第 5 章 微分法
1.1 微分係数の定義
関数y=f(x)のグラフG上に点A(a, f(a))をとる.ここで,点Aの近くでのグラフの様子を詳しく調べよう と思えば,点Aの近くを拡大してみればよい.
A
y=f(x)
そこで,上図のように実際に拡大し続けてみると,最初は曲がっていたグラフがだんたん直線に近づいてくる.
このように,点Aのまわりをものすごく大きな倍率で拡大すれば,グラフはほぼ直線となるように思える.この 直線l の方程式をx=aのまわりでの y =f(x)の1次近似式という.この用語の起源は x=a のごく近くで はy =f(x)と直線 l がほぼ一致することによる.もちろんxを aから離れたところにとれば,グラフ Gと直 線l は特に近いとは限らない.この直線l をグラフGの点Aにおける接線といい,直線lの傾きを関数f(x)の x=aでの微分係数という.これが接線の直感的な意味であるが,これでは接線の方程式(関数の1次近似式)を どのように求めればよいかわからないし,議論をする際に不便である.
ところで上で「関数のグラフをある点のまわりで拡大し続ければいつかは直線になる」ということを述べたが,
これは正しいのであろうか?例えば,関数y=|x|のグラフを原点Oのまわりで拡大し続けると下図のようになる.
y=|x|
O
どれだけ拡大しても原点から左右に斜め45度の直線が現れるだけで折れ線であり,直線に近づくことはない.
このように関数y =f(x)のグラフがある点x=a のまわりでいくら拡大しても直線に近づかない,つまり直線 で近似できない場合にx=aで関数y=f(x)は微分不可能であるという.高校数学では関数y =f(x)のグラフ がx=aで 尖っている から微分不可能であると理解している学生が少なくないが,ポイントは尖っているか ら直線で近似することができないということである.
このように関数のグラフを描いて微分可能かどうか(つまり直線で近似できるかどうか)を調べるのは大変で あり,そもそもグラフを描くのが困難な関数も多い.そこで,この考察を数式を用いて厳密に表現し定式化する.
具体的には微分係数を平均変化率のx方向の変化量を0に近づけた場合の極限として捉え,その平均変化率が収 束するか発散するかによって微分可能性の判定を行うことにするのが妥当である.
定義1.1. (微分係数)
関数f(x)が点aの近傍で定義されていて,極限値
xlim→a
f(x)−f(a) x−a
が存在するとき,この極限値をf(x)の点aにおける微分係数といい f′(a) = lim
x→a
f(x)−f(a) x−a で表す.このとき,f(x)は点aで微分可能であるという.
微分係数の定義式においてh=x−aとおけば f′(a) = lim
h→0
f(a+h)−f(a) h
と表すこともできる.今後は断らずにその議論において便利な表記を用いることにする.
微分可能な関数に関する特徴の1つは,次に述べるように連続であることである.
定理1.2. (微分可能な関数の連続性)
関数f(x)が点aで微分可能ならば,f(x)は点aで連続である.
証明. x=\ aならば
f(x) =f(a) + (x−a)· f(x)−f(a) x−a であるから,f(x)が点aで微分可能なので
xlim→af(x) = lim
x→a
f(a) + (x−a)· f(x)−f(a) x−a
=f(a) + 0·f′(a) =f(a) が成り立つ.よって,f(x)はx=aで連続である.
注意1.3. 定理1.2の逆は成り立たない.すなわち,関数f(x)が点aで連続であっても,f(x)は点aで微分 可能であるとは限らない.後の例題1.7も参照せよ.
定理1.2の対偶を考えれば,関数f(x)が x=aで不連続ならば,x=aで微分不可能であることがわかる.こ の事実は具体的な関数の微分可能性の判定に役立つことがある.
定義1.4. (接線)
関数f(x)は点aで微分可能とする.このとき,直線
y=f′(a)(x−a) +f(a) を曲線y=f(x)上の点(a, f(a))における接線という.
関数f(x)は点aで微分可能とする.このとき,y=f(x)のグラフ上の点(a, f(a))における接線は,当然
xlim→a{f(x)− f′(a)(x−a) +f(a) }= 0 をみたす.ただし,それだけではなくさらに
xlim→a
f(x)− {f′(a)(x−a) +f(a)}
x−a = 0
も成り立つ.実際
xlim→a
f(x)− {f′(a)(x−a) +f(a)}
x−a = lim
x→a
f(x)−f(a)
x−a −f′(a)
=f′(a)−f′(a) = 0 である.逆に,点(a, f(a))を通り傾きが mである直線を考えたとき
xlim→a
f(x)− {m(x−a) +f(a)}
x−a = 0 =⇒ m=f′(a)
が成り立つ.実際
xlim→a
f(x)− {m(x−a) +f(a)}
x−a = lim
x→a
f(x)−f(a)
x−a −m
=f′(a)−m= 0 ∴ m=f′(a) である.
つまり,点(a, f(a))を通り傾きがmである直線に対して,もちろん mによらず常に
xlim→a{f(x)− m(x−a) +f(a) }= 0 が成り立つが,次の条件
xlim→a
f(x)− {m(x−a) +f(a)}
x−a = 0
が成り立つのはm=f′(a)のときであり,かつそのときに限る.この意味で傾きがf′(a)の直線は特別であり,直 線が曲線のグラフに 接する ということの特徴付けとなっている.
実際に関数が与えられたときに定義1.1に従って微分係数を計算するのは大変である.そこで,次節で関数の導 関数を定義し,初等関数をはじめとして様々な関数の微分計算法を説明する.その後に,具体例を通して接線の 応用例(1次近似式を利用した近似値の計算)を紹介することにする.
定義1.5. (右微分・左微分)
関数f(x)に対して,極限値
x→lima+0
f(x)−f(a) x−a
が存在するとき,この極限値をf(x)の点aにおける右微分係数といい f+′(a) = lim
x→a+0
f(x)−f(a) x−a で表す.このとき,f(x)は点aで右微分可能であるという.
また,極限値
x→lima−0
f(x)−f(a) x−a
が存在するとき,この極限値をf(x)の点aにおける左微分係数といい f−′(a) = lim
x→a−0
f(x)−f(a) x−a で表す.このとき,f(x)は点aで左微分可能であるという.
定理1.6. (右微分・左微分と微分可能性)
関数f(x)が点aで微分可能であるための必要十分条件は (i) f(x) が点aで右微分可能かつ左微分可能である.
(ii) f+′(a) =f−′(a)が成り立つ.
の両方が成り立つことである.
証明. 第4章定理1.19より,極限値 lim
x→a
f(x)−f(a)
x−a が存在するための必要十分条件は,片側極限 lim
x→a+0
f(x)−f(a)
x−a , lim
x→a−0
f(x)−f(a) x−a
がともに存在し,かつその値が一致することである.よって,定理の主張が成り立つ.
例題1.7. 関数 f(x) =|x|は x= 0 で微分可能でないことを示せ.
(解答) 次の極限
lim
h→0
f(h)−f(0) h−0 = lim
h→0
|h| −0 h = lim
h→0
|h| h について調べればよい.そこで,この右極限を考えると
lim
h→+0
|h|
h = lim
h→+0
h
h = lim
h→+01 = 1 なので,右微分可能でf+′ (0) = 1である.一方,左極限は
lim
h→−0
|h|
h = lim
h→−0
−h
h = lim
h→−0(−1) =−1 なので,左微分可能でf−′ (0) =−1である.
よって,f+′(0)=\ f−′(0)であるから,x= 0 で微分可能ではない.
(解答終)