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長崎大学大学院生産科学研究科   

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(1)

 

予混合圧縮着火機関における天然ガスおよび  メタノールの着火・燃焼特性に関する研究 

                       

2007 年 12 月 

           

長崎大学大学院生産科学研究科   

鄭    奭鎬

   

(2)

目次 

第 1 章  序論 ... 1

1.1 研究の背景 ... 1

1.1.1 ディーゼル排ガス規制の推移 ... 1

1.1.2  燃料の多様化 ... 2

1.1.3  予混合圧縮着火機関(PCCI 機関および HCCI 機関) ... 5

1.2  本研究の目的 ... 8

第 2 章  燃焼の解析・評価方法 ... 10

2.1  熱発生率解析法 ... 10

2.2  着火時期評価法 ... 12

2.3  EGR 比算定法 ... 13

2.4  熱収支解析法 ... 14

第 3 章  均一予混合圧縮着火の化学反応基礎理論 ... 17

3.1  供試燃料の化学反応機構 ... 17

3.1.1  DME の酸化反応機構 ... 17

3.1.2  天然ガスの酸化反応機構 ... 18

3.1.3  メタノールの酸化反応機構 ... 19

3.2  活性化学種 ... 19

3.2.1   H2-O2系 ... 19

3.2.2  HO2と H2O2 ... 19

3.3  3 章のまとめ ... 25

第 4 章  実験装置および実験方法 ... 26

4.1  実験装置 ... 26

4.1.1  供試機関および供試燃料 ... 26

4.1.2  燃料供給システムおよび EGR システム ... 27

4.1.3  メタノール噴射装置 ... 29

4.1.4  計測装置 ... 31

4.2  実験方法 ... 32

4.2.1  軽油着火 PCCI 機関 ... 32

(3)

4.2.2  DME 着火 HCCI 機関 ... 32

第 5 章  2元燃料圧縮着火機関に関する実験結果および考察 ... 33

5.1  天然ガス予混合気の燃焼 ... 33

5.1.1  燃焼および排気特性 ... 33

5.1.2  着火特性およびノック限界 ... 38

5.2 メタノール予混合気の燃焼 ... 42

5.2.1  燃焼および排気特性 ... 42

5.2.2  着火特性およびノック限界 ... 46

5.3   NOx・PM トレードオフの改善 ... 49

5.4  5 章のまとめ ... 52

第 6 章  均一予混合圧縮着火機関に関する実験結果および考察 ... 53

6.1  単気筒機関における HCCI 燃焼 ... 53

6.1.1 燃焼および排気特性 ... 53

6.1.2  低温酸化反応に及ぼす燃料セタン価の影響 ... 57

6.1.3  着火温度に及ぼす燃料セタン価の影響 ... 59

6.1.4  ノック限界筒内平均ガス温度 ... 60

6.2  多気筒機関における HCCI 燃焼 ... 61

6.3  HCCI 機関における EGR の効果 ... 66

6.3.1  単気筒 HCCI 機関の燃焼に及ぼす EGR の影響 ... 66

6.3.2  多気筒 HCCI 機関の燃焼に及ぼす EGR の影響 ... 67

6.3.3  EGR による熱効率向上効果の解析 ... 70

6.4  HCCI 機関の運転負荷範囲 ... 75

6.5  第 6 章のまとめ ... 77

第 7 章  総括 ... 79

謝辞 ... 83

参考文献 ... 84  

 

(4)

記号   

be    正味燃料消費率        [MJ/kWh] 

CA10    10%燃焼進行のクランク角度      [deg] 

CA50    50%燃焼進行のクランク角度      [deg] 

CA100    100%燃焼進行のクランク角度      [deg] 

CH2O    ホルムアルデヒド 

CO    一酸化炭素       [g/kWh] 

CO2    二酸化炭素      [%] 

COVimep    図示平均有効圧の変動係数      [%] 

C     定圧比熱      [J/mol⋅K] 

Cpe    排気ガスの定圧比熱        [J/mol⋅K] 

Cpi    吸入混合気の定圧比熱       [J/mol⋅K] 

C   冷却水の比熱      [J/kg⋅K] 

dN    インジェクタノズル噴孔径       [mm] 

dQ/dθ    熱発生率       [J/deg] 

Fcw    冷却水体積流量        [m3/h] 

Gair    吸気の重量流量        [kg/h] 

Gfuel    燃料の重量流量        [kg/h] 

HO   ハイドロぺロックシル基(Hydroperoxyl radical)  Hufuel    燃料の低位発熱量        [MJ/kg] 

HuCH4    メタンの低位発熱量        [MJ/kg] 

H2O2    過酸化水素(Hydrogen peroxide) 

mair    新気質量       [kg] 

mEGR    EGR ガス質量      [kg] 

mfuel    混合燃料質量      [kg] 

NOx    窒素酸化物排出率         [g/kWh] 

OH    ヒドロキシ基 

O2ex    排気ガス中の酸素濃度       [%] 

p, P    任意のクランク角度における筒内圧力    [MPa] 

Pme    平均有効圧力      [MPa] 

Q    熱発生率の積分値(∫(dQ/dθ)dθ)    [J] 

Qbhp    1 サイクル当たりの正味出力エネルギー  [J/cycle] 

Qexh    1 サイクル当たりの排気エネルギー    [J/cycle] 

Qfuel    1 サイクル当たりの燃料エネルギー    [J/cycle] 

(5)

Qcool    1 サイクル当たりの冷却エネルギー    [J/cycle] 

R    ガス定数      [J/kg⋅K] 

R     一般ガス定数          [J/mol⋅K] 

rpm    機関回転速度          [rpm] 

SMOKE    PM 排出率(排煙濃度換算値)      [g/kWh] 

TCWO    冷却水出口温度        [K] or [°C] 

TCWI    冷却水入口温度        [K] or [°C] 

Te    排気ガス温度      [K] or [°C] 

THC    全未燃炭化水素排出率       [g/kWh] 

TIN    吸気温度      [K] or [°C] 

TIN-m    混合室内ガス温度        [K] or [°C] 

TIN-p    吸気ポートガス温度        [K] or [°C] 

V    任意のクランク角度における筒内体積   [m3]  XEGR    EGR 比       

γcw    冷却水の比重量        [kg/m3]  ε      機関圧縮比 

θinj    噴射開始時期          [deg] 

κ    比熱比 

φ    当量比 

η   見掛けの燃焼効率(Q max/Qfuel)       [%] 

ηe    正味熱効率      [%] 

ηloss-cool  冷却損失      [%] 

ηloss-EXH   排気損失      [%] 

ηloss-THC    THC 損失      [%] 

 

   

(6)

短縮標記文字   

ATDC After Top Dead Center BHP Brake Horse Power BTDC Before Top Dead Center

CA Crank Angle

CLD ChemiLuminescence Detector CNG Compressed Natural Gas COV Coefficient of Variation DME DiMethyl Ether DPF Diesel Particulate Filter EGR Exhaust Gas Recirculation

HCCI Homogeneous Charge Compression Ignition H-FID Hydrogen-Flame Ionization Detector

HTR High Temperature Reaction LPG Liquid Petroleum Gas

LTR Low Temperature Reaction MeOH Methanol

NDIR Non-dispersive infrared absorption

NG Natural Gas

PCCI Pre-mixed Charge Compression Ignition PM Particulate Matter

ROHR Rate of Heat Release

SCR Selective Catalytic Reduction TDC Top Dead Center

 

   

(7)

第1章  序論

1.1 研究の背景 

1.1.1 ディーゼル排ガス規制の推移 

1997 年京都議定書が成立して以来、主たる地球温暖化物質である CO2の排出 低減に大きな関心が高まっている。その解決のために、内燃機関の中では、ガ ソリン機関よりは低燃費、換言すれば高熱効率のティーゼル機関への動きがヨ ーロッパから始まった。しかし、ティーゼル機関はよく知られているように、

窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)の排出に問題を抱えている。ガソリン機関よ りティーゼル機関の利用が増加するという展望の中で、世界の自動車企業の技 術者並びに研究者は、我々の地球の環境保全のため、ディーゼル機関からの有 害排出物質の低減に最大の努力を払っているが、一方、排ガスに対する規制は ますます厳しくなっている。日本、アメリカおよびヨーロッパにおけるディー ゼル機関の排ガス規制の動向を表 1-1 に示す。表 1-1(a)は乗用車、1-1(b)はト ラック用ディーゼル機関の規制値を示す。日本におけるトラックの NOx 規制値 は、2002 年では 3.38[g/kWh]であったものが、2009 年には 0.7[g/kWh]まで下げ られ、約 1/5 になる。同時に、PM の規制値は、0.18 から 0.01[g/kWh]へ約 1/20 に下げられる。一方、アメリカの場合、NOx は 2004 年の 3.35[g/kWh]から 2010 年の 0.27[g/kWh]まで約 1/13 に、また、PM は 0.134[g/kWh]から 0.013[g/kWh]

まで約1/10 になる。ヨーロッパでは、NOx は 2000 年の 5.0[g/kWh]から 2008 年の 2.0[g/kWh]まで 2/5 に、PM は 0.16[g/kWh]から 0.03[g/kWh]まで約 1/5 に下げられる。いずれの国においても、近い将来において極めて厳し い NOx および PM の排ガス規制値が予定されている。 

厳しい規制値を達成するためには、燃焼改善技術ならびに後処理技術をとも に高度化することが不可欠である。有効な最終段後処理技術として、NOx 低減 のための尿素選択的触媒SCR(Selective Catalytic Reduction) 還元システムが、

また、PM 低減のためのDPF(Diesel Particulate Filter)が提案されている。SCR や DPF の装着は、製造コストの増加、車両重量の増加、尿素補充のためのインフ ラ構築、DPF フィルタの定期的交換等、経済的な負担増が避けられないので、

(8)

可能な限り、燃焼改善ならびに燃焼制御によって NOx および PM を同時に低減す る技術を確立することが必要である。 

 

1.1.2  燃料の多様化 

自動車用エンジンの燃料として、長年にわたってガソリンや軽油が使われて おり、エンジン業界は、主としてガソリンや軽油に適合する自動車用エンジン を進化させてきた。一方、石油資源の埋蔵量に限りがあること、また、石油の 需要が急増していることから、原油価格が急上昇している。図 1-1 に示す最近 の 10 年間(1997 年 9 月〜2007 年 8 月)の原油価格の変動をみると、オイルショ ック以降ほぼ安定していた価格が 2003 年から急激に上昇し始め、この 3 年間で 1 バレル当たりの原油価格が 30 ドルから 70 ドルまで約 2 倍以上上昇し、さら に需要と供給の関係により、引き続き徐々にその価格が上昇し続けている。 

図 1-2 はヨーロッパでの自動車用燃料の種類別割合とその推移予想を示す。

原油価格が 100 ドルに迫る現在においても、自動車用燃料のガソリンと軽油へ の依存度は非常に高く、図から分かるように、これまではガソリンと軽油に頼 った部分が 90 数パーセント以上である。しかし、原油の枯渇やそれに伴う価格 上昇のため、バイオ燃料、CNG、LPG、水素、および合成燃料(Synthetic Fuel) の使用が多くなることが予測されている。バスやトラックに使用されている軽 油の代替燃料として DME[1-6]が注目され、また、ブラジルにおいて使われている メタノールやエタノールも燃料多様化の一環であり、既に燃料の多様化が進行 している。 

これまではガソリンや軽油に適合したエンジンが主流であったが、今後さら に、多様化される燃料に適合するエンジンが求められることになる。このこと に対応して、多くの研究者が石油以外の燃料に関する研究を推進しており、地 球環境に優しい燃料に適合した高効率エンジンが求められている。 

 

(9)

Table 1-1 Trend of emission regulations in diesel engine (a) Emission regulations for diesel passenger car

(b) Emission regulations for diesel truck

(10)

Figure 1-1 Trend of crude oil price  

 

Figure 1-2 Prospect of fuel demand in Europe (source: EUCAR)

(11)

1.1.3  予混合圧縮着火機関(PCCI 機関および HCCI 機関) 

本研究では、PCCI 機関(Premixed-Charge Compression Ignition Engine)と HCCI 機関(Homogeneous Charge Compression Ignition Engine)を以下のように 区別している。PCCI 機関では、吸気弁が閉まった後に燃料を筒内に直接かつ早 期に噴射して予混合気を形成するもので、着火時点では必ずしも混合気は均一 ではない。一方、HCCI 機関では、吸気弁が閉まる前に吸気ポートあるいはその 上流で燃料を供給することによって着火前には既に均一な予混合気が形成され ている。 

本研究が対象とする 2 元燃料圧縮着火機関は、天然ガスあるいはメタノール の予混合気が筒内でほぼ均一になるように供給しているが、圧縮上死点前で着 火のための少量の軽油を噴射することから、着火前では混合気は不均一であり、

この意味において PCCI 機関として取扱っている。一方、天然ガスあるいはメタ ノールの予混合気に、着火源としての DME を吸気弁が閉まる前に混入した場合 には、着火時にはほぼ均一な混合気が形成されているものと考えられるから HCCI 機関として取扱っている。 

予混合火花点火のガソリン機関ではディーゼルより NOx と PM の排出が少ない 反面、THC と CO の排出が多い。さらに、熱効率も低いこと、換言すれば CO2の 排出量が多いことが短所で、徐々にその優位性を失っている。この対策として、

HCCI 燃焼が注目され、活発な研究が行われている。一方、圧縮自着火のディー ゼル機関はガソリンに対して NOx や PM の排出が多いことが大きな問題である。

この対策として、水のエマルジョン[7]、EGR[8]などを導入して NOx の低減には効 果があったが、PM の低減は得られなかった。なお、NOx と PM を同時に低減する 方法として、燃焼室内温度場を一様にすることにより最高温度を低下できる予 混合圧縮着火(PCCI)機関が提案された。 

Aoyama[9]らは高効率かつ低 NOx の実現のため、吸気ポートにガソリンインジ ェクタを搭載した圧縮比 17.4 のガソリン機関を用いて、PCCI 機関の実験を行 ってディーゼル機関と同等な熱効率、より低い NOx の排出量を達成した。

Akagawa ら[10~11]はPREDIC(PREmixed lean Diesel Combustion) processを提案 したが PCCI 燃焼と同じ概念である。彼らはメインインジェクタと 2 つのサイド

(12)

インジェクタを用いて予混合気を形成させ、NOx は低減できたが、PM は 2 倍増 加した。軽油のみでトレードオフを改善することが限界に至って、改めて提案 されたものが軽油以外の代替燃料を用いることであり、軽油より PM 排出量を低 減できる燃料である天然ガス[12~16]、メタノール[17~18]、DME[19~22]を用いた 2 元燃 料ディーゼル機関の研究結果が発表されている。これらの論文の共通点は、主 燃料として混合気が形成しやすい気体燃料を使用しているため、PM の低減が容 易であり、高い圧縮比に基づく高効率を維持しながら、局所的な高温領域が燃 焼室内に出来ないように燃焼させるため、NOx が同時に低減されている。 

一方、HCCI 機関は 1983 年、Najt ら[23]により初めて 4 ストロークディーゼル 機関での実験が行われて、非常に低負荷での希薄燃焼による燃費および排気特 性の改善の効果を明らかにした。その後、1989 年に Thring[24]がディーゼル機 関での実験を行い、ディーゼル機関と同じ燃費を得ることができたのが HCCI 機関の始まりであり、HCCI という言葉も Thing が初めて使った。つまり、PCCI よりは HCCI が早めに発表されたが、HCCI 機関に関する研究はその後、あまり 進展しなかった。2000 年代に入ってから盛んに研究されるようになり、2003 の SAE 論文集に掲載された論文数[25]は 100 編を超えている。 

HCCI 機関の概念は、ガソリン機関とディーゼル機関の概念を一体化したもの で、ガソリン機関からのアプローチとディーゼル機関からのアプローチに分け られる[26]。先ず、ガソリン機関から HCCI 機関へのアプローチについて述べる。

Johansson[27]らはガソリン機関を用いてイソオクタン、エタノール、天然ガス を燃料として、圧縮比 21 の HCCI 機関の実験を行い、圧縮比 12 のガソリン機関 との比較をした。その結果、HCCI 機関はガソリン機関と比べて図示熱効率が高 く、NOx の排出量が低くなる、半面、THC や CO の排出が多いことを明らかにし た。また、オクタン価の高い天然ガスの方が他の燃料より希薄領域の運転負荷 範囲が狭いことを報告したが、全般的には HCCI 機関の可能性が示唆された。一 方、Shibata はガソリン機関のアンチノック性を表すオクタン価は、HCCI 機関 では適切な値ではないため、HCCI 機関における着火性を調べた実験値から換算 した HCCI 指標[28]という新しい評価方法を示した。以上のようにガソリン機関 から HCCI 機関へのアプローチは、熱効率が高いことがメリットであるとして紹

(13)

介された以外にも様々な研究が行われている。 

一方、ディーゼル機関から HCCI 機関へのアプローチは、軽油のみの HCCI 機 関は、軽油の沸点が高いため実現が困難なので、軽油の代替燃料として注目さ れる DME を導入したが、DME 単体の HCCI 機関では着火時期が顕著に進角し、運 転負荷範囲が低負荷に限定されるので、DME の酸化反応を抑制するための添加 物を導入する研究が行われた。Chen ら[29]は DME とメタンの割合を変化した実験 から、DME 単体に比べ、運転負荷範囲の拡大、NOx の低減、および THC の増加を 明らかにしたが、運転負荷範囲はディーゼル機関に比べるとかなり狭い範囲し か得られなかった。さらに、Tezaki ら[30]は DME の低温酸化反応を抑制するため、

メタノールを添加した実験を行った。この実験の結果からメタノールは DME の 低温酸化反応の抑制効果があることが分かったが、DME に対するメタノールの 割合の低い領域しか研究が行われていないため、DME の低温酸化反応に対する メタノールの抑制効果に関した研究は不十分である。 

HCCI 機関の運転領域を広げることがなかなか進めない状況に至り、ここから 運転負荷範囲を広げるため、数多くの研究者が HCCI 燃焼を化学反応から追究し 始めた。特に DME の酸化反応を究明するため、Curran ら[31~34]は可変圧流動反応 器(VPFR)を用い、圧力や温度の変化に対する DME の酸化反応機構を追求した。

多くの研究者がこの結果に基づいて HCCI 機関での DME の酸化反応機構を引用[35

~42]し、HCCI 機関の燃焼解析をしているが、反応温度や化学種の濃度によって化 学反応速度が違うため、燃焼室内で起こる化学反応に関する研究はケースバイ ケースの状況である。 

 

   

(14)

1.2  本研究の目的 

1.1 節で述べたように、本研究では、地球温暖化や石油資源枯渇の問題に対 処するため、高効率を維持しながら後処理なしで、厳しい排ガス規制に対応で きる予混合圧縮自着火機関の着火および燃焼特性に及ぼす物理的・化学的因子 を明らかにし、予混合圧縮着火機関の実用化の基盤を構築することを目的とし ている。先ず、代替燃料である天然ガスあるいはメタノールの均一予混合気を 少量の軽油噴霧により着火する軽油着火2元燃料ディーゼル機関について、着 火特性、燃焼形態、燃焼速度およびノック限界を支配する物理因子を追究する。

次いで、天然ガスあるいはメタノールに着火源として高着火性の DME を混合し た均一予混合気の着火特性、燃焼特性、失火およびノック限界等について、そ れぞれの現象を支配する物理因子を追究し、特に、EGR に基づくノック抑制効 果および熱効率改善効果を解析し、HCCI 機関における EGR の有用性を明らかに する。また、均一予混合圧縮着火機関の実用化に向けて、単気筒機関および多 気筒機関における安定な運転負荷範囲を比較し、不安定な燃焼を引起す要因を 明らかにする。 

本論文は第 2 章から以下のように構成されている。 

第 2 章では、燃焼特性の質的評価のための解析方法について述べている。先 ず、燃焼を評価する基本となる熱発生率の高精度算出方法を述べている。0.25 度毎にサンプルされた 350 サイクルに亘る平均時間履歴圧力データ、およびク ランク角度毎の燃焼率から燃焼室内のガス組成、比熱、比熱比および熱発生率 を算出し、着火時期を算定した。次いで、クランク角度毎のガス定数と状態方 程式を用いて筒内ガス温度を算出し、着火温度を算定した。さらに、計測され た CO2濃度から EGR 比を算出する方法、ならびに、EGR が熱効率に及ぼす影響を 評価するための熱収支および燃焼効率の算定方法を述べた。 

第 3 章では、HCCI 機関では、2 段発火特性、いわゆる、低温酸化反応と高温 酸化反応を有する DME を着火源として混合しており、高温酸化反応のトリガー となる DME の低温酸化反応において生成されるホルムアルデヒド、H2O2および OH ラジカルの影響を評価するため、化学反応機構の概要を述べた。特に、天然

(15)

ガスおよびメタノールの高温酸化反応を持続するために重要な H2-O2 系の連鎖 反応機構について述べた。 

第 4 章では、先ず、本実験で使用した燃料の性状、供試機関、燃料供給シス テム、EGR システム、排ガス分析システム、燃焼解析システムなどの実験シス テム、次いで、空気、天然ガスおよびメタノールの流量計測法、さらに、軽油 着火2元燃料ディーゼル機関および DME 着火による HCCI 機関の燃焼実験方法に ついて述べている。 

第 5 章では、軽油着火2元燃料ディーゼル機関に関する実験結果から、天然 ガスあるいはメタノールの均一予混合気の最小軽油噴射量、換言すれば、最小 着火エネルギー、ノック限界筒内平均ガス温度および燃焼形態について得られ た新しい知見を述べる。 

第 6 章では、DME 着火による天然ガスあるいはメタノール HCCI 機関における 低温酸化反応、高温酸化反応およびノック限界負荷に及ぼす DME 当量比、燃料 セタン価、吸気温度、圧縮比、EGR および気筒数の影響を個別的かつ総合的に 追究し、得られた数多くの新しい知見を述べる。 

第 7 章では本論文の全体に亘る総括である。

 

 

(16)

第 2 章  燃焼の解析・評価方法

2.1  熱発生率解析法 

着火時期、燃焼終了時期、燃焼形態などの燃焼特性を指圧線図のみではなく、

高精度で求められた熱発生率を用いて評価することが不可欠である。熱発生率 は総熱発生率と正味熱発生率があるが、ここでは熱力学第 1 法則を適用するこ とによって、次式から正味熱発生率を求めた。 

 

   [J/deg]    (2-1)   

ここで、Q は発生熱量、θはクランク角度、κは比熱比、p は計測されたクラ ンク角度毎の筒内ガス圧力、Vはクランク角度毎の筒内体積である。κは筒内ガ ス組成を考慮し、式(2-2)から各成分iの定圧比熱および各成分iのガス定数を 求め、式(2-3)からκを算出した。 

 

,       (2-2) 

,

,

             

(2-3)   

ここで、 p,iと Riはそれぞれの成分 i の定圧比熱とガス定数であり、 は一 般ガス定数、8.3143[J/mol⋅K]である。aiに関しては NASA が推奨しているデー タ[43]を使った。 

燃料によって燃焼の形態は様々である。例えば、メタンの燃焼形態は低温酸 化反応と高温酸化反応の区別がない一段発火であるが、DME、イソオクタンおよ びノーマルヘプタンなどは二段発火を呈する。式(2-1)を用いて算出した DME 単体の HCCI 燃焼の熱発生率の例を図 2-1 に示す。図から分かるように、DME HCCI 燃焼の特徴である低温酸化反応および高温酸化反応が明確に表れている。低温 酸 化 反 応 が 開 始 す る 筒 内 平 均 ガ ス 温 度 は お お よ そ 900[K] 程 度 で あ り 、

(17)

0.5[J/deg]以上の熱発生率を示す初期の酸化反応を低温酸化反応と定義し、そ の最高値を低温酸化反応の最高熱発生率(maximum dQ/dθ of LTR)と定義する。

高温酸化反応は低温酸化反応後の高い熱発生率を示す主燃焼部分であり、その 最高値を高温酸化反応の最高熱発生率 (maximum dQ/dθ of HTR)と定義した。

この2つの値は着火・燃焼特性を評価するための重要なパラメータである。DME に天然ガスおよびメタノールを混入した場合、低温酸化反応が抑制され、特に DME の量が少ない場合には、図 2-2 に示すように、低温酸化反応に引続き高温   

Figure 2-1 Definitions of LTR and HTR, ignition timings of LTR and HTR, and maximum dQ/dθ of LTR and HTR

 

Figure 2-2 Heat Release Rate with small LTR

(18)

酸化反応が連続的に発生しており、0.5[J/deg]以上の熱発生率を示すが、低温 酸化反応のみを識別することが困難である。この場合は低温酸化反応の熱発生 はないものとした。 

 

2.2  着火時期評価法 

着火特性を解析するため、低温酸化反応や高温酸化反応の開始時期およびそ の時期の筒内平均ガス温度を次のように定義した。図 2-1 において、低温酸化 反応および高温酸化反応の熱発生率曲線の急激な立ち上がり開始部分の接線と 熱発生率のゼロの線との交点を着火開始時期と定義した。また、これらの着火 開始時期における筒内平均ガス温度を次に示す理想気体の状態方程式から求め た。 

 

 

 [K]       (2-4)   

ここで、T は筒内平均ガス温度、Giは化学種 i の重量、Riは化学種 i のガス 定数である。したがって、式(2-4)より算出した温度から低温酸化反応や高温酸 化反応の開始時期の筒内平均ガス温度を求めた。 

 

Figure 2-3 Definition of CA10, CA50 and CA100 on cumulative ROHR

(19)

燃焼期間を定義するため着火時期を低温酸化反応の開始時期とすると、天然 ガスおよびメタノールの割合が多くなる場合は図 2-2 に示したように低温酸化 反応が現れないので、低温酸化反応の開始時期を着火時期と定義することが困 難である。したがって、あらゆる状態において同じ条件で解析するためには、

図 2-3 に示すように、全発生熱量の最大値Qmaxの 10%のクランク角度を CA10 と 定義し、着火時期とした。また、熱発生率積分値が最大値を示すクランク角を CA100 と定義する。したがって、燃焼期間は CA10 と CA100 の期間として算定さ れる。なお、CA50 は全熱発生の 50%が進行したクランク角度として定義する。

CA50 は燃焼率 50%を示し、HCCI 機関の燃焼特性を表すパラメータ、あるいは燃 焼を制御するパラメータとして使われている[44~46]。特に、本研究では運転負荷 範囲を支配する因子として用いた。 

 

2.3  EGR 比算定法 

EGR により、空気より大きい比熱を有する H2O や CO2が燃焼室に充填されるた め、EGR なしの場合より筒内平均ガス温度が低くなる。EGR 比の増加によって筒 内ガス温度の上昇が抑制されるので、一般的には NOx 生成の抑制効果が大きく、

また、HCCI 機関における燃焼制御の効果が期待される。ディーゼル機関におい ては、EGR により熱効率が低下する傾向があると報告[47]されているが、HCCI 機 関の熱効率に及ぼす EGR の影響を調べた結果は未だない。EGR 比は、式(2-5)で 定義するように、吸気中の EGR ガス質量の割合である。 

 

  

        (2-5)

 

 

ここで、XEGRは EGR 比、mEGRは EGR 質量、 mair新気の質量、 mfuelは燃料の質量 である。本研究では、吸気および排ガス中の CO2濃度の実測値から、次式によ り EGR 比の近似値を求めた [48]。 

 

(20)

      (2-6)   

ここで、CO2in は吸気の CO2濃度、CO2exは排気の CO2濃度である。なお、式(2-6) により EGR 比を算定すると、希薄の場合に実際より高く評価される可能性があ るとの報告[49]がある。吸気の酸素濃度[O2]は、排ガス中の酸素濃度 O2exおよび EGR 比から次式により算定できる。 

 

21 21

 

      (2-7)

   

 

2.4  熱収支解析法 

EGR が HCCI 機関の熱効率に及ぼす影響を評価するため、供給された燃料の熱 量と正味軸出力、排気損失、冷却損失およびその他の損失との関係、すなわち 熱収支算定法を以下に述べる。合わせて、未燃炭化水素排出率と燃焼効率の関 係、熱効率と燃焼効率の関係についても算定方法を述べる。図 2-4 には熱収支 の概略図を示している。供給された燃料の燃焼によって有効に熱に転換された エネルギーは、正味軸出力、排気損失 Qexhと冷却損失 Qcoolに分けられる。図中

の Qothersには、クレビス等の未燃燃料が有するエネルギー、およびオイルパン

等からの放熱などが含まれ、さらに、計測精度による誤差も含まれている。こ こでは供給された燃料の発熱量に対する正味軸出力、排気損失および冷却損失 を求める上に、燃焼効率および THC による損失を求め、より正確な評価を図る。 

まず、1 サイクル当たりの供給燃料のエネルギーは次式で求める。 

 

 

[J/cycle]      (2-8)   

ここで Gfuelは供給された燃料の重量流量[kg/h]、Hufuelは低位発熱量[MJ/kg]、

rpmは 1 分当たりの回転数、iは 2 行程機関では 1、4 行程機関では 0.5 で、z

(21)

は気筒数である。なお、混合燃料の場合は各燃料別に算定した。 

式(2-9)は 1 サイクル当たりの正味軸出力[kW]をエネルギー[J/cycle]に換算 したものである。 

 

  [J/cycle]        (2-9)   

式(2-10)は排気損失エネルギー[J/cycle]を求める式である。 

 

  [J/cycle]    (2-10)   

ここで、Gairは吸気の重量流量[kg/h]、Cpeは排ガスの比熱[J/kg⋅K]、Teは排気温 度[K]、Cpiは吸気ガスの比熱[J/kg⋅K]、Tiは吸気温度[K]である。EGR がある場 合、Gairは EGR ガスの重量流量を含めている。CpeとCpiは式(2-2)から求める。 

次式(2-11)は冷却損失エネルギー[J/cycle]を求める式である。 

 

  [J/cycle]   (2-11)   

ここで、Fcwは冷却水流量[m3/h]、γcwは冷却水の比重量[kg/m3]、Cwは冷却水の 比熱[J/kg⋅K]、Tcwoは冷却水出口温度[K]、Tcwiは冷却水入口温度[K]である。 

最終的に熱収支は次式のように供給エネルギーに対する割合%と表した。 

 

100  [%]      (2-12)  100   [%]        (2-13)  100  [%]        (2-14)   

(22)

また、EGR による熱効率の増減と未燃炭化水素排出率の増減の関係を調べる ため、排ガス中の THC の計測値から次式により近似的な THC 損失を算定した。 

 

100  [%]    (2-15)   

ここで、THCは、CH4に換算された THC の重量流量[g/h]であり、 は CH4 の低位発熱量である。 

見掛けの燃焼効率ηcは、EGR に基づく冷却損失の変化が小さいとして、熱発 生率積分値の最大値を 1 サイクル当たりの供給エネルギーで除して算定した。 

 

        (2-16)  100  [%]      (2-17)   

Figure 2-4 Schematic diagram of heat balance analysis

(23)

第 3 章  均一予混合圧縮着火の化学反応基礎理論

本章では HCCI 機関において、6.1 節で扱う DME の低温酸化反応の抑制効果に 及ぼす天然ガスおよびメタノールの影響を化学反応から解析するため、基礎に なる理論や他の研究結果を述べる。 

 

3.1  供試燃料の化学反応機構  3.1.1  DME の酸化反応機構 

DME の簡略な低温酸化反応を図 3-1 に示す。DME は活性化学種 H、O、OH と低 温で酸化反応を始め、少ない確率で CH3、CH3O、CH2OH と HOCHO にも分解される が、主にホルムアルデヒド CH2O に分解される。さらに、CH3、CH3O 、CH2OH は 図 3-2 で示すように、活性化学種との反応で CH2O にも分解されることが確認 できる。つまり、DME は低温酸化反応を通じ、低熱を発生しながら、中間生成 物として CH2O に分解される。 

 

Figure 3-1 LTR scheme for CH3OCH3 oxidation

(24)

3.1.2  天然ガスの酸化反応機構 

天然ガスの組成は第 4 章の表 4-2 に示すようにメタンが約 88%であるので、

ここでは天然ガスの代表成分としてメタンの酸化反応機構を図 3-2 に示す[50]。 メタンは水素を一つ失うとメチル基 CH3になり、酸素原子または OH ラジカルと の反応で中間生成物 CH2O に分解される。また、CH2O は水素原子を失い、高熱を 発生しながら、CO2と H2O に酸化される。つまり、この反応領域が高温酸化反応 である。メタンは自着火温度が 920K と高く、低温酸化反がないため、DME とメ タンを用いた HCCI 機関では 1000[K]以上の高温で酸化反応が始まると推定され

ている[51~52]。 

     

Figure 3-2 Overall reaction scheme for CH4 oxidation[50]

(25)

3.1.3  メタノールの酸化反応機構 

メタノールの低温酸化反応機構を図 3-3 に示す。メタノールも活性化学種と の反応で中間生成物の CH2O に分解されて、他の燃料と同じ経路で CO2と H2O に 酸化される。この時 CH3になった時はメタンと同じ酸化反応機構を持つ。その ため、図を簡略化した。メタノールはメタンとは違い、自着火温度が約 750K とメタンより低く、DME とメタノールを用いた HCCI 機関では DME と同じく低温 で酸化反応を始めると報告されている[53]。 

 

Figure 3-3 LTR scheme for CH3OH oxidation[53]

 

3.2  活性化学種  3.2.1   H2-O2系 

H2-O2 系と呼ばれる水素の酸化反応は燃焼の中では連鎖分枝反応で水素と酸 素と第 3 体(M と表記する)との反応で O、H、OH ラジカルが再生成されることを 意味[49]する。H2-O2系で再生成される O、H、OH ラジカルは燃料の酸化反応を主 導および維持する役割を果たす。 

 

3.2.2  HO2と H2O2 

活性化学種 H、O、OH ラジカルは燃料または中間生成物との反応を起こし、酸 化反応、つまり燃焼を起こし、かつ続けるものである。燃料が燃えて、完全燃 焼ができるまで酸化反応が続くためにはこの活性化学種が燃焼場で存在しなけ

(26)

ればならない。前節で述べたように、活性化学種は H2-O2系によって再生成され る。H2-O2系の中で最も重要な役割をしている HO2や H2O2に関する反応機構を式 (3-1)から(3-9)に示す。式より、HO2や H2O2を含む反応は全て活性化学種を生成 することが分かる。特に、式(3-4)と(3-5)のように HO2は活性化学種の消費な しで H2O2を生成し、H2O2は蓄積される。 

 

      (3-1) 

      (3-2) 

      (3-3) 

      (3-4) 

      (3-5) 

      (3-6) 

           (3-7) 

      (3-8) 

      (3-9) 

 

Sidney W. Benson[54]は約 500~700K の低温酸化反応では HO2が反応を支配する ことを報告した。低温酸化反応の終わり、換言すれば、負の温度係数域では HO2 の生成や反応が少なく、温度は上昇しても反応速度が下がり、高温酸化反応に 繋がるためには活性化学種が十分溜まっていないと燃焼は終了する。したがっ て、低温酸化反応後に高温酸化反応へ繋ぐものが H2O2であると Benson は主張し た。つまり、低温酸化反応で HO2は活性化学種を再生成しつつ、H2O2を蓄積させ、

負の温度係数域まで十分の H2O2を溜めないと高温酸化反応まで燃焼を続かなく、

終了してしまう。負の温度係数域では、H2O2が第 3 体によって、二つの OH ラジ カルを生成し、高温酸化反応でこの OH ラジカルが消費される。要約すれば、低 温酸化反応では燃料の酸化により HO2が生成され、かつこの HO2 が式(3-4)と (3-5)の反応をし、H2O2を蓄積させる。この現象は、CHEMKIN を用いた HCCI 機関 の反応速度論に基づいた解析にも同じ結果[55~61]が得られている。 

図 3-4 に Huang[57]らが n-ヘプタンを用いた HCCI 機関の 0 次元燃焼モデル解

(27)

析結果を表す。筒内平均ガス温度の図より 15° BTDC 付近で低温酸化反応が起き、

2° BTDC 付近で高温酸化反応が起きる。H2O2および OH ラジカルの図より、低温 酸化反応の開始と高温酸化反応の開始の間で H2O2が増加し、高温酸化反応が開 始する前に OH ラジカルが急に増加し、CH2O から分解された CHO および CO との 反応で消滅する。すなわち、低温酸化反応は高温酸化反応が起こるため必要な OH ラジカルを確保するための事前反応であり、OH ラジカルの生成に重要な H2O2 の蓄積を担当している。また、低温酸化反応で十分な H2O2をためることができ ないと失火に至る。Huang らの研究は n-ヘプタンを対象としているが、DME、メ タン、メタノールなど 3.1 節で述べたように炭化水素燃料はほとんどが中間生 成物として CH2O に分解され、高温領域で CO2に酸化されるのが一般的である。

つまり、ほとんどの燃料は低温酸化反応では主に CH2O、H2O、CHO および CO に 分解されながら H2O2を溜める。一方、高温酸化反応では発熱量が大きい CO から CO2の反応と H2O の反応が支配的である。 

 

Figure 3-4 Change in mole fraction of major species during the HCCI combustion process[57]

(28)

一方、太田ら[36~37]は燃焼の促進剤として低温酸化反応で生成される中間生成 物である CH2O に注目した。CH2O は次の反応達のより HCO に酸化され、かつ OH ラジカルおよび H2O2を生成するので高温酸化反応の促進剤として認められるか も知らない。 

 

           (3-10) 

           (3-11) 

      (3-12) 

 

しかし、CH2O は促進剤としてよりは中間生成物として生成され、また自身が 酸化することで活性化学種が付加的に生成されるだけである。むしろ、高温酸 化反応の促進剤としては活性化学種あるいは、OH ラジカルを直接生成し、

Benson の理論のように高温酸化反応を支配する因子としても認められている H2O2を挙げる方がいいと思われる。 

さらに、Mohamed H. Morsy[61]は CHEMKIN-Ⅲパッケージを用いてメタンに DME と CH2O と H2O2を添加した燃焼シミュレーションを行った。図 3-5 に彼の研究結 果の一つである熱発生率に及ぼすこれらの添加物の影響を示す。DME、CH2O お よび H2O2を 5%ずつ入れた場合、DME、CH2O、H2O2の順番に着火時期が TDC 以降 から 10ºBTDC まで進角され、着火促進効果が大きく得られている。つまり、こ の順番に高温酸化反応に使用される活性化学種を多く生成する。 

図 3-6 には彼の研究結果の中で、H2O2、CH2O および DME の添加量による筒内 化学種濃度変化を示す。a は吸気温度 455[K]においてメタンのみの場合、b か ら d は吸気温度 400[K]において、それぞれ H2O2を 0.8%添加した場合、CH2O を 5%添加した場合、DME を 10%添加した場合を示す。このとき、4 つの条件すべて の低温酸化反応の開始時期は現れていないため分からないが、高温酸化反応は 図 3-5 の 5%の CH2O を添加した場合と同様に 5° BTDC 付近で始まり、TDC 付近で 終わる。まず、d と a を比べると、d の場合、DME の低温酸化反応により 40° BTDC から CH2O が増えるのが確認できる。それに伴い HO2、H2O2および OH ラジカルが 多くなる。さらに、c と d と比べると CH2O が既に形成されているので、d の場

(29)

合より c の方の HO2、H2O2、および OH ラジカルがより早めに増える。最後に b の場合は、少ない H2O2の添加と CH2O がないことにも拘わらず、他の場合と比べ、

HO2や H2O2や OH ラジカルが早めに増えることが分かる。つまり、CH2O は炭化水 素燃料の酸化反応過程の中間生成物であり、その自身が酸化反応に伴い HO2、 H2O2、OH ラジカルを生成するだけで、促進剤としての効果は少ないことが分か る。前で説明したように、低温酸化反応から高温酸化反応までつながるために は活性化学種の確保が非常に重要であり、HO2および H2O2が反応中の活性化学種 の供給源であり、酸化反応の促進剤としては CH2O よりは H2O2が妥当であると思 う。 

図 3-7 には Tezaki[53]らが DME とメタノールを用いた HCCI 機関において、低 温酸化反応のみを起こした場合、DME とメタノールの反応量と CH2O の生成量の 実験結果および計算結果を示す。図の実験結果および計算結果から分かるよう に、低温酸化反応のみの領域でも DME の量に対するメタノールの量が増えるほ どメタノールの反応量が増える。つまり、メタノールは DME と同様に低温で酸 化反応を始める。それから、Tezaki らも CH2O の量に注目した[62-63]が、活性化 学種か HO2や H2O2の量に注目した方が良い結果を果たすと思われる。 

   

Figure 3-5 ROHR profiles with 5% addition of different ignition improvers[61]

(30)

 

Figure 3-6 Mass fraction of H2O2, CH2O and radicals H, OH and HO2 as a function of crank angle for three additives[61]

 

Figure 3-7 Experimental and calculated species fractions at exhaust as a function of added methanol/DME ratio[53]

(31)

3.3  3 章のまとめ 

第 3 章では、均一予混合気の低温酸化反応および高温酸化反応の化学反応基 礎理論について述べた。燃焼が続くためには H2-O2系の素反応による活性化学種 H、O および OH ラジカルの再生成が重要であることが分かった。また、内燃機 関の燃料として使われている炭化水素化学物は数多くの素反応を通じ、H2O お よび CO2に酸化される。特に、HCCI 燃焼において、低温酸化反応による中間生 成物として CH2O と H2O2が生成されるが、高温酸化反応を維持するためには、酸 化により活性化学種を生成する CH2O より、自体の解離による二つの OH ラジカ ルを生成する H2O2の役割が大きいことが分かった。なお、DME とメタノール混 合気の燃焼において、メタノールの濃度が大きくなると、DME と同じく低温酸 化反応を起こすことがわかった。 

 

(32)

第 4 章  実験装置および実験方法

4.1  実験装置 

4.1.1  供試機関および供試燃料 

本研究で使用した供試機関は単気筒機関と多気筒機関の二つがある。単気筒 機関はヤンマディーゼル製の NFD 170-(E)型で、ボア 102[mm]、ストローク 105[mm]および圧縮比 17.8 の水冷直噴射式ディーゼル機関であり、多気筒機関 はいすゞ自動車製の 4JB1-2 型で、ボア 93[mm]、ストローク 102[mm]および圧縮 比 18.2 の水冷直噴射式ディーゼル機関である。表 4-1 にこれらの機関諸元を示 す。 

供試燃料の代表的性状を表 4-2 に示す。使用した軽油は日本で市販されてい るセタン価 55 の JIS2 号である。DME は純度 99.9%の液化したものを、メタノー ルは工業用純度 99.5%のものを使用した。天然ガスは西武ガス(株)が供給する 都市ガス 13A を使用した。天然ガスの成分はメタンが約 88%、エタンが約 7%、

ヘプタンが約 2%、ブタンが約 3%である。 

   

Table 4-1 Engine specifications

Specifications Single cylinder 4 cylinders Engine type

Cycle Cooling system Bore and Stroke [mm]

Displacement volume [cc]

Compression ratio Maximum power [kW/rpm]

YANMAR NFD170-(E) 4

Water 102 and 105

857 17.8 12.5/2400

ISUZU 4JB1-2 4

Water 93 and 102

2771 18.2 64.7/3600  

 

(33)

Table 4-2 Properties of test fuels

Gas oil DME Natural gas Methanol Chemical structure

Lower heating value  [MJ/kg]

Cetane number Ignition point [K]

Stoichiometric A/F ratio

%wt.Carbon

%wt.Hydrogen

%wt.Oxygen

0.8378 42.9

55 520 14.50

86.5 13.5

0

CH3OCH3

28.9

60 620 8.98 52.2 13.0 34.8

CH4(88%)+Others 49.1

0 920 17.10

79.4 20.6 0.0

CH3OH 19.9

3 740 6.45 37.5 12.6 49.9

 

4.1.2  燃料供給システムおよび EGR システム 

図 4-1 は、DME、天然ガス、メタノールの供給システムおよび EGR システムの 概略図を示す。DME は、ボンベからフローメータ入口の圧力を 0.12[MPa]一定に 減圧してミキシングチャンバに供給し、面積式フローメータを使用して DME の 流量を計測した。天然ガスは、都市 ガスラインからガスコンプレッサで 0.1[MPa]の一定に加圧して、DME と同様に供給した。供給した燃料と空気が均 一に混合されるように装着したミキシングチャンバは、単気筒機関では吸気ポ ートの上流 1800[mm]、多気筒機関では 1500[mm]上流側に設置した。DME と天然 ガスはガス状態で供給することができるが、メタノールは常温で液体状態のた め、ガソリン用インジェクタを用いて供給した。メタノールはギアーポンプを 用い、レール圧を 0.5[MPa]の一定にした。図 4-2 にメタノールの供給方法を示 すが、メタノールの噴射制御は 4.1.3 節で詳しく述べる。軽油着火 PCCI 機関で はメタノール予混合気の不均一さによる影響を調べるため、吸気ポートおよび ポートから上流 800[mm]の位置にインジェクタを設置し、吸気ポートでの噴射 方式をポート噴射(Port Injection)、上流側での噴射を上流噴射(Premixed  Charge)と呼ぶ。EGR 比は、吸気ポートおよび排気ポートにおける CO 濃度を、

(34)

CO2メータを用いて計測し、式(2-6)により算出した。EGR 流量は、図 4-1 お よび 4-2 に示す EGR バルブにより調整した。また、EGR 採用時でも、吸気温度 を一定に維持できるように水冷 EGR クーラを装着して、コールド EGR システム を構築した。また、4 気筒 HCCI 機関における燃焼現象の気筒間アンバランスの 原因を究明するため、各シリンダのトップリング位置におけるライナ温度およ び排気ポートにおける排気ガス温度を計測した。 

   

Figure 4-1 Fuels supply and EGR system in single cylinder engine

(35)

Figure 4-2 Premixed charge and port injection systems of methanol in four cylinder engine

  4.1.3  メタノール噴射装置 

メタノールは液体状態で供給されるので別の供給システムが要求された。し たがって、ガソリンインジェクタを用いて噴射時期と噴射量を制御するシステ ムを構築した。図 4-3 にポート噴射システムの概略図を示す。機関クランク軸 に取り付けたスリット円盤のエンコーダから 360[pulse/revolution]信号と 1  [pulse/revolution]信号を検出し、1[pulse/revolution]信号は燃焼解析装置 CB-467 でデータ取得のためのトリガー信号と使用し、360[pulse/revolution]

信号は 1440 [pulse/revolution]信号に変換して外部クロックソースと使用し た。また、この 1440 パルス信号は噴射弁制御回路のカウント信号として使用し た。図 4-4 に噴射弁制御信号のシーケンスを示す。4 行程機関は 2 回転で 1 サ イクルが終わるので、筒内圧力信号を用い、筒内圧力や 1[pulse/revolution]

信号が立ち上がる時を圧縮行程と決めた。圧縮行程上死点から吸気バルブ開弁 時期後に合わせて噴射開始信号と噴射期間信号をパソコンに入力すると、PIO

(36)

ボードを介して噴射信号生成回路にこの信号が入力される。噴射信号生成回路 からの信号は OP アンプにより増幅され、インジェクタを制御し、噴射が完成さ れる。噴射信号生成回路は 4 つがあり、ポート噴射の場合は 180°の位相差を与 えて 4 つのインジェクタを制御した。また、上流噴射の場合は 180°の位相差の 4 つの信号を 1 つにまとめ、制御した。 

 

Figure 4-3 Schematic diagram of methanol port injection system

Figure 4-4 Schematic diagram of control circuit for port injection

(37)

4.1.4  計測装置 

機関出力と回転数の制御は、単気筒機関の場合は、分巻式直流発電機の励磁 電流および電機子電流を調整する摺動式可変抵抗器を用い、多気筒機関の場合 は、過電流式動力計を用いた。いずれの機関においても、筒内ガス圧力の計測 には、キスラー製 6125A 型ピエゾ圧力変換器を用い、ノズル針弁リフトの計測 にはギャプセンサーを用い、それぞれの出力信号をクランク角度 0.25°毎に 4 チャネル燃焼解析装置(小野測器製、CB-467)に取り込んだ。350 サイクルに亘 るデータの平均値が GP-IB を介してパーソナルコンピュータの記憶媒体に保存 された。 

温度計測は、燃料、吸気、排気、冷却水、潤滑油およびシリンダーライナな どに装着した熱電対を用いて計測した。単気筒機関では、各熱電対で検出され たデータを PC データロガ(OMRON 製、K8DL-G16-1)を用いて、1 分間隔で 10 分間 計測し、RC-232C を介してパソコンの記憶媒体に保存した。多気筒機関では、

マルチチャンネル・デジタル温度記録計(横河電機製、miniYODAC,YODAC-8)を用 いて単気筒と同様に GP-IB を介してパソコンの記録媒体に保存した。 

窒素酸化物(NOx)は、減圧型化学発光法(CLD)による NOx 自動計測器(柳本製作 所製、ECL-77 型)を用いて NOx 濃度を 10 分間計測し、その平均値をパソコンに 保存した。未燃炭化水素(THC)濃度は、水素炎イオン化検出法(H-FID)による THC 自動計測器(柳本製作所製、EHF-710H 型)を用いて濃度を 5 分間計測し、平均値 をパソコンに保存した。排煙濃度は、ボッシュ式スモークメータ(ゼクセル製、

BIR-200 型)を用いて計測した。5 回採取したうち偏差が少ない 3 回分の平均値 を記録した。EGR 比を算定するため、非分散赤外線方式(NDIR)による CO2ガス分 析計(ベスト測器製、BIR-200 型)を用いて二酸化炭素濃度を計測した。CO 濃度 は、ポータブル燃焼排ガス分析計TESTO 350M/XL(株式会社テストー製)を用い て計測した。 

 

   

(38)

4.2  実験方法 

4.2.1  軽油着火 PCCI 機関 

軽油噴射量、インジェクタノズル噴孔径、軽油噴射時期、吸気温度および圧 縮比が軽油着火 PCCI 機関の着火・燃焼および排気特性に及ぼす影響を調べるた め、インジェクタノズル噴孔径を 0.28[mm]および 0.20[mm]、軽油噴射時期を 10°BTDC、5°BTDC および TDC、圧縮比を 18.2、17.2 および 16.2、吸気温度を 60[°C]

から 140[°C]まで 20[°C]ずつ、また EGR 比を変化し、それぞれの条件で軽油噴 射量を減らしながら天然ガスあるいはメタノールを増加した。特に、メタノー ルの場合は気化潜熱が大きいので、その影響を調べるため、ポート噴射と上流 噴射を行い、ミキシングチャンバ Tin-mと吸気ポート Tin-pの温度を測った。また、

全ての実験に亘って、機関回転数は 1700±5[rpm]、冷却水出口温度は 80±0.5[°C]、

吸気ポートでの吸気圧力は標準大気圧の一定とした。 

 

4.2.2  DME 着火 HCCI 機関 

DME 着火 HCCI 機関は単気筒と多気筒において実験を行った。 

単気筒 HCCI 機関では、DME と天然ガスあるいはメタノールの割合、吸気温度 および EGR が着火・燃焼および排気特性に及ぼす影響を調べるため、吸気温度 を 40[°C]、60[°C]および 80[°C]に変化しつつ、それぞれの燃料の割合を変化し ながら実験を行った。全ての実験に亘って、機関回転数は 1200±5[rpm]、冷却 水出口温度は 80±0.5[°C]、吸気ポートでの吸気圧力は標準大気圧一定とした。 

HCCI 機関の実用化のために行った多気筒 HCCI 機関では、DME と天然ガスの割 合、吸気温度および EGR 比が着火・燃焼および排気特性に及ぼす影響を調べる ため、吸気温度を 40[°C]、60[°C]および 80[°C]に変化しながら EGR 比および DME と天然ガスの割合を変化し、実験を行った。また、不整定な運転の原因を調べ るため、各気筒のライナおよび排ガスの温度を測定した。全ての実験に亘って、

機関回転数は 1700±5[rpm]、冷却水出口温度は 80±0.5[°C]、吸気ポートでの吸 気圧力は標準大気圧一定とした。 

   

(39)

第 5 章  2元燃料圧縮着火機関に関する実験結果  および考察

この章では、軽油着火による天然ガスおよびメタノール PCCI 機関の燃焼特性 に及ぼす軽油噴射量、吸気温度、EGR 比、インジェクタ噴孔径、圧縮比、噴射 時期などの影響について述べる。 

5.1  天然ガス予混合気の燃焼  5.1.1  燃焼および排気特性 

Pme=0.33[MPa]、TIN=120[°C]、θinj=5° BTDC、dN=0.20 [mm]およびε=18.2 の場合について、軽油噴射量の減少に基づく燃焼時間履歴の変化、および排気 特性と燃料消費率の変化を図 5-1(a)および(b)にそれぞれ示す。図 5-1(a)の縦 軸 P は筒内ガス圧力、dQ/dθは熱発生率、Lift はノズル針弁リフトを、横軸 CA は ク ラ ン ク 角 度 を 示 す 。 凡 例 の 数 字 は 1 サ イ ク ル 当 た り の 軽 油 噴 射 量 [mg/cycle]と天然ガスの当量比を、括弧内の数字は全供給熱量に対する軽油の 供給熱量の割合を示す。図 5-1(b)の縦軸 Te は排気平均温度、THC は未燃化炭 化水素排出率、NOx は窒素酸化物排出率、Smoke は粒子状物質排出率を表す。図 5-1(a)において、軽油噴射量が最大の 2.45[mg/cycle]の場合、熱発生率の第 1 ピークと 2 ピークは明確に区別できる。軽油噴射量を減少すると、着火源が減 少することによって第1ピークが低下し、同時に燃焼速度が遅くなり、その結 果、第 2 ピークが下がり、燃焼期間が延びる。軽油噴射量が最小の 0.98  [mg/cycle]の場合は、軽油噴射量が少ないため、第 1 ピークが明確に現れず、

第 2 ピークとの区別ができない。これらの結果から判断すれば、軽油の着火に より第 1 ピークが現れ、軽油噴霧が火炎核となり、天然ガス予混合気内を火炎 が伝播し、第 2 ピークが現れるものと推定される。図 5-1(b)に示すように、

軽油噴射量の減少により排気温度が上昇するのは燃焼期間が増大することに基 づいており、排気損失の増加につながる。また、天然ガス当量比の増加によっ て THC 排出率が増加することも、燃費増加の要因になっている。一方、最高筒 内圧力が低くなるため、筒内平均ガス温度が低下し、NOx 排出率が減少する。 

(40)

(a) Change in combustion history (b) Change in exhaust emissions and fuel consumption Figure 5-1 Effect of amount of gas oil as ignition source in NG PCCI engine

(Pme=0.33[MPa], TIN=120[°C], θinj=5° BTDC, dN=0.20[mm], ε=18.2)  

安定着火のための最小軽油噴射量の吸気温度による変化を図 5-2 に示す。○

印は負荷 Pme=0.33[MPa]の場合、▽印は負荷 Pme=0.58[MPa]の場合である。最 小軽油噴射量は、着火のために必要な最小着火エネルギーで、失火限界である。

吸気温度の上昇に伴い混合気温度が上昇し、着火に必要なエネルギーが小さく なるので、最小軽油噴射量が減少する。また、負荷の増加により燃焼室内の混 合気温度が高くなり、小さいエネルギーで着火できるため、最小軽油噴射量が 減少する。なお、Pme=0.58[MPa]の場合、吸気温度 80[°C]以上では、吸気温度 が過度に高いため、着火と同時にノックが発生した。 

(41)

Figure 5-2 Effect of injection amount of gas oil as ignition source on misfire limit in NG PCCI engine (θinj=5˚BTDC, dN=0.20[mm], ε=18.2)

Figure 5-3 Change in combustion history due to engine load in NG PCCI engine (TIN=80[°C], GGO=1.47[mg/cycle], θinj=5° BTDC, dN=0.20[mm], ε=18.2)

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負荷の増加に基づく燃焼時間履歴の変化を図 5-3 に示す。実験では、軽油噴 射量を一定に保ち、天然ガス当量比を増加させて負荷を増加している。天然ガ ス当量比の増加にも拘わらず、着火遅れが増加しないことから、天然ガス混合 気濃度は軽油の着火に影響を与えないことが分かる。また、負荷が増加するに つれ、軽油の着火に基づく熱発生率の第 1 ピークは顕著でなくなり、天然ガス の燃焼を代表する第2ピークだけが顕著に高くなる。高負荷ほど天然ガス当量 比が理論混合比により近づくため、燃焼速度が速くなり、その結果、燃焼期間 が短縮される。 

 

Pme=0.33[MPa] (b)Pme=0.49[MPa]

Figure 5-4 Change in combustion history due to intake temperature in NG PCCI engine (GGO=1.47[mg/cycle], θinj=5° BTDC, dN=0.20 [mm], ε=18.2)

吸気温度上昇に基づく燃焼時間履歴の変化を図 5-4(a)と(b)に示す。 (a)は Pme=0.33[MPa]、(b)は Pme=0.49[MPa]の場合である。吸気温度の上昇に伴い、

いずれも場合も、軽油による着火が僅かに早くなる。低負荷の Pme=0.33[MPa]

の場合、吸気温度上昇に伴う天然ガス燃焼速度の増加は僅かである。また、高

(43)

負荷の Pme=0.49[MPa]の場合には、吸気温度上昇に伴い天然ガス予混合気燃焼 速度が速くなって燃焼時間が短縮される傾向が見られる。吸気温度が過度に高 い場合は、天然ガスの急激な燃焼が起こり、ノックに至る。Pme=0.49[MPa] の 場合、ノック限界吸気温度は 120[°C]である。 

図 5-5 は、EGR 比の増加に基づく燃焼時間履歴の変化を、低負荷 Pme=0.33[MPa]

の場合について示す。XEGR=0.20 の場合は EGR による着火遅れの増加は僅かで あるが、XEGR=0.34 の場合は EGR により着火遅れが顕著に増加し、着火時期が TDC 以後に遅延され、最高燃焼圧力が低下する。EGR 比が小さい場合に着火遅れ が増加しないことについては 5.1.2 節で述べる。 

EGR 比の増加により筒内平均ガス温度が低下するので、図 5-6 に示すように、

NOx が低下する。一方、吸気温度上昇により NOxは増加する。EGR 比の増加に 伴い、クレビス内の未燃混合気が減少するので THC 排出率が低下し、また、吸 気温度上昇によっても THC 排出率が顕著に低下する。THC の減少に基づく燃焼 効率の向上が、燃料消費率低減の要因と推定される。 

Figure 5-5 Change in combustion history due to EGR ratio in NG PCCI engine (Pme=0.33[MPa], TIN=80[°C], GGO=1.47[mg/cycle], θinj=5° BTDC, dN=0.20 [mm],

ε=18.2)

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