博士(歯学)兼平 学位論文題名
ヒト唾液中のヒドロキシアパタイ卜反応性夕ンパク質 ヒスタチンの精製および機能に関する研究
学位論文内容の要旨
孝
【 目的 】 ヒ 卜 唾 液中 に存 在する ポり ペプチ ド,ヒ スタチ ンはヒ ドロ キシア パタイ 卜(HAP) へ の高 い親和 性なら びに抗 菌活 性をは じめと する様 々な細 胞活 性を有 することから,工ナメル質 表 面 の獲得 皮膜形 成へ の関与 ならび に口腔 内微 生物叢 の制御 因子の1っ として 機能し てい ること が 知ら れてい る。
本 研 究 ではHAPク 口マ ト グ ラ フ ィー を 用 い た ヒスタ チンの 精製法 を新 しく開 発した 。また 有 機 化 学的に ヒスタ チン5の合 成, ウサギ を免疫 して抗 体を 作成し ,摘出 された ヒト唾 液腺 組織に 対 し, 免疫組 織化学 的染色 を行 った。 また唾 液より 分離精 製し たヒス タチン,および合成ヒスタ チ ンを 用いて ,P.orphyromonas gingivalis由来 卜リプ シン様 酵素へ の影響 を調べた。さらに,
あ ら か じ めHAPに 全 唾 液, 耳 下 腺 唾 液お よ び ヒ スタ チンな どで浸 漬処理 をし ,カラ ムに充 填し て ク 口 マ 卜 グ ラ フ ィ ー を 行 い ,Streptococcus mutansのHAPへ の 付 着 性 の影 響 を 調 べ た。
【材料 と方法 】久 保木式 採唾管 を用い て酸刺 激下 にて耳 下腺唾 液,コ ット ンロール法にて全唾 液を 採 取 し ,6M相 当 の 尿 素粉 末 を 添 加 して 濾 過 後(O.45〃 M),直接HAPク 口マ トグラ フィー を行 っ た 。 こ のう ちHAPに 親 和 性 の 強 い2っ の 分 画 を逆 相 高 速 液 体ク ロ マト グラフ ィーに て更 に精製 し,自 動工ド マン分 解法 によル アミノ 酸配列 を決 定した 。
次 に 耳 下腺 唾 液 よ り 分 離精 製 し た ヒ スタ チ ン1,3,5を 用 い て,P. gingivalis 381菌 体よ り抽出 したト リプシ ン様酵 素の 活性へ の影響 を合成 基質 を用い て調べ た。ま た固相ペプチド合成 法(Merrifield法 ) に よ り, 有 機 化 学 的に ヒ ス タチ ン5を合成 した。 これを ウサ ギに免 疫して 抗体を 作成し ,唾液 腺にお ける ヒスタチンの局在を知るために唾液腺(耳下腺,□唇腺,顎下腺)
の免疫 組織化 学的染 色を行 った 。
カ ラ ム に充 填 し た 顆 粒 状HAP( 無処 理 , 全 唾 液処 理 , 耳 下 腺 処理 , 合成 ヒスタ チン5処理 , 硫酸 プ 口 タ ミ ン処 理 ) に ,BHI培地 にて18時 間培養 ,集 菌後, 洗浄, 超音波 処理し たs.mutans
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MT8148菌懸濁液をチャージし,リン酸緩衝液による直線濃度勾配にて菌の遊離状態を測定し HAPへの菌の付着状態を調べたb
【結果と考察】工ドマン法によるアミノ酸配列の決定により,純粋なヒスタチン1,3,5で あることが 判明し,6M尿素変性下によ るHAPク口マトグラフィーと逆相高速液体ク口マトグ ラフィーにより,採取直後の新鮮唾液からわずか2段階のク口マト操作で,ヒスタチンの精製が 可能なことが明らかとなった。
精製した ヒスタチン1,3,5のいずれも,P. gingivalis 381由来のトリプシン様酵素に対 し,強カな阻害作用が認められた。さらに酵素反応分析の結果,阻害作用はヒスタチン5>ヒス タチン3冫ヒスタチン1の順に強く(ヒスタチン濃度: 10‑ I〃Mの時),至適pHは7.Oであった。
また抗体を用いた唾液腺の免疫染色により,唾液腺終末部の漿液細胞内の分泌顆粒が特異的に染 め出されることが判明した。
s.mutans MT8148を用 いたHAPカラ厶法による菌付 着実験では,リン酸緩衝液に よる濃 度勾配によ って,無処置HAPの場合,菌は3っのピークに分かれて遊離した。それぞれのピー クはグラ厶染色後の光学顕微鏡観察により,菌体の凝集度の違いによるものであることが推定さ れた。さら にHAPカラムの唾液処理する ことによって菌のHAPへの親 和性は著しく増強され る ことがわかり,今回開 発された新しい方法によって 唾液中にs. mutansMT8148のHAPへ の付着を増強する因子が存在することが明確に証明された。またヒスタチン単独による処理でも 唾液処理と同じ実験結果が得られたため,ヒスタチンはこの付着増強因子の重要な一成分である ことが示唆された。
【結論】本研究によって,HAPク口マ卜グラフィーによるヒスタチン分離精製法が簡便,迅 速なことから,このぺプチドの分離精製法として有用なこと,ヒスタチン1,3,5のいずれも がP. gingivalis由来のトルプシン様酵素に対する強カなイン.ヒビターであること,s.mM− tans MT8148のHAPへの付着に対し,ヒスタチ、ンは重要な付着増強因子の1っであること,な どが示唆された。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 谷 宏 副査 教授 久保木芳徳 副 査 教 授 . 松 本 章
論文審 査は ,主査 および 副査全 員の出 席の も也で ,口頭 諮問に よっ て提出 論文の内容と関連分 野にっ いて行 われた 。
歯や歯 周組 織の健 康維持 ,ある いは齲 蝕, 歯周疾 患の発 生およ び進 行には ,三大要因のーっで ある宿 主要因 がかか わっ ている 。宿主 要因の うち 唾液成 分の要 因がど のよう にかかわっているか を明ら かにす ること は臨 床上も 必要で ある。
唾液中 のタ ンパク 質はポ りペプ チドも 含め て現在40種類以 上知 られ, 一部は明らかにされてい る が 大 部 分 は 近 年 , よ う や く そ の 諸 性 質 の い く っ か が 解 明 さ れ た に 過 ぎ な い 。 ヒ 卜 唾 液 中に 存 在 す る ポり ペ プ チ ド で, ヒ ド 口 キ シ アパ タ イ ト (HAP)へ の高い 親和性 を有 するこ とが知 られて いる ヒスタ チンに っいて ,唾 液から 簡便か っ迅速 な分離 ・精製法を開発する ことと ,歯や 歯周組 織の 健康維 持,あ るいは 齲蝕 ,歯周 疾患の 発生お よび進 行にかかわる唾液の 機 能 , ヒ ス タ チ ン の 役 割 を 明 ら か に す る 目 的 で 本 研 究 は 行 わ れ て い る 。 研究方 法と しては ,久保 木式採 唾管を 用い 酸刺激 下にて 耳下腺 唾液 ,コッ トンロール法にて全 唾液 を 採 取 し ,6M相 当 の 尿素 粉 末 を 添 加し て 濾 過 後(0. 45肛M),直 接HAPクロマ トグラ フィー を行 っ た 。 こ のう ちHAPに親 和 性 の 強 い2っ の 分 画 を逆 相 高 速 液 体ク 口 マ トグラ フィー にて更 に精製 し,自 動工ド マン 分解法 によル アミノ 酸配 列を決 定した 。
次 に 耳 下 腺唾 液 よ り 分 離精 製 し た ヒ スタ チ ン1,3,5を 用 い てP.gingivalis 381菌 体より 抽出し たトリ プシン 様酵 素の活 性への 影響を 合成 基質を 用いて 調べた 。また 固相ペプチド合成法 (Merrifield法 ) に よ り ,有 機 化 学 的 にヒ ス タ チ ン5を 合 成 し た 。 これ ら をウサ ギに免 疫して 抗体を 作成し ,唾液 腺に おける ヒスタチンの局在を知るために唾液腺(耳下腺,□唇腺,顎下腺)
の免疫 組織化 学的染 色を 行った 。
カ ラ ム に 充填 し た 顆 粒 状HAP( 無 処理 , 全 唾 液 処理 , 耳 下 腺 処理 , 合 成ヒス タチ ン5処 理,
硫酸プ ロタミ ン処理 )に ,BHI培地に て18時 間培養 ,集菌 後,洗浄,超音波処理したs.mutans MT 8148菌 懸濁 液 を チ ャ ー ジし , リ ン 酸 緩衝 液 に よ る 直線 濃 度 勾 配 にて 菌 の 遊離状 態を測 定し,
HAPへ の菌付 着状態 を調 べた。
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工 ド マ ン 法 によ る ア ミ ノ 酸配 列 の 決 定 に より , 純 粋なヒ スタチ ン1,3,5である ことを 明ら か に し ,6M尿 素変 性 下 に よ るHAPク ロ マ卜 グ ラ フ ィ ーと 逆 相 高 速 液体 ク ロ マ ト グラ フ ィ ー に より ,採取 直後の 新鮮唾 液から わず か2段 階の クロマ ト操作 で,ヒスタチンの精製を可能とした。
精 製 し た ヒ スタ チ ン1,3,5の い ず れも ,P. gingivalis 381由 来の 卜 リプ シン様 酵素 に対 し ,強 カ な 阻 害 作 用が 認 め られ た。 さらに 酵素反 応分析 の結 果,阻 害作用 はヒス タチン5>ヒス タチ ン3>ヒス タチン1の 順に強 く( ヒスタ チン濃 度:10―|〃Mの 時), 至適pHは7.Oであった。
また 抗体を 用いた 唾液腺 の免疫 染色 により ,唾液 腺終末 部の 漿液細 胞内の 分泌顆 粒が特異的に染 め 出 さ れ る こ と を明 ら か に し た 。s. mutansMT8148を 用 い たHAPカ ラ ム 法 によ る 菌 付 着 実験 で は, リ ン 酸 緩 衝 液に よ る 直 線 濃度 勾 配 に よ って , 無 処 理HAPの 場 合 ,菌 の3っの ピーク に分 かれ て遊離 した。 それぞ れのピ ーク はグラ ム染色 後の光 学顕 微鏡観 察によ り,菌 体の凝集度の違 い に よ る も の で ある こ と が 推 定 され た 。 さ ら にHAPカ ラム を 唾 液 処 理 する こ と に よ って 菌 の HAPへ の 親 和 性は 著 し く 増 強さ れ る こ と がわ か り , 今回 開発さ れた新 しい方 法に よって 唾液中 にs. mutansMT8148のHAPへ の 付 着 を 増 強 す る 因 子 の 存 在す る こ と 明 確 に証 明 さ れ た 。ま たヒ スタチ ン単独 による 処理で も唾 液処理 と同じ 実験結 果が 得られ たため ,ヒス タチンはこの付 着増 強因子 の重要 な一成 分であ るこ とが示 唆され た。
本研 究によ って, 簡便 で迅速 なヒス タチン 精製法 を確 立した ことは ,その 分離,精製を必要と す る研 究 を 容 易 に した 。 ま た, ヒス タチン5がpH7. 0〜7.5でP. gingiv̲alis 381由 来の卜 リプ シン 様酵素 に対し て最大 の活性 阻害 を示し たこと は,唾 液中 のヒス タチン が,歯 周ポケットを形 成し ていな い歯肉 におい て歯周 病の 発症を 抑制す る因子 とし て機能 してい る可能 性を示唆した。
さ らに , 齲 蝕 原 性 細菌s. mr.ttansMT8148のヒド ロキ シアパ タイト ヘの付 着増強 因子 である こ と を見 だ し た こ と は, 唾 液 中の ヒス タチン はs. mutansのエ ナメル 質の付 着を容 易に する因 子 とし て作用 するこ とも示 唆した 。以 上のこ とは予 防歯科 の分 野の発 展に寄 与する ものであり高く 評価 される 。
審査に あたっ て,本 論文の内容の説明,本研究の意義,発展および関連分野に関する質問にも 明 確 で 満 足 す べ き 回 答 が 得 ら れ た 。
本論文 は予防 歯科の 分野 はもと より, 歯科医 学の 進歩に 寄与す るとこ ろ大であり,本学位申請 者は博 士( 歯学) の学位を授与されるに十分値するものと認めた。
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