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博士(歯学)笹川 航 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(歯学)笹川   航 学位論文題名

直接覆髄におけるポリリン酸の効果 学位論文内容の要旨

[緒言]

  直 接 覆髄 法は 生活 歯髄 の保 存の ため に 重要 な術 式で 、従 来よ り用 いら れて きた 水酸 化カ ル シウ ム製 剤に 代わ る様 々な 材料 が 検討 されてきた。我カは、リン酸が直鎖状に 重合したポ リ マー であ るポ リリ ン酸 が細 胞の 種 々の 生理機能を活性化させる作用があること を報告して き た 。 ポリ リン 酸はfibroblast growth factor‑l,2(FGF‑1,2冫を 安定 化し 、FGFとFGFレ セ プ タ ー の 結 合 を 強 固 に す る こ と や 、 マ ウ ス 骨 芽 細 胞 株MC3T3‑E1細 胞 の 石 灰 化 を 促 進 することが示唆さ れている。さらに、ポリリン酸は古くから食品添加物等に使用されてきたこと か ら生 体親 和性 に優 れて いる と考 え られ 、S.r77 utarisや ら蠹ogiva伍の菌体増 殖抑制効果 をもつことも確認 されている。そこで今回、ポリリン酸を直接覆髄材とし て用いた場合の歯髄 の反応について、 ラットを用いて検討した。

[材料と方法]

1)使用材料

  加熱溶解したゼ ラチン溶液(最終濃度4%(wん冫)に、平均鎖長約60の ポリリン酸ナトリウ ム を 最 終 濃 度 が1% (wん ) に な る よ う に 溶 解 さ せ 、 ゲ ル 状 に 調 整 し た も の を 用 い た 。 2)動物実験モデルにおける評価

  6週 齢Wi8tar系 雄 性 ラ ッ ト の 上 顎 第 一 臼 歯 咬 合 面 に 露 髄 窩 洞 を 形 成 し 、 次 亜 塩 素 酸 ナ ト リ ウ ム及 び過 酸化 水素 水に よる 交互 洗 浄後 、生 理食 塩水 によ る水 洗を 行い 、滅 菌綿 球に て 窩洞 の乾 燥を 行った。止血を確認後、ポリリン酸で 露髄面を被覆し、窩洞をF両iIII(GC) にて仮封した。水 酸化カルシウム製剤であるダイカル(デンツプライ三金 )を塗布したものを 比較対照群とし、 術後3,5,7,14,28日後に ラットを安楽死させた。その後、通法に従い連続 切 片 標 本 を 作 製 し 、 ヘ マ ト キ シ リ ン ー エ オ ジ ン 染 色 を 施 し 、 病理 組織 学的 に検 索し た。

3)定量R小PCRによる遺伝子発現の検索

  2冫と同様にラットに直接覆髄を施し、術後1,3,5,7,1毛28日後に被験歯を採取した。その 歯 髄 よ りtotalRNAを 抽 出 し 、cDNA合 成 後 、 定 量PCRに よ り 町peIconagen(C01Dの 遺伝子発現量を定 量化した。

[結果]

783

(2)

1)病理組織学的所見

  術後3日のポリリン酸投与群(実験群)では急性炎症は消退し、毛細血管の増生、未分化 間葉系細胞の増加を伴う肉芽組織の形成が認められたのに対して、対照群では、好中球を 主体とした炎症性細胞が広範囲に著しく浸潤していた。

術 後5日 の実 験群 では 、炎 症性 細胞 の浸 潤は 軽度 で歯髄 の器 質化 がみられ、骨様象牙 質の新生が認められた。一方、対照群ではダイカル直下に壊死層が形成され、隣接する歯 髄 組 織 に は 好 中 球 を 主 体 と し た 炎 症 性 細 胞 の 帯 状 の 浸 潤 が 認 め ら れ た 。 術 後7日 目の実験群では、歯髄の器質化はより進行し、象牙質表層には大型の骨芽細胞 様細胞の活発な増殖が認められ、骨様象牙質の形成が著明であった。対象群でも、露髄面 より離れた歯髄の器質化が進行し、象牙質表面には骨芽細胞様細胞の増生がみられ、骨 様象牙質の新生が認められたが、ダイカル直下に壊死組織が残存し、隣接する歯髄組織に は血管の拡張を伴う炎症性反応が認められ、実験群に比し器質化は遅延する傾向が認め られた。

術 後14日で は、 対照 群およ ぴ実 験群 の両群とも、露髄面は骨様象牙質から成る被蓋硬 組織の形成が著明となり、術後28日においては、両群とも、デンチンブリッジが露髄した部 分の歯髄を置換していた。対照群のデンチンブリッジは、主に細胞封入を伴う骨様象牙質 から成り、トンネル状欠損も認められたのに対し、実験群では、主に細管構造を有する象牙 質から成る緻密なデンチンブリッジの形成が認められた。

2)定量RTPCRによる rypeIcoUagen mRNA発現の検索

定 量RTPCRに よ りTypeIcollagen mRNAの 発 現 に つ い て 検 索 し た 。 術 後3,5日 目 にお いて 、実 験群 のTypeIcollagenの発現量は対照群のそれぞれ1.66倍、2.1倍を示 した。実験群、対照群ともに術後7日目で発現はピークに達し、その後は漸次減少する傾向 を 示し たが 、実 験群 におい ては7日 目以 降も 対照 群に比 べて 高い 発現を保っていた。

[考察]

対 照群 においては、術後3日目には広範囲におよぶ著しい急性炎症性細胞の浸潤が認め られ、それは術後5日目においても帯状に残存していた。この急性炎症細胞の浸潤は、ダイ カル自体が持つ高いpHに起因するものと考えられた。一方実験群においては、術後3日目 には肉芽組織の形成が認められ、術後5日目にはポリリン酸直下の歯髄の器質化は進行し、

骨様象牙質の新生が認められた。このような結果は、ポリリン酸の生体親和性の高さや抗菌 作 用に よるものと思われた。本実験においては、直接覆髄を施した歯髄におけるTypeI collagen mRNAの発現量も定量化し、合わせて検索した。コラーゲンは結合組織に含まれ る主要なタンパク質であり、ヒト歯髄では乾燥重量の30%を占める。歯髄ではI型コラーゲン の割合が最も高く、象牙質や象牙前質においてはコラーゲンの大部分がI型であることが報 告されている。I型コラーゲンは象牙質の有機基質の大部分を占めることから、象牙質基質

(3)

形成 のキーファクターと考えられており、術後3,5日目にお けるポリリン酸処理群でのTypeI collagen m恥 払 の 高 い 発 現 は 組 織 学 的 検 索 結 果 を 裏 付 け て い る と 考 え ら れ た 。 術 後7日 目 に な る と 、実 験群 、対 照群 とも に歯 髄組 織 の器 質化 の進 行が 認め られ た。 特に 実 験 群 に お い て は 、 対 照 群 に 比 べ 歯 髄 の 器 質 化は よ り進 行し 、骨 様象 牙質 の顕 著な 新生 が認 めら れた 。そ の後 、術 後14日 目に は而 群と も骨 様象 牙質 から 成る 被蓋 硬組 織の形 成が 進行 し、 術後28日 目に おい ては 、 実験 群、 対照 群と もに 著明 なデ ンチ ンブ リッ ジの形 成が 認められたが、そのデンチンブリッジの質に 大きな差が認められた。ダイカルによって誘導さ れた デン チン ブリ ッジ は主 に骨 様象牙質から成り、以前より指摘されているトンネル状 欠損 が認 めら れた 。修 復物 ―歯 質問 の 微小 漏洩 より 侵入 して きた 細菌 やそ の産 生物 等が、 その 欠損 を通 過し 炎症 を引 き起 こす こ とが 懸念 され てい る。 一方 、実 験群 にお いて は大部 分が 細管 構造 を有 する 象牙 質か ら成 る 緻密 なデ ンチ ンブ リッ ジの 形成 が認 めら れた 。細管 構造 を有 する デン チン ブリ ッジ は、 外来からの刺激を歯髄に伝えることにより歯髄の防御機 構が 早期 段階 で働 き、 象牙 芽細 胞に よ る被 蓋硬 組織 の早 急な 添加 が期 待で き、 この ような 効果 を も っ ポ リ リ ン 酸 は 歯 髄 直 接 覆 髄 剤 と し て 有 効 な 材 料 と な る こ と が 示 唆 さ れ た 。

[まとめ]

ポリ リン 酸投 与群 では その 応用 初 期よ り歯 髄に 器質 化が みら れ、 対照 群に 比ベ 早期よ り骨 様象 牙質 の新 生が 認め られ た。 また、ポリリン酸により主に細管構造を有する象牙質か ら成 る緻密なデンチンブリッジが誘導された。このような所見は、ポリリン酸の生体親和性が高く、

ポリ リン 酸の もつ 抗菌 作用 等に よる器質化促進が露髄歯牙でも生じ、組織誘導・再生が 早期 に起 こる こと を意 味し てお り、 ポリリン酸による歯髄の再生医療への応用の可能性が示 唆さ れた。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

直接覆髄におけるポリリン酸の効果

審 査は審査 担当者が 一同に会 し、始めに 申請者に 本論文の概要の説明を求め、

そ の 後 に口 頭 試問 の 形 式で 提 出論文 の内容及 ぴ関連分 野につい て試問し た。

申 請者は論 文の概要 を以下の ように説明 した。

【 目的 】 直 接覆 髄 法 は生活歯 髄の保存 のために 重要な術 式で、従 来から用 いら れて きた水酸化 カルシウ ム製剤に 代わる様 々な材料が検討されてきた。我々は、

リ ン酸 が 直 鎖状 に 重 合したポ リマーで あるポリ リン酸が 細胞の種 々の生理 機能 を 活性 化 さ せる 作 用 があるこ とを報告 してきた 。そこで 今回、ポ リリン酸 を直 接 覆髄 材 と して 用 い た場合の 歯髄の反 応につい て、ラッ トを用い て検討し た。

【材料および方法】

1)使用材料

加 熱溶 解 し たゼ ラ チ ン溶液に 、平均鎖 長約60(リ ン酸残基 数で約60個 )のポリ リ ン酸 ナ ト リウ ム を 最終濃度 が1%(Wv)に なるよう に溶解さ せ、ゲル 状に調整 したものを用いた。

2)動物実験モデルにおける評価

6週齢Wistar系雄性ラッ トの上顎 第ー臼歯 咬合面に 露髄窩洞 を形成後 、ポリリン 酸ゲ ルで露髄面 を被覆し、窩洞をFujim((℃)にて仮封した。水酸化カルシウム 製 剤で あ る ダイ カ ル (デンツ プライ三 金)を露 髄面に塗 布したも のを比較 対照 群とし、術後3,5,7,14,28日後にラットを安楽死させた。その後、通法に従い連 続 切片 標 本 を作 製 し 、ヘマト キシリン ―エオジ ン染色を 施し、病 理組織学 的に 検索した。

3)定量鮒ロCRによる遺伝子発現の検索

2)と同様にラットに直接覆髄を施し、術後1,3,5,7,14,28日後に被験歯を採取し た。 それらの歯 髄よりtota.l胤`を抽 出し、cエ)NA合成後、定量PCRにより聊e Icollagen(ColI)の遺伝子発現量を定量化した。

【 結果 お よ ぴ考 察 】 対照 群 にお い て は、 術 後3日目 には 広範囲に およぶ著 しい 急 性炎 症 性 細胞 の 浸 潤が 認 めら れ 、 それ は 術後5日 目に おいても 帯状に残 存し

彦 信

英 正

野 藤

佐 進

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

ていた。この急性炎症細胞の浸潤は、ダイカル自体が持つ高いpH に起因するも のと考えられた。一方実験群においては、術後3 日目には肉芽組織の形成が認 められ、術後5 日目にはポリリン酸直下の歯髄の器質化は進行し、骨様象牙質 の新生が認められた。このような結果は、ポリリン酸の生体親和性の高さや抗 菌作用によるものと思われた。本実験においては、直接覆髄を施した歯髄にお けるTypeI collagen m 恥岨の発現量も定量化し、合わせて検索した。I 型コラー ゲンは象牙質の有機基質の大部分を占めることから、象牙質基質形成のキーフ ァクターと考えられており、術後3 ,5 日目におけるポリリン酸処理群でのTypeI

conagen

耐猟A の高い発現は組織学的検索結果を裏付けていると考えられた。

  

術後7 日目になると、実験群、対照群ともに歯髄組織の器質化の進行が認め られた。特に実験群においては、対照群に比べ歯髄の器質化はより進行し、骨 様象牙質の顕著な新生が認められた。その後、術後14 日目には両群とも骨様象 牙質から成る被蓋硬組織の形成が進行し、術後28 日目においては、実験群、対 照群ともに著明なデンチンブリッジの形成が認められたが、そのデンチンブリ ッジの質に大きな差が認められた。ダイカルによって誘導されたデンチンブリ ッジは主に骨様象牙質から成り、以前より指摘されているトンネル状欠損が認 められた。ー方、実験群においては大部分が細管構造を有する象牙質から成る 緻密なデンチンブリッジの形成が認められた。

【結論】ポリリン酸投与群ではその応用初期より歯髄に器質化がみられ、対照 群に比ベ早期より骨様象牙質の新生が認められた。また、ポリリン酸により主 に細管構造を有する象牙質から成る緻密なデンチンブリッジが誘導された。以 上のような所見から、ポリリン酸は直接覆髄剤として有効な材料となることが 示唆された。

各審査委員が行った主な質問は、以下の通りである。

1

)安全性について:食品で安全という理由のみでは、覆髄のように歯髄に直

    

接 接 す る よ う な も の に つ い て は 慎 重 な 検 討 が 必 要 と 思 わ れ る 。

2

) 臨 床 応 用 に つ い て 、 ど の よ う な 観 点 が 考 え ら れ る か 。

3

)ポリリン酸がFGF を安定化させるメカニズムについて

4

) ポ リ リ ン 酸 の 細 胞 内 に 取 り 込 ま れ る メ カ ニ ズ ム に つ い て

5

)今後の展望について

これ らの質 問に対して、申請者から明快な回答ならびに説明が得られた。

その結果、本研究が学位論文として十分値し、申請者が博士(歯学)の学位を

授与される資格を有するものと認めた。

参照

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