Q:日本語の新語や誤用についてのお話が続きまし たが、英語ではどうでしょう?
A:前々回、日本語の「全然」について取り上げた ときに、この副詞は通例は「全然~ない」の ように否定表現と呼応するという話をしまし た。
Q:はい。「全然大丈夫です」のように肯定文で使 うのは不自然だと思います。
A:このように肯定文では使われず、否定文や疑 問文にしか現れない語句のことを言語学では
「否定極性表現」と言います。英語ではever はその代表格です。“I haven’t ever been to Italy.”や“Have you ever been to Italy?”と は言えますが、“*I have ever been to Italy.”
のように肯定文で使うことはできません。実 はmanyとmuchも同様です。
Q:“He has many friends.” や “He has much money.”とは言えないということですか?
A:はい。“He has a lot of friends.”や“He has a lot of money.”としなければなりません。
但し、論文や新聞記事など硬い文体では肯定 文でもmanyやmuchは使われます。また“He has too many books.”の よ う にtoo、so、
asなどの副詞に続く場合も肯定文で使われま す。さらに“Many people know the fact.”の ように主語に現れる場合も可能です。
Q:“He has many friends.”と言えないというの は驚きです。私の感覚ではmanyは普通に肯定 文で使われている感じがします。
A:今回この話を取り上げたのはそれが理由です。
Q:と、言いますと?
A:文法書や辞書などには「manyとmuchは否 定文と疑問文で用いられる」といった説明をし ているものが結構あります。ところがmanyに 関してはこれは当てはまらないのではないか と 思 い、COCA (Corpus of Contemporary American English)という電子コーパスで用 例を調べてみました。
Q:コーパスというのは実際の用例を集めた言語資 料のことですね。
A:そうです。COCAでは“have much money”
は新聞記事で30例、話し言葉で26例出てきま すが、すべて否定文で使われていましたので、
muchに関しては否定極性表現であると言え ます。ところが“have many friends”で検索 すると、新聞記事に現れる29例のうち17例が 肯定文で使用されていました。話し言葉でも 31例中17例が肯定文でした。他にも話し言葉 の 例 と し て“He has written many books
on children and families.”や“I’d met many people in nightclubs and started to chat to them.”などがすぐに見つかります。
Q:現代英語ではmanyの用法が変化しているとい うことですか?
A:そこは非常に難しいところですね。従来の文法 書などの記述が実態を捉えきれていなかった のかもしれません。さらにコーパスを見てい くと“hours”や“days”などの時間名詞が続く場 合は、“a lot of”よりも“many”の方が圧倒的に 頻度が高くなります。例えば、a lot of hours 85例 / many hours 1,478例、a lot of days 52例 / many days 1,067例、a lot of years 253例 / many years 14,490例といった具合で す。
Q:否定文とか肯定文とかいう問題ではなくなりま すね。
A:コロケーション(語と語のつながり)が優先さ れることが分かります。
Q: Manyやmuchは中学1年で出てくる誰でも知っ ている単語ですが、奥が深いですね。
A:最近の辞書、特にコーパスをベースにした英和 辞典などではmanyやmuchの語法に関する説 明がかなり実際の用法に即したものに修正さ れています。しかしまだ研究の余地が残され ていると感じています。
A:ありがとうございました。では参考文献をお願 いします。
A:『否定』、久野瞕、高見健一著、(謎解きの英文法)、
くろしお出版(2007年)です。否定文との関係で manyとmuchが取り上げられています。
今回のお話を伺い、自分は思わぬ誤用をしている のではないかと不安になりました。皆さんはいかが でしたでしょうか。
さて、ご紹介頂いた参考文献は、いわゆる堅苦し い文法書ではありません。難解な用語や単語は出て きません。しかし内容的には思わず「う~ん?」と 考えさせられ、書名にもある通り謎解き感覚で解説 が進みます。読み始めると引き込まれること請け合 いです。請求記号は835||Kunで、第1閲覧室に配架 されています。なお、『謎解きの英文法』シリーズ には他の項目を扱った物も所蔵されているので、是 非どうぞ。
にゅうがく なおや
(福井工業大学准教授・英語学・英語史)
ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館)
入学直哉、藤井達也
28
図書館員の文献紹介と 資料の活用