第 4 章 関数の極限
1.4 右極限・左極限
数直線上で点aに近づく方法は,本質的には右から近づくか左から近づくかしかない.普段は両方を考えない といけないが,場合によってはこのどちらかだけを考えると便利なこともある.
定義1.15. (右極限)
関数f(x)は少なくとも開区間(a, a+ε0)で定義されているとする.
実数αが『任意のε >0 に対して,あるδ(ε)>0が存在して,a < x < a+δ(ε)をみたす任意のxについて f(x)−α < εをみたす』とき,関数f(x)の点aでの右極限はαであるといい
x→lima+0f(x) =α または f(x)→α (x→a+ 0) で表す.
一方,『任意のK > 0 に対して,あるδ(K)>0 が存在して,a < x < a+δ(K) をみたす任意の xについて
f(x)> K をみたす』とき,f(x)の点aでの右極限は∞に発散するといい
x→lima+0f(x) =∞
で表す.また,『任意のK <0に対して,あるδ(K)>0が存在して,a < x < a+δ(K)をみたす任意のxにつ
いてf(x)< K をみたす』とき,f(x)の点aでの右極限は−∞に発散するといい
x→lima+0f(x) =−∞
で表す.
定義1.16. (左極限)
関数f(x)は少なくとも開区間(a−ε0, a)で定義されているとする.
実数αが『任意のε >0 に対して,あるδ(ε)>0が存在して,a−δ(ε)< x < aをみたす任意のxについて f(x)−α < εをみたす』とき,関数f(x)の点aでの左極限はαであるといい
lim
x→a−0f(x) =α または f(x)→α (x→a−0) で表す.
一方,『任意のK > 0 に対して,あるδ(K)>0 が存在して,a−δ(K)< x < a をみたす任意の xについて
f(x)> K をみたす』とき,f(x)の点aでの左極限は∞に発散するといい
x→lima−0f(x) =∞
で表す.また,『任意のK <0に対して,あるδ(K)>0が存在して,a−δ(K)< x < aをみたす任意のxにつ
いてf(x)< K をみたす』とき,f(x)の点aでの左極限は−∞に発散するといい
lim
x→a−0f(x) =−∞
で表す.
右極限・左極限について,特にa= 0のときには lim
x→0+0f(x)を lim
x→+0f(x)と, lim
x→0−0f(x)を lim
x→−0f(x)と表 すことにする.a= 0\ のときには,このような略記はできない.
この定義を大雑把に述べると『関数 f(x)において,xが数直線上を右側からaに限りなく近づくとき,f(x) がある一定の値αに近づくときにf(x)の点aでの右極限はαに収束する』ということである.もちろん,xを
注意 1.17. 右極限・左極限についても,これまでに関数の極限の性質として述べた定理1.7,1.8,1.9,1.10, 1.13などと同様の定理が成り立つ.証明はほとんど同じなので省略する.
例題1.18. 次の片側極限を求めよ.
(1) lim
x→1+0
1
x−1, lim
x→1−0
1
x−1 (2) lim
x→+0
x
|x|, lim
x→−0
x
|x| (3) lim
x→+0
√x
(解答)
(1) 任意のK >0 に対して,δ1(K) = 1
K >0とおく.このとき,1< x <1 +δ1(K)ならば 1
x−1 > 1 δ(K) =K が成り立つから, lim
x→1+0
1
x−1 = +∞である.
次に,任意のK <0 に対して,δ2(K) =− 1
K >0 とおく.このとき,1−δ2(K)< x <1 ならば 1
x−1 <− 1
δ2(K) =K が成り立つから, lim
x→1−0
1
x−1 =−∞である.
(2) x >0のときには, x
|x| = x
x = 1であるから
xlim→+0
x
|x| = lim
x→+01 = 1 x <0のときには, x
|x| = x
−x =−1であるから
xlim→−0
x
|x| = lim
x→−0(−1) =−1
(3) 任意のε >0 に対して,δ(ε) =ε2>0 とおく.このとき,0< x < δ(ε)ならば 0<√
x <√ δ=ε が成り立つ.よって,右極限の定義より, lim
x→+0
√x= 0である.
(解答終)
練習問題1.3. 次の片側極限を求めよ.
(1) lim
x→−0
1
x (2) lim
x→1+0[x], lim
x→1−0[x] (3) lim
x→+0
1
x2, lim
x→−0
1 x2
練習問題1.4. 関数の極限に関する定理1.7,1.8,1.9,1.10,1.13の仮定と主張を右極限・左極限に関するもの に書き直してみよ.
定理1.19. (極限が存在するための必要十分条件)
αを実数とすると,lim
x→af(x) =αとなるための必要十分条件は
x→lima+0f(x) = lim
x→a−0f(x) =α となることである.
証明. lim
x→af(x) =αとする.このとき,任意のε >0 に対して,あるδ(ε)>0 が存在して 0=\ x−a < δ(ε) =⇒ f(x)−α < ε
が成り立つ.よって,もちろん
a < x < a+δ(ε) =⇒ f(x)−α < ε となるから, lim
x→a+0f(x) =αが成り立つ.また
a−δ(ε)< x < a =⇒ f(x)−α < ε となるから, lim
x→a−0f(x) =αも成り立つ.
逆に, lim
x→a+0f(x) = lim
x→a−0f(x) =αとする.このとき,任意のε >0 に対して,あるδ1(ε)>0が存在して a < x < a+δ1(ε) =⇒ f(x)−α < ε
が成り立つ.また,上と同じεに対して,あるδ2(ε)>0 が存在して
a−δ2(ε)< x < a =⇒ f(x)−α < ε も成り立つ.そこで,δ(ε) = min{δ1(ε), δ2(ε)}とおくと
0=\ x−a < δ(ε) =⇒ f(x)−α < ε が成り立つから,lim
x→af(x) =αである.
この定理1.19から,関数の極限の収束・発散を判定するためには,右極限・左極限を調べればよいことがわか る.これは前にも述べたように,数直線上を点aに近づくように動くには本質的には右から近づくか左から近づ くかしかないからである.後で学習する2変数関数の極限の場合にはこのような便利な定理はないので,たいて いの場合ε−δ 論法やはさみうち法に頼ることになる.
例 1.20. 例題1.18より,極限 lim
x→1
1
x−1,lim
x→0
x
|x| は存在しない.