1.2 ロービジョンの視覚特性とその評価
1.2.8 ロービジョンのシミュレーション
シミュレーションの意義
ロービジョン者の見え方は,視力が低いだけではなく,視野の状態や暗点の有 無,コントラスト感度,色覚特性,暗順応や明順応の不調など多様な要素からなっ ていて,その見え方を理解することは容易ではない.そこで,ロービジョン者の 視覚特性をシミュレートすることができればロービジョン者に対する理解が深ま り,より良い人的サービスの提供につながる.ユニバーサルデザインの設計にお いても,製品の配色,配置,大きさなどのユーザビリティを評価する際に有用で あると考えられる.
中野ら[171]は,ディスプレイの表示が高齢者にどのように見えているかを実感
できるよう,時系列のカラー画像に対して,空間周波数特性,分光特性,焦点調 節特性に応じた伝達関数を施して,シミュレート画像を得たと報告した.
西尾ら[110]らは,建築系学生を対象に視覚障害疑似体験を実施したことで,視 覚障害者に使いやすい住宅を設計する意識や建築的工夫についての知識の向上,視 覚障害者に対するイメージの向上が見られたと報告した.設計教育の中で,疑似 体験を取り入れることの有効性を示したものである.
ぼけによる低視力のシミュレーション
ぼけをシュミレートして行われた研究には,以下のようなものがある.
観音ら[168]は,フィルタを用いてぼけを再現し,スネレン文字視標の読み取り
正答率に及ぼす影響を測定した.Leggeら[15]は,ディスプレイと被験者の間に ディフューザと呼ばれる25×12.5cmのすりガラスを設置することでぼけをシミュ レーションした.小林[97]は,凸レンズによる屈折異常のシミュレーション下で 楽に見ることができる線幅を求めた.
透光体混濁のシミュレーション
透光体混濁をシミュレートして行われた研究には,以下のようなものがある.
鵜飼[41]は,眼鏡に貼ることのできる光拡散効果を持ったシート,バンガータ フィルタ(スイス Ryser Optik[松本医科器械扱]:Occlusion Foil)を用いて健常者 の視力をコントロールし,ロービジョンの視覚をシミュレートする方法について コントラスト感度特性の点から検討し,妥当性があることを示した.
高橋ら[52]は,晴眼者を被験者とし,白内障擬似体験フィルタを用いて,照度と
透光体混濁の程度が視標に対する視認性に与える影響を検討したところ,照度レ ベルの上昇はグレアを増大させ,視標の視認性を低下させること,低空間周波数 視標よりも高空間周波数視標においてグレアの影響を強く受けることを報告した.
草野[166]は,若年者に対して,白内障疑似体験フィルタを用いた計測を行った
ところ,高齢者と同様,灰色と青色の刺激に対する反応速度の延長が見られた.こ のことから,高齢者は加齢によって,水晶体の黄変,短波長成分の透過率低下,網 膜上のコントラストが低下する結果,視認性低下及び反応時間の遅延を引き起こ していると報告した.
小浜ら[152]は,老人性白内障を疑似するための適切なフィルタを選定するため,
両眼とも白内障の症状があり,片眼のみ手術を追えた術後3日目の患者48名を被 検者とし,手術を終えた方の目にフィルターを掲げ,手術前の見え方に近いもの を選択させることで,FOGGY B+ND0.2+LBA2のフィルタを「生活に不便を感 じ始める中程度の白内障の見え方を疑似するもの」と判定した.そのフィルタを 用いて,老人性白内障を疑似体験するための白内障疑似体験眼鏡を作成した.
視野狭窄のシミュレーション
視野狭窄をシミュレートして行われた研究には,以下のようなものがある.
杉森ら[59]は,視野角5゜の視野狭窄眼鏡を使用して視線追跡実験を行った.加
藤ら[109]は,眼球運動・瞳孔の測定装置を付けたヘッドマウントディスプレイを
用いて視野狭窄をシミュレートした.樋渡ら[179]は,テレビジョンアイカメラと
視野制限装置を用いて視野制限下での図形対する応答時間を観察した.和氣[167]
は,視野狭窄眼鏡を装着させて日常生活動作を観察した.川島ら[113]は,移動窓 法によって視野を制限した状態でのパターン認識の正答率を観察した.
色覚異常のシミュレーション
色覚異常をシミュレートして行われた研究には,以下のようなものがある.
内山ら[138]らは,ロービジョン者のWebアクセシビリティの向上を支援する
ためのツール「ColorDoctor」を開発した.「ColorDoctor」を用いることで,制作 されたWebページの文字や動画像の色合いが,色覚障害者にとってどのように見 えているかをシミュレートすることができると報告した.
吉澤ら[49]の照明条件を考慮したシミュレーション法を提案し,Panel D-15 test
chartを用いてその妥当性を確認した.岡嶋ら[76]は完全二型二色覚者のシミュレー
ションに交照法を用いて分光視感度を測定することで,その妥当性を確認した.
表 1.13 最適化モデルの分類
モデル 方法
主観評価モデル ロービジョン者自身による選好に基づく 客観評価モデル 客観的評価に基づく
機能評価モデル 視力,視野などの視機能検査に基づく 行動評価モデル 読書等の行動の評価に基づく