第 4 章 今後の課題 148
4.3 tConChart における今後の課題
tConChartの有する性質のうち第3章で明らかできたのは一部に過ぎない.
tCon-Chartの活用範囲の拡大も含めて,今後さらに次のような項目について検討すべき
だと考える.
4.3.1 視力低下,視野狭窄,コントラスト感度低下といった視覚特 性の各要素が tConChart の計測値に与える影響
tConChartはロービジョン者の印刷文字に対する視認状態を評価することを目的
として提案したことから,視力低下,視野狭窄,コントラスト感度の低下といった ロービジョンの視覚特性の一つ一つの要素がtConChartの計測値にどのように影 響するかを明らかにしていくことは急務である.そして,仮に晴眼状態に比較して,
視覚特性に特徴的な計測値が得られるとすれば,晴眼者で得られる計測値を目標値 にしてロービジョン者の視環境の最適化パラメータの値を設定したり,tConChart による計測値を分析して晴眼者の見え方の異常をいち早く発見したりできる可能 性がある.
4.3.2 書体の影響
tConChartの刺激文字は,現在,明朝体を用いているが,教科書体,ゴシック
体,創英角体,毛筆体といった他の書体を用いて計測した場合の,tConChartの 計測値への影響および読書速度との関係を明らかにしておくことで,簡便な書体 の最適化の方法として活用できる可能性がある.
4.3.3 文字の画数の影響
tConChartは常用漢字の約96.0%が1〜17画に含まれることを根拠に17画漢字 を刺激文字として用いている.これは常用漢字で記載された文書を概ね読むこと ができる水準を想定したものである.一方,1〜10画までに常用漢字の約51.3%が 含まれることから,10画漢字を刺激文字として計測するtConChartの計測値は,
常用漢字を用いて記述された文書の読書において,出現する漢字の約半数を楽に 視認できる文字サイズを推定できる可能性がある.この水準で判定された最適文 字サイズは,17画漢字を刺激文字とするtConChartによって判定される文字サイ ズより小さいことが予想される.そうした文字サイズでの読書においては,画数 の多い漢字が出現して文字の判別がしにくい時には,視距離を短くしたり,文脈 による推定や脳の補完作用を活用したりしながら読み進めることになる.10画漢 字を刺激文字とするtConChartは,こうしたタイプの読書法に適した文字サイズ を推定できる可能性がある.拡大鏡,拡大読書器,電子デバイス等での閲覧や,視 野狭窄で窓範囲が限定されている場合は,表示可能な文字数確保のために,文字 サイズを可能な限り小さくする必要がある.こうした場合,10画漢字を刺激文字
とするtConChartの計測値を基に推定した文字サイズの方が適していることが予
想される.
4.3.4 小中学生各学年用 tConChart の開発
小中学校における各学年で教育する教育漢字を刺激文字とするtConChartの作 成・活用は視覚障害教育において有用性が高いと考えられる.ただし,これを用 いる際には,tConChartにおける文字の判別水準を「文字の読み取り可能」では なく「構造確認可能」とすべきである.小中学校段階では,漢字の学習は重要な 項目であり,そのためには文字の構造を正しく理解する必要があることから,漢 字の構造を確認できる文字サイズで提示する必要がある.