6 Taylor の定理とその応用
6.1 Taylor の定理
同様に,(6.1)の両辺をn回微分すると
f(n)(x) =n!an+ (n+ 1)n· · ·2an+1x+· · · となる.この両辺にx= 0を代入して
f(n)(0) =n!an ∴ an= f(n)(0) n!
この計算結果より,どうやら関数f(x)が多項式で表せるとすると f(x) =
X∞ n=0
f(n)(0) n! xn
となりそうであるが,途中で関数を微分したのでf(x)に条件が必要そうである.実際に次の定理が成り立つ.
定理6.1. (Maclaurinの定理)
関数f(x)は0を含む開区間I でn回微分可能であるとする.このとき,各x∈Iに対して,あるθ(0< θ <1) が存在して
f(x) =
nX−1 k=0
f(k)(0)
k! xk+ f(n)(θx) n! xn が成り立つ.ここで
Rn(x) = f(n)(θx) n! xn とおき,これをLagrangeの剰余項という.
マクローリンの定理をシグマ記号を用いずに表すと f(x) =f(0) +f′(0)x+ f′′(0)
2 x2+ f(3)(0)
6 x3+· · ·+ f(n−1)(0)
(n−1)! xn−1+Rn(x)
となる.つまり,マクローリンの定理とは,関数f(x)を「n−1次多項式」と「剰余項」の和に表せるというこ とを主張している.また,多項式の部分の係数は前の計算結果と一致している.一見n次多項式に見えるが, xn の係数 が f(n)(θx)
n! と xの関数であるからそうではない.剰余項は多項式とは限らない関数 f(x)をn−1次 多項式nP−1
k=0
f(k)(0)
k! xk で近似したときのずれを表している,つまり関数とn−1次多項式の誤差をすべて剰余項 に押し込んでいるので,一般にはRn(x)はかなり複雑な形となることが多い.
マクローリンの定理の中に出てくるθは関数f(x)によって決まるものであるが,さらにxやnが変わるとそ れに応じて変化する.そのためにθを具体的にこれらの式で表すことは非常に困難である.しかし,その形がわ からなくても0< θ <1であることが重要であり,この情報だけで議論できることは多い.
1次式で打ち切るとx= 0におけるy=f(x)の接線の方程式y=f(0) +f′(0)xが得られることからわかるよ うに,0 に十分近い xについては Rn(x)は小さいので f(x)のよい多項式近似を与えていることが期待できる.
もちろん0から離れたxでも剰余項が小さいかどうかは場合による.マクローリンの定理の応用例については次 節以降を参照すること.
説明の都合上マクローリンの定理を先に紹介したが,実際には次に述べるテイラーの定理の特別な場合(a= 0) である.テイラーの定理はx=aの近くで関数を多項式近似した定理なので,こちらがより一般的な状況を考え ている.
定理6.2. (テイラーの定理)
関数f(x)は点aを含む開区間Iでn回微分可能であるとする.このとき,各x∈Iに対して,あるθ(0< θ <1) が存在して
f(x) =
nX−1 k=0
f(k)(a)
k! (x−a)k+ f(n) a+θ(x−a)
n! (x−a)n
が成り立つ.ここで
Rn(x) = f(n) a+θ(x−a)
n! (x−a)n
とおき,これをLagrangeの剰余項という.
証明. 任意のx∈I, x=\ aをとり固定する(xは以下では定数である).定数Kを
K= 1
(x−a)n (
f(x)−f(a)−
n−1
X
k=1
f(k)(a)
k! (x−a)k )
とおき,aとxを含む区間上の関数F(t)を F(t) =f(t) +
n−1
X
k=1
f(k)(t)
k! (x−t)k+K(x−t)n
により定義する.このとき,F(x) =f(x)である.さらに,定数Kの決め方よりF(a) =f(x)が成り立つ.よっ て,F(x) =F(a)であるから,Rolleの定理よりxと aの間の数cで F′(c) = 0となるものが存在する.
そこで,F(t)を微分すると
F′(t) =f′(t) +
n−1
X
k=1
f(k+1)(t)
k! (x−t)k+ f(k)(t)
k! ·k(x−t)k−1·(−1)
−nK(x−t)n−1
=f′(t) + ( n
X
k=2
f(k)(t)
(k−1)! (x−t)k−1−
nX−1 k=1
f(k)(t)
(k−1)! (x−t)k−1 )
−nK(x−t)n−1
=f′(t) +
f(n)(t)
(n−1)! (x−t)n−1−f′(t)
−nK(x−t)n−1
=n(x−t)n−1
f(n)(t) n! −K
となる.よって
F′(c) =n(x−c)n−1
f(n)(c)
n! −K
= 0 となり,x=\ cよりK= f(n)(c)
n! が得られる.ゆえに f(x) =F(a) =
n−1
X
k=0
f(k)(a)
k! (x−a)k+ f(n)(c)
n! (x−a)n が成り立つ.ここで,xとaの間の数cはある0< θ <1 を用いて
c= (1−θ)a+θx=a+θ(x−a) と表せるので,定理の主張が成り立つ.
例題6.3. 次の初等関数f(x)について,具体的にマクローリンの定理を適用して
f(x) =
nX−1 k=0
f(k)(0)
k! xk+ f(n)(θx)
n! xn (0< θ <1) の形に表せ.また,5次多項式と剰余項の和で表せ.
(1) ex (2) sinx (3) cosx (4) log(1 +x)
(解答)
(1) n次導関数はf(n)(x) =ex (n= 0,1,2, . . .)であるから
f(n)(0) = 1 (n= 0,1,2, . . .), f(n)(θx) =eθx なので
ex=
n−1
X
k=0
1
k! xk+ eθx
n! xn (0< θ <1) であり,5次の項までの展開はex= 1 +x+ x2
2 + x3 6 + x4
24 + x5
120 + eθx
720 x6となる.
(2) n次導関数はf(n)(x) = sin
x+ nπ 2
(n= 0,1,2, . . .)であるから
f(n)(0) = sin nπ 2 =
( (−1)k−1 (n= 2k−1)
0 (n= 2k)
となる.そこで,n= 2m+ 1とすると f(2m+1)(θx) = sin
θx+mπ+ π 2
= cos(θx+mπ) = (−1)mcosθx なので
sinx= Xm k=1
(−1)k−1
(2k−1)! x2k−1+ (−1)mcosθx
(2m+ 1)! x2m+1 (0< θ <1) であり,5次の項までの展開はsinx=x− x3
6 + x5
120 − cosθx
7! x7 となる.
(3) n次導関数はf(n)(x) = cos
x+ nπ 2
(n= 0,1,2, . . .)であるから
f(n)(0) = cos nπ 2 =
( 0 (n= 2k−1) (−1)k (n= 2k) となる.そこで,n= 2m+ 2とすると
f(2m+2)(θx) = cos θx+ (m+ 1)π
= (−1)m+1cosθx なので
cosx= Xm k=0
(−1)k
(2k)! x2k+ (−1)m+1cosθx
(2m+ 2)! x2m+2 (0< θ <1) であり,5次の項までの展開はcosx= 1− x2
2 + x4
24 − cosθx
6! x6 となる.
(4) n次導関数はf(n)(x) = (−1)n−1(n−1)!
(1 +x)n (n= 1,2,3, . . .)であるから
f(0) = log 1 = 0, f(n)(0) = (−1)n−1(n−1)! (n= 1,2,3, . . .) となる.また
f(n)(θx) = (−1)n−1(n−1)!
(1 +θx)n なので
log(1 +x) =
n−1
X
k=1
(−1)k−1
k xk+ (−1)n−1
n(1 +θx)n xn (0< θ <1) であり,5次の項までの展開はlog(1 +x) =x− x2
2 + x3 3 − x4
4 + x5
5 − x6
6(1 +θx)6 となる.
(解答終)
例 6.4. αを実数とするとき,f(x) = (1 +x)αのマクローリンの定理による展開を求めてみる.n次導関数は f(n)(x) =α(α−1)(α−2)· · ·(α−n+ 1)(1 +x)α−n (n= 1,2,3, . . .)
であるから
f(0) = 1, f(n)(0) =α(α−1)(α−2)· · ·(α−n+ 1) (n= 1,2,3, . . .) ここで,一般二項係数を
α 0
= 1,
α k
= α(α−1)(α−2)· · ·(α−k+ 1)
k! (k= 1,2,3, . . .) で定める.この記号を用いれば
(1 +x)α=
nX−1 k=0
α k
xk+ α
n
(1 +θx)α−nxn (0< θ <1) と表せる.
重要な記号なのでもう一度繰り返しておく.
定義6.5. (一般二項係数)
一般二項係数 α
k
を α
0
= 1,
α k
= α(α−1)(α−2)· · ·(α−k+ 1)
k! (k= 1,2,3, . . .) で定義する.これは二項係数nCk の拡張になっている.実際,nを自然数とすると
n k
=nCk (k= 0,1,2, . . . , n) が成り立つ.
マクローリンの定理を用いて次の事実を証明することができる.
例題6.6. ネイピア数 eは無理数であることを示せ.
(解答) 背理法により証明する.つまり,互いに素な自然数m, n を用いてe= n
m と表せると仮定して矛盾を 導く.eがこのように表されると仮定する.マクローリンの定理よりある0< θ <1が存在して
ex=
m+1X
k=0
xk
k! + eθx
(m+ 2)! xm+2 と表せるから,x= 1を代入すれば
e=
m+1X
k=0
1
k! + eθ (m+ 2)!
となる.この両辺に(m+ 1)! をかけて移項すれば eθ
m+ 2 = (m+ 1)!e−
m+1X
k=0
(m+ 1)!
k! = (m+ 1)! n
m −
m+1X
k=0
(m+ 1)!
k!
であり,シグマ記号の各項 (m+ 1)!
k! (k = 0,1,2, . . . , m+ 1) がすべて自然数であるから右辺は整数なので,
eθ
m+ 2 も整数となる.一方,2≦e≦3 と0< θ <1およびmが自然数であることより 0< eθ
m+ 2 < e
m+ 2 ≦ 3 m+ 2 ≦1 であるから,0< eθ
m+ 2 <1より eθ
m+ 2 は整数とはなりえない.これは矛盾である.従って,eは有理数では ないから無理数である.
(解答終)
この例題はやや技巧的なマクローリンの定理の応用例となっている.マクローリンの定理の本質的に重要な応 用例は,次節から説明する「関数の多項式近似」を利用した計算である.