博士(歯学)菅谷 学位論文題名
ポケット探針型および
根分岐部用超音波スケーラーチップによる 歯肉縁下スケ|リング・ルートプレーニングの研究
学位論文内容の要旨
勉
歯肉縁下のスケーリング・ルートプレーニングは歯周治療の基本的処置であるが,現在市販さ れている超音波スケーラーやハンドスケーラーは、深いポケットや根分岐部では到達性が悪く,
プラークや歯石の除去が困難なのが現状である。そこで,深いポケットや根分岐部のスケーリン グ・ルートプレ一二ングを容易にかっ確実に行える方法を開発する目的で,ポケット探針や分岐 部探針が深いポケットや分岐部に到達しやすいことに着目し,予備実験の結果をもとにポケット 探針型超音波スケーラーチップと根分岐部用の超音波スケーラーチップを試作し,次の3っの実 験を行ってその使用法と臨床効果を検討した。
実験Iポケット 探針型超音波スケーラ―チッ プの使用条件が根面性状に 及ばす影響の検討 超音波スケーリング後の根面性状は,その使用法により大きく影響を受けると考えられ,さら に根面の汚染状態は,歯周炎の進行状態および初期治療やメインテナンスなど歯周治療の進行に より変化する。そこで,根面の状態に応じたポケット探針型超音波スケ―ラーチップの適切な使 用法を明らかにする目的で,その使用条件が,根面削除量と表面粗さおよび為害性物質の除去効 果に与える影響を検討した。
【材料・方法】
I―1)根面削除量と粗さへの影響
水中保存されている抜去歯の象牙質面を露出させ,表面を砥石で滑沢にした後3群に分け,以 下の条件でルートプレーニングを行なった。C群:未処置(Nニニニ10)。U群―12組に分け,ポケッ ト探針型超音波スケーラー使用。出力3通り,チップの超音波振動方向と根面との角度2通り,
根面への荷重2通り,合計12通りの使用条件(N =120)。H群:ハンドスケーラー使用(N二二lO)。
処 置 終 了 後, 断 面 曲 線 から 根 面 削 除 量と 中 心 線 平均 粗さを 計測 し,さ らに,SEMに より表 面形 状 の観察 を行な った。
I−2)培養 線維芽 細胞 の付着 に及ぼ す影響
‑80℃ で 凍 結 保存 さ れ た 歯 周炎 罹 患 歯 と 健全 歯 を,I−1と 同様の 条件で ルー トプレ ーニン グ 行 なった 。処置 終了後 ,根面 上で ヒト歯根膜由来線維芽細胞を培養,72時間後,固定,染色して,
付 着増殖 した細 胞数を 計測し た。
【 結果お よび考 察】
ポ ケット 探針型 超音 波スケ ーラー の使用 条件は ,出 カを大 きく, チップ の超音波振動方向を根 面 に垂直 ,根面 に加え る荷重 を大 きくすると,削除量,為害性物質の除去効果は大きくなったが,
表 面は粗 造にな った。 一方, 出カ を小さ く,振 動方向 を水 平,荷 重を小 さくす ると,表面は滑沢 に なった が,削 除量は 小さく ,為 害性物 質の残 存は多 くな る傾向 がみら れた。 この結果から,根 面 の汚染 状態に 応じて 使用条 件を 変える ことに より, ハン ドスケ ーラー と同等 の為害性物質の除 去 効果と 滑沢性 を能率 的に得 るこ とが可 能であ り,臨 床で はこれ らの使 用条件 による特性の違い を 十分に 把握し た上で 使用す るこ とが重 要と思 われた 。
実験II非外 科的歯 周治療 に用 いた場 合の臨 床効果 の検 討
ポ ケット 探針型 超音波 スケ ーラ― チップ は深い ポケ ットへ の到達 性に優 れ,局所麻酔を必要と しな いこ とから ,非外 科的歯 周治 療に応 用可能 と考え ,その 臨床 効果を 知る目的で,定期的に歯 肉 縁 下 ス ケ ー リ ン グ ・ ル ー ト プ レ ― ニ ン グ を 行 な い ,1年 間 経 過 を 検 討 し た 。
【材 料・ 方法】
慢 性辺縁 性歯周 炎(成 人型 )と診 断され た15名 の,歯 肉縁下 スケー リン グの既往のない,前歯
・小 臼歯167歯 の668歯面を 被験歯 面と した。 実験開 始前に 口腔清 掃指 導と歯 肉縁上スケーリング を 行 い ,実 験 開 始 日 ( 以下BLと略 す)に ポケッ ト探針 型超 音波ス ケーラ ーによ り無麻 酔下 で歯 肉 縁 下 のス ケ ー リ ン グ ・ル ートプ レ一 二ング を行な った。 その後1,2週 目には 臨床診 査の みを 行 い ,1,3,6,9,120月 目 には , 臨 床 診 査と 同 装 置 に よる ス ケ ー リ ング ・ ル ー ト プ レー ニ ン グ を行ナ ょった 。被験 歯面 をprobing depthで 分類し ,臨床 効果が ポケッ トの 深さに よりど の よ う に 異な る か を 比 較 検討 し た 。 さ らにX線 写 真で 垂直性 骨欠損 が認 められ た群と 認めら れな かっ た群 に分類 し比較 した。
【結 果お よび考 察】
ポ ケッ ト が 浅 い 場合 , ハ ン ド スケ ー ラ ー 使 用 時に報 告され ている ようなattachment lossを
生じさせることなくスケーリング・ルートプレーニングが可能であった。ポケットが深い場合,
probing depthの減少,clinical attachment levelのgain,bleeding on probingの減少など,
著明な歯周炎改善効果が得られた。また,垂直性骨欠損がある部位では,歯肉の退縮が少なく深 いポケットが残存しやすかったが,本装置を繰り返し用いることにより,attachment lossな くメインテナンス可能であった。以上の結果から,本装置は,浅いポケットは無論,深いポケッ トの治療にも効果が高く,とくに全身疾患などのため歯周外科が適応できない症例のメインテナ ンスにも有用性が高いと考えられた。
実験III根分岐部用超音波スケーラーチップの開発と臨床応用
ポケット探針型超音波スケーラーチップは根分岐部への到達性が悪く,分岐部のスケーリング
,ルートプレ―ニングが不十分となることから,大臼歯の根分岐部用チップを新たに開発し,臨 床応用する目的で行なった。
【材料・方法】
皿‑ 1)チップの曲率の検討と根分岐部用チップの試作
下顎第1・第2大臼歯各50本から作製したレプリカを,分岐部頂点を含むように頬舌方向に切 断し,この10倍拡大投影像と,曲率半径5〜12mmの8種の半円の10倍拡大像とを重ね合わせて,
各曲率ごとに適合度を求め,最適なチップの曲率を検討した。
m― 2) 試 作 根 分 岐 部 用 チ ッ プ の 下 顎 第1. 第2大 臼 歯 分 岐 部 根 面 へ の 到 達 性 下顎第1.第2大臼歯各30本からレプリカ180ケを作製し,根面にマニキュアを塗布後,C. E.J.の高さまでホワイトシリコーンで人工歯肉を作製した。次にH群はハンドスケーラー,C 群は既製の超音波スケ―ラーチップ,F群は試作根分岐部用超音波スケーラーチップでスケーリ ングを行ない,処置終了後,各群のマニキュアの除去率を計測して,分岐部根面への到達性を比 較検討した。
皿一3)臨床効果の検討
慢性辺縁性歯周炎(成人型)と診断された14名の,grade2の分岐部病変を有する下顎第1・ 第2大臼歯25歯の34歯面を被験歯面とし,実験群は試作根分岐部用チップおよびポケット探針型 チップを併用し,無麻酔下でスケーリング・ルートプレーニングを行なった。対照群はハンドス ケーラーと既製超音波スケーラーチップを併用し,局所麻酔下で行なった。その後1,4週,8 週,12週 目に臨床診査と暗視野顕微鏡によるポケット内細菌叢の診査を行い比較検討した。
【 結果お よび考 察】
m―1)チ ップの 曲率の 検討 と根分 岐部用 チップ の試 作
チ ッ プの 曲 率 半 径 は, 下 顎 第1.第2大 臼 歯 を平 均 す る と8,9,10mmが 最も適 合が 良かっ た が ,分 割治療 しずら い下顎 第2大臼歯 への 適合と ,根分 岐部側 面へ の適合 を考慮 し,曲 率半径10 mmで 根分岐 部用 チップ を試作 した。
m− 2) 試 作 根 分 岐 部 用 チ ッ プ の 下 顎 第1. 第 2大 臼 歯 分 岐 部 根 面 へ の 到 達 性 ス ケーラ ーの 分岐部 根面へ の到達 性は ,ハン ドスケ ーラー と既製 の超 音波スケーラーチップで は ,C.E.J.から 水平方 向に2 mmを越え ると 著しく 低下し たが, 根分 岐部用 チップ では, 分岐 部 頂点付 近まで 良好 であっ た。
皿 ー3)臨床 効果 の検討
実 験群tま,clinical attachment level,bleeding on probing,暗視野顕微鏡による歯肉縁下 細 菌 叢 の 所見 に 著 明 な 改善が みられ ,さ らに改 善が30月 間維 持され た。一 方,対 照群 は改善 が 少 なかっ た。 、
以 上の結 果か ら,試 作した 根分岐 部用 チップ は根分 岐部病 変のス ケー リング・ルー卜プレーニ ン グ に き わめ て 有 効 で あ り, 非 外 科 的 歯周 治 療用 とし ても有 効性が 高く,hemisectionなど 複 雑 な処置 を避け られ る症例 も多く なると 考えら れた 。
学位論文審査の要旨
主査 教授 加藤 熈 副査 教授 下河辺 宏功 副査 教授 谷 宏
歯肉 縁下の スケー リン グ・ル ―トプ レーニ ングは 歯周 治療の 基本的 処置であるが,現在市販さ れて いる超 音波ス ケーラ ーやハ ンド スケー ラーは ,深い ポケ ッ卜や 根分岐部では,プラークや歯 石の 除去が 困難ナ ょのが 現状である。そこで本研究は,深いポケットや根分岐部のスケーリング・
ルー トプレ ーニン グを容 易にか っ確 実に行 える方 法を開 発す る目的 で,ポケット探針型超音波ス ケー ラーチ ップと 根分岐 部用の 超音 波スケ ーラ― チップ を試 作し, その使用法と臨床効果を検討 した 。
実 験Iポ ケ ッ ト 探 針 型 超 音 波 ス ケ ー ラ ー チ ッ プ の 使 用 条 件 が根 面 性 状 に 及 ぼす 影 響 の 検 討 歯周炎 の進行 状態 や歯周 治療の 進行に 応じ て根面 の汚染 程度は 変化す るた め,根面の汚染状態 に応じ たポケ ット探 針型 超音波 スケー ラーチ ップの 適切 な使用 法を明 らかに する 目的で,その使 用 条 件 が , 根 面 削 除 量 と 表 面 粗 さお よ び 為 害 性物 質 の 除 去 効果 に 与 え る 影 響を 検 討 し た 。 水中保 存され てい る抜去 歯の象 牙質面 を用 い,ポ ケット 探針型 超音波 スケ ーラーの使用条件を 12通りに 変化さ せて ル―ト プレ― ニング を行ナょい,断面曲線から根面削除量を求めるとともに,
中心 線 平 均 粗 さを 計 測 ,SEMに よ り 表 面形 状 の 観 察 を行 なっ た。さ らに, ―80℃ で凍結 保存さ れた歯 周炎罹 患歯と 健全 歯を, 同様の 条件で ル―ト プレ ーニン グ行な った後 ,根 面上でヒト歯根 膜由来 線維芽 細胞を 培養 ,付着 増殖し た細胞 数を計 測し た。
その結 果,ポ ケッ ト探針 型超音 波スケ ーラ ーの使 用条件 は,出 カを大 きく ,チップの超音波振 餝方向 を根面 に垂直 ,根 面に加 える荷 重を大 きくす ると ,削除 量,為 害性物 質の 除去効果は大き くなっ たが, 表面は 粗造 になっ た。一 方,出カを小さく,振動方向を水平,荷重を小さくすると,
表面は 滑沢に なった が, 削除量 は小さ く,為 害性物 質の 残存は 多くな る傾向 がみ られた。この結 果から ,根面 の汚染 状態 や治療 目的に 応じて 使用条 件を 変える ことに より, 為害 性物質の除去と 滑沢性 を能率 的に得 るこ とが可 能なこ とが明 らかと なっ た。
実験II非 外科的 歯周 治療に 用いた 場合の 臨床 効果の 検討
ポケッ ト探針 型超 音波ス ケーラ ーチッ プは 深いポ ケット への到 達性に 優れ ,局所麻酔を必要と しない ことか ら,非 外科 的歯周 治療に 応用可 能と考 え, その臨 床効果 を知る 目的 で,慢性辺縁性 歯周炎 症患者15名の 前歯・ 小臼歯167歯 ,668歯面 を被験 歯面と して, 定期的 に歯 肉縁下のスケー リング ・ルー トプレ ーニ ングを 行ない ,1年間経 過を検 討した 。
その結 果,ポ ケッ トが浅 い場合 ,ハン ドス ケーラ 一使用 時に報 告され てい るようなattachment lossを 生じ さ せ る こ とな く ス ケ ーリン グ・ル ートプ レー ニング が可能 であっ た。 ポケッ トが深 い場 合 ,probing depthの 減 少 ,clinical attachment levelのgain,bleeding on probingの 滅少な ど,著 明な歯 周炎 改善効 果が得 られた 。また ,垂 直性骨 欠損が ある部 位で は,歯肉の退縮 が少 な く 深 い ポケ ッ ト が 残 存し やす かっ たが, 本装置 を繰り 返し用 いる ことに より,12カ月 間 attachment lossが進 行 す る こ とな く メ イ ン テナ ン ス 可能 であっ た。 以上の 結果か ら,本 装置 は,浅 いポケ ットは 無論 ,深い ポケッ トの治 療にも 効果 が高く ,とく に全身 疾患 などのため歯周 外科が 適応で きナょ い場 合には きわめ て有効 な治療 法と 考えら れた。
実験m根分 岐部用 超音波 スケ― ラー チップ の開発 と臨床 応用
ポケッ ト探針 型超 音波ス ケーラ ーチッ プは 根分岐 部への 到達性 が悪く ,分 岐部のスケーリング
・ル ートプ レーニ ングが 不十 分とな ること から, 大臼歯 の根 分岐部 用チッ プを新 たに 開発し,臨 床応 用する 目的で 行なっ た。
ま ず , 最 適 なチ ッ プ の 曲 率 を知 る 目 的 で ,下 顎 第1. 第2大 臼歯 各50本を 用い, 曲率 半径5〜 12mmの 各 曲 率ご と に 適 合 度を 求 め た 。そ の結果 ,チ ップの 曲率半 径は, 下顎 第1・ 第2大臼歯 を 平 均 する と8,9,10mmが最 も適 合が良 かった が,分 割治療 しず らい下 顎第2大臼 歯への 適合と , 根 分 岐 部 側 面 へ の 適 合 を 考 慮 し , 曲 率 半 径10mmで 根 分 岐 部 用 チ ッ プ を 試 作 し た 。 次 に , 試 作 した 根分 岐部用 チップ の分岐 部根 面への 到達性 を明ら かにす る目 的で, 下顎第1. 第2大 臼 歯 各30本 の シ ミ ュ レー ト 模 型 を 作 製し て ,H群 はハ ン ドス ケーラ ―,C群は 既製の 超音 波 ス ケー ラ ー チ ップ,F群 は試作 根分 岐部用 超音波 スケー ラーチ ップ でスケ ーリン グを行 ない , 各群 の分岐 部根面 への到 達性 を検討 した。 その結果,ハンドスケーラーと既製の超音波スケ―ラー チッ プでは ,C.E.J. から水 平方 向に2 mmを越え ると到 達性は 著しく低下したが,分岐部用チッ プで は,分 岐部頂 点付近 まで 良好で あった 。
さ ら に , 分 岐部 用チ ップの 臨床効 果を明 らか にする 目的で ,慢性 辺縁性 歯周 炎患者14名の,g rade2の 分 岐 部 病 変 を 有 す る 下 顎 第1. 第2大 臼 歯25歯 の34歯 面 を 被 験歯 面 と し , 実験 群 は 試作 根分岐 部用チ ップお よび ポケッ ト探針 型チッ プを併 用し ,無麻 酔下で スケー リン グ・ルート プレ ーニン グを行 ない, 対照 群はハ ンドス ケーラ ーと既 製超 音波ス ケーラ ーチッ プを 併用し,局 所 麻 酔下 で 行 な っ て, そ の 後30月 に わ たり臨 床診査 と暗 視野顕 微鏡に よるポ ケット 内細 菌叢の 診 査 を行 い 比 較 検 討し た 。 そ の 結果 , 実 験 群 は,clinical attachment level,bleeding on probing,暗 視 野 顕 微鏡 に よ る 歯 肉縁 下 細 菌 叢 の 所見 に 顕 著 な改 善がみ られ, さら に改善 が3カ 月間 維持さ れた。 一方, 対照 群は改 善が少 なかっ た。
以上 の結果 から, 試作 した根 分岐部 用チッ プは 根分岐 部病変 のスケ ーリン グ・ ルート プレーニ ン グ に き わ め て 有 効 で あ り , 非 外 科 的 歯 周 治 療 用 と し て も 高 い 有 効 性 が 認 め ら れ た 。 以上 の研究 内容に っい て,主 査およ び副査 全員 が要旨 の説明 を求め ,内容 およ び関連 分野につ いて 質問を 行った ところ ,い ずれも 明解な 回答が 得られ ,本 論文に 関して は勿論 ,関 連分野につ いて も広い 学識を 有して いる ことが 認めら れた。 また, 本研 究にお いて, ポケッ ト探 針型および 根分 岐部用 超音波 スケー ラ― チップ を試作 し,こ れまで 困難 であっ た深い ポケッ トや 根分岐部の スケ ーリン グ・ル ートプ レー ニング の方法 を飛躍 的に改 善さ せたこ と,根 面の状 態に 応じた適切 な使 用法を 検討し 明確に した こと, 実際に 臨床効 果が高 いこ とも明 らかに したこ と, とくにこれ らの 超音波 スケー ラ―チ ップ による 治療法 が,今 後の高 齢化 社会に おいて 広く歯 周治 療に応用可 能 な こ と は 高 く 評 価 で き , 本 研 究 は 博 士 の学 位 を 授 与 さ れる に 値 す る もの と 認 め ら れた 。