1 三角関数
ここでは、ベクトルの考え方を知っていることを仮定して、三角関数の加法定理を導く ことにしよう。三角関数のうちcos (cosine, 余弦) と sin (sine、正弦) は、一般的に、図 1 のように原点を中心とする半径 1 の円上で、点 (1, 0) から 反時計回りに角度 θ だけ移動 した点のデカルト座標 (直交座標) 系での座標を (cos θ, sin θ) とすることにより定義され る。なお、半径1 の円を単位円 (unit circle) と呼ぶ。また、tan (tangent, 正接) は sin と cos を用い、
tan θ = sin θ
cos θ (1.1)
で定義される。単位円上の点(x, y) と原点との距離は 1 であるので、円の方程式は x2+y2 = 1 と表される (原点、点 (x, y)、点 (x, 0) の 3 点を頂点とする直角三角形に三平方の定理 (ピタゴラスの定理) を用いる)。従って、点 (cos θ, sin θ) は円 x2+ y2 = 1 の点なので、
cos2θ + sin2θ = 1 (1.2) が成り立ち、さらに 両辺を cos2θ で割ることにより、
1 + tan2θ = 1
cos2θ (1.3)
が成り立つことが分かる。
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図 1: 単位円と三角関数の定義
次に三角関数を計算する際に基礎になる加法定理を考える。三角関数は点 (1,0) を、原 点を中心とし、1 回角度 θ だけ回転させたときの座標で定義されたが、加法定理は 2 回 回転させたときの座標を表すものである。図1 を見てみよう。点 (1,0) を原点を中心に反 時計回りに角度 α 回転させ、続けて反時計回りに β 回転させたときの座標は定義から、 (cos(α + β), sin(α + β)) と表される。原点から点 (cos(α + β), sin(α + β)) へのベクトルを
⃗r = (cos(α + β), sin(α + β)) (1.4)
としておこう。さて、cos(α + β), sin(α + β) は sin α, cos β 等でどのように表されるべき か? というのが加法定理である。
ここで、x 軸と y 軸が、ベクトル ⃗e1 = (cos α, sin α), ⃗e2 = (− sin α, cos α) の方向にそれ ぞれ傾いたとしてしまおう。⃗r は ⃗e1 から反時計回りに角度 β だけ回っているので、三角 関数の定義から⃗r = (cos β) ⃗e1+ (sin β) ⃗e2 と書ける。e⃗1, ⃗e2 の成分を代入し整理すると、
⃗r = (cos α cos β − sin α sin β, sin α cos β + cos α sin β) (1.5) となる。Eq. (1.4) と Eq. (1.5) により、同じベクトルが 2 つの方法で表された。このとき ベクトルの全ての成分が互いに等しい必要があるので、
cos(α + β) = cos α cos β − sin α sin β
sin(α + β) = sin α cos β + cos α sin β (1.6) が成り立つ必要がある。これが三角関数の加法定理である。
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図 2: 三角関数の加法定理
実際には三角関数の公式はオイラーの公式を用いるのが極めて便利である。オイラーの 公式を理解するには微積分の公式を理解すると便利なので、次に微分・積分の公式を扱っ た後に取り扱うことにする。
2 微分
関数 f (t) を t で微分するとは、以下で定義される導関数 f′(t) を求めることである。 f′(t) = lim
∆t→0
f (t + ∆t) − f(t)
∆t . (2.1)
また、以下の定義も等価である。
f (t + ∆t) = f (t) + f′(t)∆t + O((∆t))2 . (2.2)
ここで、O はエトムント・ランダウによって導入された、Landau の記号と呼ばれる記号 である。O(A(t)) は t がある極限値をとった時、何か複雑な多項式が実際に後に続くとし ても、高々A(t) の定数倍になるという記号である。例えば、O(A(t)) (t → 0) を式で表現 すると、
limt→0
O(A(t))
A(t) = c (c はある有限の定数) (2.3) である。また、導関数f
′(t) は df (t)
dt と書かれることも多い。前者がJoseph-Louis Lagrange, 後者が Gottfried Wilhelm Leipnitz による記号である。以下では特に、何で微分するかに 混乱が生じない時は f
′(t) と書くことにする。
べき乗の微分については、以下の公式が成り立つ。
(tn)′ = ntn−1 . (2.4) n が自然数の時は、
(tn)′ = lim
∆t→0
(t + ∆t)n− tn
∆t
= lim
∆t→0
tn+ ntn−1· ∆t + O(∆t2) − tn
∆t
= lim
∆t→0
ntn−1· ∆t + O(∆t2)
∆t
= lim
∆t→0nt
n−1+ O(∆t)
= ntn−1 (2.5)
とすれば簡単に証明できる。この公式は実はn が実数の時にも成り立つ。合成関数の微 分の後の例 1. に、有理数乗に対する証明を記す。
三角関数については以下の式が成立する。
(sin t)′ = cos t, (cos t)′ = − sin t (2.6) である。sin t の微分の式は、
(sin t)′ = lim
∆t→0
sin (t + ∆t) − sin t
∆t
= lim
∆t→0
sin t cos ∆t + cos t sin ∆t − sin t
∆t
= cos t (2.7)
とすれば証明できることがわかる。但し、2 番目の等号を得る際には、加法定理 Eq. (1.6) を使い、3 番目の等号を得る際には、∆t → 0 の時、
∆t→0lim cos ∆t = 1, lim
∆t→0sin ∆t = ∆t (2.8) であることを用いた。同様にして、cos t の微分は
(cos t)′ = lim
∆t→0
cos (t + ∆t) − cos t
∆t
= lim
∆t→0
cos t cos ∆t − sin t sin ∆t − cos t
∆t
= − sin t (2.9)
とすれば証明できる。
指数関数については、まず自然対数の底e (ネイピア数) を定義する必要がある。e の定 義としてはヤコブ・ベルヌーイによる
e ≡ limt→∞ (
1 + 1 t
)t
(2.10)
が高等学校の教科書でよく見られる定義であるが、ここでは、これと等価なオイラーに よる
∆t→0lim
e∆t− 1
∆t = 1 (2.11)
の定義を採用する。e は e = 2.7182818284590452353602874 · · · という無理数であり、更 に無理数の中でも超越数に分類される数である。et の t による微分は、上の定義を採用 すると、
(et)′ = lim
∆t→0
et+∆t− et
∆t = e
t lim
∆t→0
e∆t− 1
∆t = e
t (2.12)
となり微分をしても同じ関数になる。
次に関数同士を更に足したり引いたりして演算させた時、微分はどのようになるか考え てみよう。a, b は時間によらない定数、f (t), g(t) を時間の関数とすると、関数の線型結合 に対して以下の公式が成り立つ。
(af (t) + bg(t))′ = af′(t) + bg′(t) . (2.13) この公式は、Eq. (2.2) を用いて、
af (t + ∆t) + bg(t + ∆t) = a(f (t) + f′(t)∆t + O((∆t)2)) + b(g(t) + g′(t)∆t + O((∆t)2))
= (af (t) + bg(t)) + (af′(t) + bg′(t))∆t + O((∆t)2) (2.14) であることから理解できる。
関数の積の微分については
(f (t)g(t))′ = f (t)g′(t) + f′(t)g(t) . (2.15) が成り立つ。これは
f (t + ∆t)g(t + ∆t) = (f (t) + f′(t)∆t + O((∆t)2))(g(t) + g′(t)∆t + O((∆t)2))
= f (t)g(t) + (f (t)g′(t) + f′(t)g(t))∆t + O((∆t)2) (2.16)
であることから理解できる。
(問題 1) Eq. (2.5) では直接式を展開することにより、n が自然数の時 Eq. (2.4) が成り 立つことを明らかにした。数学的帰納法と Eq. (2.15) を用いることにより、n が自然数 の時Eq. (2.4) が成り立つことを示せ。
関数の商の微分については、以下の公式が成り立つ。 ( f (t)
g(t) )′
= f
′(t)g(t) − g′(t)f (t)
(g(t))2 . (2.17)
この式を示すには、
1
1 + ∆x = 1 − ∆x + O((∆x)2) (2.18) を用いる。この式自体は、
1
1 + ∆x = 1 − ∆x + (∆x)2− (∆x)3+ (∆x)4− · · · =
∞
∑
n=0
(−∆x)n (2.19)
となる ∆x についての多項式展開を ∆x の 1 次で終了したものである。すると、 f (t + ∆t)
g(t + ∆t) =
f (t) + f′(t)∆t + O((∆t)2) g(t) + g′(t)∆t + O((∆t)2) =
f (t) + f′(t)∆t + O((∆t)2) g(t)
( 1 + g
′(t)
g(t)∆t + O((∆t)2) )
= 1
g(t)(f(t) + f
′(t)∆t + O((∆t)2)) (
1 −g
′(t)
g(t)∆t + O((∆t)2) )
= 1 g(t)
(
f (t) + f′(t)∆t − f(t)g
′(t)
g(t)∆t + O((∆t)2) )
= f (t) g(t) +
f′(t)g(t) − g′(t)f (t)
(g(t))2 ∆t + O((∆t)2) (2.20) となる。但し、3 番目の等号を得る際、Eq. (2.18) を用いた。
(問題 2) 関数の商の微分 Eq. (2.17) を用いて、 (tan t)′ = 1
cos2t を示せ。
さらに、u = u(x), x = x(t) の時、これらを 2 回続けて得られる関数 u(x(t)) を関数 u と x の合成関数 (composition function) と呼ぶ。この時、t の微小な変化 ∆t に対して、
∆t → 0 の時 ∆x = x(t + ∆t) − x(t) → 0 とすると、合成関数 u = u(x(t)) の t について の微分を考えることができ、公式
d(u(x(t))) dt =
du(x) dx
dx(t)
dt (2.21)
が成り立つ。 ここで、
∆x = dx
dt∆t + O((∆t)2) (2.22) でありまた、
u(x + ∆x) = u(x) + du
dx∆x + O((∆x)2) (2.23) も微分の定義から、成立する。Eq. (2.22) を Eq. (2.23) に代入すると、
u(x + ∆x) = u(x) +du dx
dx
dt∆t + O((∆t)2)
となる。すなわち、
u(x(t + ∆t)) = u(x(t)) +du dx
dx
dt∆t + O((∆t)2) (2.24) であるので、Eq. (2.21) が成り立つ。
例1. 有理数乗の微分
x = tmn は分数乗の定義から xn = tm である。両辺を t で微分すると、Eq. (2.4) から、 nxn−1x′ = mtm−1
である。x に x = t
m
n を代入して整理すると、 x′ = m
nt
m
n−1 (2.25)
を示すことができる。
また、t が x の関数としても書けるとき (それぞれの x の値に対し t が唯一つに決まると き) 、x = x(t) に対し、t = x−1(x) と書ける (前の x−1 は関数の記号であり、後ろのx は引 数であることに注意。) この時、 x
−1
はx の逆関数であるという。この時、x = x(x−1(x)) であるので、合成関数の微分を使って両辺をx で微分すると、1 = dx
dt
d(x−1)
dx である。 従って、逆関数 x
−1
の x についての微分は d(x−1)
dx = 1 dx
dt
(2.26)
となる。
例2 . 対数関数の微分
x = et の時、対数関数 log は t = log x で定義される。前段の議論を踏襲して、t = log x (自然対数 (natural logarithm) の略で ln とも書かれる) を t で微分すると、
1 = d(log x) dx
dx dt である。指数関数の性質 Eq. (2.12) から dx
dt = x であったから、 d(log x)
dx = 1
x (2.27)
である。
また、関数を続けて複数回微分することも可能である。関数 f (t) を続けて n 回 t で微 分することを、t による f (t) の n 階微分と呼び、その結果を n 階導関数と呼ぶ。n 階導 関数はf(n)(t) や
dnf
dtn(t) と表記する。但し、Lagrange の記法では、2 階及び 3 階導関数 を f
′′(t) や f′′′(t) と書くことも多い。
2.1 ベクトルの微分
一次元でない一般の運動では位置は位置ベクトルで表される。速度ベクトルはベクトル のスカラー倍の演算を用いて、一次元の場合について
v = lim
∆t→0
∆r
∆t (2.28)
と書ける。この式を
v ≡ dr
dt (2.29)
と定義する。ここで直交座標系を考え、∆r = (∆x)ex+(∆y)ey+(∆z)ez とする。ex, ey, ez は それぞれx, y, z 軸の正方向の単位ベクトル (長さ 1 のベクトルを単位ベクトルと呼ぶ) で、成分表示すると、
ex = (1, 0, 0), ey = (0, 1, 0), ez = (0, 0, 1) (2.30) である。すると、
v = lim
∆t→0
∆r
∆t
= lim
∆t→0
1
∆t((∆x)ex+ (∆y)ey + (∆z)ez)
= lim
∆t→0
( ∆x
∆tex+
∆y
∆tey+
∆z
∆tez )
∴ v = dx dtex+
dy dtey+
dz
dtez (2.31)
となる。ここで dex
dt = dey
dt = dez
dt = 0 を用いた。この式は デカルト座標系においては、
「ベクトルの微分を計算するには、それぞれの成分の微分を計算すればよい」ということ を示している。加速度ベクトルは、
a = dv dt =
d2x
dt2 (2.32)
であり、
a= lim
∆t→0
∆v
∆t (2.33)
である。Eq. (2.31) を導いた時と全く同様に a= dvx
dt ex+ dvy
dt ey+ dvz
dt ez = d2x dt2ex+
d2y dt2ey+
d2z
dt2ez (2.34) が成り立つ。
また、この subsection 中のここまでの議論とスカラー関数についての微分の公式から、 α, β を時間によらない定数として、
d
dt(αA(t) + βB(t)) = αdA(t) dt + β
dB(t)
dt , (2.35)
d
dt(f (t)A(t)) = df (t)
dt A(t) + f (t)dA(t)
dt , (2.36)
d
dt(A(t) · B(t)) = A(t) · dB(t)dt +dA(t)dt · B(t) , (2.37)
d
dt(A(t) × B(t)) = A(t) ×dB(t) dt +
dA(t)
dt × B(t) (2.38) が直ちに従う。
3 積分の公式
べき乗の関数の積分については、Eq. (2.4) より、以下の公式が成り立つ。
∫
tn dt = 1 n + 1t
n+1+ C (n ̸= −1, C は積分定数) (3.1)
また、対数関数の微分から
∫
t−1 dt = log |t| + C (C は積分定数) (3.2)
また、三角関数、指数関数、対数関数の積分は次のようになる。
∫
cos(ωt) dt = 1
ω sin(ωt) + C ,
∫
sin(ωt) dt = −ω1 cos(ωt) + C ,
∫
eωt dt = 1 ωe
ωt+ C ,
∫
log t dt = t log t − t + C (それぞれ C は積分定数) (3.3) それぞれ、右辺を微分すると、左辺になることを確かめてほしい。
ここで、F (t), G(t) をそれぞれ f (t), g(t) の原始関数とすると、原始関数の定義から F′(t) = f (t), G′(t) = g(t) が成り立つ。関数同士を足したり引いたりした時の積分を考え ると、
∫
(af (t) + bg(t)) dt = (aF (t) + bG(t)) + C (C は積分定数) (3.4) が成り立つ。これは、Eq. (2.13) より、
(aF (t) + bG(t))′ = aF′(t) + bG′(t) = af (t) + bg(t) が成り立つので、不定積分の定義から Eq. (3.4) が成り立つためである。
次に、関数の積の微分の公式の逆のバージョンとして、
∫
f (t)g′(t) dt = f (t)g(t) −
∫
f′(t)g(t) dt . (3.5)
が成立する。すなわち、Eq. (2.15) の両辺を積分すると、 f (t)g(t) =
∫
f (t)g′(t) dt +
∫
f′(t)g(t) dt
従って、これを整理すると Eq. (3.5) が成り立つ。この積分の方法を部分積分 (法) (inte- gration by parts) と呼ぶ。
更に、合成関数の微分の公式の逆のバージョンとして、
∫
u(x) dx =
∫
u(x(t))dx(t)
dt dt . (3.6)
が成り立つ。u(x) の原始関数を U (x) とすると、U (x) = U (x(t)) であるから、この関数 を t で微分できる。Eq. (2.21) から、
d
dtU (x(t)) = u(x(t))dx(t) dt なので、これを積分すると
U (x) + C =
∫
u(x(t))dx(t)
dt dt (C は積分定数)
である。ここで、原始関数の定義からU (x) + C =∫ u(x) dx となるので、Eq. (3.6) が成 り立つ。この積分の方法を置換積分法 (integration by substitution) と呼ぶ。
4 複素数
実数の範囲では、x2 ≥ 0 であるので、方程式 x2 = −1 の解は存在しない。この方程 式が解を持つように、この方程式の解の一つを i ≡
√−1 とする。この記号を虚数単位 (imaginary unit) と呼ぶ。また、z = a + ib (a, b は実数) の形の数を導入する。この形の z を複素数 (complex number) と呼ぶ。更に b ̸= 0 の場合 z を虚数 (imginary number)、 更にa = 0 の場合 z を純虚数 (purely imaginary number) と呼ぶ。a は実部 (real part)、 b は虚部 (imaginary part) と呼ばれる。それぞれ ℜz, ℑz と書かれる。c, d を実数として 2 つの複素数 a + ib と c + id が等しいということを、
a + ib = c + id ⇐⇒ a = c かつ b = d (4.1) で定義する。更に、複素数の和と積はそれぞれ
(a + ib) + (c + id) = (a + c) + i(b + d), (a + ib)(c + id) = (ac − bd) + i(ad + bc) (4.2) と定義される。掛け算の場合は通常の展開を行い、i2 = −1 として計算を進めると良い。 複素数の差と商はそれぞれ和と積の逆演算として定義され、
(a + ib) − (c + id) = (a − c) + i(b − d), a + ibc + id = c2 + d1 2((ac + bd) + i(bc − ad) (4.3)
となる。
(問題 3) (x + iy)(c + id) = a + ib を x, y の連立方程式として解くことにより、複素数の 商の式 (Eq. (4.3) の第 2 式) が成り立つことを示せ。
(問題 4) α, β を複素数とする時、αβ=0 であれば、α = 0 または β = 0 が成り立つこと を示せ。
複素数z = a + ib の共役複素数を z の共役複素数 (complex conjugate) ¯z を虚部の符号 を変えた、
z ≡ a − ib¯ (4.4)
で定義する。共役複素数の共役複素数は元の数に戻るので、
¯¯z = z (4.5)
またz が実数であるということは、b = 0 であるので、
z = ¯z (4.6)
であるということである。また、自身の共役複素数との足し算、または掛け算は z + ¯z = (a + ib) + (a − ib) = 2a,
z ¯z = (a + ib)(a − ib) = a2 − iab + iab + i(−i)b2 = a2+ b2 (4.7) となり、これらは実数になる。複素数の商の式 (Eq. (4.3) の第 2 式) を計算する際には、 Eq. (4.7) の第 2 式を用い、
a + ib c + id =
(a + ib)(c − id) (c + id)(c − id) =
1
c2+ d2((ac + bd) + i(bc − ad) (4.8) と分母を実数化して計算するのが普通である (中学校で習う分母の有理化を思い出そう)。 更にα, β を複素数とし、それぞれの共役な複素数を ¯α, ¯β とすると、
α + β = ¯α + ¯β, α − β = ¯α − ¯β, αβ = ¯α ¯β, ( α β
)
= α¯¯
β (4.9)
が成り立つ。
(問題 5) α = a + ib, β = c + id (a∼d は実数) として、Eq. (4.9) を確かめよ。
ここで、複素数を導入した最初に戻り、x2 = −1, すなわち x2+ 1 = 0 を解くことを考 えよう。
x2+ 1 = x2− (−1) = (x2− i2) = (x + i)(x − i) (4.10) なので、x2+ 1 = 0 の解は、(問題 4) より x = i, −i であることが分かる。同様に x2 = −a の解は、x =
√ai, −√ai である。
5 オイラーの公式
次に、微分方程式を解く際に非常に強力な武器となる公式
eiθ = cos θ + i sin θ (Euler の公式) (5.1)
を説明する。
この公式を証明するには、マクローリン展開を用いる。マクローリン展開とは、以下の ようなものである。関数 f (z) が z について無限回微分可能 (実は変数が複素数の場合、 関数が一回微分可能ならば無限回微分可能である) とすると、f (z) は多項式の和で表さ れて、
f (z) = f (0) + f′(0)z + 1 2!f
′′(0)z2 + · · · + 1 n!f
(n)(0)zn
+ · · · (5.2) となる。ここで、複素指数関数と引数が複素数の三角関数をマクローリン展開した形で定 義する。
ez ≡ 1 + z + 1 2!z
2+ 1
3!z
3+ 1
4!z
4+ · · · cos z ≡ 1 − 2!1z2+4!1z4+ · · ·
sin z ≡ z − 3!1z3+ 5!1z5− · · ·
(5.3) ここで、z = iθ と置いて、eiθ を実際に計算すると、
eiθ = 1 + iθ + 1 2!(iθ)
2+ +1
3!(iθ)
3+ 1
4!(iθ)
4
= (
1 − 1 2!θ
2+ 1
4!θ
4+ · · · )
+ i (
θ − 1 3!θ
3+ · · · )
= cos θ + i sin θ
となるので、Eq. (5.1) が成り立つことが示された。 [別証] 合成関数の微分から導かれる指数関数の微分
d(eαt) dt = e
αtd(αt)
dt = αe
αt (5.4)
を α = i の時にも成り立つとして、すなわち d(eiθ)
dθ = ie
iθ (5.5)
が成り立つとして導いてみる。
まず f (θ) = (cos θ − i sin θ)eiθ とする。すると、積の微分公式と三角関数の微分と、 Eq. (5.5) を用いて
f′(θ) = (− sin θ − i cos θ)eiθ+ (cos θ − i sin θ)ieiθ
= −(sin θ + i cos θ)eiθ+ (sin θ + i cos θ)eiθ
= 0 (5.6)
これはf (θ) が定数関数であることを表している。従って、f (0) = (1 − i0) · 1 = 1 である から、
f (θ) = (cos θ − i sin θ)eiθ = 1
この両辺に(cos θ + i sin θ) を掛けて、Eq. (1.3) を用いると、Eq. (5.1) を導くことができ る (別証終わり)。
Euler の公式で、θ を −θ にすると、
e−iθ = cos θ − i sin θ (5.7) となる。θ が実数の時、eiθ と e
−iθ
は互いに共役複素数である。従って、これと Euler の 公式から三角関数が、
cos θ = e
iθ+ e−iθ
2 , sin θ =
eiθ − e−iθ
2i (5.8)
と表され、複素指数関数と関係付けられる。
また、これらの公式と指数法則 ez1+z2 = ez1ez2, (ez1)n = enz1 を用いると、三角関数に 関する様々な定理はその殆どを導くことができる。
例 3. 加法定理
eiα+iβ = cos (α + β) + i sin (α + β) (5.9)
である。一方、eiα+iβ = eiαeiβ から
eiα+iβ = eiαeiβ = (cos α + i sin α)(cos β + i sin β)
= (cos α cos β − sin α sin β) + i(sin α cos β + cos α sin β) (5.10) Eq. (5.9) と Eq. (5.10) は同じものを計算したものなので、等しい複素数を表している。 従って Eq. (1.6) が成り立つことが分かる。
例4. 倍角の公式
e2iθ = cos 2θ + i sin 2θ 一方、
e2iθ = (eiθ)2 = (cos θ + i sin θ)(cos θ + i sin θ)
= (cos2θ − sin2θ) + 2i cos θ sin θ である。従って、2 倍角の公式
cos 2θ = cos2θ − sin2θ, sin 2θ = 2 cos θ sin θ (5.11) が成り立つ。同様に、
e3θ = cos 3θ + i sin 3θ であり、
e3iθ = (eiθ)3 = (cos θ + i sin θ)3
= (cos3θ − 3 cos θ sin2θ) + i(3 cos2θ sin θ − sin3θ)
= (4 cos3θ − 3 cos θ) + i(3 sin θ − 4 sin3θ)
なので、3 倍角の公式
cos 3θ = 4 cos3θ − 3 cos θ, sin 3θ = 3 sin θ − 4 sin3θ (5.12) が成り立つ。
例5. 半角の公式
Eq. (5.8) から計算する。
sin2( θ 2
)
=
[eiθ2 − eiθ2 2i
]2
= −2 + e
iθ + e−iθ
−4 =
1 − cos θ 2 cos2( θ
2 )
についても同様に計算すると、 sin2( θ
2 )
= 1 − cos θ
2 , cos
2( θ
2 )
= 1 + cos θ
2 (5.13)
が成り立つことが分かる。 例6. 積和の公式
eiαcos β = cos α cos β + i sin α cos β である。一方、Eq. (5.8) から、
eiαcos β = eiαe
iβ + e−iβ
2 =
ei(α+β)+ ei(α−β) 2
= 1
2[cos (α + β) + cos (α − β)] + 1
2i[sin (α + β) + sin (α − β)] である。従って、
cos α cos β = 1
2[cos (α + β) + cos (α − β)] (5.14) sin α cos β = 1
2[sin (α + β) + sin (α − β)] (5.15) が成り立つ。同様に
cos α sin β = 1
2[sin (α + β) − sin (α − β)] (5.16) sin α sin β = −12[cos (α + β) − cos (α − β)] (5.17) が成り立つ。
例7. 和積の公式
この公式の証明はややテクニカルである。
eiα+ eiβ = cos α + cos β + i(sin α + sin β)
である。一方、
eiα + eiβ = eiα+β2 (eiα−β2 + e−iα−β2 ) = 2 (
cosα + β
2 + i sin α + β
2 )
cosα − β 2 とも変形できる。2 番目の等号を得るために Eq. (5.8) を用いた。従って、
cos α + cos β = 2 cosα + β 2 cos
α − β 2 sin α + sin β = 2 sinα + β
2 cos α − β
2 (5.18)
が得られる。
(問題 6) 上の例と同様に計算を行い、
cos α − cos β = −2 sinα + β2 sinα − β2
sin α − sin β = 2 cosα + β2 sinα − β2 (5.19)
が成り立つことを示せ(Hint: eiα− eiβ を変形する)。
6 単振動型の微分方程式
以下では単振動の運動方程式
mx′′(t) = −kx(t) (6.1) を解くことを考える。ここで、k はばね定数である。この運動では、この微分方程式は全 ての時刻t で成り立っている必要がある (実際の運動では、空気抵抗があるので減衰が起 こり、別の運動方程式となる)。微分方程式 Eq. (6.1) を見ると
x′′(t) ∝ x(t) (6.2)
であることが分かる。∝ は比例している (be proportional to) という意味の数学記号で ある。
指数関数にはその微分 Eq. (2.12) が元に戻るという重要な性質がある。逆に、微分を して元に戻る関数は指数関数に関係した関数である。従って、Eq. (6.2) が成立するため に、解は
x(t) = eλt (6.3)
という形であると考えられる(他に x(t) = 0 [常に止まっている] という自明な解 (trivial solution) もあるが、ここでは運動する解を考えるので、x(t) ̸= 0 の解を考えよう)。Eq. (6.3) を Eq. (6.1) に代入して、λ を決定する。すると、
x′′(t) = λ2eλt= λ2x(t)
であるので、
(mλ2+ k)x(t) = 0 (6.4) が成り立つ。x(t) ̸= 0 の解を考えるので、この式は x(t) で割ることができ、
mλ2+ k = 0 (6.5)
という式を導くことができる。この Eq. (6.5) を微分方程式 Eq. (6.1) の特性方程式と呼 ぶ。m, k がともに正であることに注意すると、λ2 = −k
m は負の数であるので、λ は純虚 数を用いて表され、
λ = iω, −iω (6.6)
となる。但し、
ω =√ k
m (6.7)
とした。もともと解をEq. (6.3) のようにおいていたので、Eq. (6.1) には二つの解 x1(t) = eiωt, x2(t) = e−iωt (6.8) があることが分かる。
また、Eq. (2.14) から、Eq. (6.8) の解に対して、
m(a1x1(t) + a2x2(t))′′ = m(a1x′′1(t) + a2x′′2(t))
= a1(mx′′1(t)) + a2(mx′′2(t))
= a1(−kx1(t)) + a2(−kx2(t))
= −k(a1x1(t) + a2x2(t)) (6.9) が成り立つ。よって、x1(t) と x2(t) の重ね合わせ
x(t) = a1x1(t) + a2x2(t) = a1eiωt+ a2e−iωt (a1, a2は定数) (6.10) もまた、微分方程式 Eq. (6.1) の解である。
Eq. (6.10) の右辺の形を x1(t), x2(t) の一次結合と呼ぶ。また解がこのような一次結合 で表されることを、解の重ね合わせの原理と呼ぶ。微分方程式Eq. (6.1) の解は Eq. (6.10) のような、2 つの定数を持つことが知られているので、Eq. (6.10) が Eq. (6.1) の最も一 般的な解といえる。従って、Eq. (6.10) は Eq. (6.1) の 一般解と呼ばれ、x1(t), x2(t) は Eq. (6.1) の基本解と呼ばれる。基本解の選び方は一般には無数に存在するが (座標系の設 定の仕方が無限に存在するのと同じ)、x1(t)/x2(t) ̸= c (c は定数) となっている必要があ る(このことを x1(t) と x2(t) が一次独立であると呼ぶ)。x1(t)/x2(t) = c であると (この ことを x1(t) と x2(t) が一次従属であると呼ぶ)、x1(t) が x2(t) で書けるので、Eq. (6.1) の一般解は未知定数一つで解が書けてしまう。
実際には、x(t) は物体の位置を表しているのだから、その一般解 Eq. (6.10) は実数に なっているはずである。従って、Eq. (4.6) から、常に x(t) = x(t) が成立するはずであ る。Eq. (6.10) の複素共役をとると、Eq. (4.9), Eq. (5.7) を用い、
x(t) = a1e−iωt+ a2eiωt (6.11)
となる。どんな t に対しても x(t) = x(t) が成立するためには
a1 = a2, a2 = a1 (6.12) である必要がある。ただし Eq (4.5) から、1 番目の式と 2 番目の式は同じ式を表す。し たがって、a1 と a2 はお互いにもう一方の共役複素数なので、
a1 = 1
2(C1 − iC2), a2 = 1
2(C1+ iC2) (C1, C2は実数) (6.13) とおける。ここで、オイラーの公式 Eqs. (5.1), (5.7) を用いて Eq. (6.10) を書き直すと、
x(t) = a1eiωt+ a2e−iωt
= a1(cos (ωt) + i sin (ωt)) + a2(cos (ωt) − i sin (ωt))
= (a1+ a2) cos(ωt) + i(a1− a2) sin (ωt)
∴x(t) = C1cos (ωt) + C2sin (ωt) (6.14) ここでは、空気抵抗がある時の微分方程式も解けるような、かなり一般的な微分方程式の 解法を示した。もちろん、cos (ωt), sin (ωt) が Eq. (6.1) の一次独立な基本解であることは、 代入して微分方程式を満たすことを確認すれば、すぐに分かるので初めからEq. (6.14) の 形に書いてもちろん良い。
また、Eq. (6.14) から三角関数の合成を行うことも多い。合成は以下のように行う。 x(t) = C1cos (ωt) + C2sin (ωt)
= √C12+ C22
( C1
√C12+ C22 cos (ωt) +
C2
√C12+ C22 sin (ωt) )
= √C12+ C22(sin ϕ cos (ωt) + cos ϕ sin (ωt))
= A sin (ωt + ϕ) (6.15)
但し、
A =√C12+ C22, ϕ = tan−1C1 C2
(6.16) である。また、最後の等式では加法定理 Eq. (1.6) を用いた。この Eq. (6.15) は振動の式 である。この A を振幅 (amplitude), ωt + ϕ を位相 (phase) と呼ぶ。また、t = 0 の時の 位相 ϕ を初期位相と呼ぶ。時間 t が 1 [s] 経過すると位相は ω 進むので、T = 2π
ω [s] 経 過すると位相が2π 進んで元の状態に戻る。この T を周期 (period) と呼ぶ。また一秒間 に f =
1
T 振動することも分かる。これを振動数 (frequency) と呼ぶ。また、ω = 2πf を 角振動数と呼ぶ。
また、Eq. (6.14) の実数 C1, C2 は初期条件を解いて求めることができる。すなわち、 t = 0 の時 x(0) = x0, dx
dt(0) = v0 とすると、
x′(t) = −ωC1sin (ωt) + ωC2cos (ωt) (6.17)
なので、C1 = x0, ωC2 = v0 であるため、
x(t) = x0cos (ωt) +v0
ω sin (ωt) (6.18) となる。また、解として Eq. (6.15) の表式を用いると、
x′(t) = Aω cos (ωt + ϕ) (6.19) なので、力学的エネルギー E は
E = 1 2m(x
′(t))2+1
2k(x(t))
2
= 1
2m(Aω)
2cos2(ωt + ϕ) + 1
2kA
2sin2(ωt + ϕ)
= 1 2kA
2(cos2(ωt + ϕ) + sin2(ωt + ϕ)) (∵ Eq. (6.7) を代入)
= 1 2kA
2 (6.20)
となり、時間によらず一定になり、力学的エネルギー保存則が成り立つことが分かる。