LSIにおける素子ばらつきの 評価とモデル化に関する研究
大川 眞一
早稲田大学大学院情報生産システム研究科
2009 年 2 月
目次
第1章 序論 ... 1
1.1 まえがき ... 1
1.2 数の問題による素子ばらつきについて ... 3
1.3 一般的素子ばらつきの扱いについて ... 6
1.4 素子ばらつき評価における従来技術の問題点 ... 8
1.4.1 パターン密度の問題 ... 8
1.4.2 配置環境の同一性の問題 ... 9
1.4.3 レイアウトの整合性の問題 ... 11
1.4.4 従来技術の改良 ... 12
1.5 システマティック成分における従来手法の問題点 ... 16
1.6 本研究の目的 ... 18
1.7 研究の概要と本論文の構成 ... 21
1.7.1 Device Matrix Arrayの基本思想 ... 21
1.7.2 Device Matrix Arrayによるチップ内ばらつきの評価 ... 21
1.7.3 ランダム曲面モデルの基本思想 ... 22
1.7.4 ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデル ... 22
1.7.5 ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデルの性質 ... 23
1.7.6 ガウス分布回転体ベースのランダム曲面モデル ... 23
1.7.7 ランダム曲面モデルの空間相関表現とLSIデザインへの応用 ... 23
第2章 Device Matrix Arrayの基本思想 ... 25
2.1 まえがき ... 25
2.2 Device Matrix Arrayの発想 ... 25
2.2.1 素子マトリックスのアレイ配置 ... 26
2.2.2 電気的制御とレイアウトの整合性 ... 26
2.3 Device Matrix Arrayの技術 ... 27
2.3.1 計測バスのアーキテクチャ ... 27
2.3.2 MOSトランジスタ測定回路 ... 29
2.3.3 抵抗測定回路 ... 30
2.3.4 容量測定回路 ... 31
2.3.5 サンプル回路 ... 35
2.4 分析手法 ... 37
2.4.1 4次多項式近似 ... 37
2.4.2 従来手法との比較 ... 39
2.4.3 分析項目一覧 ... 41
2.5 まとめ ... 41
第3章 Device Matrix Arrayによるチップ内ばらつきの評価 ... 43
3.1 まえがき ... 43
3.2 アーキテクチャおよび評価精度 ... 44
3.2.1 MOSトランジスタ測定 ... 45
3.2.2 抵抗測定 ... 48
3.2.3 容量測定 ... 49
3.3 解析手法 ... 52
3.4 結果と議論 ... 54
3.4.1 測定結果の観察 ... 54
3.4.2 ばらつき特性分析 ... 55
3.4.3 リングオシレータのばらつき要因解析 ... 58
3.4.4 システマティック成分とランダム成分の相関解析 ... 59
3.5 まとめ ... 61
第4章 ランダム曲面モデルの基本思想 ... 63
4.1 まえがき ... 63
4.2 ランダム曲面モデルの発想 ... 64
4.3 ユニバーサルなランダム曲面モデル ... 70
4.4 理想ランダム曲面に関する議論 ... 74
4.5 まとめ ... 76
第5章 ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデル ... 77
5.1 まえがき ... 77
5.2 4次多項式近似と擬似システマティック成分 ... 78
5.3 ルジャンドル多項式の適用 ... 78
5.4 ランダム曲面モデルの意義 ... 82
5.5 数学的解析 ... 82
5.6 次数と曲面の複雑度 ... 84
5.7 ランダム曲面モデルの適用 ... 87
5.8 まとめ ... 91
第6章 ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデルの性質 ... 93
6.1 まえがき ... 93
6.2 モデルの数式表現 ... 93
6.3 モデルの基本的性質 ... 95
6.4 まとめ ... 97
第7章 ガウス分布回転体ベースのランダム曲面モデル ... 99
7.1 まえがき ... 99
7.2 ガウス分布の回転体を応用したランダム曲面モデル ... 99
7.3 数学的性質 ... 101
7.4 まとめ ... 108
第8章 ランダム曲面モデルの空間相関表現とLSIデザインへの応用 ... 109
8.1 まえがき ... 109
8.2 ランダム曲面モデル ... 110
8.3 ランダム曲面モデルの適用 ... 112
8.4 データ収集方法 ... 113
8.5 実データの特性 ... 114
8.6 まとめ ... 118
8.7 付録 ... 119
8.7.1 なぜ4次多項式近似を使うのか ... 119
8.7.2 システマティック成分の抽出について ... 120
第9章 結論 ... 121
謝辞 ... 129
参考文献 ... 131
本研究に関する発表 ... 137
第1章 序論
1.1 まえがき
本研究論文は,LSIにおける素子ばらつきの問題を取り扱っている.ばらつきの問題と聞くと,
さして新しい話題ではないように聞こえるかも知れないが,決してそのようなものではない.こ こで取り扱う素子ばらつきの問題とは,限界論的な性質のものであり,極めて先端的研究対象な のである.今から数十年前の研究者にとっては,まさかこのような問題が,LSI の技術的進展に 対して,究極の壁として立ちはだかるとは,到底想像が及ばなかったであろう.これは予想外の 出来事なのである.過去,LSI の進展において,様々な限界要因が訪れたが,それを乗り越えて 進んできた.しかしとうとう巨大な壁を見てしまったのである.それがLSIにおける素子ばらつ きの問題なのである.ここに至るまでは長い道のりがあった.
LSIが産声を上げた1970年頃,トランジスタの集積数は千個程度であったが,それが現在では 十億個に達するまでになった.この集積度の向上を支えているのが,素子の微細化であり,現在 では45nmルールで設計されるようになっている[1], [2].トランジスタのゲート電極の仕上がり 寸法は約30nmであり,シリコン原子の並ぶ数で言うならば,百個程度でしかない.
過去,LSI の進歩はいくつかの壁にぶつかり,大きな方針転換や,革新的技術によって,それ を乗り越えてきた.まず初めに訪れたのがトランジスタのゲート酸化膜の絶縁耐圧の問題で,ス ケーリングが進むにつれ,ロジックICの標準電源電圧の5Vが保てなくなった.今から15年ほ
ど前の0.6μm世代の時に電源電圧の第二の標準として3.3Vという規格が誕生したが,やがてそ
れも保てなくなり,0.25μm世代,0.18μm世代,0.15μm世代においては,2.5V,1.8V,1.5Vと いう風に電源電圧は引き下げられた.
この頃,アルミ配線の限界が訪れる.エレクトロマイグレーションによる断線の確率が上昇し,
信頼性の問題が顕著になってきた.それに対して,0.13μm 世代を境に,一つの革新的技術が導 入される.Cu CMP(Copper Chemical Mechanical Polishing)プロセスの登場である[3]-[5].
Cu配線はエレクトロマイグレーションに圧倒的に強く,さらには導体としての抵抗も低く,配線 の時定数の削減にも効果がある[3].また同時に,もう一つの革新技術として,Low-k層間絶縁膜 材料の導入が行われた[6], [7].配線の絶縁材には長いことSiO2(比誘電率4.1)が用いられてき たが,それがSiOF系[6],SiOC系[8]へと進み,誘電率を数十%下げることに成功した.
しかしここでまた,再び電源電圧の問題が発生する.0.13μm世代で1.2Vにまで引き下げられ たが,LSI の歴史はここでまた限界を迎える.電圧を引き下げることができない.この問題に関 しては,本論文の中でも扱うが,MOSトランジスタにおけるゲートの実効バイアスの問題と,素 子ばらつき(特に入力閾値ばらつき)の問題で,電源電圧を下げる余地はほとんど残されていな いのである.ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)のロードマップ では,過去何度も電源電圧の降下トレンドが修正され,2007年版でもまだ電源電位の低下が織り 込まれているが,現実的には電源電圧を下げる余地はほとんど残されていない.低消費電力のア
プリケーションでは VT(MOSの入力閾値)の高いトランジスタを使わざるを得ないのだが,こ の時,フェルミレベルシフト(バンドを曲げる)のために,0.6V程度の電圧が必要となる.さら に VTばらつきのために,数百 mV のマージンを確保する必要がある.よって,電源電圧は下げ られないのである.実際,低消費電力アプリケーション用の MOS トランジスタでは,90nm 世 代,65nm世代に1.2Vの電源電圧が引き継がれた.45nm世代ではかろうじて1.1Vの電源電圧 が採用された.しかしこれ以降,せいぜい1.0Vに下げるのが精一杯で,その先の電源電圧低減は ないであろう[9].
このような状況下でのスケーリングでは,ゲート酸化膜そのもののリーク電流が顕著になる.
これは,酸化膜厚が2nmを切るようになり,トンネル効果(量子的波動の漏れ)による電流が無 視できなくなったためである.そこで,SiO2(あるいは SiON[10])に代わり,High-k(高誘電 率)の絶縁膜が導入された[11].具体的にはハフニウムシリケート(HfSiO)を基本とした絶縁膜 である[12], [13].同じゲート入力容量を保ちながら,絶縁膜厚を厚くすることが可能になり,リ ーク電流の大幅な削減が実現できる.その一方でメタルゲートの導入も始まった.今までのゲー ト電極材料のポリシリコンでは,ゲートの空乏化という現象があり,酸化膜と接する近傍でのキ ャリア(電子または正孔)の消失が発生し,電極として有効に作用しなくなるという問題が生じ る.それに対する新たな技術として,ゲート電極のメタル化という方法が導入され始めた[11], [14].
このようにLSIの歴史の中では,幾多の物理限界が発生し,大きな方針転換や,革新的技術の 導入を繰り返しながら進化を続けてきた.しかしそのような“物理限界”とは異質な限界要因が 新たに発生してきていることに LSI の歴史は気づき始める.それは 0.13μm 世代頃に始まり,
45nm 世代の現在では,深刻な問題に発展している.それは“統計的限界”から発生する“素子 ばらつきの問題”であり,今までの物理的な限界論とは全く異質な世界を持つものである.
元々の“ばらつき”という言葉は,耳慣れた言葉であり,その基本的概念は比較的容易に理解 できるものである.今までの,数百年に渡る産業の歴史においても,工業製品のばらつきという ものは,当然のように存在した.50年近いICの歴史の中にも,当初からばらつきの問題は発生 していた.しかし,現在,“全く異質なばらつきの問題”が発生しているのである.それは“統計 的限界”によって発生しているものである.(MOS トランジスタのミスマッチに関しては
Pelgromの論文[15]が有名であるが,それよりもさらに新しい異質な問題が発生している.)
旧来のばらつきと,この新しいばらつきの違いを簡単に説明することは難しい.しかし,それ を試みねばならない.まず主題を理解することが重要である.今までのばらつきの概念というの はマクロな問題として扱えられてきた.例えば,金属であれば,金属という物質の連続体であり,
離散的概念は不要である.しかし,極限まで小さいスケールで考えるならば,それはミクロの世 界に変わり,原子という不連続体の集まりである.今問題となっているばらつきの世界は,この ミクロな世界の問題である.しかし,単純にミクロなだけの問題ではない.ミクロの世界でも,
原子は等間隔に並んでおり,ある体積の中には,決まった数の原子が入る.実は,それ以上に複 雑な問題が発生しているのである.それは“不純物原子数の揺らぎ”である[16], [17].
半導体(シリコン)の結晶の中には,不純物原子が導入されているが,現在のLSIの世界では,
その混入率は,おおよそ1ppm~1%である.結晶を構成するシリコン原子の数から比べると圧倒 的に少ない.この場合には,統計的に特有の現象が起こる.たとえば,ある体積の中に不純物原
子が平均で千個入っていたとしよう.この千個という数が安定であるか否か.実は安定ではない.
おおよそ√1000 ≈ 32の分布(σ)を持ってばらつくのである[46].その分布形状はほぼ正規分布 に近い.(より正確にはポアソン分布に近い.) 1000個に対して32であるから,標準的に3.2%
のばらつきである.22分の1の確率でばらつきは6.4%(2σ)を超え,370分の1の確率で9.6%
(3σ)を超える.このようにシリコンの結晶の中に,低い確率で分散して存在する不純物原子は,
決して安定した数を保つ性質のものではなく,基本的にばらついてしまう性質のものである.こ れは確率的な現象であり,統計的に扱われるべき事象である.
このばらつき(確率的な揺らぎ)は人為的に制御することができない.ある世代のプロセス(デ バイス構造)が決まってしまうと,その後の製造技術の向上で改善することができない.しかも 世代を重ねる毎に,ばらつきは増えて行く.素子が縮小されて,一つの素子に含まれる不純物原 子の数が減り,その数の揺らぎが増すためである.たとえば,不純物原子の数が100に減少すれ ば,√100 = 10の分布(σ)を持つようになる.標準で10%のばらつきが発生する.この状態は,
決して先の未来の話ではなく,65nm世代ないし45nm世代で既に始まっているのである.今ま で,工業製品では物質を連続体として扱っていたのが,数百年の時を経た今,ついに原子の数の 壁を垣間見ることになったのである.
さて,話をまとめよう.LSIはその約40年の歴史の中で,著しい発展を遂げつつ,いくつかの 障壁を乗り越えてきた.その障壁のほとんどは物理的限界であり,その問題は,デバイス構造の 変更や,製造方法の変更,使用材料の変更等の施策により解決されてきた.しかしこのLSIの40 年の歴史の中で,初めて出会う異質な問題が発生する.新たな素子ばらつきの問題である.統計 的限界により,制御不能,改善不能なばらつき成分の存在が顕著化してきた.これは全く新しい 技術テーマであるのと同時に,新たな英知を必要とする学術的テーマでもある.デバイス技術,
評価技術,モデル化技術,設計技術,CAD技術,およびそれらを支える学術において,広く,多 くの革新が必要とされている.
本論文のテーマである「LSI における素子ばらつきの評価とモデル化に関する研究」は,この ようなLSIの歴史における新たな障壁に対し,革新的発展によりそれを乗り越えようとする動き に呼応し,世界に先駆けて,その一翼を担うべく挑むものである.第一には,チップ内素子ばら つきの詳細な評価技術の開発であり,第二には,素子ばらつきを表現するための新たな数学概念 の創出が目標である.
本章の構成を以下に示す.第1章2節においては,素子を構成する不純物原子数の問題につい て説明する.第1章3節では,素子ばらつき全般の分類方法について解説する.第1章4節では 素子ばらつき評価における従来手法の問題点を論じる.第1章5節ではシステマティック成分に 対する従来の考え方を解説する.第1章6節では本研究の全体象を説明する.第1章7節では本 論文の構成と各章における記述内容の概要を述べる.
1.2 数の問題による素子ばらつきについて
LSI の世界において,一部の連続信号を扱うアナログ的回路を除けば,チップ内の素子ばらつ きは無視できるものとして扱われてきた.主なばらつき要因はチップ間ばらつき(ウェハ面内ば
らつきやウェハ間ばらつき)であり,チップ内の素子の特性は一様であるとされてきたのである.
厳密には,ロジックLSIの素子においても,チップ内の素子ばらつきというものは存在したので あろうが,信号振幅は5Vもあり,それに対して数 mV程度のばらつきというのは,全く無視し ても差し支えなかったからである.
この扱いは長いこと,何の疑いもなく受け入れられ続けてきた.その歴史は30年以上に及ぶ.
しかし,今から10年ほど前,その教義は疑われ始めるようになる.チップ内の素子にもばらつき は存在し,確率的に扱われることが必要な性質のものであることが明らかになってきた.0.18μm の世代で,VTのばらつきのσは10mVを超え始めた.無視できない水準になりつつあった.
このようにチップ内での素子ばらつきの,その主たる原因は,統計的な問題によって発生する,
不純物原子の数の揺らぎにあった[16], [17].LSIにおけるシリコン結晶中への不純物の導入方法 には,一般的にイオン注入法が用いられる.電界によって加速した不純物原子をシリコンウェハ へ打ち込む.この時,イオンビームは,ウェハ上を均一にスキャンし,表面の不純物原子濃度が 一定になるように制御されている.しかし,この一定という概念はマクロな見方の場合で,ミク ロに見た場合にはそうではない.図 1.1 はある一定の区画にイオン注入をした時のイメージを図 にしたものである.図1.1(a)は1区画に平均500個を打ち込んだ場合の例である.この場合では,
区画毎の差異を認識するのは難しい.図1.1(b)は1区画に平均100個を打ち込んだ場合である.
区画による差異を認識し易くなってくる.
(a) 区画内平均個数500個 (b) 区画内平均個数100個
図1.1 不純物分布の揺らぎのイメージ
平均として,500個と 100個であるが,その区画内の個数は,実際にはばらつきを持つ.どの ような分布になるのかというと,それはポアソン分布に従う(数が大の場合はガウス分布に近づ く).図1.2は1区画に平均500個と100個の場合の,1区画に入る不純物原子数の分布を示した ものである.モンテカルロシミュレーションにより,1 万区画分のデータを集計した.500 個の 場合で約22個,100個の場合で約10個の分布(σ)を持つ.特に100個の場合では,おおよそ
±30%の分布範囲を持つ.
このような大きなばらつき幅を実際の素子は持ち得るのかどうか? 実は以外に簡単にこの領 域に入り込んでいるのである.図1.3は90nm世代の最小サイズのトランジスタに含まれる,不 純物原子数と,チャネルの電子数を求めたものである[18], [19].この世代において,既に不純物
原子数は200個を切る.電子数はおおよそ100個でしかない.45nm世代ともなれば,不純物原 子数は100個を切り,電子数はおおよそ数十個にまで下がると見積もられる.このようにLSIは 数の問題で不可避のばらつきの問題に直面している.このことが現代における素子ばらつきの問 題を深刻かつ異質なものにしているのである.
0 200 400 600 800 1000
0 100 200 300 400 500 600 700 800
区画内の不純物原子数 頻度
0 200 400 600 800 1000
0 20 40 60 80 100 120 140 160
区画内の不純物原子数 頻度
(a) 平均個数 = 500
(b) 平均個数 = 100
図1.2 区画内不純物原子数の分布
図1.3 不純物原子数とチャネルの電子数の見積もり
1.3 一般的素子ばらつきの扱いについて
さて,前節において,MOSトランジスタの特性ばらつきが,不純物原子数の揺らぎによる影響 を大きく受けていることについて述べた.大変象徴的な出来事であり,LSI の世界に新たな変革 を求める最大の要因となっている.しかし,だからと言って,素子ばらつきの問題が,このこと だけに集約されるわけではない.素子ばらつきの問題は広く一般的に,統合的な扱いが必要であ る.そのためには素子ばらつきの問題全体に対して,統計的手法を導入する必要がある.
まず,基本的な大分類として,図1.4のように,
ウェハ間 → ウェハ内 → チップ内 という3段階がある.
Inter-Wafer
0
0
- 1 6 - 1 2 - 8 - 4
048
1 2 1 6
0
0
- 1 6 - 1 2 - 8 - 4
048
1 2 1 6
x
y
0
0
- 1 6 - 1 2 - 8 - 4
048
1 2 1 6
x y
x
y
x
y
x Variation . y
x
y Intra-Wafer Intra-Die
Decomposition
Raw Data Systematic Random
図1.4 素子ばらつきの大分類
さらに,チップ内ばらつきは,成分分離により,
・システマティック成分(連続的な曲面成分の特性変動)
・ランダム成分(位置に依存しない独立なばらつき)
の 2 種に分けられる[20].厳密にはウェハ間ばらつきの上位の考え方として,ロット間ばらつき がある.また,ウェハ内ばらつきも,システマティック成分とランダム成分に分離が可能である.
よって,厳密なクラス分けとしては,
・ロット間ばらつき
・ウェハ間ばらつき
・ウェハ内ばらつき(システマティック成分/ランダム成分)
・チップ内ばらつき(システマティック成分/ランダム成分)
となる.素子ばらつきを統合的に扱うためには,上記分類に沿ったばらつきの評価が必要とされ る.また,ばらつきをシステマティック成分とランダム成分に分離するための数学的手段も必要 である.(これらは本研究における第一のテーマに該当する)
素子ばらつきの評価や観測という面では上記分類となる.しかし一方,設計の段階では,また 別の分類が必要となる.それは以下のような3成分への分類である.
・チップ間ばらつき
・チップ内システマティックばらつき
・チップ内ランダムばらつき
設計の段階,あるいはLSIの最終製品になった段階では,元のウェハレベルでのばらつきや,ロ ット間でのばらつきは知る必要がない.LSI の最終段階であるチップという状態では,チップ全 体での素子パラメータの平均値と,個々の素子における平均値からの変動が分かれば良いからで ある.よって,ロット間ばらつき,ウェハ間ばらつき,ウェハ内ばらつきに関しては,すべてチ ップ間ばらつきとして集約される.この3成分に分けられたばらつきは,統計的性質として,以 下のような特徴がある.
・チップ間ばらつき
[ 素子間のばらつきはすべて共通であり,相関係数1で計算される ]
・チップ内システマティックばらつき
[ 素子間のばらつきは位置による依存があり,相関係数は距離依存を持つ ]
・チップ内ランダムばらつき
[ 素子間のばらつきは完全に独立であり,相関係数0で計算される ]
相関係数1の場合のばらつきの加算は,ばらつきの大きさをσで表現するとして,
σ1 +σ2 +σ3 + ・・・ +σn (1.1) と計算される.一方,相関係数0の場合は,
√(σ12 +σ22 +σ32 + ・・・ +σn2) (1.2)
と計算される[47].いずれにせよ,その計算式は単純である.しかし問題なのはシステマティッ クばらつきの場合で,式(1.1)や式(1.2)のような単純な計算ができない.厳密に考えた場合,チッ プ上のすべての素子間の相関係数を考慮し,そこから生成される巨大なマトリックスを解かなく てはならない.計算量は極端に膨大なものになる[21].しかも,必ずしも安定して解が得られる というわけではない.また,そもそも,システマティック成分の表現で,相関係数の距離依存と いう取り扱いの正当性というのは確立されていないのである.そこで,システマティック成分を 適正に取り扱う新たな数学概念が必要になってくる.本研究における第二のテーマがそれである.
ここまでの説明では,素子ばらつきの代表的要因として MOS トランジスタを上げてきた.し かし,実際には,それ以外の素子も,LSIの論理回路の遅延時間ばらつきに寄与する.MOSトラ
ンジスタを含め,項目を列記すると以下となる.
・MOSトランジスタ(VT,ION,ゲート入力容量,ノード容量)
・配線(抵抗,容量)
・ゲートポリ抵抗
・拡散層抵抗
・ビア抵抗
・コンタクト抵抗
MOSトランジスタのVTおよび IONを除けば,統計的限界(数の問題)によるばらつきではない が,リソグラフィーのばらつき,エッチングのばらつき,成膜のばらつき,CMP工程のばらつき 等により,素子パラメータがばらつく.特に微細化の進展と共にこれらのばらつきについても,
正確な情報が必要とされている. LSIの遅延時間ばらつきを正確に評価するためには,上記の項 目についての詳細な調査が必要となる.また,各項目の評価は,大きな単位としてはロット間ば らつきから始まり,小さな単位ではチップ内ばらつき(システマティック成分/ランダム成分)
にまで至る.大規模かつ緻密な分析能力を備えた評価方法の確立が必要となる.これは,本研究 の第一のテーマに該当する.
1.4 素子ばらつき評価における従来技術の問題点
素子ばらつきを評価する方法は古くから存在するが,最新の素子ばらつき事情,即ちLSIチッ プ内素子ばらつきというものを評価ターゲットとした場合,従来の技術では様々な問題がある.
「パターン密度の問題」,「配置環境の同一性の問題」,「レイアウトの整合性の問題」等である.
まずこれらの問題点について議論する.さらに従来技術の改良について取り上げ,その手法の限 界について論じる[22]-[32].
1.4.1 パターン密度の問題
たとえば色々なサイズのトランジスタを評価するとしよう.旧来から使用されている最もスタ ンダードな評価の形は図1.5のようなものである.ここでは,MOSトランジスタ1個のパターン
が 200μm□である場合を仮定して話しを進める.チップサイズを 5.6mm□とした場合,このパ
ターンは28×28 = 784個搭載できる.平方mm当たりのパターン数は23.3個である.それに対
して,本研究の成果の一つである DMA(Device Matrix Array)では 4mm□の中に,148×14
×14 = 29,008個のパターンを搭載する(3章にて詳述する).平方mm当たりのパターン数は1813 である.約2桁の差がある.従来の方法の最大の問題点は,このパターン密度の低さである.
この状況でチップ内素子ばらつきを調査するとしよう.統計的に信頼のある分析を行うために は,一つの素子に対して,数百個のサンプル数が必要となる.たとえば,第一世代の DMA では
196(14×14),第二世代では256(16×16)のサンプルサイズであった.これを旧来のTEGチ
ップに当てはめてみよう. 2×2で4種の素子をひとまとめにして14×14のアレイを構成できる.
注)
VT :ゲート入力閾値電圧 ION:標準動作電圧に
おけるオン電流
しかし搭載できる素子の種類はわずかに4種である.もしこれをDMAと同等の148種を評価し ようというのであれば,148/4 = 37チップが必要となる.5.6mm□のチップをレチクルに面付け
する場合4×5 = 20であり,ほぼ2種の拡散ロットを占有することになる.そのための予算はお
およそ 2億円である.それに対し,DMAは1チップであり,その予算は数百万円である(チッ プの面積差を考慮).まずこの点において従来の手法は大きなハンディを背負っている.
148 種という数は決して多いものではない.最低限のバリエーションに絞り込んだ結果の数値 である.より本格的に評価しようとすると,より多くのバリエーションを必要とする.DMA の 第二世代では,基本の素子バリエーションは175に増強された.また,0度と90度の両方のパタ ーンを搭載した.アレイ構成も16×16に拡張された.トータルでの搭載素子数は89,600個であ る.同じことを従来技術で行う場合,約 4.5 億円の予算が必要になる.このような巨額の予算を 投入しても,測定されるのは最も基本となるバリエーションに限定されてしまう.しかし実際は,
より多くのバリエーションを評価する必要があり,第二,第三の DMA チップを必要とするのが 現状である.こうなると,従来技術では10億を超える予算が必要になり,もはや現実性が乏しく なる.このように従来技術では,LSI チップ内素子ばらつきを総合的に調査するには,あまりに パターン密度が低すぎるのである.この壁を越えるためには,最低でも1桁,できれば2桁以上 のパターン密度向上がなされないと,予算的に現実的でなくなってしまう.
1 . 4 . 2 配置環境の同一性の問題
まず,従来技術の問題点として,パターン密度の低さ(予算的問題)を取り上げた.この問題 に関しては,開発予算が潤沢にある,特定の巨大企業ではクリア可能であろう.測定も,1台が5 千万円ほどするような高性能のパラメトリックテスターを10台ほど購入すれば良い.そうすれば,
他社に先んじて,素子ばらつきのデータの収得が可能である.(ただ,それを実行可能な企業は,
図1.5 従来技術によるTEGチップ
5.6mm×5.6mm TEG 28×28 = 784
パターン 拡大
Gate Well
Source Drain
200μm×200μm TEG Pattern 探針パッド
世界中を見渡しても10社あるかどうかと思われるが)
このような方法でひとまずデータの収集は可能である.しかし,そのデータのクオリティには 問題が残される.「配置環境の同一性の問題」が残る.たとえば,素子ばらつき評価用に20個の チップのセットを開発したとしよう.これをレチクル上に面付けする.たとえば,図 1.6 のよう に4×5の配置にする.Tr1~Tr8がMOSトランジスタの測定パターン,C1~C6が容量の測定 パターン,R1~R6が抵抗の測定パターンである.
Tr1 Tr2 Tr3 Tr4
Tr5 Tr6 Tr7 Tr8
C1 C2 C3 C4
C5 C6 R1 R2
R3 R4 R5 R6
図1.6 レチクルの面付け例
さて,この場合に何が問題か? 問題は主に二つある.第一には,そもそもチップが別になっ ているということが問題である.今仮にTr1チップとTr2チップが同一パターンであるものとし よう.この時,Tr1チップにあるばらつき傾向が見られたとする.それではTr2チップでも同様 の傾向になるのか? もし同様になるというのであれば支障はないが,違っている場合は問題で ある. Tr1チップとTr2チップに相違のパターンが入っているとしよう.Tr1チップとTr2チッ プで別のばらつき傾向が見られたとする.この場合,ある大きさで,Tr1チップとTr2 チップの 双方がばらついているという事実までは分かるが,それが搭載しているパターン形状の違いから 発生するのか,それともチップが別であるという問題から発生するのかは判断できない.
このような問題は主に隣接チップの影響から発生する.図 1.6 では模式的にばらつき測定用の チップを配置した.しかし実際,多くのTEG用レチクルでは,目的に応じて様々なチップが配置 されるのが通例である.横に来るチップが必ずしもレイアウト的に,自分と同様のレイアウトパ ターンを持っているとは限らない.そのため,同じ評価チップだとしても,近隣に配置されてい るチップのレイアウトの影響を受け,特性の同一性は必ずしも保証されないという問題が生じる.
第二の問題はレチクル上の面付け位置の問題である.レチクルの露光は完全に一様ではない.
露光装置のレンズ口径は有限であり,中心部と外周部では露光のクオリティに差が生じる.通常,
露光にはスキャン露光装置が使われる.図 1.7 はそのイメージ図である.横にスリット状の露光 範囲があり,これが縦方向に走査される.縦方向はスキャンであるため,露光特性に差はない.
しかし横方向はレンズの特性(フォーカスの制御)により差異が生じる.特に両端はレンズの外 周部に近くなるので露光差が生じ易くなる.これを嫌って,精度の要求されるTEGでは,レチク ルの露光範囲の横幅一杯を使用しない場合もあるくらいである.
露光範囲 スキャン方向
図1.7 スキャン露光のイメージ
このように,素子ばらつき評価という面から見て,チップが異なるというのは,収得されるデ ータのクオリティ上,大きなハンディとなる.単純にばらつきの大きさだけを評価している場合 はまだ良いが,相互関係を評価する場合の障害となる.従来技術で,データのクオリティに問題 が残される所以である.
1.4.3 レイアウトの整合性の問題
従来技術(図1.5)による素子評価TEGの場合,通常のLSIチップと比べて,レイアウトは特 異なものになる.図 1.8 にそれを示す.図 1.8(a)は最上層のアルミのパターンである.これは探 針用の電極として用いられ,単純な矩形のパターンが使用される.これに対して,LSI のロジッ ク部では,通常アルミのパターンは,ゆるい設計基準で,電源等に使用される.よってアルミ層 に関しては特に特性ばらつきは問題とはならない.図 1.8(b)は Cu 層のパターンである.単純な 矩形の中に小さなくりぬきを配置した形状を取る.くりぬき部分はCu CMPでのディッシングに よる過度の研磨を防止するために設けられている.ある一定の比率以上に設計するようにルール が定められており,この部位は絶縁酸化膜で形成されている.図 1.8(c)は拡散層とゲートポリシ リコンのパターンである.中心部のトランジスタ以外は,矩形のダミーパターンで埋め尽くされ る.これに対して,通常のLSIでは図1.9のようなレイアウトになる.拡散層を除けば,基本的 にライン&スペースの構造となる.図 1.8 とは全く様相が異なる.このように極端にレイアウト 形状が違っている場合,どのような特性変化があるか予想できない.特に特性ばらつきに関して は,周辺形状による依存が懸念され,従来技術はその点においてデータの信頼性を欠く.
では,実際のLSIのロジック部に似せて作れば良いという考え方もある.たしかに工夫の余地 はあり,拡散層とゲートポリシリコンに関しては,それが実行可能である.しかし配線層ではそ
れができない.パッド部分に関しては,他の部位とは違って,機械的強度が要求されるためであ る.探針時の応力に対して,物理的な破壊が生じないよう,実験的に強度が保証された,ある特 定の形状で設計されることが必要である.そのため,配線層に通常のロジック部と同様なレイア ウトを適用することは事実上不可能であり,どうしても大量にパッドをアレイしたという特異な レイアウト形状にならざるを得ないのである.
アルミパッド ポリイミド開口部
Cu 層 くりぬき
拡散層
ゲートポリシリコン
(a) アルミ層 (b) Cu 層 (c) 拡散層とゲートポリシリコン
図1.8 従来技術によるレイアウトパターン
(a) Cu 層 (b) 拡散層とゲートポリシリコン
図1.9 通常のロジックパターンの例
1.4.4 従来技術の改良
前節で取り上げた従来技術は,素子ばらつきを評価するためには,あまりに効率の悪い方法で ある.わずか数μm□ないし数十μm□の測定パターン一つに対して,パッド設置のために,数百 μm□もの占有面積を必要としてしまうからである.これに対してある程度の工夫の余地はある.
たとえば一例として,図1.10のような方法が考えられる.ばらつきを測定することに目的を特化
し,複数ある MOS トランジスタのゲート電極とソース電極をマージしてしまうのである.ウェ ル電極もソース電極と共通にする.この方法を適用すれば,本来4個分のスペースであったエリ アに,12個の素子を配置できる.このような構成を適用した場合,ソースとドレインの入れ換え 測定ができない,ウェル電位を振れないなどの制約事項は発生するが,従来の 3倍の素子密度を 達成できる.ばらつきに対するデータ収集能力を優先するのであれば,このような方法も有効な 手段の一つである.
Gate
Source Drain
1
Drain 2
Drain 3
Drain 4
Drain 6
Drain 5 Drain
12
Drain 7 Drain
11
Drain 10
Drain 9
Drain 8
図1.10 従来技術の改善(MOSトランジスタ)
しかし,まだ十分な水準ではない.より積極的な手段を試みることができる.それは図1.11のよ うな方式である.この方法ではアクティブマトリックス(電気的切り換え)を用いている.アク ティブマトリックスを用いた方法については文献[22]-[32]において報告されているが,図1.11は それを模式的に表現したものである.中心部のMOSトランジスタのアレイが被測定素子である.
その外周部を取り囲むのは,電気的切り換えを行うためのトランスファゲートで,最外周に配置 される制御回路によって,特定のトランジスタを選択するように動作する.この方式は,大変素 直な発想で,基本的に筋は悪くない.図では 8×8 で64 個のサンプルであるが,16×16 に増や せばサンプル数は256個となり,統計的な有意性も高くなる.第3章で詳述するが,このくらい のアレイサイズがあるとチップ内ばらつきの観察が精度良く行えるようになる.ではこの方法で 目的を達成できるのか? この方式の精度を検証してみる.
図1.12は,16×16 のアレイ数での構成を模式的に示すものである.スイッチとして図示して いる部分はnMOSとpMOSで構成されるトランスファゲートである.図1.11では作図の都合に より,ゲートの制御関連の回路を左右に分けて書いていたが,実際に分ける必要はなく,図1.12 では左側にまとめて書いている.縦に並べるトランジスタ数も16個に限定する必然性はない.複 数のトランジスタ(たとえばサイズ違いで数十種)を一組にして16段に並べても良い.ここでは
概略の寸法として,チップサイズが5mm□,アレイエリアが4mm□であるものとする.(1区間
は250μm□となる.) この状態で得られる測定精度について考察してみる.
制御回路
制御回路 Drain
制 御 回 路
制 御 回 路
Source
Gate 2 Gate
1
図1.11 従来技術の改善(アクティブマトリックス)
拡大
拡張
S 制御信号
G D
図1.12 16×16アレイ構成での模式図
測定精度を追求する場合,問題となるのは寄生抵抗とリーク電流である.まず寄生抵抗につい て検討してみる.図1.12の太線(縦)で描かれた配線の仕様を以下とする.
・幅40μm,長さ4000μm(実際は同一チップにnMOSとpMOSを搭載することを想定)
・最上層(厚膜20mΩ□)の2層を重ね合わせで使用
この時の配線抵抗は1Ωとなる.横方向の配線を,幅100μm,長さ4000μmとするならば,配線
抵抗は0.4Ωと計算される.合計で1.4Ωである.この時のMOSトランジスタのION(オン電流)
に及ぼす影響を,130nm世代のW/L = 2μm/0.1μmの場合で見積もった結果,約0.2%であった.
この数値は十分に低く,素子ばらつきの調査を目的とした場合の障害にはならない.寄生抵抗の 影響はトランスファゲートの部分にも現れる.被測定素子のゲート幅を最大2μm だとして,ION
への影響を仮に2%に抑えるためには,トランスファゲート部分のnMOSとpMOSのWを,各々
100μm および 250μm 程度に設定する必要がある.素子ばらつきの評価目的であれば 2%の特性
シフトは許容範囲内である.(必要ならばシミュレーションベースで誤差を補正すれば良い.) さて,このような条件で,測定系全体のリーク電流の影響はどうであるか? これについて見 積もってみよう.仮に被測定素子の平均Wを1μmとして,素子の種類が20種あったとする.縦 1列に並ぶトランジスタの総Wは1μm×20×16 = 320μmである.今選択されているトランジス タのWは,最小サイズの0.2μmであったとする.この場合の図1.12に対する等価回路は図1.13 となる.トランジスタに付記される数値はWをμm単位で表している.
320 x15 0.2 x15
100 x 15 250 x 15
100 x 15
250 x 15
320 0.2
100 250 100
250
320 x15 0.2 x15
100 x 15 250 x 15
100 x 15
250 x 15
320 0.2
100 250 100
250
off on
off on
on on
off off
Vdd Vdd
(a) (b)
I2 I1
I1 I2
I1 I2
off off
I7 I5
I3 I4
I3
I4 off on
I8 I6
※ ※
VG
図1.13 リーク電流見積もりのための等価回路
まずフルにバイアスが掛かって,被測定トランジスタがオンになっている状況を考える.(図
1.13(a)) ※印のトランジスタが評価対象である.I1がIONでI2はリーク電流である.この状態
では,リーク電流は主に下側のnMOSトランジスタ(W = 100μm×15 = 1500μm)で決定され
る.仮にこの評価回路がハイパフォーマンスのトランジスタで構成されていたとする.この場合,
トランジスタのオフリークはtypical値で1nA/μm程度であるが,max値は約 6nA/μm となる.
リーク経路のトランジスタのWは1500μmであるから,1500μm×6nA/μm = 9μAのリーク電流 が流れる.W = 0.2μmのトランジスタのIONは,おおよそ140μAなので,リーク電流の9μAは 非常に問題のある数値である.この電流は5分の1以下に下げる必要がある.そのための施策と しては,以下のような方法が考えられる.
・ミドルパフォーマンス用のトランジスタ(オフリークmax値で1.2nA/μm)を使用する.
・トランスファゲートのサイズを5分の1にする.(W = 2μmの測定でIONが10%程度低下)
上記のいずれかの方法でリーク電流を 1.8μA に抑えたとする.これならば許容できるのかどう か? 次にVT測定の場合(図1.13(b))を考えてみる.VGは0VからVdd(たとえば1.2V)まで の可変となる.VG = 0Vの場合,リーク電流は最下段のnMOSトランジスタの総計1600μmを基 本に考える.オフリークを1.2nA/μmで計算するなら1600μm×1.2nA/μm = 1.92μAである.こ の電流は,実際には中段のnMOSトランジスタの影響を受け(I5,I6,I7,I8),概ね半分の1μA 程度になる.この電流は許容できるのかどうか? 実は問題である.最小サイズの MOS トラン ジスタ(W = 0.2μm)のVTを測定する場合,定義電流は,一例として0.2μA程度の値が用いら れる.リーク電流よりはるかに小さい.よって更なるリーク電流対策が必要である.
先に上げた二つのリーク対策の双方を実施したとしよう.その場合,リーク電流は0.2μAとな り,VT測定の定義電流と同等になる.※印のトランジスタをオフした状態でのリーク電流を基準 に,オフセット分を差し引くという方法が考えられるがこれは必ずしもうまく行かない.なぜな らば,ゲートバイアス電位のVGを上昇させて行く段階で,リークパスのI7が変調を受けるので,
精度の良いVT測定が難しくなるためである.この状況でVT測定を精度良く行おうとするならば,
リーク電流をあと1桁低くする必要がある.その結果として,従来技術で精度良く測定しようと 思うと,リーク電流の少ない(たとえばtypical値で100pA/μm)のローパワー用のトランジスタ を評価対象に限定することを余儀なくされてしまう.
このように,従来技術での評価方法では,ION測定とVT測定の精度を両立することが難しいの である.高精度で評価できるのはローパワー用のトランジスタに限られ,ミドルパフォーマンス 用のトランジスタではある程度精度の妥協が必要となってくる.ハイパフォーマンスのトランジ スタに至っては,搭載素子数の削減や,サイズバリエーションの縮小を余儀なくされる.このよ うに,従来技術によるTEGの設計条件は,評価する素子の特性状況によって大きく左右されるた め,一つの基本方針に則った設計方法で,複数のクラスのトランジスタを共通に評価できるよう なTEGの設計は困難なのである.
1.5 システマティック成分における従来手法の問題点
さて,前節においては,LSI チップ内素子ばらつきの評価技術の問題点について議論を続けて きたが,実際に素子ばらつきを評価したその後には,設計や検証のフェーズが待っている.先端 の素子ばらつきの問題では,この設計や検証の手法においても強力な壁が存在し,研究者を困難
な状況に追い込んでいる.では実際,従来手法において,何が問題になっているのか考えてみる ことにしよう.
さて,「従来手法の問題点」という風に話を切り出しておきながら大変恐縮ではあるが,ここで いきないり話を覆すような展開をさせてもらう.それは,従来手法の問題点を論じるという行為 を成すその前に,「そもそも従来手法があったのか」という論点について考えることである.実は それすら気づかずに過ごしていたというのが,現在の技術水準における現実なのである.「従来手 法」が不在であるという事実に気がつかぬまま,解を求めようとしていたのが現在の偽らざる状 況である.それはどう言うことか? まず,LSIチップ内素子ばらつきが「ランダム成分」と「シ ステマティック成分」に分離されるということを念頭に,順を追って説明する.
まず,ばらつく数値(ランダム成分)と言えば,その代表はガウス分布である.(図1.14) ガ ウス分布は式(1.3)で表される.
2 2
exp 2 2
) 1
(
x xf (1.3)
この式において,μ は平均,σ2は分散である.ガウス分布においては,式(1.3)のように,その分 布を表す式が厳密に定義されている.また,人工的に(数値計算により)発生した一様乱数を,
正規累積分布の逆関数に通すことで,正規分布乱数(ガウス分布乱数)を得ることができる.(図 1.15)
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
0 1
値
0 200 400 600 -4
-3 -2 -1 0 1 2 3 4
値
頻度 n = 5000
図1.14 ガウス分布の例
LSI チップ内において,ゲートの遅延時間のばらつきが,ガウス分布に従うとするならば,多 段につながれたゲートの遅延時間ばらつきは,容易に計算することができる.また,ガウス分布 に従う乱数を人工的に生成することが可能で,たとえば,回路シミュレーションで,個々の素子 パラメータに対して,ガウス分布に従うばらつきを与えて,回路全体のばらつきがどのような分 布になるかを調査することが可能である.いわゆるモンテカルロシミュレーションによるベンチ マークを実行することができる.ある設計手法を適用してLSIチップを設計し,そのチップの素 子ばらつきを考慮した場合に,実際に必要な動作マージンが確保できているかを,モンテカルロ
シミュレーションで検証する.数値のばらつきに関しては,それを表現する式が存在し,人工的 な乱数生成も可能である.これにより,LSI チップを設計する段階で,素子ばらつきを考慮する ことができ,またそのチップにおける設計の正当性を検証することが可能である.
-4 -2 0 -2 4
-4 -2 0 -2 4
0.4 1
0 1
1 0
一様乱数
正規分布乱数 正規累積分布
図1.15 正規分布乱数(ガウス分布乱数)の生成
以上のことは,LSI チップ内素子ばらつきのランダム成分に対して,当てはめることができる 事柄である.ランダム成分には適正な数式表現があり,それを適用した正しい設計手法や検証手 法が存在していた.しかし,その一方,システマティック成分についてはどうなのであろうか?
極めて残念なことに,システマティック成分に対しては,それを表現する数学的な手段がないと いうのが現実である.同様に,擬似乱数生成に相当するような,ランダム曲面の模擬的な生成方 法も存在しなかった.このことが,システマティック成分を設計に取り込むことと,その正当性 の検証の大きな障害となっており,現代のLSIにおけるチップ内素子ばらつきへの対応を困難に しているのである.
1.6 本研究の目的
本研究の目的は,大きくは「LSI における素子ばらつきの評価とモデル化に関する研究」であ る.LSIは約40年の歴史があり,当初からばらつきという問題は存在していた.しかし本研究に おける「素子ばらつき」とは,最新の研究テーマである.また,決して傍流のテーマではない.
むしろ最も中心となる課題であると言って良い.
技術の飛躍の大きなステップでもある.たとえて言うならば,古典力学に対する量子力学のよ うなものであり,ジェット機からロケットへの変化のようなものである.技術的あるいは学術的 に世界観が様変わりする.この変化は,LSI の世界に携わる技術者や研究者に対して,広く,大 きく,新たな領域の開拓を要求する.問題の解決のためには,多くの英知を結集させることを必
要としているのである.本研究もそれに参画し,新たな改革の一助となることを目的とするもの である.
本研究の目的は大きく分けて二つある.
・DMA(Device Matrix Array)という新しいTEGチップの考案による,
チップ内素子ばらつきの詳細な評価技術の開発と,ばらつき分析手法の開発
・ランダム曲面モデルという新しい数学概念の創出による
システマティック成分の扱いの定式化と,設計への応用技術開発
いずれもが,既成の概念からの派生ではなく,創造的アイデアによる産物である.DMA は,従 来のTEGと比べて,その情報収集能力において,圧倒的な総合性能を誇る.ランダム曲面モデル は,従来,数学的な扱い方が明確でなかったシステマティック成分を,適切に扱うために考え出 された新たな理論である.
第一のテーマであるDMAは,「LSIにおける素子ばらつきの評価とモデル化に関する研究」に おける,素子評価とばらつき特性の分析というフェーズに関するものである.素子ばらつきに関 する技術において最も基礎となる分野である.まず正確な素子ばらつきの実態を知ること.これ がすべての始まりである.しかしながら,今まで,この最も基本となるステップができていなか った.多額の予算を投入し,力技でデータを収集することができないわけではない.しかしデー タの信頼性と有用性において,DMAからは大きく劣る.
DMAは多種多様な被測定素子を数百μm□の基本ユニットに搭載し,チップ内の素子ばらつき 分布を高速かつ高精度で評価することができる構造を持つ.このことが,圧倒的な評価性能を生 み出す.そのTEGチップとしての新たな基本思想が,素子ばらつきの分析における,高い信頼度 の統計的解析を可能にする.
第二のテーマであるランダム曲面モデルは,素子ばらつきの評価から,LSI チップの設計,動 作タイミング解析まで,広く適用できる基礎理論である.新たな素子ばらつきの概念には,新た な数学の理論が必要である.第二のテーマでは,その要求に答えることを目的としている.
ランダム成分に関しては,それを適正に扱う基礎理論が従来から存在した.しかし,システマ ティック成分に関する基礎理論は,今まで存在していなかった.それどころか,存在の欠如その ものが認識されていなかったため,相関係数の距離依存という,問題の多い扱いが標準理論とみ なされていた.特に問題なのが,そもそも理論の正当性が確認されていないという点である.ま た,実効性を検証するためのベンチマークを実行する手法も存在していない.
相関係数の距離依存は,ランダムに変化する曲面の直接的な表現ではない.その曲面が持つ,
ある特定の特性を抽出したものに過ぎない.その抽出された特性が,元の曲面の性質をすべて表 現しているかは明確ではないのである.また,抽出とは表現してみたが,実際の抽出方法が,確 立されているわけでもない.何らかの,理想モデルの存在もない.このようにシステマティック 成分の表現方法に関しては,多くの問題が残されたままになっているのである.
このような状況に対して,明確かつ適正な基礎理論を打ち立てたのがランダム曲面モデルであ る.ランダムに変化する曲面の直接的な表現モデルであり,新しい数学概念である.今まで難題
となっていた,LSI チップ内ばらつきのシステマティック成分の扱いを極めて単純化できる.チ ップの設計手法の正当性を検証するための,ベンチマークの実行も可能となる.ランダム曲面モ デルは「LSI における素子ばらつきの評価とモデル化に関する研究」での,数学的基礎理論の開 発である.LSI のチップ内ばらつきのシステマティック成分という新たな概念を数式表現するこ とを可能にした.この開発は数学上の発見でもあり,新たな時代の礎となって行くと考えられる.
本研究における二つのテーマ,「Device Matrix Array」と「ランダム曲面モデル」の関係につ いて説明する.この二つのテーマの間には密接な関連があり,その関係を細かく記述して行くと 以下のような流れとなる.
チップ内素子ばらつき評価技術への要求の高まり
↓
DMAという優れたばらつき評価技術を開発
↓
チップ内素子ばらつきの詳細な評価を実現
↓
4次多項式近似による成分分離手法を適用
↓
システマティック成分を多項式によって表現
↓
システマティック成分の統計モデルの必要性
↓
ルジャンドル多項式を応用したランダム曲面の表現を発見
↓
ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデルの誕生
↓
ルジャンドル多項式系ランダム曲面モデルの特性を分析
↓
表現範囲の制約と多項式由来の空間的非一様性を確認
↓
無限空間対応の一様性モデルの開発を検討
↓
ガウス分布回転体ベースのランダム曲面モデルの誕生
この流れをさらに要約して端的に表現するならば,「DMAによってチップ内素子ばらつきの詳 細な評価を実現 → 4 次多項式近似によるシステマティック成分の表現と統計数学モデルの必要 性 → ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデルの誕生 → 無限空間や空間一様性の表現 を研究 → ガウス分布回転体ベースのランダム曲面モデルの誕生」となる.
ここで注意していただきたいのが,この2種のモデルにおいて,ガウス分布回転体ベースのラ ンダム曲面モデルが上位モデルというわけではない.ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面 モデルには表現効率の高さという特質があり,実使用における計算効率という点において優れて
いる.「ルジャンドル多項式ベースのランダム曲面モデル」と「ガウス分布回転体ベースのランダ ム曲面モデル」には,それぞれ優れた点があり,その応用は適材適所で考える必要がある.
1.7 研究の概要と本論文の構成
本論文における第 2 章以降の章立ては,第 2 章~第 3 章が第一の研究テーマである,Device
Matrix Arrayについての議論,第4章~第8章が第二のテーマのランダム曲面モデルについての
議論となっている.まず第2章ではDevice Matrix Arrayの基本思想について述べている.第3 章では,実際に試作されたDevice Matrix Arrayのチップについての詳細な特性評価と,そのチ ップを用いての素子ばらつき評価について議論している.第 4章ではランダム曲面モデルという 新しい数学概念についての基本思想を述べている.第5章ではルジャンドル多項式をベースとし たランダム曲面モデルの成り立ちと遅延時間計算への適用方法について提案し,第6章ではその モデルの固有な性質について議論している.第7章においては,ガウス分布回転体をベースとし たランダム曲面モデルについての成り立ちと数学的性質を述べている.第8章ではルジャンドル 多項式をベースとしたランダム曲面モデルを実際の素子ばらつきの分析と分類に適用した事例を 議論している.
以上が本論文における章立てである.本研究は独自の基本理念に根ざす所が多く,技術的にも 学術的にも奥行きが深い.また,応用や拡張を含めて報告しているため,章立ては少々複雑にな った.第2章から第8章までの研究内容については,以下に示す第1章7節1項から第1章7 節7項においてその概要を記述する.
1.7.1 Device Matrix Array の基本思想
第2章においてはDMAというテクノロジの基本思想について述べている.DMAはLSIチッ プ内素子ばらつきを評価するためのTEGとしては,理想形であると言って良い.その基本思想は,
素子の種類毎に最適化されたバスアーキテクチャとアクティブマトリックスの構成によって実現 されている.この構成がもたらすメリットやアドバンテージについて議論すると共に,高精度測 定を可能にするための設計思想や,測定精度に関する議論を記載している.また,分析手法につ いても提案する.DMA の卓越したデータ収集能力により,ユニークな分析手法の適用が可能で ある.これらについての基礎事項を述べる.
1.7.2 Device Matrix Array によるチップ内ばらつきの評価
第3章においてはDMAによるLSIのチップ内素子ばらつき評価について議論している.DMA はLSIのチップ内素子ばらつきの評価という分野で,革新的成果を収めたチップである.一つの チップで,様々な種類とサイズの素子を統合的に評価することができる.高速かつ高精度の評価 が可能である.基本アーキテクチャ,バスアーキテクチャ,評価回路,測定環境のすべてにおい て新たな考案がなされている.評価される素子の種類毎にバスアーキテクチャは最適化されてお