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word2vec を用いたブランドの評価

第 4 章 「ヒット製品」の事例検証

第 2 部 新聞記事の表現から見る

5.1 word2vec を用いたブランドの評価

3.2.4で述べたようにword2vecでは対象となる語(製品名や企業名)などをpositive word として与えると、その語と類似しているとみなされる語(類義語:企業名や製品名、製品 カテゴリー名など)が得られる。3.2.4ではアップルの携帯オーディオプレーヤーの製品名

であるiPodをpositive wordとして与えて、2004年の日本経済新聞の記事データを用いて

実行した結果、その類義語としてiPodと同じ意味と考えられる「i-pod」、iPodの製品名で ある「mini」や「photo」、iPodと同時に普及したアップルのサービスである「iTunes」「Music」

「Store」(word2vecの処理では別々の語として出現)、iPodの製造企業である「アップル コンピュータ」や「アップル」、「Apple」、iPodの競合製品であるソニーの「WALKMAN」

や「ネットワークウォークマン」、iPodの製品カテゴリーと考えられる「携帯音楽プレーヤ ー」や「デジタルオーディオプレーヤー」「プレーヤー」、アップルの製品である「マッキ ントッシュ」や「Mac」、iPodに関連するサービスと考えられる「有料配信ネットサービス」

や「音楽配信サービス」、「音楽配信」、iPodの機能に関連すると考えられる「ハードディス ク内蔵型」や「MP3」などの類義語が得られた。これらの類義語の中で企業名をコーポレ ート・ブランド、製品名や製品カテゴリー名をプロダクト・ブランドをみなし、その関係 を整理すると、企業におけるコーポレート・ブランドとプロダクト・ブランドの関係性(一 致の程度)を知ることができるのではないかと推測できる。そこで、ここではまずコーポ

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レート・ブランドとプロダクト・ブランドの評価に関する先行研究について述べる32。 5.1.1 ブランドの評価に関する先行研究

インターネットで検索するとブランド・イメージの調査を請け負う企業は数多く見受け られるし、多くの企業が自社の企業や製品のイメージ調査をしばしばおこなっている。企 業や製品のイメージ、つまりブランドの評価とはどのようなものであろうか。

アーカーは売上高、コスト分析、マージン、利益、資産収益率などの一般に認められた 財務指標が、通常、ブランドの目標や成果の尺度として支配的であるとしながら、「ほとん どの事業はブランド・エクイティを測定する際、当面の興味ある製品クラスや市場に限定 して測定を行なう」と注意を喚起し、ブランド・エクイティの測定を複数の製品カテゴリ ーや市場にその視野を広げることの価値を説いている(アーカー,1997)。彼はブランド・

エクイティ10という尺度の集合体を用いることを提案している。これはブランド・エクイ ティのブランド認知、ブランド・ロイヤリティ、知覚品質、ブランド連想という主要な 4 つの資産をベースに、ロイヤルティ尺度(1.価格プレミアム、2.顧客満足/ロイヤルティ)、

知覚品質およびリーダーシップ尺度(3.知覚品質、4.リーダーシップ/人気)、連想および 差別化尺度(5.知覚価値、6.ブランド・パーソナリティ、7.組織連想)、認知尺度(8.ブラン ド認知)、市場動向尺度(9.市場シェア、10.市場価格と流通カバー率)とい10の尺度から 構成されているが、「最初の8つの尺度は、すべて、費用が掛かり、面倒で、多くの時間を 費やすにもかかわらず実施や解釈が難しい顧客調査を必要とする」(アーカー,1997)とア ーカー自身が述べている。つまり、市場シェアや市場価格、流通カバー率といった具体的 な数値で測定できる尺度以外は解釈が難しいし、手間がかかると述べているのである。

ブランド評価の研究の多くはアーカーのようなブランド価値(ブランド・エクイティ)

という考え方を軸にして、経済産業省企業法制研究会の「ブランド価値評価研究会報告書」

(経済産業省企業法制研究会,2002)33のように、ブランドの資産価値の評価を試みるもの が多いようである。そのような中、簗瀬はコーポレート・ブランドと製品ブランド(プロ ダクト・ブランド)の関連性について、大学院における学生とのインターネット調査によ る共同調査の結果を用いながら、対象企業のコーポレート・ブランドのイメージについて 論じている(簗瀬,2007)。この調査は2006年に実施されており、1つは自動車メーカー に関して顧客としてコーポレート・ブランドと製品ブランド(プロダクト・ブランド)に 価値を置く比重(メーカー重視かブランド重視かの割合)を尋ね、その結果、トヨタ、日 産、ホンダの3社の中ではホンダは最も(製品)ブランド寄りであるが、3社のコーポレー ト・ブランドと製品ブランド(プロダクト・ブランド)の割合は拮抗していると述べてい

32 ブランドというものの考え方についてはコトラーとケラー(コトラー&ケラー,2008)やケラー(ケラ ー,2010)を参照。またブランドの価値形成についてはアーカー(アーカー, 2014)や青木(青木,

2004,2011)の文献を参照。

33 この評価のためのアンケートは企業に対してなされており48もの設問でプラン度に対する企業の考え 方を尋ねている。この中にはコーポレート・ブランドとプロダクト・ブランド、ブランド戦略について の設問も設けられている。

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る。またコーポレート・ブランド(企業名)から連想する語彙も尋ねており34、トヨタは「世 界一」「業界一」「一流企業」で46%、日産は「ゴーン」で35%、ホンダは「F1」と「技術

力」で 31%になり、ホンダが自動車メーカーとしての性格がはっきり表れており、最も差

別化された強烈なブランド連想を持たれていると述べている。簗瀬らのもう 1 つの調査は 電機メーカーのコーポレート・ブランドの連想であるが、ここでは企業名ではなく、日立、

松下35、ソニー、シャープの薄型テレビ5製品(WOO、VIERA、VEGA、BRAVIA、AQUOS)

について自動車の調査と同じように顧客としてコーポレート・ブランドと製品ブランド(プ ロダクト・ブランド)に価値を置く比重を尋ねて、自動車のケースよりも総じて企業重視 であると述べている。また自動車と同じように各メーカーのコーポレート・ブランド(企 業名)から連想する語彙も尋ねており、日立は「白物家電」、松下は「家電の王様」、ソニ ーは「最近落ち目」、東芝は「技術・信頼」「サザエさん」、シャープは「液晶」などの語彙 が上位にあることについて解説している。簗瀬はこれらの調査のコーポレート・ブランド

(企業名)から連想する語彙から独自にコーポレート・ブランドのポジショニングを説明 しているが、ポジショニングのグリッド軸は今回の調査結果ではなく、簗瀬が推定したと 述べており、この手の調査はアーカーが述べているように実施や解釈が難しいのであろう。

5.1.2 新聞記事の表現によるブランド評価の仮説

― 新聞記事の表現の違いからブランド戦略の評価が可能か ―

日本企業のブランド戦略について、前述のアーカーは企業イメージにとりつかれ、社名 を幅広いさまざまな製品に付し、その企業ブランドを究極のレンジ・ブランドとするとし ながら、アイデンティティの次元は企業間で著しく類似していると述べている(アーカー,

1997)。簗瀬も日本におけるブランド・マネジメントの状況について、「コーポレート・ブ

ランドへの思いが強すぎて、その他のブランドへの真剣な対応がおろそかになっている傾 向が否めない」(簗瀬,2007)と述べ、ブランド・マーケティング戦略を構築していく上で の基本戦略を①ポジショニング戦略、②製品コンセプト戦略、③マーケット・セグメンテ ーション戦略、④マーケティング・ミックス戦略とし、ポジショニング戦略においてその ブランドの参入市場の定義が大切であるとしている(簗瀬,2007)。

記事データをword2vecで分析して得られた類義語からコーポレート・ブランドとプロダ クト・ブランドの関係性を明らかにすることができれば、簗瀬が述べているところの企業 の市場参入が上手くいっているのか、または失敗しているのかを評価することができると 考えられる。ある市場への参入に成功している製品は、その市場のカテゴリー(製品カテ ゴリー)を代表するものとして強く認識されているであろう。そのことは単に消費者にと どまらず、新聞記事の表現にも表れるであろう。また市場をリードする製品であれば、そ の製品が市場の標準になるであろう。そのような製品は製品を提供している企業の取り組

34 調査票の具体的な内容には触れられていないが、このブランド連想の調査は自由記述(フリー・アンサ ー)により行われていると電機メーカーの調査で記述されている。

35 2008年にパナソニックに社名変更。

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みも明確で、新聞記事の表現も統一されており、製品のイメージと企業のイメージが一致 するのではないかと推測されるのである。