1.3 視環境の最適化
1.3.12 PC 操作環境の最適化
拡大読書器の選定においては,用途に応じた選択が必要であることを示唆した.平 山らは,拡大読書器の携帯性を高めるために,ヘッドマウントディスプレイを用 いて携帯性を高める取組[148]や,従来,光学的な処理が中心であった拡大読書器 をコンピュータを使って画像処理を行う取組[149]を報告した.青木ら[51]は,拡 大読書器にデジタル画像処理技術を用いて文字や線の太字化,特定の色の変換や ブリンクなどの処理をし,ロービジョン者の視認性向上に有効であったことを報 告した.
が30,0 %,手・腕の痛み・疲れが13,9 %であった.改善希望として,グレア対策,
キーボード・マウスの形状及び操作位置の改善,椅子の座り心地の改善などが報 告された.
見え方に困難のあるロービジョン者にとっては,晴眼者に増して,PC操作環境 の影響を強く受けることが予想される.特に透光体混濁のある場合では,対光に よるグレアが発生しやすいので,ディスプレイと窓の位置,ディスプレイへの映 り込みについて注意が必要である.さらに,VDT作業における疲労回避の観点か ら,焦点距離に基づいた適切な視距離において,楽な姿勢を保持できるようにディ スプレイの設置位置を決める必要がある.机の高さ,椅子の高さ,ディスプレイ,
キーボード,マウスの設置位置,外光の遮光など,ロービジョン者の体格や視覚特 性に応じて適切に設定する.
視覚特性に応じた視距離の決定については,中野[116]の報告にあるように,ロー ビジョン者では,ランドルト環を視標とした時の視距離調節の精度は低いが,平 仮名を視標とした場合の視距離調節の精度は良好であることから,視対象文字の サイズに応じた視距離調節が可能であると考える.すなわち,より小さい文字を 閲覧する時には視距離を短く取り,大きな文字を閲覧する時には視距離を長く取 ることで,視認できる文字サイズに幅を持たせることが期待できる.
コントラストの最適化
Leggeら[13]は,晴眼者において,正のコントラストと負のコントラストでは読
書速度に影響しないことを報告した.一方,森本ら[39]は,VDT画面の正のコン トラストにおける文字輝度と負のコントラストにおける背景輝度について,作業 をするのに好ましい値を求めたところ,ともに約30cd/m2であったこと,正のコ ントラストの方が負のコントラストよりも好みの評価は高いが,作業による疲労 は負のコントラストの方が小さい傾向にあったことを報告した.
ロービジョン者については,Leggeら[15]の報告により,コントラストポラリ ティ効果が見られる場合では,正のコントラストと負のコントラストのいずれか を選択することで,最大読書速度が速く,臨界文字サイズは小さくなることが期 待できる.さらに,ロービジョン者のコントラスト感度の低下があれば,ハイコ ントラスト黒,ハイコントラスト白などの,ハイコントラスト配色を適用する.
文字サイズの最適化
ディスプレイに表示する文字サイズの最適化の方法としては,次のような方法 がある.数種類の文字サイズで文字列をディスプレイに試行提示し,その中から ロービジョン者が読みやすいと感じる文字サイズを選好させる方法,MNREAD-J の刺激文あるいは統制された3文字の平仮名を文字サイズを変えながらディスプ レイに表示した時の音読速度に基づいて最適文字サイズを決定する方法[73]であ る.前者は主観的評価モデル,後者は行動評価モデルに基づくものである.
最適文字サイズの決定後,可能な限り画面全体の要素を最適文字サイズに設定 する.しかし,文字サイズと画面に表示できる文字数は,トレードオフの関係に ある.中心暗点などで視力が低い場合は,最適文字サイズが大きくなり画面に表 示できる文字数が減少して,返ってPCの操作性を低下させる.そのような場合 には,文字サイズを標準のサイズに設定し,別途拡大ツールを使用して注目部分 のみを十分な大きさに拡大して表示させる方法をとる.ロービジョン者の視覚特 性によっては,岡田[102]が指摘するようにGUIとスクリーンリーダを併用する ことで,文章の推敲や文脈の誤りの修正がGUIだけを使った場合より容易となり,
眼の負担も少なくすることが期待できる.
マウスポインタの最適化
マウスポインタを強調表示して視認性を向上させる方法として,Windows スタ ンダード(特大のフォント)などの標準サイズより大きいマウスポインタを用い る方法,マウスポインタに軌跡を表示させることでマウスポインタを強調する方 法などがある.小林[118]が報告したように,1辺が75ピクセルの特に大きなマウ スポインタを用いる方法やマウスポインタに縦横の十字ラインを表示するツール を用いる方法もある.
高橋ら[106]は,マウスポインタを強調することによりマウス操作がスムーズに
なり,マウスポインタの軌跡の単縮が観察されると報告した(図1.11).
ロービジョン者にとって,これらのような方法によるマウスポインタの強調は,
図 1.11 マウスポインタの軌跡に見る操作性の改善
操作時間の単縮に有効である反面,ポインティングの正確性を低下させるという
報告[106]もあることから,どの方法を適用させるかについては,視覚特性に応じ
た適切な選択が必要である.
最適化ツールの必要性
本節で述べてきたPC操作環境の最適化によって,ロービジョン者のPC操作に おけるユーザビリティーが高められ,作業効率の向上,疲労軽減,PC操作習得の 円滑化を図れることが期待される.しかし,一人ひとりの視覚特性に応じてPC操 作環境を最適化するためには,支援者のPCに関する技術はもとより,ロービジョ ンについての専門的な知識を要する.だが,そうしたサービスを提供できる人材 が限られており,ロービジョン者が視覚特性に応じたPC操作環境を獲得すること を困難にしている.このことが,ロービジョン者におけるPC利用率を低めている
理由の一つであるということは否定できない.ロービジョン者が学校や職場,自 宅などで,自ら視覚特性やディスプレイに対する視認性を計測しながら,最適な 文字サイズ,線幅,配色の決定,拡大表示,マウス操作支援ツールの処方を行え る支援プログラムが必要である.そのことにより,各々のロービジョン者が視覚 特性に応じたPC操作環境を手に入れることができるようになると期待される.