博士(獣医学)土谷 学位論文題名
Patholgical Study of a Newly Established Diabetic Rat Strain (WBN/Kob Rats)
(新たに確立されたラットの糖尿病系統(WBN/Kob ラット)
に関する病理学的研究)
学位論 文内容の要旨
稔
糖尿 病は 医 学臨 床に お いて は頻 繁 に見 られ る 重篤な疾 患の1っと されている。この 病態解明の た めに は種 々 のモ デル 動 物が 利用されている。特 に遺伝性糖尿病動 物はモデルとして の有用性が 高 く , イ ン ス リ ン 依 存 型 糖 尿 病 (IDDM)モ デ ル と し てNODマ ウ ス やBBラ ッ 卜 , イ ン ス リ ン 非 依 存 型 糖 尿 病 (NIDDM) モ デ ル と し てKKマ ウ ス やdb/dbマ ウ ス な ど が 広 く 知 ら れ て い る。 また ヒ ト糖 尿病 で は合 併症も重要な研究課 題とされ,モデル 動物を用いての病 理発生が解 明されっっ ある。
近年,高 歯合の雄だけが高 血糖,尿糖排泄,多 尿および多飲・多 渇を呈する近交系ラットが見い だ され た。 そ こで 著者 は ,本 系統ラットの臨床像 ならびに病理形態 像の解析を行い, 遺伝性糖尿 病 モ デ ル 動 物 と し て の 有 用 性 を 検 討 し た 。 得 ら れ た 結 果 は 次 の よ う に 要 約 さ れ る 。 1。 本 系統 の12〜90週 齢の ラット総計273匹(雄131匹, 雌142匹) にっいて臨床的観 察を行い,
糖 尿病 の発 現 状況 と病 理 変化 を概観した。雄ラッ ト群では,52〜60週齢に達した頃よ り尿糖を排 泄する例が 散見されはじめた 。発症例の症状は徐 々に進行し,多尿 および多飲・多渇が顕著になっ た 。78週齢 以 上の ほと ん どの 例は尿糖を排泄した 。そして最終的に は,これらの動物 は削痩し,
例 によ って は 白内 障あ る いは 高脂血症を示した。 雌には尿糖排泄は 見られなかった。 雄ラットの 各 週齢 の平 均 血糖 値は ,12週 齢:147.7土18.3mg/dl(n=12),20週 齢 :138.O土10. 2mg/dl(n 二ニ7),33週齢:145.2土18.6mg/dl(n二二12),および60〜90週齢:312.7土120. Omg/dl(n二二ニ3 6)で あ った 。12週 ,21週お よ び60週齢 の 雌雄 に対 する糖負荷試験 の結果,60週齢の 雄の耐糖能 が 著し く障 害 され てい た 。ま た,60週齢の雌と21週齢の雄では糖負 荷後の血糖値の回 復が若干遅 延する傾向 にあり,耐糖能の 異常が示唆された。
病理 組織 学 的検 査の 結 果,60週齢以上の高齢ラ ットの膵臓はびま ん性の線維化と脂 肪組織によ
る 実 質 の 置 換 に よ っ て 高 度 に 萎 縮 し , 島 組 織 も 顕 著 に 萎 縮 ・ 減 数 し て い た 。 以上 の 他腎 臓, 眼 球, 坐骨神経 において糖尿病に特 徴的な合併病変が 観察された。すな わち,
腎 臓の 糸 球体 にはdiffuse且つglobalなメ サン ジ ウ厶 領域 の 拡大 およ び フィ ブリ ン ・キ ャッ プ 様 病 変 , 尿 細 管 に はArmanni―Ebstein病変 お よび 核糖 原 が認 めら れ た。 肉眼 的 に白 内障 を 呈 し た眼 球 では ,水 晶 体線 維の腫大 ,空胞化,断裂とモ ルガン氏球の形成 からなる皮質白内 障の像 が 児ら れ た。 坐骨 神 経で は,神経 周膜膠原線維の増生 による神経線維間 の疎開が顕著であ り,軸 索 周 囲 腔 の 拡 張 と こ こ へ の 大 食 細 胞 の 侵 入 , 軸 索 内 グ リ コ ー ゲ ン 沈 着 が 所 見 さ れ た 。 以 上 の よ う に 、WBN/Kobラ ッ ト の 雄 は , 耐 糖能 異常 を 示し て後 , 高齢 にな っ て糖 尿病 を 発 症 し, 以 後進 行性 の 経過 をたどヮ た。腎臓,眼球,坐 骨神経に認められ た合併病変はヒト 糖尿病 患者の それと類似してい た。
2.本系統の糖 尿病発症の主因で ある月萃臓病変の形 成過程を明らかに する目的で,発症 前の雄 ラット (12,16,20,21,24,33週齢)76匹 と発症後の雄ラッ ト(60〜90週齢)55匹の耳萃臓を,
病 理学 的 なら びに 免 疫組 織化学的 に観察した。肉眼的 には,24週齢以下 のラットの膵臓に は変化 は認め られなか゛ったが,33iF'J齢では実質内に黄色ないし暗褐色の斑点が多発し,60‑‑ 90週齢では 月萃臓 は暗褐色に着色し て高度に萎縮し,薄 い膜様であった。 発症前ラットに共 通した組織変化は 多 発性 巣 状性 炎症 で あり ,同一個 体においても部位に よって様々な炎症 像が見られた。病 変は多 中心性 に発現し,以下の 経過をたどって拡大 した。@耳萃島周 囲の出血と線維素 の析出,◎この周 囲 腺房 組 織へ の炎 症 性細 胞浸潤と 水腫,@膵島細胞お よび腺房細胞の変 性,@組織構築の 崩壊・
消失, ◎肉芽組織の形成 と再生性変化,◎線 維化と炎症性細胞 の減少。発症ラッ トの月萃臓は,前 述 した よ うに 内外 両 分泌 組織の顕 著な萎縮を伴って線 維化を示した。こ の線維化は炎症の 終末像 と みな さ れ, 線維 化 巣内 には再生 性島細胞の小集簇, 導管の増殖,ヘモ ジデリン負食細胞 の集積 が 認め られた。発症ラ'ソトの膵島 の大きさは,対照と したWistarラ・ソ トのそれに比較し 有意に 小 さか っ た。 膵島 の 免疫 組織化学 的観察では,B細胞とA細胞はカ口齢に 伴って激減してい た。ま た,高 齢ラットではB細胞比の減少 が顕著であった。
以 上 の よ う に ,WBN/Kob雄 ラ ッ ト で は , 膵 臓に 特異 な 炎症 性変 化 が見 られ , その 過程 に お い て内 分 泌細 胞が 崩 壊と 再生 を 繰り 返し , 結果 的にB細胞比の減少がも たらされ,糖尿病 が生じ ると解 された。
3.糖 尿病 性 合併 症の1っである 腎尿細管病変を明ら かにする目的で, 総計72匹の高齢雄 ラ・ソ ト(60〜120週 齢 ) に っ い て , 光 顕 的 な ら び に 電 顕 的 に 検 索 し た 。Armanni−Ebstein病 変 は 主 に遠 位 曲尿 細管 と 集合 管上皮に ネフロン単位で発現 し,HE染色では細 胞質の完全な空耳 包化と
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して認 めら れた。 電顕的 には細 胞質内 に様 々な量 のロ型 グリコ ーゲ ン顆粒 が蓄積していた。この 蓄積は 高度 な場合 は細胞 質の大 部分を 占め ,細胞 小器官 は核周 囲あ るいは 細胞辺緑へ圧排されて いた。 グリ コーゲ ンの蓄 積が少 量の場 合は ,グリ コーゲ ンは核 上部 に集塊 を作って蓄積し,同時 に層板 状ま たは小 胞状構 造を含 むライ ソゾ ームが 共存し ていた 。ラ イソゾ ームは時折グリコーゲ ン顆粒 を合 み,顆 粒の処 理・排 出に関 与し ている と考え られた 。核 糖原は へンレのわなの上行脚 に 散在 性 に 認 め られ た 。 腎 組 織を 樹 脂 包 埋 し た厚 切 り切片 に,PAS染色 を施し て観 察した とこ ろ ,均 質 無 構 造 な陽 性 物 質 ( 核糖 原 ) の 他 にPAS強 陽性の 微小球 状体が 認めら れた 。この 球状 体は, 電顕 的には ロ型グ リコー ゲン顆 粒が 様々な 大きさ と密度 で核 のほぼ 中央に集積した構造を なして いた 。グリ コーゲ ン顆粒 の集塊 は膜に取り囲まれておらず,核膜に接することもなかった。
核 内 に は そ の 他 にglycogen bodyが 認 め ら れ ,こ れ は 光 顕 的なPAS強 陽性 の 微 小 球 状体 に 一 致 する と 思 わ れ た。glycogen bodyの 周囲 は , 繊 細な 線維状 あるい は無 構造な 物質か らなる ハ 口ーに よっ て取り 囲まれ ,中に はグル コー ゲン顆 粒が密 に詰まっていた。また,まれにg'lycogen bodyに 類 似の ハ 口 ー を 有す るnuclear bodyも 認め ら れ た 。 これ ら の 小 体は 核内 の不要 な物質 を隔離 した 構造と 考えら れた。 細胞質 内お よび核 内のグ リコー ゲン 沈着量 は血糖値の上昇に伴つ て増加 した 。
こ の よ う にWBN/Kobラ ッ ト の 糖 尿 病 性 腎 尿 細 管 病 変は , 基 本 的 には ヒ ト お よ び 他の モ デ ル動物 のそ れに類 似して いた。 また, この 病変の 病理発 生の詳 細は 不明で あるが,いずれも持続 的な高 血糖 に起因 すると 考えら れた。
4. 本 系 統の 糖 尿 病 は , 遅発性 (成 人型) に発生 し,若 い時 期(21週齢頃 )に耐 糖能が 障害 さ れるこ とな どから ,イン スリン 非依存 型に 属する もので あった 。本 系統の 膵臓病変は,12週齢と いう若 い時 代でも 認めら れた急 性多発 性炎 症性病 変の, 長期に わた る慢性 化(線維化あるいは瘢 痕 化) 病変 を基本 とし ていた 。この 膵臓病 変は, ヒト の糖尿 病のI型な らびにII型病 変,あ るい は過去 に報 告され た本病 のモデ ル動物 の病 変とは 若干異 なると ころ があっ た。しかし,その原発 性なら びに 合併病 変,お よび臨 床過程 と遺 伝性は ,本系 統がヒ トの 疾患モ デルに充分なり得るこ とを示 し, 今後の 有用性 が期待 される 。
学位論文審査の要旨
糖 尿病は ヒトで は頻繁 に起 こり,その病態は膵臓の病型あるいは病期により多様である。また,
本病 では 膵臓以 外の病 変も合 併症と して 重要視 されて いる。 これ らの病 態解明には種々のモデル 動物 が利 用され ている 。
申 請者 は , 新 し く確 立 さ れ た ラッ ト の 遺 伝 性糖 尿 病 系 統 (WBN/Kob) に っ いて , 臨 床 学 的 並 び に 病 理 学 的 研 究 を 行 っ た 。 本 論 文 は 英 文85頁 か ら な り ,参 考 論 文5編を 付 し て い る。
第1章 で は , 本 系統 の12〜90週齢の ラット 計273匹( 雄131匹,雌142匹 )にっ いて 臨床学 的並 びに 病理 学的に 観察し た。そ の結果 ,雄 ラット のみが ,52〜60週齢頃 より糖 尿を排泄し始めた。
尿糖 例は ,多尿 および 多飲・ 多渇を 顕著 に示し ,これ は徐々 に進 行した 。78週齢以上ではほとん どの 例が 尿糖を 排泄し ,最終 的には 削痩 し,例 によヮ ては白 内障 あるい は高脂血症を示した。雌 には 尿糖 排泄は 見られ なかっ た。12週,21週 およ び60週齢 の雌雄 に対 する糖負荷試験の結果,60 週齢 の雄 の耐糖 能が著 しく障 害され てい た。
病 理組織 学的検 査の結 果,60週齢以 上の高 齢ラ ットの 膵臓は ,び漫 性線維 化と脂肪組織による 実質 の置 換によ って高 度に萎 縮し, 島組 織も顕 著に萎 縮・滅 数し ていた 。また,腎臓,眼球,坐 骨神 経に おいて ヒトの 糖尿病 におけ ると 同様, 特徴的 な合併 病変 が観察 された。すなわち,腎臓 の糸 球体 には, び漫性 のメサ ンギウ ム領 域の拡 大およ びフア ブル ン・キ ャップ様病変,尿細管に はArmann1―Ebstein病 変お よび核 糖原 が認め られた 。眼球 では ,水晶 体線維 の腫大 ,空胞 化,
断裂 とモ ルガン 氏球の 形成か らなる 皮質 自内障 が見ら れた。 坐骨 神経で は,神経周膜膠原線維の 増大 によ る神経 線維間 の疎開 が顕著 であ り,軸 索周囲 腔の拡 張と ここへ の大食細胞の侵入,軸索 内グ リコ ーゲン 沈着も 所見さ れた。
第2章で は,本系統の月萃臓病変の形成過程を明らかにする目的で,発症前の雄ラット(12,16, 20,21,24,33週齢 )76匹 と発症 後の雄 ラッ ト(60〜90週齢 )55匹 の膵臓 を,形 態学 的に観 察し た。 発症 前のラ ットに 共通し た組織変化は多発性巣状性炎症で,以下の経過をたどって拡大した。
@膵 島周 囲の出 血と線 維素の 析出, @こ の周囲 腺房組 織への 炎症 性細胞 浸潤と水腫,◎膵島細胞
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敏
郎 誠
夫
智
茂
富
倉 岡
村 野
板 波
杉 菅
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
およ び腺房 細胞の 変性, @組 織構築 の崩壊 ・消失 ,◎ 肉芽組 織の形 成と再 生性変化,◎線維化と 炎症 性細胞 の減少 。結局 ,発 症ラッ トの月華臓tま,内外両分泌組織の顕著な萎縮を伴1た線維化を 示し た。こ の線維 化は炎 症の 終末像 とみナょされ,線維化巣内には再生島細胞の小集簇,導管の増 殖 , ヘモジ デリン 貧食細 胞の 集積が 認めら れた。H萃 島の免 疫組織 化学 的観察 では,B細 胞とA細 胞 は 加齢に 伴って 激減し てい た。ま た,高 齢ラッ トではB細 胞比の 減少 が顕著 であっ た。以 上の よう に,本 系統の 雄ラッ トで は,膵 臓に特 異な炎 症性 変化が 見られ ,その 過程において内分泌細 胞 が 崩 壊 と 再 生 を 繰 り 返 し , 結 果 的 にB細 胞 比 が 滅 少 し , 糖 尿 病 が 生 し る と 解 さ れ た 。 第3章で は,本 系統に 生じ る糖尿 病性ムロ併症の1っである腎尿細管病変を詳しく解析するため,
計72匹 の 高 齢 雄 ラッ ト (60〜120週 齢) を 検 索 し た。Armanni―Flbstein病変は 主に遠 位曲 尿 細 管 と集合 管1ヒ皮に ネ7口ン単 位で発 現し, これ はIIE染色で は細胞 質の完 全な 空胞化 として , 電顕 的には 細胞質 内に様 りな 量のロ 型グリ コーゲ ン顆 粒の蓄 積とし て認め られた。核糖原はへン レ の わな の 上 行 脚 に散 在 性 に 認 めら れ た 。 腎 組 織を樹 脂包 埋した 厚切り 切片に ,PAS染色 を施 し て 観察 し た と こ ろ, 均 質 無 構 造な 陽 性 物 質 ( 核糖原 )の 他にPAS強陽 性の微 小球状 体が 認め られ た。こ の球状 体は, 電顕 的には ロ型グリコーゲン顆半立が様々な大きさと密度で核のほば中央 に 集 積し た 構 造 を なし て い た 。 核内 に は そ の 他 にglycogen bodyが 認めら れ, これは 光顕的 な PAS強 陽 性 の 微 小 球 状 体 に 一 致 して い た 。 ま た ,ま れ にglycogen bodyに 類 似 の ,ハ 口 一 を 有 す るnuclear bodyも 認 めら れた。 これら の小 体は核 内の不 要な物 質を隔 離し た構造 と考え ら れた 。細胞 質内お よび聿 亥内 のグル コーゲン沈着量は血糖値の上昇に伴ワて増加した。以上の尿細 管 病 変の 病 理 発 生 の詳 細 は 不明で ある が,い ずれも 持続的 な高血 糖に 起因す ると考 えられ た。
この ように ,申 請者は ,本系 統の糖 尿病は ,若 い時期 (21週齢 頃) に耐糖 能が障害され,遅発 性に 発生す ること を明ら かに した。 そして 本系統 の膵 臓病変は,12週齢という若い時f弋から認め られ る急性 多発性 炎症性 病変 の,長 期にわ たる慢 性化 (線維 化ある いは瘢 痕化)病変を基幹とす るこ とを明 らかに した。 かく して, 本系統 の糖尿 病の 原発性 並びに 合併病 変,および臨床過程と 遺伝 性は, ヒトの 疾患モ デル として の有用 性が極 めて 高い。 よって ,審査 員一同は,申請者土谷 稔氏 が,獣 医学博 士の学 位を 受ける 資格あ ると認 める 。