博士(歯学) 川端伸也 学位論文題名
電気的根管長測定器を応用した垂直歯根破折面の 超音波切 削が間隙 封鎖性向上に及ぼす効果
学位論文内容の要旨
( 緒 言 )
垂 直 歯 根 破 折 の 治 療 法 は 大 き く 分 け る と 、 抜 歯 し て 口 腔 外 で 接 着 し て 再 植 す る 方 法 と 、 根 管 内 か ら 破 折 間 隙 を 接 着 し て 封 鎖 す る 方 法 が あ る . 抜 歯 し て 口 腔 外 で 接 着 し 再 植 す る 方 法 は , 良 好 な 治 癒 状 態 が 報 告 さ れ て い る が , 侵 襲 が 大 き い こ と や 抜 歯 時 に 歯 根 が 破 折 す る な ど , 治 療 に 伴 う り ス ク が 高 い . 一 方 , 根 管 内 か ら 非 外 科 的 に 破 折 間 隙 の 封 鎖 を 行 う 方 法 は , 侵 襲 が 少 な い と い う ヌ リ ッ ト は あ る が , 歯 根 膜 に 炎 症 が 生 じ る こ と が 多 い . こ の 原 因 は , 根 管 内 か ら で は 破 折 間 隙 の 清 掃 や 封 鎖 が 不 確 実 に な る た め と 考 え ら れ て い る . 根 管 内 か ら 破 折 間 隙 を 封 鎖 す る 方 法 の 治 療 成 績 を 向 上 さ せ る た め に は , 破 折 線 を 根 管 内 か ら 歯 根 表 面 ま で 切 削 す る こ と が 効 果 的 と 考 え ら れ る 。 そ の 際 、 過 剰 な 切 削 を 防 止 す る た め に , 切 削 器 具 先 端 と 歯 根 表 面 と の 位 置 関 係 を 知 る こ と が 必 要 と な る が , そ の 方 法 は 確 立 し て い な い .
そ こ で 本 研 究 で は , ま ず 実 験1で 破 折 間 隙 に お け る フ ァ イ ル 先 端 か ら 歯 根 表 面 ま で の 距 離 と イ ン ピ ー ダ ン ス 値 と の 関 係 を 検 討 し た 。 実 験2で は 、 実 験1の 結 果 を も と に 、 超 音 波 ス ケ ー ラ ー を 用 い て 破 折 間 隙 を 一 定 の イ ン ピ ー ダ ン ス 値 ま で 切 削 し 、 接 着 し た 場 合 の 封 鎖 性 を 評 価 し た .
( 材 料 と 方 法 )
実 験 1. フ ァ イ ル 先 端 と 歯 根 表 面 の 距 離 と イ ン ピ ー ダ ン ス と の 関 係 ヒ 卜 抜 去 歯 の 歯 冠 を 切 除 , 歯 根 を 歯 軸 方 向 に4分 割 し ,2つ の 破 折 片 の 間 に 板 状 の 樹 脂 を 挟 み , 最 歯 冠 側 と 根 尖 孔 部 を ス ー パ ー ボ ン ド で 固 定 し た . ス ー パ ー ポ ン ド 硬 化 後 に 樹 脂 を 除 去 レ , 歯 根 表 面 が ア ル ジ ネ ー ト 印 象 材 に 接 す る よ う に 固 定 し た , #25Uフ ァ イ ル を 超 音 波 ス ケ ー ラ ー に 接 続 し , 破 折 間 隙 を 根 管 側 か ら 切 削 、 途 中 で 切 削 を 止 め , イ ン ピ ー ダ ン ス 値 測 定 機 能 付 き 根 管 長 測 定 器 ( デ ン タ ポ ー 卜 試 作 ル ー トZXモ ジ ュ ー ル ) を 用 い て ,Uフ ァ イ ル と 歯 根 表 面 と の 問 の イ ン ピ ー ダ ン ス を8000Hzと400Hzの 周 波 数 で 計 測 , Uフ ァ イ ル を ス ー パ ー ボ ン ド で 破 折 歯 根 に 接 着 , 固 定 し た . 歯 根 を 歯 軸 に 垂 直 に 切 断 し てUフ ァ イ ル を 露 出 さ せ , 光 学 顕 微 鏡 下 で , フ ァ イ ル 先 端 か
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ら歯根表面までの距離,および破折間隙幅を計測した.
実験2 .電気的根管長測定器内蔵超音波スケーラーで破折間隙を切削した場合の封鎖性向上 効果
ヒト抜去 歯の歯冠を切除し,根管をフレアーに形成,歯軸方向に破折後、元の形態に復 位して最歯 冠側と根尖部をスーパーボンドで接着した.間接法でポストを作製、歯根膜と 同等の電導性を有するアルジネート印象材に歯根を埋入した.
破折線の 一方を切削群,もう一方を非切削群とし,切削群は電気的根管長測定器内蔵超 音波スケー ラー(ソルフィーZX) に超音 波エンドファイルを接続して,マイク口スコープ 下で根管内 から破折線を切削した.一定のインピーダンスに達すると超音波振動が停止す るオー卜ス トップを、実験 1 のデ一夕を元に 0 . 5 および1.0 に設定した,非切削群の破折線 は切削しなかった,切削終了後,ポストをスーバーボンドで接着し、破折間隙を封鎖レた.
湿度100 %で24 時間硬化させた後,0.5 %塩基性フクシン水溶液に 24 時間浸漬,樹脂包埋後,
歯軸に対し て垂直に1mm 間隔で切断し, @根管壁の厚さ,◎色素侵入距離,◎破折間隙の 幅,@未切 削距離を計測した,試料の一部を脱水,乾燥,Pt‑Pd 蒸着し,SEM で破折間隙で のレジンと歯質との界面を観察した.
(結果)
実験1
歯根表面からファイル先端までの距離とインピーダンス値とは,破折間隙幅によらず,
8000Hz , 400Hz いずれ の周波数でも相関関係はなかった.歯根表面からファイル先端まで の距離とインピーダンス値の比との関係は,破折間隙幅が300hu11 より広い場合は大きなば らっきを示したが,300ym 以下の場合は破折間隙幅の影響は少なく,相関係数は0.82 で正 の相関関係が見られた,また,破折間隙幅が300ym 以下の場合,インピーダンス値の比が 0.88 (ルー卜ZX 指示値 1.0) 以上であればファイルが歯根表面から突き出した試料はなく,
インピーダンス値の比が0.81 (ルートZX 指示値0.5) 以上ではファイルが歯根表面から突 き出した試料は15.4 %であった.
実験2
オー 卜ス卜ップの設定値が0.5 でも 1.0 でも,色素侵入距離は切削群の方が有意に低かっ た(p く0.01 ).未切削距離が OLun すなわち歯根表面まで切削されていたのは,オー卜ストッ プ設定値が0.5 の場合20.9 %, 1.0 の場合は4.6 %であった.
破折 間隙のスーバーボンドと歯質との界面をSEM で観察したところ,破折間隙のいずれ の部位でも間隙はみられなかった.
(考察)
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実 験1の 結 果 , 破 折 間 隙300lun以 下 の 場 合 は , フ ァ イ ル が 歯 根 表 面 か ら 突 き 出 し て し ゝ た 試 料 数 は , ル ー トZX指 示 値1.0ま で はO% , 指 示 値0.5ま で は1514% で あ っ た こ と か ら , 指 示 値 1.0ま で で あ れ ば 過 剰 切 削 に な ら ず 安 全 に 切 削 可 能 で あ る と 考 え ら れ た , そ こ で 、 実 験2で は ル ー 卜ZXの 指 示 値 が1.0ま た は0.5で 超 音 波 振 動 が 停 止 す る よ う に オ ー ト ス 卜 ッ プ を 設 定 し , 破 折 線 を 切 削 、 ス ー パ ー ポ ン ド で 封 鎖 し て 色 素 侵 入 試 験 を 行 っ た , そ の 結 果 、 色 素 侵 入 距 離 は , 切 削 群 は 非 切 削 群 よ り 有 意 に 低 く 、 さ ら にSEM観 察 の 結 果 、 切 削 群 は 歯 根 表 面 近 く の セ ヌ ン 卜 質 や 象 牙 質 、 根 管 近 く の 象 牙 質 に も 良 好 に 接 着 し て お り 、 象 牙 細 管 と ほ ぼ 平 行 な 破 折 面 で も 間 隙 が み ら れ る こ と は な か っ た 。 し か し 、 非 切 削 群 は ス ー パ ー ボ ン ド が 侵 入 し て い て も 破 折 面 と の 間 に は 間 隙 が 見 ら れ た 。 こ れ は 、 破 折 線 を 切 削 す る こ と に よ り 歯 面 処 理 や 水 洗 乾 燥 が 歯 根 表 面 近 く ま で 確 実 に 行 え る よ う に な っ た た め と 考 え ら れ た 。 ま た 、 破 折 線 と 象 牙 細 管 の 方 向 性 や セ メ ン ト 質 と 象 牙 質 が 混 在 し て い る こ と を 考 慮 す る こ と な く 、 通 常 の 接 着 操 作 を 行 え ば 、 高 い 封 鎖 性 が 得 ら れ る と 考 え ら れ た 。
一 方 、 未 切 削 距 離 がOpun, す な わ ち 歯 根 表 面 ま で 切 削 さ れ て い た 試 料 数 は , オ ー ト ス ト ッ プ 設 定 値 が0.5の 場 合 も1.0の 場 合 も , 実 験1の 結 果 よ り 約5% 多 く な っ た . こ れ は イ ン ピ ー ダ ン ス 比 が オ ー ト ス 卜 ッ プ の 設 定 値 に 達 し て か ら 超 音 波 振 動 が 停 止 す る ま で に , わ ず か に タ イ ム ラ グ が あ る こ と が 原 因 と 思 わ れ た .
以 上 の 結 果 か ら 、 臨 床 に お け る ソ ル フ ィ ーZXを 用 い た 切 削 方 法 と し て は , ま ず 過 剰 切 削 に な る 危 険 性 が 低 い オ ー ト ス ト ッ プ の 設 定 値 を1.0に し て 効 率 よ く 切 削 を 行 い , 次 に マ イ ク 口 ス コ ー プ で 破 折 線 が 歯 根 表 面 に 達 し て い な い こ と を 確 認 し , 設 定 値 を0.5に し て 慎 重 に 切 削 す る の が 良 い と 考 え ら れ た .
( 結 論 )
垂 直 歯 根 破 折 の 破 折 線 を , 電 気 的 根 管 長 測 定 器 内 蔵 型 超 音 波 ス ケ ー ラ ー を 用 い て 切 削 し , ス ー バ ー ポ ン ド で 接 着 す る 治 療 法 の 封 鎖 性 を 評 価 し て , 次 の 結 論 を 得 た . 1. 単 波 長 の イ ン ピ ー ダ ン ス 値 よ り2波 長 の イ ン ピ ー ダ ン ス 値 の 比 の 方 が , フ ァ イ ル 先 端 位 置 の 指 標 と し て は 精 度 が 高 か っ た .
2. 破 折 間 隙 が300 p.rn以 下 の 場 合 に は , イ ン ピ ー ダ ン ス 値 の 比 が0.88以 上 で あ れ ば フ ァ イ ル が 歯 根 表 面 に 達 す る こ と は な く ,0.81で は 歯 根 表 面 か ら 突 き 出 し た の は15.4% で あ っ た ,
3. 電 気 的 根 管 長 測 定 器 内 蔵 型 超 音 波 ス ケ ー ラ ー を 用 い て イ ン ピ ー ダ ン ス を 測 定 し な が ら 破 折 間 隙 を 切 削 す る こ と に よ り , 破 折 間 隙 接 着 後 の 封 鎖 性 が 大 き く 向 上 し た ,
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 川 浪雅 光 副 査 教 授 佐 野英 彦 副 査 教 授 八 若保 孝
学 位 論 文 題 名
電気的根管長測定器を応用した垂直歯根破折面の 超音波 切削が間 隙封鎖性 向上に及ぼす効果
審 査は主査,副査全 員が一同に会して口 頭で行った.はじ めに申請者に対し て本論文の概要の説 明を求 め た とこ ろ, 以 下の 内容 に つい て論 述 した .
破折間 隙を根管内から封 鎖する方法の治療成 績を向上させるた めには,破折線を 根管内から歯根表面 ま で切削す ることが効果的と 考えられる。その際 、過剰な切削を防 止するために,切 削器具先端と歯根表 面 との 位 置関 係を 知 るこ とが必要とな る.本研究では, 実験1で破 折間隙におけるフ ァイル先端から歯根 表 面ま で の距 離と イ ンビ ーダ ン ス値 との 関 係を 検討した。実験2では、実験1の結果 を元に、超音波スケ ー ラ ー を 用 い て 破 折 間 隙 を 一 定 の イ ンビ ーダ ン ス値 まで 切 削し 、接 着 した 場合 の 封鎖 性を 評 価し た,
実験1:ヒ ト抜 去 歯の 歯根 を4分 割し,2つの破折片 の間に板状の樹脂 を挟み,両端をス ーバーポンドで固 定し た. スー バーポンド硬化後 に樹脂を除去し,歯 根膜と同等の電導 性を有するアルジ ネート印象材に歯 根表 面が 接 する よう に 固定 した , Uフ ァイ ル で破 折間 隙を根管側か ら切削.途中で切 削を止め,8000Hz と400Hzの 周波 数 でイ ンビ ー ダン スを 計 測.Uファ イル はスーパーボ ンドで破折歯根に 固定した.歯根を 歯軸 に垂 直に 切断し,光学顕微 鏡下で,ファイル先 端から歯根表面ま での距離,および 破折間隙幅を計測 した.
実験2:ヒ 卜抜 去 歯の 根管 を フレ アーに形成,歯軸 方向に破折後、元 の形態に復位して 両端をスーバーボ ンドで接着した .間接法でホストを 作製、アルジネー ト印象材に歯根を 埋入した.破折線の一方を切削群,
もう 一方 を非 切削群とし,切削 群はソルフイーZXに 超音波エンドファ イルを接続して, マイク□スコ―ブ 下で根管内から 破折線を切削した, オー卜ス卜ッブ設 定値は、実験1の結果を元に0.5およびI.0とした.
非切 削群 の破 折線は切削しなか った.切削終了後, ホス卜をスーハー ポシドで接着し、 破折間隙を封鎖し た. 色素 侵入 試験を行い、標本 を歯軸に対して垂直 に切断し,@根管 壁の厚さ,◎色素 侵入距離,◎破折 間隙 の幅 , @未 切削 距 離を 計測 し た. 試料 の 一部 を脱 水,乾燥,Pt‑Pd蒸着し ,SEMで 破折間隙でのレジ ンと歯質との界 面を観察した,
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実験1では , 破折 間隙が300Lim以 下の場合はインビ ーダンス比と歯根 表面からファイル先 端までの距離 の 問に 正 の相 関関 係が見 られた.またこの とき,インビーダン ス比がO.88(ルー卜ZX指示 値1.0)以上 で はフ ァ イル が歯 根 表面 から 突 き出 した 試料はなか ったが,0,81(同0.5)以 上では15.4%あった,
実験2では , 切削 群では歯根表面 から平均200Limま で色素侵入を阻止 できた(非切削群は 平均600Vm), 未切削 距離がOym.すなわち歯根表 面まで切削されていた試料は,オートス卜ッブ設定値0.5の場合20.9%,
1.Oの 場合4.6% であった,破折間 隙の歯質とスーバー ボンドとの界面をSEMで観察 したところ,いず れの 部位で も間隙はみられなか った,
色素 侵入 距 離は 切削群で非 切削群より有意に 低く、さらにSEM観察の結果 ,切削群は象牙質 やセメント 質にも良好 に接着しており、 象牙細管とほぼ平行 な破折面でも間隙 がみられることは なかった。しかし、
非切削群は スーバーボンドと 破折面との間には間 隙が見られた。こ れは、破折線を切 削することにより歯 面処理や水 洗乾燥が歯根表面 近くまで確実に行え たためと考えられ た。また、破折線 と象牙細管の方向性 やセメント 質と象牙質が混在 していることを考慮 することなく、通 常の接着操作を行 えば、高い封鎖性が 得られると 考えられた。
一方、歯根表 面まで切肖lJされていた試料数は,オートス卜ッブ設定値が0.5の場合も1,Oの場合も,実験 1の結 果より約5%多くなった,こ れはインビーダンス 比がオー卜ス卜ッ ブの設定値に達し てから超音波振 動が停止するま でに,わずかにタ イムラグがあること が原因と思われた ,
臨床における ソルフイーZXを用 いた切削方法として は,まず過剰切削 になる危険性が低 いオー卜ストッ ブの設定値を1.0にして効率よく 切削を行うのが良い と考えられた,
本法が臨床的 にも有効である可 能性が示された。
引 き続き審査担 当者と申請者の問 で,論文内容および 関連事項について 質疑応答がなされ た 主 な質 問 事項 は,
(1)実際 の臨床応用の可能 性について
(2) 切 削 に 使 用 す る フ ァ イ ル の 改 良 に っ い て
(3)接着 後の機械的強度に ついて
(4)切削 時にファイルが突 き出した場合の治癒にっいて
(5)弯曲 根管などへの応用 について
これ らの質問に対して ,申請者は適切な説 明によって回答し ,本研究の内容を 中心とした専門分野はもと より ,関連分野につい て十分な理解と学識 を有していること が確認された,
本研 究は電気的根管長 測定器を応用した垂 直歯根破折面の超 音波切削が間隙封 鎖性向上に有効であること を示 し,垂直破折歯根 の保存治療法を改善 する知見を得たこ とが高く評価され た,本研究の内容は,歯科 医学 の発展に十分に貢 献するものであり, 審査担当者全員は ,学位申請書が博 士(歯学)の学位を授与す るに 値するものと認め た.
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