長いようで短かった夏休みも終わり、日の入 りの時刻が早くなり、季節は着実に本格的な秋 へと向かっているのを実感します。今年は猛暑 が連日ニュースに取り上げられるほどでしたが、
図書館内は別天地。心地良い閲覧室に足繁く通 う姿が見受けられました。
さて、それでは言語学のお話の続きと参りま しょう。
Q:前回までは多義に関するお話でした。
A:以前、多義が生じる一番の原因は意味変化 だという話をしたと思います。今回からは その意味変化について話をしたいと思いま す。言葉は時代とともに変化します。音や 文法も変わりますし、当然単語の意味も変 化します。
Q:高校の古文の時間に「おかし」という語は
「面白い」ではなく、「風情がある」という 意味だと習ったことを思い出します。
A:我々が日常使っている身近な日本語の中に も大きく意味を変えた単語はたくさんあり ますね。ところで意味変化は変化の仕方に よっていくつかのパターンに分類すること ができます。その中で今回は「意味拡大」
と「意味縮小」を取り上げたいと思います。
Q:意味拡大とは何ですか?
A:「意味の一般化」とも言いますが、語の指 し示す意味の範囲が広くなることを言いま す。例えば「瀬戸物」は本来愛知県瀬戸市 周辺で作られた陶磁器のみを指す語でした が、現在では作られた地域に関わらず陶磁 器一般を表します。つまり、「瀬戸物」は「瀬 戸市周辺で作られた陶磁器→(一般的な)陶磁 器」というように意味が拡大したわけです。
Q:なるほど。「瀬戸物」という単語は普段は意 味が一般化したことなど意識せずに使って いますね。
A:英語のrideも本来は「馬に乗る」という特定 の意味しか持っていませんでしたが、現代 では自転車やバイクなど馬と同様に跨って 乗る乗り物にはrideを使います。
Q:そう言われればriderと言う語は自転車やバ イクに乗る人を指しますが、自動車の運転 手や飛行機のパイロットには使いませんね。
ではもう一方の意味縮小とはどのようなも
のでしょうか?
A:意味縮小は「意味の特殊化」とも言われま す。意味拡大とは反対に語の指し示す意味 の範囲が狭くなることを言います。
Q:具体的にはどのような例ですか?
A:英語のdeerは現代では「鹿」という意味で すが、元々は「動物」という一般的な意味 でした。またhoundは「猟犬」という特殊 な意味で使いますが、これも本来は一般的 な「犬」という意味に過ぎませんでした。
Q:これは語源を知らなければ分かりませんね。
A:Deerと同語源のドイツ語Tierは現代でも
「動物」という意味ですし、同じくhoundと 同語源のドイツ語Hundは「犬」という意味 ですので、ドイツ語を知っている方は気付 くかもしれませんね。
Q:分かりました。有難うございました。では 参考図書をお願いします。
A:『日常語の意味変化辞典』、堀井令以知編、
東京堂出版(2003年)です。
本書は「辞典」の名の通り、あいうえお順に 項目が並べられています。日常的に使われる表 現が収録されているので、つい調べたくなって しまいます。同じ様に意味を扱った図書は他に も出版されていますが、本書では元々の意味は 何か、それがどの様に変化していったのか、例 文を挙げながら学術的に解説しています。是非 一度手にして、意味変化を感じ取って下さい。
請求記号は813.6||Hor、資料ID:は492245で、本館 の地下書庫に配架されています。
個人的な話で恐縮ですが、私(藤井)は本書 の編者である堀井先生に在学中、教えて頂いた 事があります。堀井先生は、その圧倒的な知識 の上に緻密な分析をされるというのが第一印象 でした。そして難解な内容も噛み砕いて説明さ れ、豊富な話題も相まって、思わず授業に引き 込まれていったのを、つい昨日の事の様に思い 出します。
にゅうがく なおや
(福井工業大学准教授・英語学・英語史)
ふじい たつや(司書・係長・アジア関係図書館)
入学 直哉、藤井 達也
言語学、はじめの一歩 (17)
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