6 Taylor の定理とその応用
6.3 漸近展開
ランダウの記号o(xn)は lim
x→0
f(x)
xn = 0となる関数f(x)をすべてまとめて一つの記号で表しているので,o(xn) を通常の関数だと思うような計算はできない.例えば
3x+x2+x3= 3x+o(x) (x→0)
−x+ 3x2+ 5x3=−x+o(x) (x→0) 2x−4x2+x7= 2x+o(x) (x→0)
において,それぞれのo(x)が表す関数は異なる.そのため,1本目と2本目の式で辺々引いて 4x−2x2−4x3= 4x
と計算することはできない.この式の左辺と右辺は明らかに関数として異なっている.正しくは,辺々引いても 4x−2x2−4x3= 4x+o(x) (x→0)
である.
例題6.11. 次が成り立つことを示せ.
(1) cosx−1 =o(x) (x→0) (2) sinx−x=o(x) (x→0) (3) 3以上の自然数nと f(x) =
Pn k=3
akxk に対して,f(x) =o(x2) (x→0)
(解答)
(1) xで割って極限をとると lim
x→0
cosx−1
x = lim
x→0
−sin2x
x(1 + cosx) = lim
x→0
sinx
x · −sinx
1 + cosx = 1·0 = 0 なので,cosx−1 =o(x) (x→0) が成り立つ.
(2) xで割って極限をとると
xlim→0
sinx−x
x = lim
x→0
sinx x −1
= 1−1 = 0 であるから,sinx−x=o(x) (x→0) が成り立つ.
(3) x2で割って極限をとると,n≧3 であるから lim
x→0
f(x) x2 = lim
x→0
Xn k=3
akxk−2= lim
x→0(a3x+a4x2+· · ·+anxn−2) = 0 であるから,f(x) =o(x2) (x→0)が成り立つ.
(解答終)
注意6.12. 関数をランダウの記号を用いて
cosx= 1 +o(x) (x→0) や
sinx=x+o(x) (x→0) のように表すこともある.
関数がn回微分可能よりもさらによい性質をもてば,ランダウの記号を用いて次のように表せる.
定理6.13. (漸近展開)
関数f(x)は点0 を含む開区間I でCn級関数であるとする.このとき f(x) =
Xn k=0
f(k)(0)
k! xk+o(xn) (x→0) が成り立つ.
証明. マクローリンの定理より,各x∈I に対して,ある0< θ <1 が存在して f(x) =
nX−1 k=0
f(k)(0)
k! xk+ f(n)(θx) n! xn と表せる.これより
f(x) = Xn k=0
f(k)(0)
k! xk+ f(n)(θx)−f(n)(0)
n! xn
となる.
ここで,h(x) = f(n)(θx)−f(n)(0)
n! xn とおくと,f(x)はCn級だからn次導関数f(n)(x)は連続なので
|θx|<|x| −→0 (x→0) とあわせると
lim
x→0
h(x) xn = lim
x→0
f(n)(θx)−f(n)(0)
n! = f(n)(0)−f(n)(0)
n! = 0
が得られる.よって,h(x) =o(xn) (x→0) であるから f(x) =
Xn k=0
f(k)(0)
k! xk+o(xn) (x→0) が成り立つ.
マクローリンの定理はn回微分可能という仮定だが,もしn次導関数が連続(Cn級)ならば上のようにn次 多項式と「xn より高次の微小項o(xn)」の和で表せる.
漸近展開の o(xn)の部分が具体的にどのような形かはこの定理からはわからない.あくまで,関数 f(x) と n 次近似多項式のずれがo(xn) であることのみを主張している.そのため,漸近展開を利用して誤差評価付きの近 似計算はできない.ただし,剰余項の具体的な表示を必要としない場合には扱いやすい.例えば,次に紹介する 不定形の極限計算には便利である.
定理6.13より,初等関数の漸近展開について次の公式が成り立つ.
命題6.14. (初等関数の漸近展開)
x→0のときに,すべての自然数n に対して以下が成り立つ.
(1) ex= Pn k=0
xk
k! +o(xn) (x→0) (2) sinx=
Pn k=0
(−1)kx2k+1
(2k+ 1)! +o(x2n+2) (x→0) (3) cosx=
Pn k=0
(−1)kx2k
(2k)! +o(x2n+1) (x→0) (4) log(1 +x) =
Pn k=1
(−1)k−1xk
k +o(xn) (x→0) (5) (1 +x)α=
Pn k=0
α k
xk+o(xn) (x→0)
最初の2〜3項までの漸近展開はよく使われるので,すぐに書けるようにしておくこと.x→0のときの漸近展 開をいくつか具体的に書いておく.問題に応じて必要な次数までの公式を用いればよい.
ex については
ex= 1 +x+o(x) (x→0)
ex= 1 +x+ x2
2 +o(x2) (x→0) ex= 1 +x+ x2
2 + x3
6 +o(x3) (x→0) となる.
sinxについては,奇数次数しか現れないので
sinx=x+o(x2) (x→0) sinx=x− x3
6 +o(x4) (x→0) となる.cosxについては,偶数次数しか現れないので
cosx= 1− x2
2 +o(x3) (x→0) cosx= 1− x2
2 + x4
24 +o(x5) (x→0) となる.次数が1つとびで現れるので,ランダウの記号の次数に注意すること.
log(1 +x)については
log(1 +x) =x+o(x) (x→0)
log(1 +x) =x− x2
2 +o(x2) (x→0) log(1 +x) =x− x2
2 + x3
3 +o(x3) (x→0) となる.定数項はなく1次の項から始まり,分母が階乗ではないので注意すること.
また,ランダウの記号に関しては次が成り立つことがわかる.
定理6.15. (ランダウの記号の演算)
x→0とするとき,以下が成り立つ.
(1) o(xn)o(xm) =o(xn+m) (x→0) (2) xno(xm) =o(xn+m) (x→0)
(3) m≧nならば,o(xn)±o(xm) =o(xn) (x→0) (4) 定数C に対して,Co(xn) =o(xn) (x→0) 証明. いずれもランダウの記号の定義を確認すればよい.
(1) lim
x→0
o(xn)o(xm) xn+m = lim
x→0
o(xn)
xn · o(xm)
xm = 0·0 = 0 (2) lim
x→0
xno(xm) xn+m = lim
x→0
o(xm) xm = 0 (3) lim
x→0
o(xn)±o(xm)
xn = lim
x→0
o(xn)
xn ± o(xm) xm ·xm−n
= 0±0·0 = 0
(4) lim
x→0
Co(xn) xn = lim
x→0C o(xn)
xn =C·0 = 0
大雑把に言えば,積については指数法則のようなものが成り立ち,x→0 のときは和について次数の低い方に まとまる.以下でx→0のときのランダウの記号の計算例を示すので,上の公式と照らし合わせてみること.感 覚的には(とりあえずべき乗関数を考えずに)o(xn)とはxn+1 以上の次数をもつ項のこととイメージすれば,計 算法則が理解しやすい.
1 +x+ 3x3+o(x3)
− 2x−6x2+o(x2)
= 1−x+ 6x2+ 3x3+o(x3)−o(x2)
= 1−x+ 6x2+o(x2)
ランダウの記号については次数の低いものにまとまる.例えばo(x2) +o(x3) =o(x2) (x→0)である.また上の 例ではx3=o(x2) (x→0)であるから,この項もランダウの記号にまとまってしまう.従って,o(xn)という項 がある和や差については,次数がnの項まで計算すればよく,n+ 1 次以上の項は気にしなくてもよい.普段は
1 +x+ 3x3+o(x3)
− 2x−6x2+o(x2)
= 1−x+ 6x2+o(x2) と計算すればよい.積については,まじめにやれば
1 +x+x2+o(x2)
2x−x2+o(x2)
= 2x−x2+o(x2) + 2x2−x3+xo(x2) + 2x3−x4+x2o(x2) + 2xo(x2)−x2o(x2) +o(x2)o(x2)
= 2x−x2+o(x2) + 2x2−o(x2) +o(x3) +o(x2)−o(x3) +o(x4) +o(x3)−o(x4) +o(x4)
= 2x+x2+o(x2)
であるが,かなり無駄が多い.ランダウの項が絡む積で次数が一番低い項に着目すればo(x2)であるから,3次以 上の項はすべてo(x2)にまとまるので2次以下の項のみについて計算すればよく
1 +x+x2+o(x2)
2x−x2+o(x2)
= 2x+ (−1 + 2)x2+o(x2) = 2x+x2+o(x2)