第 4 章 公的年金制度における官民格差と 2015 年改革
第 3 節 OECD 諸国の動向と中国への示唆
3.1 OECD
諸国の動向従来の公務員年金制度は、公的年金制度の中でも独立的な制度として発足したものが多 いと同時に、優遇されていることが一般的である。言い換えれば、公務員年金制度と民間部 門の被用者年金制度が分立することは決して中国独特な現象ではない。
むしろ、一般被用者と公共部門の被用者年金制度は、その目的の違いから異なる制度とし て形成された。前者は、①最低限の老後生活を保障し、②高齢貧困者を削減するために設立
146 駒村(2014)。
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された制度である。それに対して後者は、①職業の独立性を守った上で、②公的セクターの 魅力を維持し、③報酬に関わるコストを将来へシフトすることが目的である147。
したがって、中国と同じく、世界各国における従来の公的年金改革では公務員年金制度が 除外されており、改革の対象に含まれなかった。ところが近年、特に20年前から一元化改 革への方向性が明確になりつつあり148、その背景に、①少子高齢化による年金財政の持続 可能性に対する懸念や、②膨大な官民格差に対する不満等が挙げられる。
図 4-1 OECD諸国及び中国における公務員年金と被用者年金の関係
(注)括弧内は、従来の分立した年金制度から部分的、また全体的に一元化改革を行った年度 を表す。中国の場合は、2015年に機関事業単位に対する公的年金制度の年金財政方式、負担 主体、保険料率、加入年数と給付算定方式を民間部門の就業者年金制度と一致するように改革 し、その上に強制加入の職域加算年金制度を上乗せる点で形式的にはグループCに近似する。
ただし、厳密にいえば、基金の管理運営と制度名称が依然として分立しているため、実質的に はグループDに属するとしたい。
(資料)OECD(2016)に基づいて筆者作成
図 4-1 は、OECD 諸国及び中国における公務員年金と被用者年金の関係から年金制度
147 Palacios & Whitehouse (2006) p.7.
148 OECD (2016) p.156.
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を四つに分類したものである149。そこで、公共部門と民間部門の被用者年金制度が制度的 に一元化されているか否かによって、部分的、または完全に一元化されている国々(グルー プA とグループC)と完全に分立している国(グループBとグループ D)に大別される。
近年における公共部門の被用者年金制度において、一般被用者年金へ部分的(グループC)、 または完全に一元化される(グループA)傾向が顕著であると同時に150、給付水準における 格差を見直す改革も行われており、OECD35か国において、現在ベルギー、フランス、韓 国、ドイツの4か国(グループD)のみ完全に分立し、かつ給付水準が異なっている。
以下では、OECD 諸国における一元化改革の共通点をまとめながら、残された課題につ いて概観し、後ほど議論する中国の改革内容と比較する前提を提示しておきたい。
3.2 共通点と課題
各々異なる年金制度を有するにもかかわらず、OECD 諸国の一元化改革において次のよ うな共通した特徴が存在しており、課題も残されている。
第1に、移行期を伴うことである。OECD諸国において一元化に向けて改革される中、
一定期間をもって、段階的に移行することが多く、言い換えると、依然として多くの公務員
(中国語でいう「老人」と「中人」151)は旧制度によって給付される。例えば、日本におけ る共済年金と厚生年金の一元化改革では、異なっていた保険料率を見直し、共済年金の負担
率を 18.3%へ段階的に引き上げることを明示した152。ここでは、年金数理に基づき明確に
した改革スケジュールの設定及び国民のコンセンサスの拡大が必要とされる。
第2に、年金支給開始年齢の引き上げが挙げられる。これは、OECDのみならず世界的 に共通している取り組みであるが、一般的に公共部門における早期退職が認められていた 国々においても、退職年齢において民間部門と一致するように段階的に引き上げられてい
149 中国は、2015年改革によって、機関事業単位の公的年金部分における年金財政方式、負担 主体、保険料率、加入年数と給付算定方式を民間部門と一致するように改革し、その上に強制 加入の職域加算年金制度を上乗せる点で形式的にはグループCに近似する。したがって、これ からの分析では形式的に近似するグループCと比較することが多い。しかし、厳密にいえば、
OECD諸国のように完全に一つの制度として一元化したのではなく、基金の管理運営や制度名 称が依然として分立しているため、分類ではグループDに属することにしたい。
150 具体的には図4-1の中で国名に改革年度が追加された14か国が挙げられる
151 「老人」は、改革前にすでに退職した世代であり、「中人」は現役移行世代である。それに対 して、改革後年金制度に加入する世代は「新人」と呼ばれる。
152 公務員共済と私学共済は、従来の保険料率が異なるため、その進行スピードも異なってい ることに注目されたい。
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る。具体的には、カナダ、ドイツ、日本や韓国等が実践しているが、改革前の世代が存在す るため、依然として一般被用者より5年以上早く退職することが認められる。
第3に、結果として、職域別制度における官民格差が大きいことである。表4-1から分 かるように、職域別に分立された年金制度、すなわち、上記図4-1のグループCとDに おいて、おおむね大きな官民格差が存在することが確認される。まず、グループDの公共 部門における所得代替率は60%を上回っており、民間部門被用者より4か国平均で22.8%
高い。さらに、公務員に対して強制加入の職域部分を加えた国々(グループC)における格 差はより顕著であり、10か国平均で26.8%に達する。具体的に、カナダ、アメリカとイギ リスにおける官民格差はそれぞれ31.5%、51.7%と84.4%を記録しており、確かにそこで 民間部門における任意加入の職域年金を加味するとその格差は減少されるが、アメリカと イギリスは依然として大きい(19.1%と54.6%)ことに注目する必要がある。
表 4-1 所得代替率から見る官民格差(%)
グループ 国名 民間部門 +民間部門職域加算年金 公共部門 官民格差
D
ベルギー 48.1 59.9 75.0 26.9(15.1)
フランス 55.4 63.4 8.0
韓国 39.3 61.2 21.9
ドイツ 37.5 50.0 71.8 34.3(21.8)
C カナダ 36.7 66.0 68.2 31.5( 2.2)
アメリカ 35.2 67.8 86.9 51.7(19.1)
イギリス 21.6 51.4 106.0 84.4(54.6)
(注)ここでは、2014年に20歳から制度に加入し、各部門の平均所得者を仮定した総所得 代替率を表す。括弧内は民間部門の職域年金を加味した官民格差である。グループCでは民 間部門の職域加算年金制度が機能する国々の事例を挙げている。
(資料)OECD(2016)より筆者作成