図書館員の文献紹介と 資料の活用
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長かった夏休みも終わり、授業が始まって一ヵ月ほどが経ちました。図書館はお盆や日曜日等の休館 日を除けば、毎日開館していました。今年も足繁く 通う姿に「頑張れ!」と、思わずエールを送りました。
では、言語学のお話の続きを...
Q:ブリテン島はローマによる支配が終わった後に また別の民族による侵略を受ける、というと ころで前回は話が終わりました。
A:ヨーロッパ大陸では4世紀末にいわゆる「ゲル マン民族の大移動」が始まりましたが、ブリ テン島にもゲルマン民族の一派であるアング ロ・サクソン人がやって来ました。
Q:それが別の民族による侵略と言うことですね。
A:そうです。まず現在のデンマークがあるユトラ ンド半島の北部からジュート人(Jutes)がブリ テン島の南東部のケント地方に上陸しました。
449年のことです。その後、北海に面した現在 のドイツとオランダの国境付近からサクソン 人(Saxons)がやってきてテムズ川の南の地域 に定住しました。さらにユトランド半島の南 部、現在のドイツ北部からアングル人(Angles) が渡来し、テムズ川以北に定住しました。
Q:アングル人のAngleは「カメラのアングル」と かいう場合のangleと関係があるのですか?
A:現代英語のangleと関係がありますが、「角 度」の意味のangleではなくて、「釣針」とい う意味のangleです。英和辞書ではこの二つの angleは別々の見出し語になっています。
Q:同じ綴りの単語で別々の見出し語になっている 場合は、語源が異なると聞いたことがありま す。
A:その通りです。「釣針」の意味のangleは英語 本来語ですが、「角度」の意味のangleは14世 紀にフランス語経由で英語に入ってきました。
ただし、この二つがまったくの別語源かと言 うとそうでもなく、元々の起源は同じで、そ の後辿った歴史が異なるということです。
Q: 「アングル人」と「釣針」はどのように関連す るのですか?
A:ドイツ最北端のシュレースヴィッヒ・ホルシュ タイン州の北東部、つまりユトランド半島の 付け根の東側になりますが、ここにアンゲル ン半島というのがあります。ここがアングル
人の故郷なのですが、この地域の地形が釣針 (angle)の形をしていたことに由来します。
Q: なるほど。
A:ブリテン島に定住したアングル人は、その土地 を“Anglesʼ land (アングル人の土地)”と呼び ました。これがEnglandの語源です。同様に Englishは語源的には「釣針の地形をした場所 に住む人々の言葉」という意味になります。
Q:語源が分かると面白いですね。ところでアング ロ・サクソン人が来る以前からいたケルト民 族はどうなったのですか?
A:前回お話ししましたようにケルト系のブリトン 人などはローマの支配を受けてローマ化され ましたが、ローマ人によって迫害されること はありませんでした。ところがアングロ・サ クソン人はヨーロッパ大陸にいたころは農耕 民族でしたので土地を欲しがりました。そこ でブリトン人から土地を奪い、彼らをブリテ ン島北部の辺境地や最西端のコーンウォール、
ウェールズなどに追いやってしまいました。
いずれにしましても、イギリスと英語の歴史 はアングロ・サクソン人がブリテン島を侵略 した449年から始まることになります。
Q:ありがとうございました。では参考文献をお願 いします。
A:『英語の歴史―過去から未来への物語―』、寺澤 盾著、中央公論新社(2008年)です。
今回も興味深いお話を伺いました。一口に英語の 歴史と言っても様々な切り口があり、奥が深いと実 感したのは私だけでしょうか。
さて、ご紹介頂いた参考文献は『中公新書』の1 冊です。難解な専門用語は、極力使わずに解説され ています。そのため、この分野が専門でなくても読 み進めることが出来ます。面白いと思ったのは、英 語の歴史について書かれているのに、「英語の未来」
についても言及されている点です。過去、現在、未 来までの英語の流れを、本書で見渡してみて下さい。
(請求記号:830.2||Ter 資料ID:529245)
にゅうがく なおや
(福井工業大学准教授・英語学・英語史)
ふじい たつや(司書・主幹・アジア関係図書館)
入学直哉、藤井達也