第 3 章 「ヒット製品」の分析の手法
3.3 本研究での分析手法について
3.2でTTMや日本語ワードネット、因子分析、クラスター分析、word2vecの採用の可 能性について検討したが、本研究で採用することは難しそうである。そこで、本研究では 変数と変数の共起の発生頻度でヒット製品の特徴の分析をおこなう。ここでは、その分析 と検証の流れについて述べる。
3.3.1 「ヒット製品」の選択
「新しい製品開発のヒント」と言っても、検証しようとする製品は広く社会に受け入れ られ、一般的な言い方では「ヒット」した製品でなければならない。そこで日経MJ(流通 新聞)が毎年発表している「ヒット商品番付」の製品から検証対象の候補を選ぶことにす る。このヒット商品番付は「1年間の消費動向を踏まえたうえで、売れ行き、開発の着眼点、
価格水準、さらに流通構造や消費者心理の変化に与えた影響などを総合的に判断し」22日経 MJにより作成されたもので、1971年から40年以上にわたり毎年発表され、2002年から は年間だけでなく上半期の番付も発表されている。日経MJによる独自のランキングでは あるが、ヒット製品が何であるかといったときに統一された明確な基準がない中で、40年 以上にわたって作成され続けているこのヒット商品番付は1つの指針になると考えられる。
3.3.2 「ヒット製品」の特徴を新聞以外の文献から探す
ここではヒット製品について書かれている新聞以外の複数の文献から、受け入れられた 理由、あるいは製品の特徴について述べられている部分を選択し、その製品が受け入れら れた理由、あるいは製品の特徴を表す語を仮定する。この新聞以外の文献から得られた、
製品が受け入れられた理由、あるいは製品の特徴を表す語、つまり新聞記事とは異なる外
22 日経流通新聞「平成7年ヒット商品番付――閉塞破る横綱NOMO、「95」、米国から2大旋風。」 1995年12月26日付,p. 1。
33
部の評価の基準を取り入れ、記事データの分析結果と比較することにより、分析検証作業 の客観性を担保できると考える。
しかし、新聞記事には製品の紹介だけでなく、製品を製造(サービスを提供)している 企業の経営状況や人事に関する記事もあり、そのままテキストマイニングをおこなうと膨 大な数の語幹と品詞の組み合わせ、つまり変数が発生し、分析結果の解釈、検証が難しく なる。そこで、前述した製品が受け入れられた理由、あるいは製品の特徴を表す語幹と共 に発生(共起)する語幹を記事データの抽出条件に用いることで、妥当性を持った変数に よる、分析対象記事の記事データの絞り込みが可能になる。ここでは受け入れられた理由、
あるいは製品の特徴を表す語を「理由語幹」、その理由語幹と共に現れる語を「共起語幹」
とする。この共起語幹がヒット製品に共通のものであればヒットした理由(理由語幹)の 抽出を定型的におこなうことができよう。
3.3.3 「ヒット製品」の特徴を新聞記事から探す
製品名をキーワードとして、製品発売時の記事データを絞り込み、次に3.3.2で得られた 共起語幹で絞り込み、統計分析処理をおこない、理由語幹を見出す。記事データの期間は 各製品がヒット商品にあげられた年を中心に、その前年、その翌年の3年間とする。これ は、ほとんどの候補の製品が日経MJでヒット商品とされた年の前年から翌年まで記事数 が大きく変化していると推測されるからである。また製品の発売年からヒット商品にあげ られた年までの期間が製品によって異なるため、ヒット商品にあげられた年の前年からと した。発売された製品が改良や環境の変化によって社会に受け入れられた可能性もあるた め、ヒット商品に挙げられた年よりはるか以前のデータを分析に用いるとヒット以前での ヒントとなる特徴の発見が困難になる可能性があるからである。
3.3.4 売り上げデータによる検証
3.3.2で仮定した理由語幹と同じ語幹(あるいは同義、類義の語幹)がヒットした年、お
よび比較対象となる年の前年と翌年の記事データの分析結果に含まれているかどうかの確 認をおこない、検証作業の妥当性を得る。
3.3.2で仮定した新聞以外の文献から得られた理由語幹をX、ヒットした年の記事データ
の分析結果として得られた理由語幹をYとすると、X≒Yとならなければならない。検証対 象製品がまだ発売されていない、あるいは社会に受け入れられていない時点では製品名の 語幹をキーワードとすることはできない。そこで、製品名ではなく製品が含まれる製品カ テゴリーで分析データを絞り込み、次に3.3.2で得られた共起語幹で絞り込み、理由語幹を 見出し、Yの理由語幹との比較をおこなう。
ヒット以前の記事データの分析の結果として得られた理由語幹をZとすると、ZとYの 関係は、Y∋Zとならなければならない。つまり製品発売(社会に受け入れられる)以前の 状態(Z)に何らかの特徴(Y-Z)を付加された、あるいは社会がそのような特徴を求めた ために社会に受け入れられ、ヒットしたと考えられる。
では、ヒット以前とはどこの時点を指すのであろうか。ここでは図3-4(検証作業の流れ)
34
の時間軸に売り上げ(販売)データをあてはめ、売り上げ数値の変化と理由語幹の出現頻 度の変化を比べる。売り上げ数値が上昇する前をヒット以前とし、その時点で Z の理由語 幹が得られれば、記事データ(新聞の記事)には新製品開発のヒントが存在するというこ とになる。
図 3-4 検証作業の流れ
他文献による 「理由語幹」
「共起語幹」
Xでの共起語幹を用いて ヒット以前の 新聞記事より理由語幹を発見 新聞記事での理由語幹発見
製 品 の
発売
あ る い
は改
良
製品
の ヒ ッ ト
Z Y
(時間軸)
(検証の流れ)
35