Q:第212号で日本語の新語や流行語が取り上げら れましたが、英語にも新語、流行語は当然あ りますよね。
A:もちろんです。少し古い話ですが、2₀₀₆年に国 際天文学連合が冥王星(Pluto)をそれまでの惑 星から準惑星に格下げしたというニュースが 世界を駆け巡りました。
Q:はい、覚えています。
A:それからほどなくして、本来は名詞である Pluto が “John was plutoed by his boss.
(ジョンは上司から降格させられた)”のように
「~を降格させる、~を格下げする」という意 味の動詞で用いられるようになり話題となり ました。その当時、授業で学生にこの話を紹 介したので今でも記憶に残っています。
Q:英語は世界共通語ですから、日本語以上に新語 や流行語が生まれているのではないでしょう か?
A:そうですね。世界最大の英語辞書であるThe Oxford English Dictionaryのオンライン版では 毎年3月、₆月、₉月、12月に新語が追加されて Q:そんなに頻繁にアップデートされているのですいます。
か?
A:はい。2₀1₆年₉月には₅₀₀語以上の新語が追加さ れました。例えば、yogalatesという語が加 わりました。これは「yoga(ヨガ)+Pilates(ピ ラティス)」の造語で文字通り、ヨガとピラティ スを組み合わせたエクササイズを意味するよ うです。またYOLOも追加されました。
Q:それはどのような意味ですか?
A:YOLOは“You only live once.”の 頭 文 字 を 取った頭字語(acronym)で、「人生は一度きり」
のような意味で使われています。
Q:ある語が新語として辞書に追加されるために は、その語が日常語として定着しなければな らないわけですから、語の誕生と辞書に追加 されるまでには時間のギャップがありますよ ね。
A:はい。先ほどのYOLOも数年前にアメリカの若 者の間で流行し始めた語です。アメリカと言 えば、The American Dialect Society(アメ リカ方言学会)がWords of the Yearという、
日本でいうところの「新語・流行語大賞」の ようなものを毎年1月に発表しています。
Q:それは面白いですね。
A:2₀1₆年1月に発表された2₀1₅年のWord of the Yearは何と“singular ʻtheyʼ”、つまり「単数 のthey」でした。
Q: 「単数のthey」とはどのような用法ですか?
A:“Everyone thinks they are right.(みんな自 分が正しいと考えている)”のように単数扱いの everyoneをtheyで受ける用法です。
Q:本来ならeveryoneを代名詞で受ける場合はhe やhe or sheあるいはs/heとなりますよね。
A:はい。しかし、それでは特定の性別を想起させ たり、煩雑な書き方になったりしてしまいま す。
Q:それでtheyが使われるようになったのです ね?
A:性別に関係なく、あるいは性別が不明な場合に 使われるこのtheyの用法は昔からありました。
「単数のthey」が2₀1₅年のWord of the Year に選ばれた理由は、テレビなどでトランスジェ ンダーの人たちを話題にする場合の代名詞と して頻繁に用いられるようになったからとい うことのようです。
Q:既存の語でも新たな用法が流行として認められ たというわけですね。
A: 既存の語であるからこそ受容され易かったとい うことだと思います。英語では性別に関係な く使える三人称単数代名詞としてzheやthon などが提案されてきましたが、いずれも定着 しませんでした。
Q:ありがとうございました。では参考文献をお願 いします。
A:今回は文献ではなく、話の中で取り上げた アメリカ方言学会のHPを挙げたいと思いま す。URL は http://www.americandialect.
org/です。この号が発行された頃には2₀1₆年 のWord of the Yearが発表されていると思 います。ちなみに動詞用法のplutoは2₀₀₆年 のWord of the Yearに 選 ば れ て い ま す し、
YOLOは2₀12年にノミネートされています。
日本では「新語・流行語大賞」が発表されたの は記憶に新しいところです。今回ご紹介頂いたサ イトを早速覗いてみると... 日本でもお馴染みの subprime(2₀₀₇年)や、tweet(2₀₀₉年 ) が あ る 一方で、#blacklivesmatter(2₀14年)のような 社会問題に関する難解な語もあります。またWord of the Decadeがあるかと思えばmost usefulや most unnecessary といったジャンルがあり、「所 変われば」の感がします。
にゅうがく なおや
(福井工業大学准教授・英語学・英語史)
ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館)
入学直哉、藤井達也
言語学、はじめの一歩 (₃₀)
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図書館員の文献紹介と 資料の活用