究で取り扱った動的運動は、運動形態学的にみるとr跳」運動を 主とするものであった。太田(1974)は、歩行の運動形態的変化の観察結果から、歩行の発達段 階を大きく3つに区分しており、その第2段階をr定の運動形態の原形が生ずるまでの段階」、
第3段階をr走運動へ発展する段階」としているが、この結果とも考え合せると、歩行運動とr走」
連動との聞にも一定の関連があることが推察されるところである。次に、片足立ちや平均台歩き などにおいて示される平衡能力は、精神遅滞児の運動能力のなかでもとくに障害が著しいことは、
これまでの研究によって指摘されている(Bruininks,1974;笠巻、1972;国分、1984;松崎、1明2
;山下・一門、1975)が、小住ら(1976)は、ダウン症候群児の歩行を運動力学的に分析し、そ の結果、歩行運動の遅れあるいは歩行パターンに特徴がみられる原因として、歩行中の平衡維持 の困難性を指摘している。本研究で検討した協応性や姿勢といった要因のみならず、歩行時の平 衡性の発達水準も広く他の運動機能の発達に重要な影響をおよぼしているものと考えられ孔最 後に、歩行運動獲得の基盤がどのように生成、発展されていくかという視点に立っての検討がな される必要がある。Hurlock(1964)は、歩行運動は出生時ないし多分それ以前からすでに始ま っていると指摘している。新生児にみられる歩行運動とよく似た交互の蹴りあげ連動、乳児の脚 を伸ばしたり蹴ったりすることによる脚と彊幹の筋肉の協応の学習、rはいはい」の時に獲得さ れる面上・下肢問の交叉パターン、などは歩行獲得にとって不可欠なものである。歩行運動の問
一39一
題を、痒頸・座位・腹這い・四つ這い・つかまり立ち・伝い歩き・一人立ち・始歩などといった 歩行獲得までの乳児期の運動性の発達との関連での検討、さらには、土踏まずの形成などのから だの問題との関連でも検討されていく必要がある㍉
3 歩行連重力における障害別傾向性
運動機能・運動能力の問題に関して、ダウン症候群児、「自閉症」児といった障害種別による 傾向性(特徴・問題)を指摘する報告がある(池田・岡崎・中村、1980;国分・松野、1982・ユ983
一水田、1978;寺山、1981;Wing,1976)。田辺も前報告(1985)において、ダウン症候群児は 同発達段階の他の精神遅滞児と比較して、瞬発力・敏捷性・柔軟性では差はみられなかったが平 衡性(閉眼片足バランス)、乃ち性(ペグボード)において若干劣っているといった傾向がみら れたことを指摘した。本研究では、自閉的傾向児と知恵遅れ死との比較から歩行運動における障 害別傾向性についての検討を試みたい。操作特性段階をマッチングさせた自閉的傾向児群および 知恵遅れ児群(ダウン症候群児、けいれん発作を有するものおよびまひを有するものを除く精神 発達遅滞児)それぞれ10名の歩行運動の結果を示したものが、表4である。なお、両群問の平均
C A,DAについては有意な差は認められなかった。表4から明らかなように、歩行時の「リズ ム」rつま先の向き」の両評価項目ではA評価の占める割合において両群間に差はみられなかっ た。「姿勢」r手と足の協応」では、知恵遅れ児の方にA評価の占める割合が若干多いといった 結果がみられた。この「姿勢」での両群間の差は、とくに操作特性の低次の段階(1次元可逆操 作期および2次元形成期)において示されている。r視線の据え方」では両群問に有意差がみら れた(∬2三12.80、〃=1,P<.O1)。知恵遅れ児の場合には、歩行時にr自分の足元をみる(評 価B)」が1名みられたほかはすべて「まっすぐ前をみて歩行(評価A)」であった。それに対
して、自閉的傾向児では各操作特性段階を通じて評価Cのものがみられ、歩行時に頭や顔をキョ ロキョロさせて周囲のひとや物を次々と見るといった行動を示すものの割合が高かった(1O名中6名)。
詳細な検討は続稿に穣ることにするが、さらに、自閉的傾向児にはrその場歩行」r開眼両足 立ち」の課題遂行に困難さを示す結果が得られた。「その場歩行」では、知恵遅れ児の10名中の
8名がA評価であったのに対して、自閉的傾向児ではA評価は5名で、「その場で歩行できない
(評価C)」ものも1名みられた。そして、知恵遅れ児では2次元可逆操作期以降の8名全員が A評価であったが、自閉的傾向児の場合は3次元可逆操作期になってはじめて対象児全員(4名)
がA評価を得るに至っている。また、rその場歩行」とr歩行」との比較から、「歩行」よりも
「その場歩行」での評価が低かったものは、知恵遅れ児では1名であったのに対して、自閉的傾 向児では4名のものにその傾向がみられた。とくに、両群間の差はr開眼両足立ち」の課題にお いて大きく、知恵遅れ児の場合にはこの課題では1O名全員が評価Aであったが、自閉的傾向児で はA評価は3名であった。そして、「最初からモゾモゾ動く(C評価)」のものが4名みられた。
自閉的傾向児においては、とくにrその場歩行」r開眼両足立ち」の課題にみられるように、一 定時間、その場で一定の運動や姿勢を持続することにおいて困難さがみられた。
寺田・清水・荒木(1976)は、幼児期前期の子どもの運動発達について検討する中で、「開眼
一40一
表4 自閉的傾向児と知恵遅れ児の歩行運動課題の評価段階・得点
{
障 操作特性 児 性 歩 行 備考
害 [N=20]
N皿
別CA DA
リズム 姿勢 手と足 つま先の協応 の向き 合計(12) (視線)
1次元可逆操作期 5 女 ユ2:0 2:10 B(2)
B(2)
C(1)B(2)
7C(1)
2次元形成期 1O 男 7:5 4:3 B(2)
B(2)
B(2)A(3)
9C(1)
自 2次元可逆操作期 19 男 11:1O 6:9 A(3)
B(2)
A(3)A(3)
11C(1)
3次元形成期 24 男 12:3 5:10 A(3)
B(2)
A(3)A(3)
11B(2)
閉 〃 25 男 12:5 5:10 A(3)
A(3)
B(2)A(3)
11B(2)
〃 27 女 14:5 6:4 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12C(1)
的 〃 28 女 13:4 6:6 A(3)
A(3)
B(2)A(3)
11C(1)
3次元可逆操作期 31 女 14:2 7:4 A(3)
B(2)
B(2)A(3)
10B(2)
傾 〃 33 男 12:3 7:9 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12C(1)
1変換形成期 35 男
1416
8111 A(3)A(3)
B(2)A(3)
11A(3)
向
人 % 人 % 人 % 人 % 人
児
A
8(80) 5(50) 4(40) 9(90) 1(10)B 2(20) 5(50) 5(50) 1(10) 3(30)
[n=10] C
0(O)
O(O) 1(1O)0(O)
6(60)1次元可逆操作期 4 男 8:2 2;8 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
2次元形成期 6 女 8=10 3:3 B(2)
B(2)
B(2)B(2)
8A(3)
2次元可逆操作期 15 男 13:9 4:8 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
知 3次元形成期 22 男 14:3 5:8 A(3)
A(3)
A(3)B(2)
11A(3)
〃 23 男 10:1 5:10 A(3)
B(2)
B(2)A(3)
ユ0A(3)
恵 〃 26 女 13:2 6:2 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
〃 29 男 14:4 7:6 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
遅 3次元可逆操作期 3032 女 12:11 7:3 A(3)
A(3)
B(2)A(3)
11B(2)
男 12:4 7:8 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
れ 34 女 14:5 7:l1 A(3)
A(3)
A(3)A(3)
12A(3)
児 人 % 人 % 人 % 人 % 人
A
9(90) 8(80) 7(70) 8(80) 9(90)B 1(10) 2(20) 3(30) 2(20) 1(1o)
[n=10] C
0(0)
O(O)O(0) 0(0)
O(0)両足立ち」の課題のように「じっと立つ」という自分の体に対する静的コントロールが要求され る課題では、課題遂行時の「視点の据え方」に発達的変化がみられ、そして、この「視点の据え 方」が「開眼両足立ち」の課題ができるかできないかに深くかかわっていると指摘している。本 研究において、動的運動では両群間に大きな差がみられなかったのに、とくに「開眼両足立ち」
課題にみられる静的運動において、自閉的傾向児は劣っていたという結果については、上記知見 などを参考にしながらさらに検討を要する問題である。
引 用 文 献
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