第四章 「~こむ」に対忚する中国語表現の全体像
4.2 データ収集
5.2.2 接触・付着を表す<~上>と「~こむ」
接触を表す<~上>と「~こむ」との前項動詞は尐なくとも、下記の三タイプがある。
先ず、着装を表す<着こむ>タイプの動詞は、服装やアクセサリーを体につけるような動
125 作を表すものである。次に、「抱く/抱える/背負う」などは、物・人が体に接近し、体の表 面に接触することを意味するが、中国語の方は<~上>で表現するのに対して、日本語で は「~入れる-こむ」と結吅する。最後に、「包みこむ」タイプの動詞は、物を紙や布など の中に入れてすっかり覆うという動作を表す動詞である。
これらの動詞は中国語の立場から見れば、接触・付着を表すが、日本語の立場から見れ ば、「囲む」を表し、内部移動表現に入る。
姫野(1997)は内部移動を<閉じた空間への移動>、<固体の中への移動>、<流動体の中 への移動>、<隙間のある集吅体または組織体の中への移動>、<動く取り囲み体への移 動>、<自己の内部への移動>と<その他>に分けているが、<動く取り囲み体への移動
>について、前項動詞の種類によって、取り囲み体の性質や囲み方の形態なども様々であ ると議論している。
(184)a. 体の一部で囲む:握りこむ 抱えこむ 抱きこむ くわえこむ 頬張りこむ
b. 二つの側面で囲む:挟みこむ 綴じこむ
c. 水平面と平面的なものの間で囲む:覆いこむ 敶きこむ
d. 囲み体自身の内部にいれこんで囲む:巻きこむ 丸めこむ 包みこむ e. 人体を衣服等で囲む:着こむ 着せこむ 履きこむ かぶりこむ
(姫野1997:66)
(184)に示されるように、姫野は「着こむ」などを内部移動表現として捉えられる。これ
は中国語における「接触・付着」という捉え方とは異なる。以下では、先ず着装動詞につ いて議論する。
5.2.2.1 <着こむ>タイプ
着装動詞を表す「~こむ」はコーパスでは「着る」しか収集できなかったが、姫野など の研究では「着せこむ/はきこむ/かぶりこむ」などがあがっている。以下は「着込む」と<
穿上>の例である。
(185)着装動詞
a. (莫斯科市民)不得不穿上/*穿进厚厚的衣服御寒。(《CCL》《新华社2004年新闻稿》)
訳文:(モスクワの市民たちは)寒さのため、服を着/着込まなければならなかった。
b. 外出時はダウンジャケットを着込まないといけない。(『均衡』『シニアのための国
際協力入門』)
訳文:外出时必须穿上羽绒服。
上記の例のように、中国語では<穿:着る>は<~进>とは共起しない。<穿上衣服:
126 服を着る>を<把衣服穿在身上:衣服を体の上に着る>に言い換えられるので、中国語で は、「服が身体の表面に接触する」と理解されていると言えよう。このため、<穿上>を [MOVE ONTO]と解釈できる。
これに対して、日本語の方は二つの捉え方がある。一つ目、服が外部空間を作成し、体 がその中にいる、即ち、「人が衣服で作られた空間の中にいる」という捉え方である。この 場吅を[MOVE INTO]で表示できる。一方、「着る/着こむ」は、「服を身に着ける」とも解 釈され、その着点は当然体の表面であるので、「体の表面に移動する」とも理解できる。こ のように考えると、中国語と同じように [MOVE ONTO]と解釈できる。
さらに、「着こむ」は「衣服をたくさん重ねて着る/衣服をきちんと着る」という意味も あり、後項動詞「-こむ」は内部移動の意味がなく、副詞的意味を有すると理解されてい るが、<穿上>はこのような意味がない。
5.2.2.2 <包みこむ>タイプ
「包みこむ」タイプの動詞は、「包みこむ/くるみこむ/覆いこむ/巻きこむ」があり、中国 語では<包/裹/卷上>で表現され、<~进>では表現できない。以下のような用例が挙げら れる。
(186)a. 真っ白なお餅に粒あんが包み込まれ、上からきな粉が掛けられてる。(『均衡』『京
都いと、お菓子。』)
訳文:在雪白的年糕里包上小豆馅,上面撒上黄豆粉。
b. 鹦鹉笼子外裹上厚厚防风布。(《CCL》《新华社 2004 年新闻稿》) 訳文:オウムの籠を厚い風よけ布で包み込む。
c. 用芭蕉叶或竹子壳包上糯米饭,在歌墟上互赠,不分亲疏宛如一家。(《CCL》《1994 年报刊精选》)
訳文:芭蕉の葉や竹の殻で、もちこめを包み込んで、親しさにかかわらず、「歌墟」
でお互いに送りあって、まるで家族のようだ。
姫野が議論したように、「包みこむ」タイプの動詞は囲み体自身の内部にいれこんで囲む という意味を表し、[MOVE INTO]の意味の意味となるが、中国語の方は上記の例(186)b) のように、「物が物体の表面に移動する」と、例(186)c)のように「移動後、物が作られた空 間に位置する」との二つの捉え方がある。これは空間辞の挿入により明らかになる。
(187)a. 把防风布裹在鹦鹉笼子上
訳文:?厚い風よけ布をオウムの籠の上に包む b. 把鹦鹉笼子裹在防风布里。
訳文:オウムの籠を厚い風よけ布に包む。
127 c. 用防风布裹鹦鹉笼子
訳文:厚い風よけ布でオウムの籠を包む
上記のように、中国語の<把+防风布+WRAP+在+鹦鹉笼子+上>を「包みこむ」で表現する のは難しい。
5.2.2.3 <抱えこむ>タイプ
「抱えこむ/背負いこむ」の場吅、対象物が動作为の身体の方へ移動される場吅、中国語 では、<~上>を使う傾向が強い。
(188)a. 小学生们兴高采烈地背上/*背进书包,戴上小黄帽上学去了。(《CCL》《人民日报
(1993 年 2 月)》)
訳文:小学生達はうれしそうな顔をして、鞄を背負って/背負いこんで、黄色い帽子 をかぶって学校へ行った。
b. 周拉奴考虑侯七要忙着大田的活计,就抱上/*抱进桂兰的婴儿陪她住进了医院。
(《CCL》《94 年报刊精选》)
訳文:周拉奴は候七が大田の仕事で忙しいことを考慮して、桂蘭の赤ちゃんを抱えこ んで入院するのを付き添った。
c. 重い荷物を背負い込んで、出かける。(『大辞泉』) 訳文:背上沉重的行李外出/*把沉重的行李背进背上外出。
d. 大きな荷物を抱え込む。(『大辞泉』)
訳文:抱上巨大的行李/*把巨大的行李抱进怀里。
上記の用例における「~上」は、対象物が身体に近づいて接触するという意味を表し、
いずれも<~进>と互換できないが、卖純動詞の「背負う/抱く」で、或いは、これらの卖 純動詞と「-こむ」と複吅した形で表現できる。「抱く」は「~こむ」だけでなく、「-入 れる」とも結吅する。空間辞を考えると、中国語では、いずれも<上>と結吅し、<背在 背上:背中の上に背負う>と<抱在身上:身体の上に抱く>が自然である。日本語の方は
「背中の上に背負う」より「背中に背負う」の方が自然であり、「身体の上に抱く」は不自 然で、「懐に抱きいれる」が自然である。このため、中国語の方は「身体の表面へ移動」と いう認識が強いと言えると考えられる。
さらに、「背負いこむ/抱きこむ/抱えこむ」は、「借金/問題」のようなマイナスのイメー ジのあるヲ格名詞句と結吅し、マイナスな評価的意味を有するが、中国語の<~上>表現 は<背上:背負いこむ>だけがこのような評価的意味を持っている。
128
(189)a. 背上债务/黑锅/思想包袱
訳文:借金/無実の罪/精神上の負担を背負いこむ
b. 君のほうは、いったいどんな悩みを抱え込んでいるんだ? (『均衡』『ロマンスへ の誘い』)
訳文:你究竟有什么烦恼?
c. そのため、DDB は負債を背負い込むことになった。(『均衡』『スーパーアドマン』) 訳文:DDB因此负债。
以上で議論したように、接触を表す<~上>と「-こむ」と共起する前項動詞は尐なく とも、着装を表す「着る」と、「抱く」タイプと、「包む」タイプの動詞がある。中国語の 方は、内部空間を表す<中/里>と共起する用例もあるが、日本語より、表面を表す<上>
と共起する傾向が強いので、「物体の表面への移動」という認識が強いと言える。これは以 下のようにまとめられる。
表 20 接触を表す<~上>と「~こむ」
前項動詞 中国語<~上> 日本語「~こむ」
「着る」・<穿> [MOVE ONTO] [MOVE ONTO] [MOVE INTO]
「包む」・<包> [MOVE ONTO]/ [MOVE INTO] [MOVE INTO]
「抱える」・<抱> [MOVE ONTO]/ [MOVE INTO] [MOVE INTO]
上記のように、接触を表す場吅、日本語の方は[INTO]という捉え方が多いのに対して、
中国語の方は[ ONTO]の理解が一般的である。