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第 2 章 都市部における就業者年金制度の形成

第 3 節 基本的な枠組みの確立と課題

3.1 部分的積立方式の導入

前述のように、1978年から改革開放政策が打ち出され、国有企業の民営化や地方政府の 自主権の拡大等、急激に変容する環境下に、公的年金制度も社会福祉へ移行せざるを得なか った。それに、グローバリゼーションが進む中、国際競争力をより早期に身に着けるため、

「効率を優先し、合わせて公平を考える(效率优先,兼顾公平)」分配制度のもとで、効率 性を最重要視する方針が打ち出された。

このような背景から、都市部における年金制度においても改革が求められるようになっ た。すでに論じたように、世界銀行を初めとする外部要因の影響を含め、個人口座の導入に 対して激しい論争が展開された。世界銀行は、中国における年金改革に対して積極的な理論 援助のみならず、実行段階における介入も少なからず存在したが72、その影響を受けて国内

72 例えば、その後1999年における広東省や黒竜江省の改革において、資金援助のみならず、

年金財政試算や具体的な政策設計にも加わっていると考えられる(Piggott& Bei、2007)。

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における体制改革委員会と労働部の意見対立が形成され、公的年金制度に対する議論が広 まった。その後、個人口座の規模に関しても意見が統一されず、中央政府も明確な政策を定 めなかったため、1995年の「国務院による企業就業者年金制度改革を深化する通知(国务 院关于深化企业职工养老保险制度改革的通知、第6号、以下1995年6号文と略す)」には 二つの実施案が挙げられた。すなわち、①積立方式を主張する体改委によって提起された

「大きな個人口座、小さな社会プール」と、②労働部による「大きな社会プールと小さな個 人口座」に分かれ、具体的な選択は各省に委ねることになった。

当初は、自助努力を強調する「大きな個人口座」を選択した省が多かった(李・黄、2016)。

例えば、全国で初めて個人口座を導入した深セン特区はシンガポールの中央積立基金

(central provident fund)を参考とし、個人口座における繰入額を標準報酬月額73の16%

とし、社会プールは5%に定めた。逆に、北京のような地域では小さな個人口座を試み、個 人口座の規模を報酬月額に対して3%に控えた。したがって、中国における現代化された公 的年金制度の導入当初から、地域ごとに異なる年金制度が設けられた。言い換えると、1995 年改革は、地域別の自主設計による試行錯誤であるため、省間、ひいては省と当該省に所属 する市の保険料率が異なる結果を導き、地域間の移転も困難であった。

このような不合理な制度を見直すために、中央政府による統一した就業者年金制度を構 築する必要性が浮上した。結果として、1997年に発表された「国務院による統一した企業 就業者基本年金制度を設立する決定(国务院关于建立统一的企业职工基本养老保险制度的 决定、26号、以下1997年26号文と略す)」により、図2-1のような、賦課方式の社会プ ール(標準報酬月額の13%)に積立方式の個人口座(個人負担4%+企業負担7%=11%)

をのせるような「折衷案」が確定された74

73 標準報酬月額は年金の保険料を計算する際の基数になるが、それに保険料率をかけると保険 料負担額になる。標準報酬月額には、当該地域の社会平均賃金の60%~300%の上限と下限が 設定され、前年度の給与所得と当該地域平均賃金水準を加重平均した数値によって決定され る。日本においても、各種手当を含めた税引き前の給与を、一定の幅で区分した報酬月額に当 てはめて決定したものになるが、全国一律で上限と下限か設定され、現在1等級(88,000 円)から31等級(620,000円)に分かれている。

74 中国における社会保障制度の法制化が遅れているため、一般的には「決定」、「暫行規定」、「試 行弁法」や「調整」という形で規定を発布する。さらに、管理機関も分散化されており、国務院

(日本の内閣に相当)、人力資源と社会保障部(日本の厚生労働省に相当)あるいは財政部(日 本の財務省に相当)によって公開されることが多く、実施段階において完全に徹底されること は少ない(趙、2015)。また、2010年の「中華人民共和国社会保険法」も原則的な規定に過ぎ ず、具体的な責任分担については触れていない。

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図 2-1 1997年における年金改革案概要

(注)1997年改革当時では報酬月額に対する個人負担が4%から始まり、個人口座の財源規模 を報酬月額に対する内訳として合計11%と定めたため、設立当初は企業負担として保険料率の

20%のうち保険料率の 7%が繰り入れられた。その後、1998 年からは個人負担を 2 年ごとに

1%ポイントを引き上げ、最終的に標準報酬月額の8%まで拡大すると設計したため、個人負担

の拡大に応じて、個人口座に繰り入れられる企業負担が少なくなり、最終的に個人口座は個人 負担として8%+企業負担として3%によって構成される。それに対して、社会プールの財源に おいては、従来の標準報酬月額の 13%(20%-7%)から17%(20%-3%)にまで引きあが ることになる。

(資料)1997年26号文より筆者作成

これをもって、部分的積立方式が中国の公的年金制度の特徴として定着した。すなわち、

一部地域における試行錯誤の経験を踏まえて、1997年改革より全国的に個人口座の導入が 完全に確立されたのである。当初の目的は、保険料の拠出実績と給付を直接にリンクし、年 金加入に対するインセンティブを促進すると同時に、人口変動に中立的でありながら、人口 高齢化リスクへの対応を図ることであった。言い換えれば、賦課方式と積立方式の両方の長 所をいかせるような取り組みとして期待されたのである。

しかし、3年も経たないうちに、労働部が懸念した「個人口座の空洞化問題」が発生し、

なおかつ年々増加する傾向にあった。したがって、個人口座を実質的に積み立てる実現可能 性と政府による再分配機能の考慮から、1995年では標準報酬月額に対する内訳で個人口座 に拠出された部分が最高16%であったものが、その後順次に縮小され、最新の2005年「国

個人口座(11%)

個人負担 4%(~8%)

個人口座(積立方式)

個人口座総額 /120

社会プール(賦課方式)

当該地域の平均賃金の20%

企業負担 7%(~3%)

社会プール 企業負担 13%(~17%)

財政補助 不足分

保 険 料 負 担

給 付

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務院による企業就業者年金制度を完備する決定(国务院关于完善企业职工基本养老保险制 度的决定、38号、以下では2005年38号文と略す)」では保険料率の内訳が8%へと見直 された(表2-1)。

表 2-1 個人口座関連指標の変遷

被用者負担率 企業負担率 個人口座規模¹ 社会プール規模 給付除数²

1995 最低3% 20% 最高16% 7%前後 120

1997 4%(~8%) 20% 11% 13%(~17%) 120

2005 8% 20% 8% 20% 56-233

(注1)個人口座規模は地域によって設定が異なるものの、ここでは、標準報酬月額(上限が設

けられている)に対する保険料率の内訳で個人口座に拠出される部分を示している。例えば、

1997年の保険料率は約24%であるが、その内訳として標準報酬月額に対する11%(被用者負

担である4%+企業負担である7%)が個人口座に拠出され、残りの企業負担分として 13%が

社会プールを構成することになる。

(注2)給付除数(计发月数)は、個人口座部分の給付時における算定指標であり、年金受給開

始時の積立金総額を給付除数で割った額が個人口座からの毎月年金受給額となる。2005年から は、退職年齢によって異なる給付序数が適用されるようになった。

(資料)1995年6号文、1997年26号文及び2005年38号文より作成