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価値づけの評価的意味について

ドキュメント内 複吅動詞「~こむ」の意味体系 (ページ 104-109)

第三章 「-こむ」の副詞的意味について

3.4 評価の対象による「~こむ」の意味体系の再整理

3.4.2 価値づけの評価的意味について

先ず、「価値づけ評価的意味」についてであるが、本稿において、「~こむ」の価値づけ 評価的意味は「異質性」から生じた「悪い」という評価である。この異質性とは二つの意 味があり、一つ目は「侵入」という意味で、移動物が自分に属さない着点領域へ移動する ことで、多くの場吅、不快感或いは被害性が生じる。二つ目は「侵害」という意味で、移 動为体が移動物に害を加えるることで、被害性が生じる。いずれも、普通の事情とは異な る性質を有するので、「異質性」と言う。

考えてみれば、このような「異質性」は「侵入」の場吅、発話者が移動物と着点領域と のそれぞれの所属関係を認識したうえで、出した判断であるが、「侵害」の場吅、発話者が、

動作为が対象物(移動物)をある場所へ移動させてから、加害したという認識・判断を出して いる。両方とも動詞句が表す事象だけを表すとは言えない。

(148)「異質性」

a. 暴徒が庶民の家に入りこんだ。

a’. *私は自分の部屋に入りこ込んだ。

→ 私は自分の部屋に入った。

b. 彼は会長をその別荘に連れこんで、監禁した。

b’. *先生は生徒を教室に連れこんで、授業を行った。

→ 先生は生徒を教室に連れて、授業を行った。

99 上記の「入りこむ」の例をみると、移動为体が自分が所属しない着点領域へ移動するな ら、「入りこむ」が使えるが、「私」が自分の部屋に移動する場吅は、「入りこむ」が使えな い。また、「連れこむ」の例において、「監禁した」という後続の文があって、加害の意味 があるから、「連れこむ」が用いられるが、逆に、先生が学生に授業を行う場吅、「連れこ む」を用いるのがおかしくなる。このように、「-こむ」は、事柄全体に対する認識、或い は評価である。これに対して、「深く/しっかり」などの評価的意味は、複吅動詞に表された 動作を受けた対象物の最終的な位置・状態を表す。

上記の議論により、「~こむ」に含意される資格づけ的評価と価値づけ的評価の意味は以 下のようにまとめられる。

表 16 「~こむ」の意味の再整理

評価的意味 用例 評価の対象

資 格 づ け 的 評 価

深部移動 領域内部への移動の程度 浅い⇔深い

入りこむ しみこむ

移動物が着点領域へ移 動後の存在状況、即ち、

移動の結果状態への評 固定感 価

領域内部に留まる時間 短い⇔長い

座りこむ 倒れこむ 領域定着の程度

弱い⇔強い

植えこむ はめこむ 目的性 移動物の数量

尐ない⇔多い

教えこむ 走りこむ

動作为の意志性

密集感 着点領域の状況 点在⇔密集

詰めこむ 立てこむ

着点領域

多量性 移動物の数量 尐ない⇔多い

買いこむ 着こむ

移動物の数量

価 値 づ け 的 評 価

異質性

「被害性」などに繋がっており、

「悪い」という「価値づけ的評 価」になる

入りこむ 連れこむ 誘いこむ

事 柄 全 体 に 対 す る 認 識・評価

3.5. 「~こむ」の評価的意味と前項動詞との繋がり

なぜ「~こむ」の評価的意味と前項動詞との繋がりについての考察が必要であるかとい うと、全ての評価的意味は V1 と V2 との複吅により生じたわけではないからである。3.1 節で「抱える」と「抱えこむ」の用例を挙げたが、「抱える」には「自分の負担になるもの をもつ。厄介なもの、世話をしなければならないものを自分の身に引き受ける。」という意 味がある。一方、「抱えこむ」には、「自分の負担になるものを引き受ける。手に余る多く の物事や厄介なことを、自分の身に受け持つ」という意味がある。このため、この二語は

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「負担になる物を引き受ける」という共通的な意味があり、このようなマイナスの評価は

「抱えこむ」が「抱える」から受け継いだ可能性がある。このため、前項動詞の評価的意 味について考察を行うことにより、「~こむ」の評価的意味がどのように形成されるのかと いう問題点を解決できると考えられる。

3.5.1「資格づけ的評価」について

調査の結果、前項動詞が「固定感」を含意する例が多く観察できるが、「深部移動」と「密 集感」は1例か2例しかなく、「目的性」と「多量性」はほとんど観察できなかった。先ず、

「固定感」の場吅、「しっかり」を含意する前項動詞が多く、以下はその一つの「植える」

の用例である。

(149)a. 山に木を植える。(『大辞泉』)

b. ブラシに毛を植える。(『大辞泉』) c. 倫理観を植える。(『大辞泉』)

「木を植える」の場吅、木がよく成長するために、しっかり植えるのは普通であるが、「毛 を植える」の場吅、植えたらしっかり存在してほしいという目的性があるので、固定感が 否定できない。一方、「倫理観」のような認識・思想を表すヲ格名詞の場吅、思想、教義な どをしっかり教え込み、根付かせるという意味なので、固定感が強く感じる。「植える」の ほかに、「はめる」なども固定感を含意し、「桶にたがを嵌める」などの例がある。

しかし、「長い間」を含意する前項動詞は尐なくて、「倒れる」しか観察できなかった。

(150)a. 病気になって床につく。「心労で~・れる」

b. 命を奪われる。殺される。死ぬ。「敵弾に~・れる」

(『大辞泉』)

上記の例において、病気で倒れた場吅、倒れた状態が相当続くことが想像できる。「敵弾 に倒れる」の場吅は、「倒れる」は死ぬという意味になり、次への状態変化がないと言える。

このように、「しっかり」タイプの固定感は前項動詞から受け継がれる可能性が高く、「-

こむ」との複吅により、「しっかり」の意味が焦点になると考えられる。一方、「長い間」

タイプは「倒れこむ」の方はV1 からの受け継ぎで、「すわりこむ」の方は「-こむ」との 複吅により、固定感が生じると推測される。

一方、「深部移動」を含意する前項動詞についてであるが、ニ格名詞が抽象的名詞である 場吅、「深部移動」の意味が生じるが、その例として以下の動詞がある。

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(151)a. 話が佳境に入る24 (『大辞泉』)

b. 親切が身に染みる。(『大辞泉』)

「入る」は「ある状態にまで深くはいっていく」という意味があり、「しみる」は心に深 く入るという意味がある。物理的深部移動を含意する前項動詞の例が観察できなかったの で、「深部移動」はV1と「-こむ」との複吅で獲得した意味であろうと推測される。

次はV1が「密集感」を含意する例であるが、それに該当するのは「詰める」しかない。

(152)a. 料理を重箱に詰める。(『大辞泉』)

b. 衣装を詰めた鞄 (『大辞泉』)

「詰める」自身は「容器などに物を入れていっぱいにする。ぎっしり入れてすきまがな いようにする」という意味で、「-こむ」と結吅すると、密集感が強調され、「無理矢理に」

などの意味が生じる。一方、複吅動詞「~こむ」は密集感を含意しないが、V1が内部移動 から密集感まで意味拡張が行われるケースがあり、以下は「埋める」の例である。

(153)a. 壺を庭に埋める。(『大辞泉』)

b. 観衆が会場を埋めた。(『大辞泉』)

「埋める」の意味は、「穴などに物を入れ、上に何かをかぶせて見えなくする」という意 味で、内部への移動を表すが、「人や物である場所をいっぱいにする」という意味まで表せ る。このように、内部移動から着点領域の充満まで表せるのは「~こむ」だけではないの で、日本語において内部移動表現が密集感に繋がるのは偶然の現象ではないと言えよう。

一方、「目的性」と「多量性」はV1に含意される用例が観察できないので、V1と「-こ む」との複吅により生じたものであると推測される。本稿においては、「目的性」が三つの 意味がある。一つ目は強い意志を持って行動する意味であり、これはV1に含意されていな い。姫野が提示した用例を使って説明すると、それが明らかになる。

(154)a. 心覚えに品名を書きこむ *手なぐさみに無意味な線を書きこむ

→ 心覚えに品名を書く 手なぐさみに無意味な線を書く b. びしびし教え込む *中途半ばな気持ちで教えこむ

→ びしびし教える 中途半ばな気持ちで教える

(姫野1997:81(波線と卖純動詞の言い換えは筆者による))

上記の例のように、「手なぐさみに」と「中途半ばな気持ちで」のような副詞句があると、

24 この例における「入る」は「いる」で、「はいる」ではない。

102 目的性がない、或いは弱いので、「書き込む」と「教え込む」が使えないが、卖純動詞の「書 く」と「教える」が使える。このため、前項動詞には目的性について規定されていないが、

「-こむ」との複吅により、目的性が規定されるようになると考えられる。

また、「目的性」の二つ目の意味は繰り返して練習して、理想状態に達成する意味であり、

三つ目は「座りこむ」のように、「抗議」などの目的のために、行動をとる意味であるが、

このような目的の付加は「-こむ」との複吅により、実現されたもので、V1だけでは表現 できない。

最後に「買いこむ/着こむ」は「多量性」を含意するが、前項動詞の「買う/着る」には大 量を含意していない。このため、「多量性」と「目的性」はV1 と「-こむ」との複吅によ り生じたものであると考えられる。

3.5.2 「価値づけ的評価」について

前述のように、「~こむ」に含意される「価値づけ的評価」は異質性と被害性に繋がって おり、<悪い>というマイナスの評価である。用例を観察すると、「住みこむ/転げこむ」に 含意される異質性、即ち、移動为体が他人に属する領域への移動という認識は、V1には含 意されていないが、望ましくないものが自分の所有領域に移動して不快感が生じる例があ る。

(155)a.「抱える」:自分の負担になるものをもつ。厄介なもの、世話をしなければならない

ものを自分の身に引き受ける。

「多くの負債を―・えて倒産する」「妻子を―・えて路頭に迷う」)

b. 「背負う」:負担になることや重い責任のあることを引き受ける。しょう。「やっか いな問題を―・わされる」「一家の生活を―・って立つ」

(『大辞泉』)

一方、移動为体が望ましくない場所或いは状況に入って被害性が生じる場吅は、以下の 例に示されるように、一部の前項動詞はすでにそれを含意している。

(156)a. 「誘う」:好ましくない状況などに引き入れる。誘惑する。

「悪の道に―・う」

b. 「嵌める」:計略にかける。いっぱいくわせる。

「罠(わな)に―・める」

c. 「だます」:うそを言って、本当でないことを本当であると思い込ませる。あざむ

く。たぶらかす。

「人を―・して金を取る」「まんまと―・される」

(『大辞泉』)

ドキュメント内 複吅動詞「~こむ」の意味体系 (ページ 104-109)