博士(薬学)笹島 仁 学位論文題名
細胞 増 殖抑 制 因 子 Tob/BTG ファ ミリーの ユビキチン依存的分解機構に関する研究
学位論文内容の要旨
【 は じ め に 】
ユ ビ キ チ ン ‐ プ ロ テ ア ソ ー ム シ ス テ ム は 、 細 胞 周 期 、 シ グ ナ ル 伝 達 、 転 写 調 節 な ど の 多 様 な 細 胞 機 能 の 制 御 に 重 要 な 役 割 を 果 た す 。 こ の シ ス テ ム に お い て 、 ユ ビ キ チ ン 化 の 標 的 と な る 基 費 タ ン パ ク 質 は 、 ユ ビ キ チ ン 化 酵 素 群El、E2、E3に よ り 、 そ のLys残 基 を 介 し て ユ ビ キ チ ン の 付 加 を 受 け 、 付 加 さ れ た ユ ビ キ チ ン が さ ら に ユ ビ キ チ ン 化 修 飾 を 受 け る こ と で ポ リ ユ ビ キ チ ン 鎖 が 形 成 さ れ る 。26Sプ ロ テ ア ソ ー ム は 、 基 質 タ ン パ ク 質 に 付 加 さ れ た ポ リ ユ ビ キ チ ン鎖 を 分解 シグ ナ ルと し て認 識 し、 基質 タ ンノ く ク 質 を 速 や か に 分 解 す る 。 こ の シ ス テ ム に お い て 、 基 質 タ ン パ ク 質 の 認 識 は 多 様 なE3に よ っ て 行 わ れ る こ と か ら 、 基 質 タ ン パ ク 質 に 対 す るE3の 同 定 は 分 解 機 構 を 探 る 上 で 最 も 重 要 な 課 題 と な る 。 そ し て 、 基 質 とE3の 双 方 に お い て ユ ビ キ チ ン 化 に 関 わ る 変 異 は 、 が ん や 神 経 変 性 疾 患 な ど の 重 篤 な 疾 患 の 原 因 と な り う る と 考 え ら れ て い る 。
Tob/BTGフ ァ ミ リ ー は 、N末 端 側 の 約120残 基 に 相 同 性 の 高 い 領 域(Tob homology domain)を 有 す る 一 群 の 転 写 制 御 因 子 で あ る 。 こ れ ら は 、 細 胞 周 期 のS期 進 行 を 阻 害 す る 細 胞 増 殖 抑 制 因 子 で あ り 、Tobノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス で 肝 が ん の 発 症 率 が 有 意 に 高 い こ と や 、 前 立 腺 が ん 細 胞 でBTG2が 減 少 し て い る こ と な ど が 報 告 さ れ て お り 、 が ん 化 とTobf BTGフ ァ ミ リ ー の 関 係 が 示 唆 さ れ て い る 分 子 で ある 。 Tob/BTGフ ァ ミ リ ー タ ン パ ク 質 は 、 そ の 半 減 期 が15分 程 度 の 短 寿 命 タ ン パ ク 質 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る が 、 分 解 機 構 に 関 し て は 不 明 な 点 が 多 く 残 さ れ て い る 。
本 研 究 で は 、 細 胞 増 殖 抑 制 因 子Tob/BTGフ ァ ミ リ ー に 焦 点 を あ て 、 そ の ユ ビ キ チ ン 化 修 飾 と26S プ ロ テ ア ソ ー ム に よ る 分 解 機 構 に っ い て 解 析 し 、 新 知 見 を 得 た 。
【 結 果 お よ び 考 察 】
1. プ ロ テ ア ソ ー ム に よ るTob/BTGフ ァ ミ リ ー タ ン パ ク 質Q金 盤
多 く の 細 胞 周 期 制 御 因 子 は 不 安 定 な タ ン パ ク 質 で あ り 、 そ れ ら の 分 解 が ユ ビ キ チ ン ー プ ロ テ ア ソ ー ム シ ス テ ム に よ っ て な さ れ る こ と か ら 、 短 寿 命 タ ン パ ク 質 で あ るTbb/BTGフ ァ ミ リ ー の 分 解 に 対 する ユ ビ キ チ ン ― プ ロ テ ア ソ ー ム シ ス テ ム の 関 与 を 検 討 し た 。
は じ め に 、Tob/BTGフ ァ ミ リ ー の 安 定 性 に 対 す る プ ロ テ ア ソ ー ム 阻 害 剤 の 効 果 を 解 析 し た 。 培 養 細 胞 を 用 い て 、 プ ロ テ ア ソ ー ム 阻 害 剤 の 存 在 下 あ る い は 非 存 在 下 で のTob/BTGフ ァ ミ リ ー の タ ン パ ク 質 量 を 、 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り 解 析 し た 結 果 、 プ ロ テ ア ソ ー ム 阻 害 剤 に よ るTob、Tob2、BTGl お よ びBTG2の 蓄 積 が 観 察 さ れ た 。 さ ら に 、Tob/BTGフ ァ ミ リ ー の 分 解 速 度 に 対 す る プ ロ テ ア ソ ー ム 阻 害 剤 の 効 果 を 、 シ ク ロ ヘ キ シ ミ ド を 用 い た チ ェ イ ス 実 験 に よ り 解 析 し た 。 そ の 結 果 、110b、1bb2、 BTGlお よ びBTG2は 、MG132処 理 に よ る 分 解 速 度 の 遅 延 が 観 察 さ れ 、 こ れ ら の 分 子 が プ ロ テ ア ソ ー ム に よ り 直 接 分 解 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
≧ : 竪 壘 [ 旦IQフ ん ミ リ ー タ ン パ2質 堕 三 ピ キ チ ン 化
T・ob/BTGフ ァ ミ リ ー か 、 プ ロ テ ア ソ ー ム に よ る 分 解 に 先 立 ち 、 ユ ビ キ チ ン 化 修 飾 を 受 け る か 否 か を 解 析 し た 。 ユ ビ キ チ ン お よ びTob凪TGの 発 現 ベ ク タ ー を 培 養 細 胞 に ト ラ ン ス フ ェ ク ト し 、 免 疫 沈 降 お よ
892
びウェスタンブ口ッティングにより解析した結果、
Tob/BTGとユビキチンを同時に発現させた場合にの み、高分子量領域にポリユビ キチン化Tob/BTG が検出された。すなわち、Tob 、Tob2 、BTG1 および
BTG2がユビキチン化修飾を受 け、
26Sプロテアソームによ り分解されることが明らかになった。
!:
Tob/BTGファミリータンパ2 質堕丕室走i ヒピメインの盤盤
次に、Tob/BTG ファミリータンパク質の不安定性を規定するドメインの解析を行った。Tob 、Tob2 、
BTGIおよ びBTG2 の
N末 端欠 失 変異 体と
C末 端欠 失変 異体 を それ ぞれ 作製 し、 そ れら の安定性 を解析した。その結果、いず れの
N末端欠失変異体も野生型の場合と同様に不安定であったが、C 末端側からの欠失変異体では、約30 残基の欠失によりいずれの分子も安定化した。また、C 末端欠 失変異体のユビキチン化を解析したところ、野生型の場合に比ベュビキチン化が減少していることが 明らかになった。さらに、各 分子の
C末端側60 残基を、細 胞内で安定なタンパク質であるGFP のC 末端側に融合させて、その安定性を解析した結果、インタクトなGFP に比べ、
GFP融合タンパク質の 不安 定化 が観 察さ れ た。 すな わち 、Tob 、Tob2 、BTG1 およびBTG2 のC 末端 領域が不安定性を規 定することが明らかになった。
4
. BTGI および
BTG2とSCF 複金笠の結合
細胞周期制御に関わるタンパク質の多くは、ユビキチン依存的分解によってその発現量が調節さ れて おり 、そ の
E3と して
APC/Cと
SCF複合体が 重要な役割を果たす。
APC/Cは、主にM 期進行に 関わる分子を標的とし、SCF 複合体は
Gl/S期に機能する分子を標的とする。Tob/BTG ファミリーはS 期進行を抑制することから、そのユビキチン化に対するSCF 複合体の関与が考えられた。そこで、
BTG1
およ びBTG2 に っ いて 、SCF 複 合体のサブ ュニットCullinl およびSkpl との相互作用を免疫 沈降により解析した。その結 果、
CullinlおよびSkpl が、
BTGIおよび
BTG2と免疫共沈することが 明 ら か と な り 、
BTG1お よ びBTG2 の ユビ キチ ン 化に 対す るSCF 複 合体 の関 与 が示 唆さ れた 。
5.
BTGIお よ び
BTG2堕 三 竺 キ 主 三
iヒ に 対 す 歪
SCF複 合 体 剄 調 与 と
FbwlQ塾 墨
SCF複合体は、基質認識サブュニットであるF‑box タンパク質により、活性や基質特異性が制御さ れる。そこで、代表的なF‑box タンパク質について、BTG1 あるいはBTG2 との相互作用を免疫沈降 により解析した。その結果、
BTG1およびBTG2 のいずれもが、Fbwl およびSkp2 と結合することが示 された。
次 に、
BTG1およ び
BTG2のユ ビキ チン 化 に対 する
Fbwlと
Skp2の効 果を 解析 し た。
BTG1ある いはBTG2 とともに、F‑box タンパク質を培養細胞に発現させ、免疫沈降後、I ウェスタンブロッティング により、BTG1 およびBTG2 のユ ビキチン化を検討した。その結果、それらのユビキチン化は、
Fbwlの存 在に より顕著 に促進された。また、
FbwlのF‑box 欠失変異体存在下で は、BTG1 およびBTG2 の内在性のユビキチン化がドミナントネガティブ効果により抑制されたことから、BTG1 およびBTG2 は、
Fbwl
を 有 す る
SCF複 合 体 に よ っ て 認 識 さ れ 、 ユ ビ キ チ ン 化 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。
【まとめ】
(1)
細胞増殖抑制因子Tob/BTG ファミリーのうち、Tob 、Tob2 、BTG1 およびBTG2 はユビキチンープロ
テアソームシステムにより分解される。
(2) Tob
、
Tob2、
BTG1およ び
BTG2の約
30残 基か ら なる
C末 端側 領域 が不 安定 性 を規 定する。
(3) BTG1
および
BTG2は、Fbwl およびSkp2 と結合する。
(4) BTG1
および
BTG2は、SCFFbwl によルユビキチン化される。
―893―
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
横 沢 賀
平 川原
学 位 論 文 題 名
英良 寛芳 敬宏 裕之
細 胞 増 殖 抑 制 因 子 Tob/BTG フ ん ミ リ ー の ユ ビキチン 依存的 分解機構 に関する研究
ユビキチンープ口テアソームシステムは、細胞周期、シグナル伝達、転写調節など の多様な細胞機能の制御に重要な役割を果たす。このシステムにおいて、ユビキチン 化の標的となる基質夕ンパク質は、ユビキチン化酵素群El 、E2 、
E3により、リシン 残基を介してユビキチンの付加を受け、付加されたユビキチンがさらにユビキチン化 修飾を受けることで、ポリユビキチン鎖が形成される。次に、
26Sプ口テアソームが、
基質夕ンパク質に付加されたポルユビキチン鎖を分解シグナルとして認識し、基質夕 ンパク質を分解する。このシステムにおいて、基質夕ンパク質の認識は多様なユピキ チンリガーゼ
E3によって行われる。また、基質と
E3酵素の双方におけるユピキチン 化 に 関 わ る 変 異 は 、 が ん や 神 経 変 性 疾 患 な ど の 重 篤 な 疾 患 の 原 因に な る 。
本論文提出者は、転写制御因子であり、細胞周期のS 期進行を阻害する細胞増殖抑 制 因子で もある
Tob/BTGファ ミリーを 取り上 げ、
Tob/BTGファミリーのユビキチン 化修飾と
26Sプ口テアソームによる分解機構に関する一連の研究を展開し、以下の成 果をおさめた。
(
1)
Tob/BTGフ ァ ミリ ー タ ンバ ク 質
Tob、
Tob2、
BTG1およ び
BTG2の代謝 回転が プ 口テア ソーム阻 害剤によ って阻害されることを見出し、
Tob、Tob2 、
BTG1および
BTG2がプ口テアソームにより分解されることを明らかにした。次に、ユビキチンと
Tob/BTGファ ミリニの 発現系 を用いて 、
1、
ob、Tob2 、
BTGlおよび
BTG2がユビキチ ン化修飾を受けることを見出し、T0b /
BTGファミリーがュピキチン化修飾を受け、
26Sプロテアソームにより分解されることを明らかにした。
(
2)
Tob、
Tob2、
BTG1お よび
BTG2の
N末端 欠 失 変異 体 と
C末 端 欠 失 変異 体 の 安
―894―
定 性 を 解 析し 、不 安定 なTob 、Tob2 、 BTG1 およ びBTG2 に 比較 して 、C 末 端か ら約 30 アミノ酸 を欠失させたいずれの変異体でも安定化されることを見出した。さらに、
い ずれ の欠失させた領域を融合させたGFP 融合たんぱく質が不安定化されることを 見 出 し 、 Tob 、Tob2 、 BTG1 お よび BTG2 の不 安定 化を 規定 する ドメ イン がC 末 端領 域に存在す ることを明らかにした。
(3 )細胞周期制御に関わるタンパク質の多くは、ユビキチン依存的分解によってそ の 発現 量が 調節 され て おり 、そ のE3 酵素として、SCF 複 合体とAPC/C が重要な役割 を 果た す。 Tob/BTG フ ァミ リー がS 期進行を抑制することから、Gl/S 期で機能する SCF 複合 体が Tob/BTG フ ァミ リー のユビキチン化に関与すると考え、免疫沈降法に よ り、 BTG1 およ びBTG2 を用 いて 、SCF 複合体のサブュニ ットであるCullinl および Skpl と の相 互作 用を 解 析し 、Cullinl お よび Skpl が 、BTG1 およびBTG2 に結合する ことを明ら かにした。
( 4 )Cullinl と Skpl か ら構 成さ れる SCF 複合 体は 、 基質 認識サブュニッ卜として F‑box 夕ンバク質を含む。そこで、免疫 沈降法により、代表的なF‑box 夕ンバク質を 用 い て 、 BTG1 あ る い は BTG2 と の 相 互 作 用 を 解 析 し 、 BTG1 お よ び BTG2 のい ずれ も が、 Fbw1 およ びSkp2 に結 合す ることを明らかにした。さらに、BTG1 およびBTG2 の ユ ビ キ チン 化に 対す るFbw1 と Skp2 の効 果を 解析 し、 BTG1 お よび BTG2 のユ ビキ チ ン化 がFbwl に よっ て 促進 され るこ と、 Fbwl のF あ ox 欠 失変異体が、BTGl および BTG2 のユビ キチン化に対してドミナントネガテイブ効果を示すことを明らかにした。
以 上 の 結 果 か ら 、 BTG1 お よ び BTG2 が 、Cumnl 、Skpl お よ びFbw1 か ら構 成さ れる SCF 複合体SCFFbwl によルユピキチン化されると提案した。
以上の新 知見およびそれらを得るために用いた新研究方法は、細胞増殖抑制因子 Tob 侶TG ファ ミリ ーの ユビ キチ ン化修飾の機構や26S プ口テアソームによる分解機 構の理解に とどまらず、ユピキチン・プ口テアソームシステムによる細胞増殖制御機 構を理解す る上で重要な寄与をなすものである。
審査委員 一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号を受ける にふさわし いものと一致して判断した。
―895 ‑