1.2 ロービジョンの視覚特性とその評価
1.2.5 コントラスト感度低下
コントラスト感度とは
視力は,視機能を代表する評価項目の一つであるが,必ずしも日常の見え方を 代表しない.視力は,高コントラストの視標を用いた最小分離閾であり,完全矯正 状態における遠見での中心視力のことを指している.しかし日常の視環境は,明 所から薄明,暗所まで変化し,対象物のコントラストは様々であるから,視力だ けでなくコントラスト感度や低コントラスト視力の計測が重要である[144].
コントラストとは白黒の明暗対比をいい
C = (Lmax−Lmin) (Lmax+Lmin)
で表す.これをマイケルソンコントラスト(Michelson contrast)という.ただし,
LmaxとLminはそれぞれ最大輝度と最小輝度を示す.コントラストは,0〜1の値 を取る無次元量で単位はない.通常,測定には正弦波が用いられ,縞の細かさを表 す指標として,単位視角当たりに含まれる縞の数を空間周波数(spatial frequency) として表す.単位はcycles/deg (cpd)が用いられる.
縞を識別できる最小コントラストをコントラスト閾値(contrast threshold),コ ントラスト閾値の逆数をコントラスト感度(contrast sensitivity)という.視覚系
図 1.8 白内障における水晶体の濁りのイメージ図
のコントラスト感度特性を表示する場合,横軸に空間周波数(cpd),縦軸にコン トラスト感度を対数スケールで表示する[143].
コントラスト感度の計測
コントラスト感度は,臨床的にはペリーロブソン表やリーガン低コントラスト 視力表で計測される.
ペリーロブソン表は基本空間周波数0.5 cpdの活字で構成され,各列3つの活字 からなる2つのグループでできている.各活字グループのコントラストは表の最 上部の90 %から,最下部の0.5 %にまで減少する.被験者は3つの活字のうちの
2つが読めなくなるまで,活字を上から下まで読むよう求められる.
リーガン低コントラストテストは,コントラスト96 %と11 %の2つの活字表 で,上から下にいくにつれて活字の大きさは小さくなる.被験者は上から下に向 かって活字を読み,各表において確認できる最も小さな活字が記録される.計算 図表を用いて二つの感度の間に線を引き,その線の勾配が通常よりも急な時,コ ントラスト感度の異常を疑う.
窪田ら[58]は,Webページ上でコントラスト感度特性を測定するシステムを開 発し,303名のPCユーザからWebを介して測定結果を得た. 同時に被験者の属性 やPC画面上で好ましい文字サイズに関するデータなどを取得し,コントラスト 感度の測定結果との関係について検討した. その結果,被験者の年齢や視力矯正 方法とコントラスト感度との間に相関が認められたと報告した.
ロービジョン者のコントラスト感度特性
高橋ら[106]は,被検者のディスプレイ表示に対するコントラスト感度特性を計
測するためのツールを開発した.ディスプレイに横300×縦100ピクセルの四角 形を縦に3つ表示し,ランダムにそのうちの一つの四角形だけを徐々にコントラ ストを強めながら縞模様にする.どの四角形が縞模様になったかを判別できた時 のマイケルソンコントラストの逆数を,コントラスト感度として読み取った.計 測の結果,ロービジョン者群は晴眼者群に比べてコントラスト感度が低く,ばら つきが大きいことを報告した.
伊藤[141]は,CRTフラットディスプレイ上にサイン波の縞模様を提示して種々 の空間周波数の視認閾値を求めた.ロービジョン者のコントラスト感度は,非常 にばらつきが大きく,全体的に高空間周波数側の感度低下が見られた.晴眼者で 3 〜4 cpdにある最大感度がロービジョン者では,0.3 〜0.5 cpdに移動しているこ とを報告した.さらに,医学的な属性検査で被験者を分類すると,中心残存型で は低空間周波数が,周辺残存型では高空間周波数の感度低下が顕著であったと報 告した.
磯野ら[87]は,高齢者10名,若年者10名の色度空間周波数特性及び時間周波 数特性を測定した.高齢者は若年者と比較して,色度コントラスト感度が,全周 波数にわたって低下していた.赤-緑の色刺激に比べて,黄-青の色刺激パターンで の低下が著しいことを報告した.
小澤[107]は,晴眼者とロービジョン者に対し,網膜上に直接レーザー光の干渉
縞を結像させて屈折系の影響を排除して空間周波数特性を計測した.その結果,晴
眼者では3〜7 cpdにピークを持つバンドパス型,網膜色素変性ではローパス型を
示した.さらに,先天性白内障では晴眼者に近い群,ローパス型群,全帯域で著 しい感度低下を示す群の3群に分類できたと報告した.