1.4 視環境最適化における課題
1.4.2 個々の学習・生活場面ごとの行動評価の必要性
行動評価モデルの有用性
中村ら[124]は,機能評価モデルにより推定した拡大鏡の倍率と,行動評価モデ
ルにより推定した拡大鏡の倍率の,どちらが実際に処方された倍率に近かったかを 調査した結果,行動評価モデルにより推定した倍率であったと報告している.その 他,Yu, Deyueら[35]の周辺視野を用いた読書のトレーニング効果の検証,Merrill ら[19]の白子症の就学指導への活用,Virgiliら[32]の網膜色素変性症の視覚特性 と読書能力の評価,氏間ら[175]の大型電子化提示教材の文字サイズの推定など,
行動評価モデルの有用性を示す多数の報告がある.
MNREAD-Jの問題点
本節で述べたように,MNREAD-Jは行動評価モデルとして,最適文字サイズの 推定,拡大鏡の適正倍率の推定,読書環境の評価,トレーニングの効果の評価な ど,様々な場面において有用性を発揮するも,ロービジョン者の実際の学習・生 活場面の各場面における視環境の評価法としてそのまま適用していくことについ ては,次のような問題点を指摘できる.
1. 書体の問題
ロービジョン者の読書への書体の影響については,「1.3.3書体の最適化」節 で述べたとおりである.ロービジョン者の学習・生活場面において,MSゴ シック体やHGS創英角ゴシック体などの明朝体以外の書体が用いられてい
る場合,明朝体を刺激文としているMNREAD-Jによって求められた臨界文 字サイズや最大読書速度の信頼性に問題を指摘できる.
2. 漢字の複雑さの問題
常用漢字2136文字は,画数が1〜29画の文字からなり,平均画数10.5画,標 準偏差3.8である.これに対して,MNREAD-Jで用いられている漢字の平 均画数は7.6画である.1〜8画までに常用漢字の32.0%が含まれるに過ぎず,
これが対象ロービジョン者の読書物としての漢字の複雑さの水準を満たして いるかという問題を指摘できる.
3. 漢字含有率の問題
MNREAD-Jの刺激文に含まれる漢字の数は8文字である.前項と同様に,こ
れが対象ロービジョン者の読書物としての漢字含有率の水準を満たしている かという問題を指摘できる.
4. 計測に要する時間と手間の問題
MNREAD-Jでは,刺激文の文字サイズを0.1 logスケールで縮小しながら提
示し,音読に要した時間や正読数をカウント,記録,分析する.1回の計測 に要する時間と手間は決して軽いものではない.
5. 学習・生活場面ごとの計測の困難さ
ロービジョン者の学習・生活場面における視環境を最適化しようとした時,
最適化が必要な場面は多数存在する.自室,職場,教室,居間,食堂といっ た各々の場面ごとに視条件が異なるので,各場面ごとに評価がなされる必要 がある.しかし,前項で指摘した「計測に要する時間と手間の問題」が,場 面ごとに評価することのハードルを高くしている.