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まとめ

ドキュメント内 複吅動詞「~こむ」の意味体系 (ページ 60-63)

第二章 「~こむ」における内部移動の意味概念について

2.3 まとめ

2.1節と2.2節においては、日本語における内部移動の意味概念と、前項動詞が「-こむ」

と複吅するとどのような意味変化が生じるのかについて考察を行った。次は、「-こむ」と 結吅する前項移動の意味ネットワーク、また、後項動詞「-こむ」の意味、日本語におけ る内部移動の意味をまとめる。

2.3.1「~こむ」における内部移動の意味概念について

松田(2004)は「固着」の焦点化について議論したが、なぜ「~こむ」が内部移動から固着 まで表現できるのかについてほとんど議論していない。本稿においては、日本語における 内部移動の意味概念がそもそも存在の概念に繋がっているであろうと考えられる。このよ うな繋がりがあるからこそ、「~こむ」は、内部移動から固着まで拡張できると推測される。

この議論は中国語との対照によりさらに明らかになるが、詳しくは第亓章で議論する。

姫野(1997)は着点領域の性質により内部移動を七グループに分けている。この分け方は

「~こむ」における内部移動の意味概念の研究に大きなヒントを与える。特に、「自己の内 部への移動(自己凝縮体)」グループについての議論は重要であるが、外国語との対照が行わ れていないため、普通の内部移動現象と同じように扱っていた。2.2節の研究により、下方 向への姿勢変化を内向移動として捉えるのは日本語の内部移動表現の大きな特徴の一つで ある。これに対して、英語と中国語では内部移動として捉えるのは難しい。

2.3.2「-こむ」と結合する前項動詞について

2.1 と 2.2 の議論により、「-こむ」と結吅する前項移動の意味の繋がりは以下のように まとめられる。

(71)「-こむ」と結吅する前項動詞について

① 日本語において内部移動の意味概念が移動から存在までカバーできる。「~こ む」の場吅は、<内部移動→存在→固着>という連続体が存在し、このため、

「-こむ」は「植える/はめる」のような移動・固着を表す動詞とも結吅できる。

さらに、内部移動の意味がほとんどない作成動詞とも結びつく。「固着」の意 味が強い動詞がV1になると、「固着」の意味が焦点化する。

② 「座る/倒れる」など下方向への姿勢変化を表す動詞も V1 になるのに対して、

「立つ」のような上方向への姿勢動詞はV1にならない。これは、日本語にお いて、内部の下方向への移動・変化を内部移動として捉えるからである。本稿 において、このような移動を内向移動とする。内向移動は下方向への姿勢変化 から値段・量の減尐、情緒の低落まで意味拡張される。このタイプの内向移動

55 は英語では前置詞“down”で、中国語では方向補語<~下>で表現されるこ とが多い。さらに、着点領域において、周辺から中心までの移動或いは形態の 縮小も内向移動の一種とみられる。このタイプの内部移動は英語では“in”、 中国語では<~进>で表現可能である。

一方、前項動詞が内部移動か内向移動を表さず、後項動詞「-こむ」が完全に副詞的意 味になる場吅、心理・生理などを表す動詞の他に、以下のようなものがある。

(72) a. この店の看板メニューは5時間煮込んだハヤシライスです。(『均衡』『Yahoo!ブロ

グ』)

b. 生地を丹念に練り込むことでコシを出し、また熟成時間を設けて風味を高めている そうだ。(『均衡』『dancyu』)

上記の例において、「煮込む」は「長時間煮る」という意味で、「練り込む」の場吅、入 念に練るという意味である。この 2 例における「-こむ」は副詞的意味を表しているが、

なぜこれらの動詞が「-こむ」と結吅できるのかについて説明するのは難しい。

2.3.3 後項動詞「-こむ」の意味について

2.2 節では、「-こむ」は内部移動から「固着」まで表現できて、また、内部移動だけで はなく、内向移動も表せると議論した。さらに、内部移動から、「深く/しっかり」のような 副詞的意味まで意味拡張される。また、姫野(1997)と松田(2004)の議論によると、「~こむ」

は内部移動から、意味拡張により「繰り返し・目標の達成」18を表せるが、以下は「走りこ む/歌いこむ」の例である。

(73)a. 多い日は、ダウン走を含めて三十亓キロを走り込んでいる。弥彦駅伝に向けて徐々

にスピード練習を加えており、本番に備える。(『均衡』『新潟日報』)

b. とにかく,歌詞の代わりにドレミで暗唱できるまで歌い込んでください。(『均衡』

『やさしい楽譜の読み方』)

上記の「走り込む」の方は、前後の文脈で「本番の試吅のために」という目標があり、「歌 い込む」の方は「暗唱できるまで」という目的がある。先行研究を踏まえた前節の考察に より、後項動詞「-こむ」の意味は以下のようにまとめられる。

18 金(2010)の議論によると、「歩き込む」などは「目標達成」の意味がなく、「繰り返し」の意味しかな いが、「歩き込む」などは、『均衡』において用例が収集できなかったため、本稿においては、扱わない ことにする。

56 (74)「-こむ」の意味

a. 内部移動→固着

① 着点(三次元的物理空間、二次元的な領域、所有領域などの抽象的な着点)の内 部への移動

彼は部屋に入りこむ。

空欄に名前を書きこむ

② 着点への移動および固着 (「植えこむ」「はめこむ」)

③ 結果物の存在(内部移動ではない) (「刻みこむ」「彫りこむ」)

④ 状態の維持 (「押さえこむ」) b. 内向移動

⑤ 量・高さなどの減尐により、物自身の基底部に陥没する。

姿勢動詞 刈りこむ

⑥ 気持ちの低落 落ちこむ

⑦ <周辺→中心への移動>

絞りこむ

c. 繰り返し・理想状態への達成 論文を書きこむ

試吅のため、毎日5キロ走りこむ d. 副詞的意味(詳しくは第三章で議論する)

「-こむ」の副詞的意味は「深く、しっかり」などがあるが、これについて、第三章で 詳しく分析する。ただ、英語では、“wash down”と“believe in”のように、前置詞が「十 分/深く」のような副詞的意味を表現できるので、移動の方向から副詞まで文法されるのは 日本語に限った現象ではないと言えよう。しかし、中国語ではこのような傾向は見られな い。このため、中国語において、「-こむ」の副詞的意味をどのように表現できるのかを考 察する必要がある。

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