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早稲田大学大学院法学研究科 2017年6月 博士学位申請論文審査報告書

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Academic year: 2022

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(1)早稲田大学大学院法学研究科. 2017年6月 博士学位申請論文審査報告書. 論文題目 フランス株式会社法と会社契約理論 -株式会社における物的要素と人的要素についての一考察-. 申請者氏名. 主査. 石川 真衣. 早稲田大学教授. 博士(法学)(早稲田大学)上村達男. 早稲田大学教授 早稲田大学教授 早稲田大学教授. 博士(法学)(東京大学). 1. 岩原紳作 尾崎安央 鳥山恭一.

(2) 石川真衣氏博士学位申請論文審査報告書. 早稲田大学高等研究所助教石川真衣氏は、早稲田大学学位規則第7条第1項に基づき、 2017年2月1日、その論文「フランス株式会社法と会社契約理論―株式会社における 物的要素と人的要素についての一考察―」を早稲田大学大学院法学研究科長に提出し、博 士(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の委員は、上記研究科の委嘱を受け、この 論文を審査してきたが、2017年6月12日、審査を終了したので、ここにその結果を 報告する。. 1 本論文の構成と内容. 本論文は、フランスにおける株式会社法の形成及び発展において、あくまでも会社契約 理論を強調しながらも、その発想とは矛盾するかに見える様々な現代的な課題に対応して きたフランス会社法の特質を探ろうとの問題意識を有する論文である。本論文が具体的な 検討対象として取り上げているのは、資本概念、株主の締出し、株主権の濫用という三つ のテーマである。本論文は、 「序章」 「第一部 フランスにおける株式会社の発生と会社契 約理論」 「第二部 フランス株式会社法における資本概念」「第三部 株式会社における株 主の締出しをめぐる問題」 「第四部 株式会社における株主権の濫用法理」 「第五部 フラ ンス株式会社法における会社契約理論の意義」「終章」から成り、全体で470頁余(参考 文献を含む)に及ぶ。. 「序章」では、伝統的に対照的なものとして捉えられてきた人的会社と物的会社という 分類について、前者においては会社の社員の信用、後者においては会社の財産の信用に重 きが置かれるとされながらも、実際には人的会社にも資産という物的な要素があり、物的 会社も様々な人的な要素を想定して運営されるのが通例であるが、理論上、株式会社は物 的性格の会社の代表例とされてきたとする。そのうえで、1807年商法典制定以降、会 社契約を中核とした人的関係を基礎とした枠組みのなかに株式会社を位置づけてきたフラ ンス会社法を研究対象とする理由が説明される。フランスにおいて、会社を契約の一種と する考え方は、単なる理念上の会社の性質の説明に過ぎないのではなく、株式会社法上の 各種制度ないし法理においてそれが具体的な形で表れていることにその本質があり、そこ に株式会社の物的要素と人的要素の衝突および調整という課題が見出されるとしている。. 「第一部 フランスにおける株式会社の発生と会社契約理論」では、フランスにおける 株式会社法制の形成の経緯とその基礎的構造を明らかにしようとする。1807年商法典 により株式会社に関する法律規定がはじめて設けられる以前に存在していた形態で物的会 2.

(3) 社の原点と評価することができる要素を兼ね備えていたものとして、古くはローマ時代の ソキエタスからアンシアン・レジーム期以前の水車事業体、その後の各種事業体そして国 王の特許をもって設立される商事会社が取り上げられ、それらの特徴に関する検討がなさ れている。そのうえで、フランス革命以前にすでに組合の実態とは様相を異にする、現在 の株式会社に類似するような形態があったことが指摘されている。そして、フランス革命 がこれらの形態に与えた影響、1804年民法典そして1807年商法典の理念と特徴、 及び株式会社一般に関して設立準則主義を採用した1867年7月24日の法律の制定に 至るまでの経緯が明らかにされている。 第一部においては、近代フランス株式会社法制の歴史は、ときには証券市場を巻き込み 投機的行為を生じさせるような株式発行を伴う大規模商事事業形態の経験があったにもか かわらず、民法典及び商法典の規定により組合を前提とした契約モデルが営利目的事業の デフォルトモデルとされ、これが株式会社に適用されてきたことによる一種の矛盾とも言 える状況を当初より抱え込んできたとし、その一方で、契約という概念にあくまでもこだ わることで、株式会社にとって人的要素こそが基本であるとする強固な信念が維持されて きたとしている。. 「第二部 フランス株式会社法における資本概念」では、物的会社の本質とされる会社 資本に関するフランスの制度を検討している。最初に取り上げられているのは、フランス における株式会社法制が初期に直面した設立時の資本確保の課題であり、設立許可主義時 代には政府による許可の判断基準として資本金額が用いられたことが指摘され、その後、 全額引受・分割払込制、払込内容に対する規制をめぐる問題が扱われ、また解散基準とし ての資本金の役割についての検討がなされている。次に、会社契約との関係で、物的会社 に必要不可欠な資本確保という課題が株主の利益配当請求権との関係でどのように調整さ れているかについて、とりわけ確定利息条項の是非をめぐる問題及び利益の内部留保の正 当化の問題が検討されている。さらに、フランスにおける最低資本金をめぐる問題が取り 上げられ、最低資本金制度が現在もフランスにおいて株式会社に関しては固く維持されて いることが述べられたうえで、資本金の役割は債権者保護機能に限らないことが、資本金 の額の変更をめぐる手続から明らかになるとしている。特に重要な点として指摘されてい るのは、既存株主に付与される新株優先引受権であり、特に資本減少を通じて少数株主の 締出しという結果がもたらされる100パーセント減資をめぐる議論を基礎に、優先引受 権の付与が有する意義について検討がなされている。 第二部においては、資本概念がフランス法における株主の個人権と密接な関係を有し、 資本概念が単に資金の確保のみを目的する物的要素によってのみ特徴付けられることなく、 強度の会社契約理論及び私的自治という人的要素との調整の観点において捉えられている、 との理解が示されている。 3.

(4) 「第三部 株式会社における株主の締出しをめぐる問題」は、物的会社における株主の 地位が会社契約との関係でどのように位置づけられるかに関する検討であり、株主の個人 権としての会社にとどまる権利がどこまで保障されるのかが検討されている。ここでは第 二部の後半において検討した100パーセント減資を通じた締出しが会社法における締出 し一般の肯定につながっているかに関する検討がなされており、最初にわが国における締 出しの理論状況に関する紹介がなされ、フランスにおける退社の強制の問題が理論上どの ように捉えられるかが説明されている。会社契約理論を原点として、社員には固有権とし ての会社にとどまる権利が原則として保障されるとする見方がありながらも、フランスに おいては退社の強制を実現するための手法が模索されてきたことが示され、そのために用 いられる制度について詳細な検討がなされている。 次に、1993年12月31日の法律によって創設された少数株主の強制退出制度の概 要及びその目的に関する説明がなされ、同制度と社員の地位をめぐる問題の関係、さらに 補償のあり方について検討がなされ、同制度が上場会社を念頭に入れた、特殊な制度とし て構築されていることが指摘されている。そのうえで、少数株主の締出しに関する法律規 定が置かれたことは、会社法における社員の地位の理解について一種の転換を生じさせて いるわけではないとの指摘がなされている。この点は、定款における除名条項の有効性を めぐる議論においても確認されるものであるとし、判例研究を基礎に、厳格な解釈がなさ れていることが示されている。さらに、退社の強制措置の対象となる社員に保障される権 利の内容に関する検討がなされている。 第三部においては、フランスの退社の強制をめぐる問題が、ソシエテの構成員としての 社員の存在をいかに捉えるかという問題である点で、物的会社とされる株式会社にも共通 の問題として包括的に検討されていることは、人的会社の退社・除名と言った問題と、公 開会社における締出しの問題を別個の問題として理解する発想との相違を際立たせている とされる。社員の地位は絶対的な保障を受けるものではないものの、あくまで会社におけ る社員の地位及び権利を中心とした議論の立て方がなされることで、株式会社における人 的要素という観点が維持されていることが主張されている。. 「第四部 株式会社における株主権の濫用法理」は、フランス会社法における濫用法理 の展開について検討する。濫用法理は、株式会社の物的要素に関する論理を極めて明確な 形で体現している資本多数決の原則を是正する機能を有するが、濫用法理を通じた是正の 過程において、多数株主ないし支配株主としての権利濫用者という人的要素が、資本とい う物的要素を乗り越えて浮き彫りになるという側面がある。そうした観点を踏まえつつ、 詳細な分析・検討がなされている。最初に、多数派の濫用法理が取り上げられ、同法理が 確立するまでの経緯、及びこれが確立した後の明文化の試みとその失敗に関する検討がな 4.

(5) され、判例における多数派の濫用の展開が場面ごとに分類され、判例の分析がなされてい る。その後、多数派の濫用法理の出現以降に現れた少数派の濫用法理、及び平等の濫用法 理に関する詳細な判例研究がなされている。そのうえで、濫用法理と会社契約理論の関係 について考察が加えられ、濫用行為に対する制裁についての分析がなされている。検討全 体を通じて意識されているのは、濫用法理の構成要件とされている「会社の利益(intérêt social)に反すること」と濫用者の意図としての「平等の決壊(rupture d’égalité)」の二つ の要件が会社契約理論との関係においてどのように機能しているかという観点である。 第四部においては、フランスにおける濫用法理が、 「会社の利益」概念を通じて、単なる 株主または社員間の利害調整に限られない、決議の影響を受ける者一般を法的構成に取り 込んでおり、企業の社会的実態に対する配慮がなされていること、そして、 「平等の決壊」 概念を通じて、濫用者の意図を評価の対象とし、物的要素としての株式をコントロールす る人的要素としての濫用者(株主)を法的構成に取り込むことが意識されている、と指摘し ている。. 「第五部 フランス株式会社法における会社契約理論の意義」は、フランス会社法にお ける会社契約理論の位置づけに関する検討である。ここまでの検討では、契約理論を人的 関係と見て、その他の重要な要素として資本、資金といった物的側面を浮き彫りにしてき たが、ここでは、フランス会社法上、伝統的に対立するものと解されてきた会社契約理論 と制度理論に関する再検討がなされ、とりわけ契約理論外の要素を包括する概念としての 制度理論に着目する。石川氏は、この対立を強調してきたフランス会社法理論が、会社の 設立時とその後の段階を過度に分けて論ずる結果になっているのではないかとする疑問を 出発点に、会社契約という考え方が株式会社法制に現に与えている影響とその課題につい て分析している。そこでは最初に、契約理論と制度理論の二項対立がなぜ生じたのか、そ してその対立の理論上の意義についての検討がなされ、さらに、フランス会社法上の会社 契約モデルを、株式会社法制、とりわけ上場会社との関係でどのように捉えるべきかにつ いて考察が加えられている。その際に、民法典のソシエテ契約に関する定義においてソシ エテは利益追求を目的とした契約であるとされたことに注目し、それが民法上の組合契約 からの離脱と会社法理への接近を意味したことに触れ、さらに株主価値の増大を唱える米 国における株式会社モデルとの若干の比較がなされている。 また、フランスにおける支配権維持の要請及びフランスにおける株主層の形成過程につ いての検討がなされ、物的要素が徹底されると一見考えられる株式会社においても、それ が必ずしも株式市場ないし資本市場の強調に向かうのではなく、会社の構成員としての株 主の存在という人的要素の維持が強調されることとの関係が対比的に説明されている。 第五部においては、歴史的検討を基礎に、フランスの株式会社においては、高額な最低 券面額を好み、不動産投資を好む投資者側の事情、そして株式に比べて社債及び公債を優 5.

(6) 遇する市場側の事情、 さらには支配の不安定性を懸念する会社側の事情等の特色が見られ、 株式会社制度における株主層の分散化ないし株式の高度の流通を阻む要因が見出されると している。その結果として一般的に最も株主が分散化されていると考えられる上場企業の 株主構造においても、ブロック化された支配構造が明確な形で存在し、これが広範な法定 権限を有する株主総会モデルと組み合わされたことにより、そこでの過度な支配の強調に 対する制御方法として、株主の会社にとどまる権利と並んで濫用法理が強調されることに なったとしている。. 「終章」では、第一に、フランスの株式会社法制の形成過程において、ソシエテとい う強力な組合概念を基礎とした枠組みが採用されたことにより、株式会社法制の発展に必 要な物的要素が強化ないし徹底されようとする際には必ずその反動としてソシエテ概念に 基礎づけられた人的要素をめぐる問題が浮上する現象が見受けられるとしている。第二に、 会社契約理論を基礎として、株主の権利を重視し、株主総会に広範な権限を付与する法制 度に対する制御がどのようになされているかにつき、株式会社が契約か制度かという理論 上の対立が、株式会社内部における権限配分の問題を論じ、とりわけ株主総会決議に対す る制約のあり方が、株主権の濫用法理における会社の利益概念を通じて、多様な社会的価 値を考慮し、会社(ソシエテ)の位置づけをより広義の社会(ソシエテ)との関係で捉え る考え方が持ち込まれているとしている。第三に、株式会社の定義規定である商法典 L.225-1 条において「株式会社は資本金が株式に分割され、その出資を限度として損失を 負担する社員(アソシエ)の間に設立される会社である」との規定につき、資本金の株式 への細分化という理解と社員間の契約という枠組みが併存していることが指摘されている。 そのうえでここでは、契約主体である株主の存在が物的要素の確立をもってしても稀薄化 されないとの認識が示されているとする。そして最後に、フランス特有の制度と理論のあ り方に対する認識を踏まえて、それをわが国の制度論に対する示唆として如何に受け止め るべきかを今後の研究課題としている。. 2 本論文の評価 本論文は、資本市場を活用する資本機構としての株式会社制度の性格が最大限強調され る状況(特にアメリカと日本の状況)を一方で見据えながら、株式会社制度であってもあく までも会社制度の原点である人的結合という性格にこだわり続け、それのみでは説明でき ない数々の現代的な事象にそうした基本姿勢をもって対峙しようとするフランス会社法の 行き方、とりわけその理念と葛藤のプロセスに着目し、グローバルに展開する株式会社制 度の本来の意義や性格を解明しようという高い問題意識に貫かれた論文である。 今日、グローバリズムの行き過ぎに対抗する保護主義の再評価という形の議論が広く展 開されつつあるが、本論文の問題意識は、各国の株式会社制度を、その人的要素と物的要 6.

(7) 素の比較検討を通じて明らかにすることで、いわば、株式会社法の基礎理論に根ざした比 較株式会社法を志向し、グローバルな喫緊の課題もそこでの中心的な経済主体である株式 会社制度における人と財のあり方に関する問題として分析・検討することが必要であるこ とを明らかにする可能性を秘めている。その意味で、フランス会社法が有する上記の葛藤 の理念とプロセスを正面に見据えようとする本研究の意義は非常に高い。そこでは資本の 論理・市場の論理に対するデモクラシーないしガバナンスの論理の調和という問題が、こ れを株式の意義に照らすならば、財産権(利益配当請求権・残余財産分配請求権)と議決権 の相互関係性と調和という、株式会社制度が歴史的に一貫して取り組んできた問題が、正 面から多角的に論じられている。本論文は、こうした志の高い問題意識の展開可能性を、 さらに進展させていく研究の第一歩としての意義を有しており、これを高く評価したい。. 本論文はこのように株式会社制度の本質に関わる大きな問題意識を有するものであるが、 まず冒頭にフランスにおける株式会社の起源に関する研究を行っており、そこでは 12 世 紀の水車事業体を先駆的形態とするフランスの研究を手始めにその後の会社制度発展のプ ロセスが詳細に紹介されている。そのうえで本論文は、資本概念、株主の締出し、株主権 の濫用という三つの個別テーマを研究素材として取り上げているが、いずれも一つ一つが フランス会社法の最新の状況を、 歴史的な評価軸を踏まえて深く追求した研究論文として、 高い学問的価値を有している。特に、フランス会社法における資本概念が、フランスの企 業社会に深く根付いており、出資金と出資主体である株主との繋がりを強く維持する資本 概念が、株主の持株比率の重視と一体の形で株主の新株引受権を当然視する行き方に結び つき、その反面において株主の締出しに対して非常に厳しい姿勢をもたらしていることを 示す沿革ないし判例・学説の分析には見るべきものがある。また、株主の締出しについて は、合名会社の退社・除名の問題と公開会社における締出し問題を別個のものとして理解 してきた日本のあり方とは異なり、物的会社についても人的側面を重視するフランス会社 法上、この両者が一つの問題として理解され、そのうえで上場会社等において 95%の株式 を有する支配株主との関係で、限定的に強制退出制度が認められている状況が明らかにさ れている。あくまでも社員の権利、社員の意思を重視するフランス会社法の一貫した考え 方が示されている。そのうえで、個人ないしファミリーとしての支配株主の存在が大きな フランスの株式会社において、単なる資本多数決の濫用を超えた支配株主という人による 株主権行使の濫用が主として問題とされる状況が浮き彫りにされ、その延長で少数株主権 の濫用問題も共通の理論的基盤を有していることが明らかにされている。資本団体とされ る株式会社制度にあっても、株主という人的要素が重視されるフランス会社法において、 一定の影響力を有する少数株主による支配権の濫用という形で表現されることは、フラン ス会社法の一貫した性格を明らかにするものであり、三つの具体的な論点を結びつける問 題意識が見事に表現されていることは、これを高く評価することができる。 7.

(8) このように本論文の意義はきわめて高く、問題意識も内容も優れたものであり、石川氏 の研究能力の高さを示すものとなっているが、なお、今後の研究課題とすべきと思われる 諸点を以下に示しておく。. 第一に、本論文が資本概念、株主の締出し、株主権の濫用の三つの具体的なテーマを掲 げたことは、当初は本論文でも随所に言及される会社の利益(intérêt social)概念に関わる 問題を修士論文において網羅的に検討したことに始まっているが、本論文はフランス会社 法における契約理論、人的要素の強調に多くが割かれており、会社の利益(intérêt social) 概念として問題にされている契約ないし人的関係を超えた考慮要素を再び、会社の利益と いう問題意識に立ち返って分析することが必要と思われる。そしてその際には、契約理論 対制度理論というフランスの問題意識が制度として捉えてきた具体的な問題への考量と、 会社の利益概念との関係を明らかにすることが必要になるものと思われる。そして、その 際には intérêt social という言葉がフランスで一般に(特に政治関係の文脈で) 「社会の利益」 として理解されてきたことを考えると、それがフランスにおいて会社法の文脈でもそのま ま「社会の利益」の意味で使われてきたのか、あるいは「会社の」利益として理解されて きたのかについて、十分な検討を要するようにも思われる。intérêt social を会社の利益と 訳することが、日本人の会社観の反映に過ぎないのか、そこにはフランスに固有の含意が 存在するのか、なお解明すべき重要な課題が存在しているように思われる。. 第二に、本論文の各論的な分析について、これらの問題に対する日本法の現状をさらに 詳細に対比・検討することで、フランス法における契約理論ないし人的要素重視の発想を 日本法の制度論・解釈論に反映させるための法的構成を随所で試みることを期待したい。 膨大な研究成果を示す本論文に対して、現時点では過大な期待ではあるが、さらに本論文 の意義を高めるためには決して避けて通れない課題であることを強調しておきたい。その 際には、フランス法における資本市場法制と会社法との関係を、日本ないしアメリカにお ける問題意識と比較検討することも課題として認識されるべきであろう。本論文の成果に 照らすと、資本市場で公開した株式会社であっても、その世界を単純に資本と資本のやり とりの場として割り切るのではなく、あくまでも人的関係ないし契約関係を出発点に据え る発想が生きているとの推測も可能なのかもしれない。. 第三に、本論文の関心からすると、資本概念を廃棄し、株主の締出しも対価さえ公正で あれば比較的容易に許容されるアメリカ会社法のあり方を検討し、フランスの行き方との 相違を明確化するための研究が要請されるはずである。また、アメリカの法と経済学に言 う取引コストの削減、エージェンシーコストの削減といった契約ベースの議論を、フラン 8.

(9) スの契約理論との対比において明らかにするための研究も、重要な課題として受け止める べきである。フランスとアメリカの二つの契約理論の異同とそれぞれの社会的背景の相違 を浮き彫りにするという長期的な課題への挑戦を期待したい。. 3 結論 以上の審査の結果、後記の審査員は、全員一致をもって、本論文の執筆者が博士(法学) (早稲田大学)の学位を受けるに値するものと認める。. 2017年 6月 12日. 審査員 主査 早稲田大学教授. 上村 達男(会社法、資本市場法). 副査 早稲田大学教授. 岩原 紳作(会社法、金融法). 早稲田大学教授. 尾崎 安央(会社法・企業会計法). 早稲田大学教授. 鳥山 恭一(会社法、フランス会社. 法). 9.

(10) 4 修正対照表. 【付記】 本審査員会は、 本学位申請論文の審査にあたり、下表のとおり修正点があると認めたが、 いずれも誤字・脱字等軽微なものであり、博士学位の授与に関し何ら影響するものではな いことから、執筆者に対しその修正を指示し、今後公開される学位論文は、修正後の全文 で差支えないものとしたので付記する。. 博士学位申請論文修正対照表 修正箇所. 修正内容. (頁・行. 修正前. 修正後. 等) 97頁・脚. 商法に. 商号に. 資本減少を通じた締出しの可能性が、. 資本減少を通じた締出しの可能性につ. 注460 149頁・ 31行 156頁・. いては、 「ドイツにおける少数株主の締め出し. 「ドイツにおける少数株主締め出し規. 規制(1)(2・完)」. 整(1)(2・完)」. 『会社法の現代的課題』(法制大学出. 『会社法の現代的課題』(法政大学現. 版局、2004). 代法研究所、2004). 170頁・. 「私的収用(expropriation pour cause. 「私的収用(expropriation pour cause. 10行. d’utilité privée)であるとし、. d’utilité privée)」であるとし、. 258頁・. 非常に完結且つ的確に. 非常に簡潔且つ的確に. 一般的なソシエテとしての社員の地位. 一般的なソシエテの社員の地位. L.225-321条. L.225-231条. 脚注67 7、422 頁・22行 156頁・ 脚注67 7、426 頁・25行. 27行 266頁・ 6行 318頁・. 10.

(11) 10行 318頁・. 10分の1. 20分の1. 大体させること. 代替させること. フランス会社法のおける. フランス会社法における. 多数派の濫用は、. 多数派の濫用には、. 株式会社の現実が. 株式会社の現実による、. 会社の捉え方に対する. 会社の捉え方に関する. (刑法典L.226-13条). (刑法典226-13条)). 定款により氏名. 定款により指名. 11行、1 4行 327頁・ 20行 330頁・ 22行. 345頁・ 11行 345頁・ 11行 345頁・ 11行 374頁・ 17行 376頁・ 23行. 以上. 11.

(12)

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