物理基礎講座「工業力学 II 」対応クラス
November 12, 2016
参考文献
この講義ノートは「工業力学 II」対応クラスを担当することになった、福川が以下の出版 物を参考にしながら作ったものです。
1. 青木弘・木谷晋 著、「工業力学」、森北出版株式会社 (2000 円+税)
2. ファインマン、レイトン、サンズ著、「ファインマン物理学 I 「力学」」、岩波書店
(3400 円+税)
3. 後藤憲一、山本邦夫、神吉健 共編、「詳解力学演習」、共立出版株式会社 (2500 円+ 税)
はじめに
1. この授業は機械工学科の習熟度調査による勧告に基づき設置されています。物理に あまり触れていない人向けに、その基本を解説するものです。毎回ノートと筆記用 具を持っていきましょう。
2. 初回で簡単だと思っても、徐々に難しくなっていきますので、継続した受講を推奨 します。難しい問題が楽に解ける人は大丈夫でしょう。
3. 単位が取れることを保障するものではありません。補助はしますが、最終的には皆 さんの勉強しだいです。
4. それほど難しくないので、一歩一歩やっていきましょう。まず簡単な問題を楽に解 けるレベルを目指してください。
5. 講義ノートは私の Google HP (https://sites.google.com/site/kfukukawa00/kogakuin) から取れるようにしておきます。
6. 私語は慎んでください。ゆっくりめに授業を行うつもりですので、質問はいつでも 構いません。(個別指導での質問も歓迎)
7. 食事は控えてください。水分補給は周囲のものを汚さないように気をつけて行って ください。
8. トイレ等は自由に行っていただいて構いません。
9. スマートフォン・携帯電話類はマナーモードか電源切でお願いします。
1 剛体の運動
1.1 基礎の復習
1 質点 · · · 運動を考えるとき、大きさを考えなくてよい物体のこと。
考えている空間の大きさに対し、十分に小さな物体であればよい。
2 質点系 · · · いくつか 1質点 がある時、それをひとまとめにして考えたもの。
3剛体 · · · 1質点 が連続的に (つまりベタッと) 分布しており、物体中の各1質点 の間の距離が変わらないもの。例えば、固体などは近似的に3剛体 とみ なせる。この章の主題。
4力 (force) · · · 物体の運動状態を変えたり、物体を変形させたりするもの。
4力 は 5ベクトル (量) である (大きさと方向を持つ)。
また、力が実際に作用する点を着力点 (または作用点) と呼び、 着力点から力の方向に引いた直線を作用線と呼ぶ。
ニュートンの運動の法則
ニュートンが運動の法則として、理論を構築する際に仮定した 3 つの法則。これらは経 験的事実であり、理論的に証明することはできない。(厳密には、光速に近い速さで物体 が運動する際には、特殊相対論による修正を必要とする)。馴染み深いのは、質点での運 動であるが、質点系や剛体の運動についても基礎となる式である。
運動の第一法則 (6慣性の法則)
物体には、外部から力が作用しない限り、静止している物体は静止し続け、運動している 物体は等速直線運動を行う。
運動の第二法則 (ニュートンの7運動方程式)
力 (force) を ⃗F , 物体の加速度 (accerelation) を ⃗a 、物体の質量 (mass) を m とすると、
F = m⃗a⃗ (1.1)
が成立する。力の単位は 8N (ニュートン) = kg· m/s2 である。この方程式から、加速度
⃗a が分かるので、⃗a = d2⃗r
dt2 から、速度ベクトル ⃗v = d⃗r
dt, 位置ベクトル ⃗r を求めることに より運動が求まる。
運動の第三法則 (9作用・反作用の法則)
物体 A が他の物体 B にある力を作用させると、B から A に同じ大きさで反対方向の力 がかかる。この時、一方の力を10作用, 他方の力を 11反作用 と呼ぶ。
力のモーメント
ある点 O を原点として、位置ベクトル ⃗r = (x, y, z) の位置にある点 A に力 ⃗F = (Fx, Fy, Fz) がかかっている状態を考える。力 ⃗F の点 O の周りのモーメント ⃗N は、
N = ⃗r × ⃗⃗ F = (yFz− zFy, zFx− xFz, xFy − yFx) (1.2) で定義される (物理的には、外積は「2つのベクトルがどの程度直角か」を表す)。力の モーメントは本来ベクトル量であり、大きさだけでなく回転方向による正負も考慮する必 要が在る。単位は、12N·m である。実際には、平面運動 (z = 0 かつ Fz = 0) の状況を考 えることが多い。
ただし、原点 O から力の作用線 ℓ へ引いた直線の長さを d, 力の大きさ F = | ⃗F | とし て、モーメント ⃗N の大きさ N = | ⃗N | を
N = dl (1.3)
と表すこともできる (むしろこちらの方が多いかもしれない)。
1.2 慣性モーメント
剛体をなす各質点の位置の変化は、一般にある軸のまわりの13回転 運動と、一つの14並進 運動で表される。特に、一点を固定した時の回転は、実はその点を通るある一つの軸の周 りの回転 になる (Euler)。この subsection 中ではこのような状況を考える。
慣性モーメントはある軸に対して定義される。通常、この軸は物体の回転軸にとられ る (物体の回転軸にとらない場合はやや複雑になる)。固定軸 O に対して垂直な平面を考 えよう。この平面と固定軸の交点を改めて O とする。O からの位置ベクトル ⃗ri = rie⃗r で ある質点 mi が力 ⃗fi を受けて動くとする。ここで、⃗er は物体の接線方向の単位ベクトル である。この物体の加速度は角速度を ω とすると,
⃗
ai = −rω2e⃗r+ dω
dtr ⃗eθ (1.4) である (導出は板書で行う)。今は剛体を考えているので ri は時間変化しないとした。但 し、⃗eθ は運動の接線方向の単位ベクトルである。従って、運動方程式は
f⃗i = mia⃗i = −miriω2e⃗r+ mi
dω
dtri e⃗θ (1.5) となる。この式の左辺と右辺に ⃗ri を左からかけて、外積をとって er× er= 0 を用いると、
⃗
ni = miri2dω
dt(⃗er× ⃗eθ) (1.6) となる。但し、⃗ni ≡ ⃗ri × ⃗fi は、力 ⃗fi の固定軸に対するモーメントであり、(⃗er× ⃗eθ) は 回転軸に平行な単位ベクトルである。
このように、固定軸に対する力のモーメントを特に 15 トルク (torque) と呼ぶ。
質点系全体では、質点が一般に複数個あるので、式 (1.6) を各質点について足してい くと良い。つまり、外から剛体に加えたトルクを ⃗N =∑in⃗i とすると、
N =⃗ (
∑
i
miri2 )dω
dt(⃗er× ⃗eθ) (1.7) 剛体の場合は質点が連続的に分布しているので、和が積分に置き換わり、
N = I⃗ dω
dt(⃗er× ⃗eθ) 但し I =
∫
r2 dm (1.8) となる。この I を16 慣性モーメント (moment of inertia) と呼び、式 (1.8) を17 角運動方 程式 と呼ぶ。16慣性モーメント I の単位は SI 単位では 18 kg ·m2 である。式 (1.8) と 式 (1.1) を比較すると、剛体の回転運動と、質点の運動の間に
F ↔ ⃗⃗ N , m ↔ I, a ↔ dωdt (1.9) という対応関係があることが分かる。質量 m は物体の加速させにくさ (19慣性) を表し ていたが、慣性モーメント I は 20物体の回転させにくさ を表していることが分かる。
慣性モーメントは実際には、物体の密度と形状によって決まる。密度が一定の場合に は、物体の全質量を M として I = Mk2 と書け、k は物体の形状で決まる長さである。 この k を 21 回転半径 と呼ぶ。
また、均質で平面状の物体では、式 (1.8) 中の慣性モーメント I の表式に現れる dm はその微小面積 dA に比例するので、以下のような量を定義することもある。
I′ =
∫
r2 dA . (1.10)
この I′ を 22断面二次モーメント (あるいは面積のモーメント) と呼ぶ。この量は材料 力学のたわみの基礎式等で現れる。また、全面積を A とする時、√I′/A で決まる量を
23 断面二次半径 と呼ぶ。
1.2.1 慣性モーメントに関する定理
ここでは、慣性モーメントの計算に対する定理を見てみよう。
24平行軸の定理
質量 M の物体の重心を通るある軸を考え、IG をその軸の回りの物体の慣性モーメン トとする。その軸に平行で距離 d の位置にある任意の軸の回りの慣性モーメント I は、
25 I = I
G+ M d2で表される。 (証明)
重心を G (0, 0, 0) とし、軸を z 軸とする。また、x − y 平面と重心に平行な軸との交点が O (d, 0, 0) となるように x 軸をとる。O を通る軸の周りの慣性モーメント I を求めると、
I =
∫
{(x − d)2+ y2} dm =
∫
(x2+ y2) dm − 2d
∫
x dm + d2
∫ dm
= IG− 2d × 0 + d2M = IG+ M d2 (1.11)
但し、最後から 2 番目の等号で IG=
∫
(x2+ y2) dm ,
∫
x dm = 0 (重心の x 座標が 0 であることによる) (1.12) を用いた。(証明終)
26直交軸の定理
x − y 平面 (つまり z = 0) 上に分布している物体 (薄い板等) を考える。この物体の z 軸の周りの慣性モーメント Iz と x 軸, y 軸の間の慣性モーメント Ix, Iy に対して、
27 I
z = Ix+ Iy の関係が成り立つ。この Iz のことを極慣性モーメントと呼ぶ。 (証明)
x 軸, y 軸 , z 軸の慣性モーメントはそれぞれ次のようになる。 Iz =
∫
(x2+ y2) dm , Ix =
∫
(y2+ z2) dm =
∫
y2 dm , Iy =
∫
(z2+ x2) dm =
∫
x2 dm . 従って、
Iz = Ix+ Iy (1.13) が成り立つ。(証明終)
1.2.2 慣性モーメントの具体的な計算
ここでは、慣性モーメントの具体的な計算を見ていこう。
(1-a) 質量 M. 長さ L の細い均質な棒の、その一端を通り棒に垂直な z 軸の回りの慣性 モーメント
棒がある方向に x 軸を取る (図は板書する)。式 (1.8) 中の dm を具体的に求め、dx で表す。単位長さあたりの棒の質量は (M/L) であるから、微小な長さ dx 分の棒の質量 dm は dm = M
Ldx である。従って、この場合の慣性モーメントは I =
∫
x2 dm =
∫ L 0
x2M L dx =
M L
[ x3 3
]L 0
= 1 3M L
2 (1.14)
となる。従って、この場合の回転半径 k は k =√I/M =√1/3 L である。 (1-b) (1-a) と同じ棒で、z 軸が重心を通るときの慣性モーメント
この慣性モーメントは、(1-a) で長さ L/2、質量 M/2 の細い均質な棒が 2 本ある場 合と考えればよい。従って、求める慣性モーメント I は
I = 2 × 1 3
( 1 2M
) ( 1 2L
)2
= 1 12M L
2 (1.15)
であり、回転半径 k は k =√I/M = (1/2√3) L である。
(2) 質量 M, 縦 h, 横 b の薄く一様な長方形板の、その長方形に垂直でかつ重心を通る z 軸の回りの慣性モーメント Iz
この場合の慣性モーメントは直交軸の定理を用いて求める。長方形板の縦方向に中心 を通る軸を y 軸、横方向に中心を通る軸を x 軸にとると、x 軸回りの慣性モーメント Ixは (1-b) より Ix = (1/12)M h2 . 同様に、y 軸回りの慣性モーメント Iyは Iy = (1/12)M b2 . 従って、直交軸の定理より
Iz = Ix+ Iy = 1 12(b
2+ h2) (1.16)
となる。
(注) 重積分を知っている人は、Iz = ∫−h/2h/2 ∫−b/2b/2 (x2+ y2) dxdy としても良いが、面倒で ある。
(3) 質量 M, 半径 R の薄く均質な円板の、その円板に垂直でかつ重心を通る z 軸回りの 極慣性モーメント Iz
単位面積当たりの円板の質量は M/(πR2) である。半径 r から r + dr までの間にあ る、円板の微小部分の面積は 2πr dr なので、dm = (M/(πR2))2πr dr 従って、極慣性 モーメント Iz は
Iz =
∫ R 0
r2 M
πR22πr dr = 2M
R2
∫ R 0
r3 dr = 2M R2
R4 4 =
1 2M R
2 (1.17)
となる。また、円板の存在する平面上に直径 x 軸, y 軸を取ると、それぞれの軸の慣性 モーメント Ix, Iy は対称性と直交軸の定理から
Ix = Iy = 1 2Iz =
1 4M R
2 (1.18)
となる。
(4) 質量 M, 半径 R の一様な球の中心を通る軸の回りの慣性モーメント I
中心を原点として x, y, z 軸をとる。球の密度 ρ は、体積を V = (4/3)πr3 として、 ρ = M/V = 3M/(4πR3) である。x, y, z それぞれの軸の慣性モーメント Ix, Iy, Iz は dm = ρ dV から
Ix = ρ
∫
(y2+ z2) dV, Iy = ρ
∫
(z2+ x2) dV, Iz = ρ
∫
(x2+ y2) dV
Ix = Iy = Iz なので、この 3 つの式を足して 3 で割ると I = 2
3ρ
∫
(x2+ y2+ z2) dV = 2 3ρ
∫
r2 dV
半径 r から r + dr にある部分の立体の体積は dV = 4πr2dr である。従って、変数を変 換すると
I = 2 3ρ
∫
r2 (4πr2) dr = 2 3
3M 4πR34π
∫ R 0
r4 dr = 2 5M R
2 (1.19)
(5) 質量 M, 半径 R, 高さ h の直円柱の、底面に垂直でかつ重心を通る y 軸の回りの慣性 モーメント Iy、及び底面の円の中心を通る x 軸の回りの慣性モーメント Ix
Iy は式 (1.17) により、Iy = 1 2M R
2 となる。
Ix に関しては、以下のように計算する。まず、高さ y の所に、微小な厚み dy を持つ 円板を考える。この円板の質量 dM は dM = (M/(πR2h))πR2 dy = (M/h) dy である。 この円板の存在する平面上にとった軸の回りの慣性モーメント dI は式 (1.18) より、
dI = 1
4 dM R
2 = M R2
4h dy
である。x 軸はこの円板上から実際には高さ y の距離に平行にずれて存在するので、平 行軸の定理によりこの微小円板による x 軸の回りの慣性モーメント dIx は
dIx = M R
2
4h dy + dM y
2 =( M R2
4h + M y2
h )
dy = M h
( R2 4 + y
2
) dy
である。実際は、高さ 0 のところから高さ h のところまで質量が分布しているので、 Ix =
∫
dIx =
∫ h 0
M h
( R2 4 + y
2
)
dy = M( R
2
4 + h2
3 )
(1.20) と微小円板による慣性モーメントを積分を用いて加えることで円柱全体の x 軸回りの慣 性モーメント Ix を求めることができる。
1.3 剛体の平面運動
剛体のすべての点がある平面に平行な平面中を運動している時、この剛体は 28平面運動 していると呼ばれる。剛体の運動は多くの場合、この運動を行う。平面運動では剛体が平 面から出てはいけないので、剛体の運動は平面に垂直な軸上での(つまり、その軸と平面 との交点を中心とする) 回転運動と並進運動に分けてとらえることができる。
したがって、並進運動を無限遠点の周りの回転とすると、全ての剛体の平面運動はあ る点を中心とした回転運動として捉えられる。この中心は瞬間瞬間で変わっても良く、そ の中心のことは 29瞬間中心 と呼ばれる。剛体の任意の点の速度の方向は、瞬間中心を中 心とする円運動の接線方向になるので、29瞬間中心 を求めるには、任意の 2 点の速度ベ クトルに引いた 2 本の垂線の交点を考えればよい (問題 1.9)。
1.3.1 剛体の平面運動の方程式
剛体も質点系の連続極限と考えられるので、先に質点系での運動がどうなるかを見ておこ う。今 n 個の質点からなる質点系を考える。系の外側から作用する力を 30外力, 内側か ら作用する力を31内力 と呼ぶ。i 番目の質点の質量を mi, 位置ベクトルを ⃗ri とする。ま た、i 番目の質点に働く外力を ⃗Fi, j 番目の質点から i 番目の質点に働く内力を ⃗Fij とす ると、運動方程式は
mi
d2⃗ri
dt2 = ⃗Fi+
∑
j(̸=i)
F⃗ij (1.21)
となる。系全体では各 i (i = 1 ∼ n) について足す必要があるので、足すと
∑
i
mi
d2⃗ri
dt2 =
∑
i
F⃗i+ ∑
i,j(i̸=j)
F⃗ij (1.22)
となる。ここで、内力については 9作用・反作用 の法則から ⃗Fij = − ⃗Fji となるので、一 つの力に対し、必ず打ち消しあう力が存在する。したがって、足し算の結果として、第二 項は ⃗0 であり、
∑
i
mi
d2⃗ri
dt2 =
∑
i
F⃗i (1.23)
となる。重心ベクトル ⃗R は
R =⃗
∑
imi⃗ri
∑
imi
(1.24) で定義されていたので、
M ⃗R =∑
i
mi⃗ri (1.25) である。但し、M = ∑imi は系の全質量である。各質量を一定とみなして、時間につい て 2 階微分をとると、これは 式 (1.23) の左辺になっているので、
Md
2R⃗
dt2 =
∑
i
F⃗i (1.26)
となる。すなわち、質点系の並進運動に対しては、重心が、各外力の合力が全て重心に集 まったとした時と同じ運動を行う ことがわかる。
また、角運動方程式 (1.8) はどの軸についても成り立つので、問題になっている平面 に垂直で重心を通る軸を通ると、その軸の周りのトルクが重心周りの回転運動を決定する ことになる。従って重心周りの回転運動の運動方程式は
IG
dω
dt = NG (1.27)
となる。但し、IG は重心を通る軸の周りの慣性モーメント、NG, ω はそれぞれその軸の 周りのトルクと角速度の大きさである。式 (1.26) と 式 (1.27) が基本となる方程式であ る。実際に問題を解く際には拘束条件 (物体が滑らないで転がる、滑車に巻きつけた糸が 緩んだり千切れたりしない等) を考慮して解く必要がある。
1.4 回転体のつり合い
位置ベクトル ⃗r の物体が固定軸の周りに一定角速度 ω で回転する時、物体は向心加速度
−ω2r ⃗er = −ω2⃗rを受ける (式 (1.4) を参照すること) 。しかし、物体と共に運動する観測 者の視点から見ると、mω2⃗r の遠心力が働いているため、物体は中心方向に引っ張られな い。機械の製作では遠心力のつりあいを取ることが重要である。
1.4.1 回転軸に垂直な同一平面上にある回転質量のつりあい
一定の角速度 ω で回転する回転軸を z 軸、n 個の質点が x-y 平面上にあるとしよう。ま た、質点 i の質量を mi,位置ベクトルを ⃗ri (i = 1 ∼ n) とする。上の段で述べたように、 位置ベクトル ⃗ri にある物体に対し、遠心力は miω2⃗ri で与えられるので、これらの和を 取ると、質点系全体には
ω2∑
i
mi⃗ri = ω2M ⃗R (1.28) の遠心力、つまり重心に全質量が集まったときの遠心力が働くことがわかる。但し、M, R⃗ は式 (1.25) と同じ定義である。従って、
∑
i
mi⃗ri = ⃗0 (1.29) であるとき、物体の重心は原点にあり、また遠心力が釣り合っていることになる。このよ うな状態を32静的つりあい (static balance) と呼ぶ。このつりあいは、x-y 平面上へのズ レを防いでいる。
1.4.2 回転軸に垂直な異なる平面上にある回転質量のつりあい
回転質量が互いに平行であるが異なる平面上で、平面に垂直な軸の中心に回転している場合 は、静的つりあい (x-y 平面上での 力のつりあい) が達成されていても、偶力が残っている ためモーメントのつりあいが達成されず、回転軸そのものが回転してしまう可能性がある。
回転軸に垂直な任意の平面を考え、その平面と回転軸との交点を原点としよう。ま た、質量 mi の質点 i は平面から距離 |ai| のところにあり、その位置ベクトルは ⃗ri = (xi, yi, ai) = xi⃗ex+ yi⃗ey+ aie⃗z とする。質点 i による x − y 平面上で回転軸を回転させる 力のモーメントは
ai⃗ez× miω2(xi⃗ex+ yi⃗ey) = ω2(−aimiyi⃗ex+ aimixi⃗ey) (1.30) となる。従って、全体としてこの軸が回転しないためにはこのベクトルの質点 i に対する 和が ⃗0 となる必要があるので、
∑
i
aimixi = 0, ∑
i
aimiyi = 0 (1.31) を満たす必要がある。今、平面の位置は任意にとったが、全ての平面を h の距離だけず らして ai → ai+ h としても、静的つりあいが成り立っている時は、 式 (1.31) は成り立 つ。式 (1.31) が成り立つ時、33動的つりあい の状態にあると呼ばれる。
2 衝突
2.1 運動量、角運動量とその保存則
ニュートンの運動方程式は、微分を使っていることからもわかるように、(量子力学を使っ ているわけではないが) ミクロな観点からの方程式である。従って、バットでボールを打 つ時や、ビリヤードの運動など詳細不明な力が発生している時、微小時間とは見なせない 時間が経過した後の物体の速度等を決めるためには、運動方程式を時間に関して積分して おく必要がある。この章では、このような問題を考えよう。ある一つの質量 m の質点が ある時刻 t において、速度 ⃗v(t) で運動している時、34運動量 (momentum) を以下で定義 する。
⃗p(t) = m⃗v(t) (2.1) ここで、ニュートンの運動方程式 (式 (1.1)) を t = t1 から t = t2 まで時間積分すること を考える。加速度が ⃗a = d⃗v
dt だったことを思い出すと、
∫ t2 t1
md⃗v dt dt =
∫ t2 t1
F dt⃗ (2.2)
である。この式の左辺は速度を微分したものを積分するのであるから、 m⃗v(t2) − m⃗v(t1) = ⃗p(t2) − ⃗p(t1) =
∫ t2 t1
F dt⃗ (2.3) となる。この右辺の力を時間積分した量は 35力積 (impulse) と呼ばれる。式 (2.3) は 運動量変化が力積に等しい ことを意味している。従って、運動方程式は
d⃗p
dt = ⃗F (2.4)
とも書ける (これは相対論でも正しい表式である)。更に、ここで外力がない、すなわち F = ⃗0⃗ の場合を考えると、⃗v(t2) = ⃗v(t1) が直ちに導ける。これは速度が時間によらずに 一定であるということを意味するので、6慣性の法則 に他ならない。
質点が n 個ある時の場合を考える。この時、系には外力だけではなく内力も存在しう る。§1.3.1 と同様に i 番目の質点に働く外力を ⃗Fi, j 番目の質点から i 番目の質点に働く 内力を ⃗Fij とする。また、質点 i の速度を ⃗vi(t), 運動量を ⃗pi(t) = mi⃗vi(t) としておこう。 すると、質点 i についての運動方程式 (式 (1.21)) を先ほどと同様に時間積分すると、質 点 i についての運動量変化は
⃗pi(t2) − ⃗pi(t1) =
∫ t2 t1
⃗Fi+
∑
j (j̸=i)
F⃗ij
dt (2.5) となる。ここで、全運動量 ⃗P を
P (t) =⃗ ∑
i
⃗pi(t) =∑
i
mi⃗vi(t) (2.6)
で定義して、式 (2.5) の i についての和をとると、 P (t⃗ 2) − ⃗P (t1) =
∫ t2 t1
(
∑
i
F⃗i
)
dt (2.7)
であることがわかる (外力の項しか残らないのは9作用・反作用の法則 のためである)。 従って、もし系に外力が作用しない場合右辺の積分は 0 となるので
P (t⃗ 2) = ⃗P (t1) (2.8) となり、全運動量が時間によらずに一定であることがわかる。
式 (2.8) を36運動量保存の法則 と呼ぶ。
回転運動に対しても、運動量 ⃗p に対応する量が存在する。ここでは、簡単のため 一定の回転軸 (z 軸としよう) に対する回転運動 を考えてみよう[回転軸が変わる場合は、 剛体の空間運動 (コマやジャイロスコープの運動) になるが、複雑なのでここでは省略す る]。運動量に対応する量は、37 角運動量 (angular momentum) と呼ばれる。37角運動量 L⃗ は 1 つの質量 m の質点に対し以下のベクトル量として定義される。
L = ⃗r × ⃗p .⃗ (2.9) ここで、⃗r は回転の中心から見た質点の位置ベクトルである。この式を時間で微分すると
d⃗L dt =
d⃗r
dt × ⃗p + ⃗r × d⃗p dt
= d⃗r dt ×
( md⃗r
dt )
+ ⃗r × ⃗F
となる。2 行目の第 1 項は、平行なベクトルの外積であるので ⃗0 である。また、2 項目に 対しては式 (2.4) を用いた。したがって、
d⃗L
dt = ⃗r × ⃗F = ⃗N (2.10) となり、角運動量の時間微分は力のモーメントに等しい。この式を t = t1 から t = t2 ま で時間積分すると、
⃗L(t2) − ⃗L(t1) =
∫ t2 t1
N dt⃗ (2.11) となる。右辺は力積に対応する量であり、38角衝撃量 と呼ばれる。したがって、角運動量 の変化は角衝撃量に等しい ことが分かる。
また、 ⃗N = N⃗ez について、運動方程式に対応する式 (1.8) を書き下ろすと、角速度ベ クトル ⃗ω = ω⃗ez を用いて
N = I⃗ d⃗ω dt = I
dω dt⃗ez と書ける。これと式 (2.10) を見比べると
L = I⃗ω⃗ (2.12)
となっていることが分かる。この式は ⃗p = m⃗v であることと対応している (⃗L ↔ ⃗p, I ↔ m,
⃗v ↔ ⃗ω の対応がある) 。
質点が n 個ある場合は、式 (1.22) の左から ⃗ri をかけて、外積を取ると、左辺は
∑
i
⃗ri× mid
2⃗r i
dt2 =
∑
i
[ d dt
(
⃗ri× mid⃗ri dt
)]
=∑
i
[ d
dt (⃗ri× ⃗pi) ]
=∑
i
d dt[⃗Li] =
d dt⃗L と書ける。但し全角運動量 ⃗L を ⃗L = ∑iL⃗i で定義した。右辺は
∑
i
⃗ri× ⃗Fi+ ∑
i,j (i̸=j)
⃗ri× ⃗Fij =∑
i
N⃗i+ 1 2
∑
i,j (i̸=j)
(⃗ri× ⃗Fij + ⃗rj × ⃗Fji)
=∑
i
N⃗i+ 1 2
∑
i,j (i̸=j)
(⃗ri− ⃗rj) × ⃗Fij
となる。但し、2 番目の等号で作用・反作用の法則 ⃗Fij = − ⃗Fji を用いた。また、通常の 場合では内力 ⃗Fij (万有引力やクーロン力等) は 2 質点を結ぶベクトル ⃗ri− ⃗rj に平行であ る。このような力は
F⃗ij = Fij(rij)⃗eij with ⃗eij = ⃗rij rij
(2.13) と 2 点間の距離 rij の関数 Fij(rij)を用いて書ける。この時力 ⃗Fij は39中心力 (central force) であると呼ばれる。この時、第 2 項は 1
2
∑
i,j (i̸=j)(⃗ri− ⃗rj) × ⃗Fij = ⃗0 となるので、まとめ
ると d
dtL =⃗
∑
i
N⃗i (2.14)
となる。すなわち、内力が中心力である時、質点に働く外力の回転の中心の回りの力のモ ーメントも ⃗0 ならば、全角運動量 ⃗L が保存する。この下線部を40角運動量保存則 と呼 ぶ。
2.2 衝突の理論
保存則の良い所は、途中の経過を知らなくても、速度や位置といった重要な情報が得られ ることにある (途中の経過を無視するために、運動方程式を時間積分したのである)。ここ では、運動量保存則 (式 (2.8)) からの最も典型的な応用である 2 物体の衝突について見 てみよう。
2.2.1 向心衝突
2物体の衝突は、作用する力の作用線が 2 物体の重心を通る場合 (例えば、ビリヤード球 の衝突) と、そうでない場合 (例えば、野球のバットをボールで打つ場合) に分かれる。前 者を41向心衝突, 後者を 42偏心衝突 と呼ぶ。
まず初めに最も簡単な、直線を動いているとみなせる 2 物体の衝突を考えてみよう。 直線上に x 軸をとり、質量 m1, m2 の 2 物体の衝突前の速度をそれぞれ v1, v2 としてお
こう。すると、衝突前の 2 物体の全運動量 P は
P = m1v1+ m2v2 (2.15) となる。また、衝突後の速度をそれぞれ v1′, v2′ とし、これらを衝突前の速度から決める ことを考える。上の式を立てた時と同様にすると、衝突後の 2 物体の全運動量 P′ は
P′ = m1v1′+ m2v2′ (2.16) となる。外力を考えないとき全運動量が保存するので、この二つの運動量が等しい (等し いということが、運動量保存則の意味である) ので、P = P′ すなわち、
m1v1+ m2v2 = m1v1′+ m2v2′ (2.17) が成り立つ。
v1′, v2′ を決めるためにはもう一つ条件式が必要である。それは物体がどの程度弾性を 持っているか (例えば、ビリヤードのように弾けるか、粘土の様にくっつくか) といった ことであり、物体の材質で決まる量である。この要素を表す指標は43跳ね返りの係数 ま たは44反発係数 と呼ばれ、通常 e で表される。その定義は、
e = v2
′− v1′ v1− v2
(2.18) である。この式の分母は衝突前 2 物体が接近する速度であり、分子は衝突後 2 物体が分 離する速度である。また、e は速度を速度で割った量であるから、無次元量 (単位を持た ない量) である。通常の物体では 0 ≤ e ≤ 1 である。e = 1 の時衝突は45完全弾性衝突、 0 < e < 1 の時46非弾性衝突、e = 0 の時47完全塑性衝突 と呼ばれる。後にエネルギー の項で調べるが、この e は力学的エネルギーの損失の度合い (音や熱のエネルギーに転換 される) を表している。式 (2.17) 及び式 (2.18) を解くと、
v1′ = v1−
m2
m1+ m2(1 + e)(v1− v2) , v2′ = v2+ m1
m1+ m2
(1 + e)(v1− v2) (2.19) が得られる (この式は覚えることを推奨しない。あくまで、式 (2.17) 及び式 (2.18) を解 くべきである)。
いくつか特殊なケースを見ておこう。物体が衝突する相手が巨大な壁のような場合、 v2 = v2′ = 0 と考えられるから、式 (2.18) から v1′ = −ev1 がすぐに分かる。
また、質量が m1 = m2 かつ e = 1 の時は、式 (2.17) 及び式 (2.18) はそれぞれ v1′+ v2′ = v1+ v2, −v1′+ v2′ = v1− v2
となるので、これを解くと、v1′ = v2, v2′ = v1 となって、衝突の前後で速度が入れ替わ る。これを利用した玩具にニュートンのゆりかごがある。
次に衝突の際に摩擦が働かない 2 物体の二次元衝突 (斜めの衝突とも呼ばれる) を考 えよう。このときは摩擦がないため、向心衝突になる。このような問題では、中心線を通
る軸 (ここでは x 軸とする) と、それに垂直な軸 (y 軸とする) についてそれぞれ考えれ ばよい。従って、v1x′, v1y′, v2x′, v2y′ を決めることを考えよう。y 軸方向については力が 働かないので、慣性の法則から
v1y′ = v1y, v2y′ = v2y (2.20) となる。x 軸方向については一次元の場合と同じ考察が成り立ち、
m1v1x+ m2v2x= m1v1x′+ m2v2x′ , (2.21) e = v2x
′− v 1x′
v1x− v2x
, (2.22)
v1x′ = v1x−
m2
m1+ m2
(1 + e)(v1x− v2x) , v2x′ = v2x+ m1
m1+ m2
(1 + e)(v1x− v2x) (2.23) が成立する。
2.2.2 偏心衝突
偏心衝突では衝突する力の作用線が 2 物体の重心になく、物体の回転運動が起こる。こ こでは、速度 v1 で運動している質量 m1 の質点が、静止している質量 m2、慣性モーメ ント IG = m2k2 (k は回転半径) の剛体棒の重心からの距離 a(̸= 0) の点 P に衝突するこ とを考えよう。この時速度の方向を x 軸とし、内力の作用線も x 軸の正負の方向を向い ているとして、一次元で (したがって、ベクトルを介さず) 考えよう。また、この衝突の 時に剛体棒に働いた力積を S = ∫ F dt としよう。
剛体棒に関しては、重心の並進運動と、その回りの回転運動に対して運動方程式を考 えてきた (式 (1.26) 及び式 (1.27))。従って、§2.1 の議論から、重心に対して運動量変化 の式 (式 (2.3)) 及び角運動量変化の式 (式 (2.11), 式 (2.12)) が成立する。従って、剛体棒 の重心の並進運動に関しては、式 (2.3) から
S = m2vG′ (2.24) が成り立つ。但し、剛体棒の衝突後の重心の速度 vG′ と、接触点 P の衝突後の速度 v2′
は当然同一ではないので、向心衝突の場合の運動量保存則の式 (式 (2.17)) に対応する式 を書き下ろすには、重心を外れた分による補正、すなわち
S = m2vG′ = mredv2′ (2.25) となる mred を求める必要がある。この mred を 48換算質量または離心軽減質量 と呼ぶ。 衝突する時間中に接触点 P の位置が変化しないとすると、a は時間によらず一定なので、 剛体棒に働く角衝撃量は ∫ N dt = ∫ aF dt = a ∫ F dt = aS と書ける。従って、式 (2.11), 式 (2.12) から、衝突後の回転角速度を ω′ とすると、
Sa = IGω′ (2.26)
となる。 したがって v2′ は
v2′ = vG′+ aω′ = S m2
+ Sa
2
IG
= S m2
+ Sa
2
m2k2 = S m2
( 1 + a
2
k2 )
= S
m2/(1 +ak22
)
(2.27) となるので、
mred= m2 1 + a
2
k2
(2.28)
である。
一方質点 m1 に働いた力積は −S = ∫ (−F ) dt なので、運動量変化の式 (式 (2.3)) は
−S = m1v1′− m1v1 (2.29) となる。この式と、式 (2.25) を辺々足して整理すると、重心を外れた分による補正を考 慮した運動量保存則
m1v1 = m1v1′ + mredv2′ (2.30) が成り立つことが分かる。跳ね返り係数を e とすると、式 (2.18) に対応する式は、衝突 前の剛体棒上の接触点の速度 v2 は v2 = 0 であるので
e = v2
′− v1′ v1
(2.31) となる。式 (2.30) と式 (2.31) を解くと、
v1′ = m1− emred m1+ mred
v1, v2′ = m1(1 + e) m1+ mred
v1 (2.32) となる。
また、剛体棒上の接触点と重心に対して逆側の点で、速度が 0 となる点が存在するこ とがある。この時、接触点 P は速度が 0 になる点 O の 49打撃の中心 と呼ぶ。この時、 点 O は瞬間中心であり、点 O を支えると反力を受けない。点 O と重心 G との距離 b を 求めよう。vO′ = vG′− bω′ = 0 なので、
b = vG
′
ω′ = S/m2
Sa/IG
= IG m2a =
k2
a (2.33)
となる。但し、2 番目の等号で式 (2.24), 式 (2.26) を用いた。従って、
ab = k2 (2.34)
が成り立つ。この式は点 P が点 O の打撃の中心であれば、逆に点 O は点 P の打撃の中 心であることを示している。
ここまでは、棒と球の系に外力がかからない場合を考えてきたが、最後に外力がある 場合として、棒が回転支点 A で支えられている時に球が点 A から ℓ の距離にある点 P
で衝突する場合場合について考察してみよう。このとき棒は点 A から反力を受けるので、 これが外力となる。従って、この場合は運動量保存則ではなく 反力の点 A の回りの力の モーメントが ⃗0 であるので、角運動量保存則が基本的な式になる。点 A の回りの角運動 量保存則は、点 A 回りの慣性モーメントを IA= m2kA2, 回転角速度を ω′ とすると、
m1v1ℓ = m1v1′ℓ + IAω′ (2.35) また、この時 v2′ = ℓω′ なので、この式は
m1v1 = m1v1′+ m2
kA2
ℓ2 v2
′ (2.36)
である。従って、
mred= m2
kA2
ℓ2 (2.37)
とすると、式 (2.30) と同じ形の式が成り立つ (但し、角運動量保存則から導かれたことに 注意)。衝突後の速度は式 (2.32) で求められる。
3 仕事とエネルギー
3.1 仕事 (work)
前章では、運動エネルギーの時間積分を考えてみたが、今度は空間積分を考えてみよう。 まず初めに、x 軸上を動く、一次元での物体の運動を考えてみよう。
物体が、力 ⃗F = (Fx.Fy) を受け微小に −→∆x = (∆x, 0)だけ動いたとすると、微小な仕 事 ∆W は (50進行方向にかけた力) × (51進んだ距離)、すなわち、
∆W = Fx∆x (3.1)
で定義される。進行方向の力 Fxのみが計算に含まれるので、この数式には Fyが含まれない ことに注意してほしい。より一般に運動を考えるときには、力 ⃗F (⃗r, ⃗v, t) = (Fx(⃗r, ⃗v, t), Fy(⃗r, ⃗v, t)) が変化していく (以下添え字は記法を簡単にするため、暫く省略する)。その場合は力が一 定とみなせるほど短い間隔 ∆x に区間を分割して、各区間の仕事の和をとったものを全 体の仕事とすれば良い。区間を細かくする極限をとると、物体が点 (x1, 0) から 点 (x2, 0) に動く時の仕事 W は
W =
∫ x2 x1
Fx dx (3.2)
で表される。
次に平面上 (二次元) を動く物体について考える。一般の次元には以下の議論が容易 に拡張できる。仕事は(力の動いた方向の成分) × (位置の変化) で表される。x, y 方 向で物理法則が異なる理由はないので、物体が、一定の力 ⃗F = (Fx, Fy) を受け微小に
−→∆x = (∆x, ∆y) だけ動いたとすると、微小な仕事 ∆W は
∆W = Fx∆x + Fy∆y = ⃗F ·−→∆x (3.3)
で表される。最後の式の ⃗F ·−→∆xは内積を表すが、内積はその定義から、 2 つのベクトルが どの程度同じ向きを向いているか を表す。有限区間の場合は力が一定とみなせるほど短 いベクトル −→∆xに区間を分割して、式 (3.3) で内積をとって各区間について和をとったも のを全体の仕事とすれば良い。区間を細かくする極限をとると、物体が点 ⃗x1 = (x1, y1)
から 点 ⃗x2 = (x2, y2)に動く時の仕事 W は W =
∫ x2 x1
Fx dx +
∫ y2 y1
Fy dy =
∫ ⃗x2
⃗ x1
F · d⃗x⃗ (3.4) となる。一番右の表式が一般的な仕事の定義である。これは運動経路についての和であ り、曲線に沿って積分を評価するので、52線積分 と呼ばれる。仕事の単位は素朴に考え ると [N · m]= [kg· m2/s2]であるが、力のモーメントとの混同を避けるため、仕事の単位 を表すときは [N · m] の別名 53[J] (ジュール、Joule) を用いている。
z 軸回りの回転運動による仕事を考えよう。回転中心を原点、物体の位置を (x, y), 微 小回転角度を ∆θ とすると、角度回転による微小な位置の変化は −→∆x = (−y∆θ, x∆θ) な ので、一定の力 ⃗F = (Fx, Fy) による仕事は
W = Fx(−y)∆θ + Fyx∆θ = (xFy− yFx)∆θ
= (⃗r × ⃗F )z∆θ = Nz∆θ (3.5) である。但し、Nz は力のモーメント ⃗N = (0, 0, Nz)の z 成分である。回転軸の方向が運動 中に z 軸方向で変わらない時には、 θ = ∫ ω dt が定義できて、θ = θ1 から θ = θ2 にな る時の仕事 W は、
W =
∫ θ2
θ1
N dθ (3.6)
と計算できる。従って、これを式 (3.4) と比べると一般の運動と回転運動の間には ⃗F ↔ N, ⃗x ↔ θ という関係が成り立つ。
実際の機械を動かす時には、時間的な効率も問題になる (例えば、ちょっとした動作で 1 時間かかる感じだと、機械としては使い物にならない)。そこで54動力 (power) (55仕事率 も同じ意味) P を以下で定義する。
P = dW
dt . (3.7)
54動力 の単位は、仕事を時間で割ったものなので [J/s] であるが、この単位は通常 56[W] (ワット、Watt) という別名で呼ばれる。また、SI 単位ではないが、馬力も車のエンジン を表す際などによく使われる。1 馬力 は約 735.5 W である。
具体的な表式は式 (3.4) 及び式 (3.6) を置換積分を用いて積分変数を ⃗x, ⃗θ から t に 変換することにより考えることができる。時刻 t = t1, t = t2 の時に物体がそれぞれ
⃗x = ⃗x1 (θ = θ1), ⃗x = ⃗x2 (θ = θ2) の位置 (角度) にいるとすると、速度ベクトル (角速度)
⃗v = d⃗x dt
(
ω = dθ dt
)
を用いて
W =
∫ ⃗x2
⃗ x1
F · d⃗x =⃗
∫ t2 t1
F ·⃗ d⃗xdt dt =
∫ t2 t1
F · ⃗v dt⃗ (一般の運動)
W =
∫ θ2 θ1
N dθ =
∫ t2 t1
Ndθ dt dt =
∫ t2 t1
N ω dt (回転運動) (3.8)
と書けるので、
P = ⃗F · ⃗v (一般の運動), P = N ω (回転運動) (3.9) となる。
3.2 エネルギー
3.2.1 運動エネルギーと仕事の関係
式 (3.8) から仕事 W は ⃗F ·⃗v の時間積分で書けるので、ニュートンの運動方程式 (式 (1.1)) と ⃗v との内積をとって、式 (3.8) と同じく、t = t1 から t = t2 まで時間積分を行ってみ よう。⃗a = d⃗v
dt なので、
∫ t2 t1
md⃗v
dt · ⃗v dt =
∫ t2 t1
F · ⃗v dt = W⃗ (3.10) である。ここで、57運動エネルギー (kinetic energy) K を以下で定義する。
K = 1
2m(⃗v · ⃗v) = 12mv2 . (3.11) 但し、v = |⃗v| は物体の速さ (速度ベクトルの大きさ) である。t = t1(t = t2)で v = v1 (v = v2)であるとしよう。この時刻での運動エネルギーは K1 = 1
2mv1
2
(
K2 = 1 2mv2
2
) であ る。K の時間微分は、m を定数と考えると、
dK dt =
1 2m
d
dt(⃗v · ⃗v) = 1 2m
( d⃗v
dt · ⃗v + ⃗v · d⃗v dt
)
= md⃗v
dt · ⃗v (3.12) となるので、式 (3.10) の左辺を変形すると、
∫ t2 t1
dK dt dt =
∫ K2 K1
dK = K2− K1 = W (3.13) となる。この最後の等号は (物体の運動エネルギー変化)=(物体になされた仕事) という ことを表している。
回転運動する物体の運動エネルギーを考えよう。簡単のため回転軸は固定軸とし、剛 体には回転運動のみが起こる時を考えよう。角速度の大きさ ω で回転軸から r 離れた微 小質量 dm の速度は v = rω であるから、微小質量による微小な運動エネルギー dT は
dT = 1
2(dm)(rω)
2 (3.14)
となる。したがって、物体全体が持つ運動エネルギーは、 T =
∫ 1 2(rω)
2dm = 1
2ω
2
∫
r2 dm
= 1 2Iω
2 (3.15)
となる。ただし、最後の等号で慣性モーメント I の定義式 (式 (1.8)) を用いた。従って、 この場合も式 (1.9) 等と同じく、 m ↔ I, v ↔ ω の対応が成り立つ。
3.2.2 ポテンシャルエネルギーと力学的エネルギー保存則
位置ベクトルが ⃗x1 = (x1, y1) の点から位置ベクトルが ⃗x2 = (x2, y2) の点に物体を動かす 時、物体になされる仕事は一般に経路により異なる。しかし、もし物体になされる仕事が 運動経路によらない場合、質点を動かす力のことを58 保存力 と呼ぶ。この時、保存力が する仕事は 2 つの物体の位置のみで決まる。従って、位置の関数 U(x, y) を考え、
W = U (x1, y1) − U(x2, y2) (3.16) とすることができる。この U(x, y) を力 ⃗F = (Fx, Fy) の 59位置エネルギー (ポテンシャ ルエネルギー) と呼ぶ。
さて、式 (3.13) と式 (3.16) は物体になされた仕事について 2 通りの表し方をしてい る。これらは等しいはずなので、
K2− K1 = U (x1, y1) − U(x2, y2) ここから、
K2+ U (x2, y2) = K1+ U (x1, y1) (3.17) が成り立つ。この両辺の K + U を物体の60力学的エネルギー と呼ぶ。この式は、運動の 終わりの状態と始めの状態で力学的エネルギーが等しいということを表している。このこ とを 61力学的エネルギー保存の法則 と呼ぶ。力学的エネルギー保存則を考えることで、 ポテンシャルエネルギー U(x, y) を求めることにより、運動の詳細がわからなくても速 度などの重要な物理量を引き出すことが可能になる。
保存力としては、重力、バネの力、万有引力、クーロン (電磁気) 力などが、非保存 力としては、摩擦力、抵抗力、外力 (例えば人が外から加える力) などが挙げられる。保 存力によって保存されるのは力学的エネルギーである。実際にはエネルギーは、化学エネ ルギー、熱エネルギー、光エネルギー、質量エネルギーなど様々な形態のエネルギーが存 在し、全エネルギーが保存すると考えられている。これを 62 エネルギー保存の法則 と呼 ぶ。また、力学的エネルギーから他の種類のエネルギーに転換している状態を、力学的エ ネルギーが 散逸 した状態であると呼ぶ。例えば、摩擦力や物体の非弾性衝突では、力学 的エネルギーは熱エネルギー (=接触面付近の分子の熱エネルギー) へと散逸しているし、 原子核の崩壊・融合などは、原子核の質量エネルギーから熱や運動エネルギーへの転換が 起こっている。
具体的なポテンシャルエネルギーの計算を考えよう。物理的に重要な量はポテンシャ ルエネルギーの差であるので、ポテンシャルエネルギーが 0 となる点は人間が勝手に決 めても良い (ただし、よく考えられる場合では、慣例的に 0 になる点を決めている)。ポ テンシャルの基準となる点の位置ベクトルを ⃗xo = (xo, yo), すなわち U(xo, yo) = 0 とす ると、位置ベクトル ⃗ro の点から位置ベクトル ⃗x = (x, y) に移動する際に物体になされる 仕事 W は、
W =
∫ ⃗x
⃗ xo
F · d⃗x = U(x⃗ o, yo) − U(x, y) = −U(x, y) となる。したがって、ポテンシャルを求める式は
U (x, y) = −
∫ ⃗x=(x,y)
⃗xo=(xo,yo)
F · d⃗x⃗ (3.18)
となる。また、力が常に一定の方向に働くような場合では、保存力の場合自由に積分経 路を取れるので、 ⃗F = F⃗ex, d⃗x = ⃗exdx と経路を力の方向と一致するように積分経路をと ると、
U (x) = −
∫ x xO
F⃗ex· ⃗ex dx = −
∫ x xO
F dx (3.19) とポテンシャルが計算できる。
また、ポテンシャルがわかっている場合、そこから力を求めることもできる。短い時 間、二次元 (一般の次元の場合も同様にできる) の保存力 ⃗F = (Fx, Fy)を受けて位置ベク トル ⃗x = (x, y) の点から位置ベクトル ⃗x + −→∆x = (x + ∆x, y + ∆y) の点へ動く物体の運 動を考えよう。この時 −→∆x だけ物体が移動したことになるので、物体になされた仕事 W は、式 (3.3) で与えられる。一方ポテンシャルから仕事 W を書き表すと、式 (3.16) から W = U (x, y) − U(x + ∆x, y + ∆y) (3.20) と表される。これらが等しいので、
Fx∆x + Fy∆y = U (x, y) − U(x + ∆x, y + ∆y) (3.21) が成立する。ここで、∆y =0 の場合を考えてみよう。すると、
Fx∆x = U (x, y) − U(x + ∆x, y) である。したがって、∆x → 0 の極限をとると、
Fx = − lim
∆x→0
U (x + ∆x, y) − U(x, y)
∆x = −
∂U (x, y)
∂x (3.22) となる。∂U (x, y)
∂x は関数 U(x, y) の変数 x による63偏微分 (partial derivative) と呼ばれ、 その定義は
∂U (x, y)
∂x ≡ lim∆x→0
U (x + ∆x, y) − U(x, y)
∆x (3.23)
である。 ∂
∂x の意味は、x 以外の変数を定数とみなし、x で微分する と言う意味である。
∆x =0の場合も全く同様に考えられるので、保存力 ⃗F = (Fx, Fy)はポテンシャル U(x, y) から
F = −∇U(x, y)⃗ (3.24) と求められる。但し、∇U(x, y) は
∇U(x, y) =( ∂U (x, y)
∂x ,
∂U (x, y)
∂y )
(3.25) で定義され、関数 U(x, y) の64 勾配 (gradient) と呼ばれ、スカラー関数を入力し、ベク トル値関数を出力する微分演算子である。また、grad U(x, y) と書いても ∇U(x, y) と同 じ意味を表す。