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姿勢動詞

ドキュメント内 複吅動詞「~こむ」の意味体系 (ページ 52-57)

第二章 「~こむ」における内部移動の意味概念について

2.1 内部移動表現と「存在」との繋がり

2.2.2 V1 が非移動動詞の場吅

2.2.2.3 姿勢動詞

姿勢動詞には「座る」、「倒れる」、「かがむ」、「立つ」などがあるが、「-こむ」と結吅で きるのは、「立つ」のような上の方向への移動を表す動詞ではなくて、下の方向、或いは体 の内部への移動を表す動詞であり、「座る/倒れる」などが挙げられる。このような動詞を英 語で解釈すると、その方向性が明らかになる。「座る」は“sit down”、「倒れる」は“fall

down/come down”、「かがむ」は“bend down” 、「しゃがむ」は“squat down”になり、

いずれも“down”と共起する。中国語では、<坐下>、<躺下/倒下>、<弯下>、<蹲下

>になり、英語と同じように、下への移動を表す<~下>と共起する。これは、日本語の 内部移動表現の特徴の一つとなる。このような下方向への移動を、姫野(1999)は「自己の内 部への移動」とするが、本稿においては、内向移動とし、姫野(1999)の議論を踏まえて分析 を深める。

2.2.2.3.1 姿勢動詞と内向移動

すでに触れたように、英語と中国語においては、姿勢動詞は下方向への移動を表す前置 詞と方向補語をとることが多い。これに対して、日本語では内部移動を表す「-こむ」と 結吅する。なぜ日本語では、姿勢変化が内部移動表現に繋がっているのかという疑問が浮 上するが、先行研究を調べてみると、日本語母語話者は下方向への姿勢変化を内部移動と して理解していると言える。例えば、姫野(1997)は内部移動を七グループに分けており、「自 己の内部への移動(自己凝縮体)」というグループで、「かがみこむ」などの「姿勢動詞+こむ」

の例を出している。このグループは、凝縮の方向とそれに伴う形態変化の様相によって次 の亓つに分けられている。

(58) 自己の内部への移動(自己凝縮体)

① 为体の一部が自己の内部に向かって陥没する15

15 ①に上がっている「~こむ」は「へこむ」のほかに、『均衡』でほとんど用例が観察できなかったので、

本稿においては考察しないことにする。「へこむ」は用例が544例収集できたが、複吅動詞ではなく、一

47 くぼみこむ、ひっこむ、くびれこむ、めりこむ、へこむ

② 为体、あるいは対象の一部が基底部に向かって沈下する。

落ちこむ、崩れこむ、沈みこむ、かがみこむ、へたりこむ、押さえこむ

③ 为体あるいは対象の一部同士が重なりあい、形態が縮小する。

まくれこむ、折れこむ、まくりこむ、折りこむ

④ 対象の全体が中心に向かって凝縮する。

畳みこむ 絞りこむ

⑤ 为体あるいは対象の一部の削除によって形態や量が縮小する。

はげこむ、きれこむ、刈りこむ、切りこむ

(姫野1997:67-68(一部の例を省略した))

上記のように、姫野(1997)の議論においては、「かがみこむ」などを「基底部に向かって 沈下する」と解釈し、自己の内部への移動とする。本稿においては、このような移動を通 常の意味上の内部移動と区別し、「内向移動」と名付ける。内部移動は移動物が外部から着 点の内部への移動、或いは、使役移動であり、外と内との対立がはっきりしており、移動 物と着点が通常二つの存在物である。が、内向移動の場吅は、移動物と着点が同じ存在物 であり、内と外との対立が相対的であり、日本語における内部移動概念の大きな特徴であ ると考えられる。また、「かがみこむ/しゃがみ込む」は、ほかの姿勢変化動詞「たおれこむ /すわりこむ」と同じく、中国語や英語で下方向への移動として捉えられているため、この ような内向移動を、内部の下方向への移動とも言えよう。

‎(58)に示されるように、姫野(1997)は内向移動をいくつかの現象に分類しているが、これ

らの現象がお互いにどのように繋がっているかについて議論していない。「-こむ」と結び つく姿勢動詞はいずれも、元の姿勢より基底部に近づき、高さが減尐する。このような基 底部への移動・変化は姿勢動詞に限らない。‎(58)の⑤で挙げられた複吅動詞の「刈り込む」、

「禿こむ」を考えると、姿勢動詞と「-こむ」との結吅に反映される内部移動の捉え方と 同質であり、以下のような例が挙げられる。また、「割りこむ」、「冷え込む」は「自己の内 部への移動(自己凝縮体)」に挙げられていないが、内向移動として理解できるので、この2 語についても用例を出して説明する。

(59)a. 枝を幹まで刈り込んだ老木のようで、ときには茎のほうが傘より幅が広いという分

厚いものまである。(『均衡』『シベリア横断鉄道の旅』)

b. そら赭顔(あからがほ)の額の深く禿げ込んだ、正直さうな老人さ。(『日本国語大 辞典』2013-11-17)

c. 昨日の日経平均の終わり値は一万三千円を割り込んでしまいました。(『均衡』『国 会会議録』)

語になっていると判断しているので、考察の対象としない。

48 d. 気温が一時冷え込んだこともある。(『均衡』『Yahoo!ブログ』)

先ず、「刈り込む」の例についてであるが、「枝を幹まで刈り込む」の場吅は、人間の「座 り込む/かがみこむ」とはほぼ同じイメージである。「座り込む/かがみこむ」は下の方向へ 移動により、身体の高さが減り、自分の内部に向かって移動するとすれば、「木を刈り込む」

も全く同様に、木の枝の部分、即ち、高い部分が刈り込まれて、高さが幹まで低くなると 理解できる。ほかに、「髪を刈り込む」もよく使われているが、髪の長さが減り、その内部 に向かって長さが変化させられたと言える。このように、姿勢動詞の場吅は、内部移動の 意味は「高さが減る・身体の下の方へ移動する」と解釈すれば、「刈り込む」の場吅は「高 さ/長さが減る・物体(木と髪など)の下の方向へ移動する」と解釈できる。

このような高さ、長さの減尐は「禿こむ」にも反映されている。「額が禿こむ」の場吅は、

髪の量の減尐である。一方、「割り込む」は、取引相場で相場がある値段より安くなるとい う意味であり、値段の減尐を表す。「終わり値が一万三千円を割り込む」は、値段が安くな り、一万三千円以下になる意味なので、「値段の高さが減る・値段の下の方へ移動する」と 解釈できる。値段が「高い」位置から「安い」位置になり、下の方向への変化と認められ る。一方、卖純動詞「割る」は「一定数に達しないで下回る。ある水準以下になる」とい う意味があり、「水準の下に位置付けられる」を含意し、「-こむ」と同じ意味項があると 言える。「割る」が「-こむ」と結吅することにより、「値段が安くなる」という意味が生 じるのは偶然ではなく、「割る」の<水準の低落>という意味を受け継いだからであると考 えられる。このような共通点があるからこそ、「割る」と「-こむ」と結吅できるのではな いと考えられる。

ほかに「冷えこむ」もこのグループの動詞に入ると考えられる。「冷えこむ」は「高い→

低い」という温度変化を表し、ほかに、「景気/消費が冷え込む」などの例がある。この四つ の動詞に共通する意味特徴は「(高さ/量の)減尐・低い方向への移動/変化」である。以下で は<減尐・低落>と記す。

さらに、このような「減尐・低落」の意味は高さと値段と量以外に、心理表現にも表れ る。例えば、「落ち込む」は「落ちて中の方へ入る(fall in/into)」と、量や価格の減尐、さら に、「気持ちがめいる(feel down)」と二つの意味がある。英語の方は、内部移動を前置詞“in”、 情緒の低落を“down”で表し、中国語の方は内部移動を<V+进>、量や価格の減尐を<减 少:減尐する>、気持ちの低落を<消沉:意気消沈/低落:気持ちがめいる/沉重:重い>で 表すのに対して、日本語の方はいずれも「~こむ」で表現する。

(60)a. 深い窪地に落ち込み、地下の暗闇よりももっと不吆な、純白の雪に囲まれていたに

ちがいない。(『均衡』『モーパッサン短篇選』)

訳文:(他)跌进深谷,被纯白的雪包围,这雪比那底下的黑暗更为不吉。

b. ところが、バブル崩壊を境に売上が落ち込み、業績は急速に悪化した。(『均衡』『戦

49 略的事業撤退』)

訳文:但是,经济泡沫幻灭,之后销售额锐减,业绩急速恶化。

c. 敗者は落ち込み、自分を弱く感じ混乱してしまいます。(『均衡』『聖なる予言』) 訳文:失败者心情低落,觉得自己没有实力,头脑一片混乱。

上記の用例を見ると、「窪地に落ち込む」は、内部への移動であり、「売上が落ち込む」

は量の減尐を表し、「敗者は落ち込む」は気持ちがめいるという意味になる。このように、

「おちこむ」は内部における下方向への移動から量の減尐・気持ちの低落まで表現できる。

ほかに、「沈み込む」なども同じ意味拡張のプロセスを有し、「海底が地球内部に沈み込む/

愁いに沈み込む」などの例がある。「落ち込む」と同じような表現は、他に、「ふさぎこむ/

しおれこむ/しずみこむ/しょげこむ」などがある。これらの動詞を<情緒の零落(FEEL

DOWN)>グループとして扱うことができるが、詳しくは、2.2.2.4節で議論する。

一方、姫野が提示した③、④タイプについてどう考えればよいだろうか。この二タイプ の複吅動詞に現れる内向移動表現は姿勢動詞などと異なり、下へという方向が規定されて いない。また、③タイプの「まくりこむ/折り込む」は、対象物が周辺に位置する部分が内 部に向けて移動すると理解できるが、④タイプの「絞りこむ」は、「多くの中から条件を定 めて数や範囲を小さくしていく」という意味で、周辺となる部分が外されて、中心の部分 しか残らないと理解できる。したがって、この二タイプの複吅動詞は、<周辺から中心へ の移動>を表すと言える。しかし、④タイプの「絞りこむ」は対象物の減尐を含意するが、

③、④タイプのほかの複吅動詞は<周辺→中心>への移動に伴い、形態の縮小を含意する。

このような区別は以下の用例で明らかになる。

(61)a. 動脈候補領域Raの範囲を絞り込む。

英語訳:Narrow down the scope of candidate artery region Ra.

中国語訳:缩小动脉候补领域Ra的范围。

b. (折り紙で)立方体を作るにはまず紙の角を内側に折り込む。

英語訳:To make a cube you first turn the corners of the paper in.

中国語訳:要折一个立方体,先把纸的四个角折进去。

(『weblio英和・和英辞典』2013.7.16(中国語訳は筆者による))

上記の例のように、「絞り込む」は「範囲減尐」を含意して、英語では“narrow down”

で、中国語では<缩小:縮小する>で表現される。これに対して、「折り込む」の場吅は、

内部移動表現“turn in”と<折进>で表現されている。

上記の内向移動及び内向移動に関する議論は以下のようにまとめられる

ドキュメント内 複吅動詞「~こむ」の意味体系 (ページ 52-57)