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第 5 章 公的年金制度の地域別断片化と省間格差

第 5 節 最新の取り組み

5.2 中央調節金の導入

地域間における年金財政の再分配を念頭におきながら、就業者年金制度に限定し、地域間 の水平的財政調整要素を含む「中央調節金制度(中央调剂金制度)」が2018年3月5日に 打ち出され、同年6月13日の「通知(18号文)」により7月1日から実施された。

これは、地方と中央政府間の「上解(上納金)」と「下撥(交付金)」により、地域間の水 平的な年金基金負担の均衡化を図ることを目的とする。原則的には、経済発展水準、財政状 況と扶養比率が類似する省においておおむね類似した「貢献」と「受給」を行うことで合意 した。換言すれば、①累計積立金が多い省と②中央財政によって基金プールを構成し、年金 財政収支赤字が多い省に対して補充するシステムであり、地域間のリスクシェアリングを 通じて、年金基金における地域間再分配を行う措置として219、基金管理のみにおける部分 的統合であると評価できる。すなわち、年金基金の部分的管理権と部分的剰余を中央政府に まとめた上で、一定の原則に基づいて年金支給が困難な地域へ再分配される制度である。

具体的に、「上解」の算定には、以下のような3要素が挙げられる。すなわち、①標準報 酬月額として、各省の被用者平均賃金(职工平均工资)の 90%を、②現役の年金加入対象 者(在职应参保人数)の人数にかけ、最後に③上納率として3%をかけた部分を地方から中 央へ上納すると定められている。

標準報酬月額の把握において各省の平均賃金水準を採用したのは、それが実際の経済発 展水準を反映するからである。加入者の多様性から、私営単位と非私営単位被用者を加重平 均した「被用者平均賃金」指標を基準にするが、全体加入者の約4分の1 を占める自営業 者を考慮して、被用者平均賃金の 90%と確定した。詳しくは、自営業者の標準報酬月額が 一般的な被用者のおよそ60%と比較的に低いことと、保険料率も20%(企業被用者は8%、

雇用主は 20%)で一般被用者より低いため、加重平均した数値として 90%(0.25×0.6+

0.75)を採用した。

さらに、人数の確定では、加入者数における流動人口の二重加入(実際に当該地域で納付 していないケース)等が考えられるため、企業就業者数と年金加入者数の平均値によって計 算されるが、制度が整備されるにつれて、常住人口項目まで細分化した「皆保険計画(全民 参加保険)」のデータベースを構築することが求められる。

一方、「下撥」においては、公平統一の原則に従って、当該年度に「上解」された資金を

219 魏(2018)108頁。

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全額地方へ「下撥」するが、上解金に中央からの財政補助金を加えた当該年度の財政調整金 総額を全国における退職人数で割った上で、各地域の退職人数を基準に全国各省へ再分配 する。すなわち、「当該年度の調整金総額

全国退職人数 ×各地域の退職人数」として、基本的には退職人数を再 分配基準としていると理解できる。

新たな財政調整制度のもとでは、平均賃金水準が高く、年金加入者と就業者数が多い省は 上納金が高くなる一方で、離退職人数が多い省は財政調整金を多く受給されるようになる。

換言すれば、就業者年金制度において東部から東北部への水平的な財政移転が達成される と考えられる。

加えて、新制度では、中央と地方政府の役割分担について、年金給付の「適時性と十分性

(按時足額)」及び年金基金の赤字に対する省レベル政府の主体的責任を明確にした。すな わち、①従来の中央政府による財政補助金220と②規定化された新な中央調整基金の交付が ある中で、依然として生じる年金基金赤字に対しては地方政府が責任を担うことになり、年 金給付における財源をすべて保障するわけではない。したがって、地方政府レベルにおい て、省・市・県レベルの基金赤字分担メカニズムを構築し、ストックの有効活用や国有資産 の売却、財政予算編成等を通じて財源を調達し、年金基金の赤字問題に対処すべきである。

さらに、地方政府のインセンティブを引き出すために、適用拡大、徴収政策の整備、年金給 付実績、基金管理の厳密化や中央調整金制度の実施等を総合的に評価する奨励制度も設け られた。

ところが、年金徴収と給付における地方政府責任を維持したままで中央調節金を導入す ることには依然として課題が残されている。例えば、①地方政府によって恣意的に年金積立 金を長期金融商品への投資に「消費」することや②当該地域の年金財政緩和に対する地方政 府の努力が低下する等が考えられ、地方政府のモラル・ハザード問題が提起されている。特 に、従来であれば、カバー率の拡大や年金徴収の確保、年金基金の管理運営の効率化等の工 夫は地方政府によって行われてきたが、中央政府の責任拡大によって地方政府の依存性が 高まるおそれがある。

同時に、中央と地方政府間における財政調整制度の法整備も必要不可欠であり、特に、財 政移転における具体的な割合の設計が求められる。中でも、移行コストに対する専攻財政移

220 その過程で、地方政府への財政補助政策は変化しないとしたため、地方政府側の合意が得 られた。

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転を設立することを通じて、従来の随意的な財政移転給付に関するルールを明確化するこ とが必要とされる221。加えて、年金財政検証制度の導入も考慮しなければならないが、地方 行政の評価指標として公的年金制度の実施状況を評価する際に取り入れるべきであるとい えよう。

確かに、中央調節金制度は、年金制度においてはじめて導入された水平的財政調整要素を 含む財政調整制度として、地域間における年金財政負担の格差是正に対して寄与すると考 えられるが、根本的な年金徴収と負担における地域間の制度的格差に対しては限定的であ り、前述のような全国レベルの統合とは程遠いといっても過言ではない。

第 6 節 小括

就業者年金制度が導入されて以来、制度設計のみならず年金財政負担における地域間格 差が大きい中で、具体的な地域間格差の現状を議論することは、社会的公平や国民の安心 感、社会保険財政の持続可能性に対して重要な意義があると考えられる222

改革開放は現代中国において大きな転換点として挙げられるが、それは、地方政府に大幅 な権限を与えることを通じて、地方の活躍から高度経済成長を達成したもので223、その中 で、地方政府の役割も同時に拡大された。本章では、分税制改革により地方政府の支出責任 が拡大された反面、地方政府の財源徴収シェアが減少され、地方財政における「収支ギャッ プ現象」を確認した。同時に、地方政府に対して財政自主権が認めるようになったため、次 第に地方が独自に政策を展開するようになり、省間分立、ひいては省間格差が深刻化し、年 金制度においても地域別断片化現象が定着した。

さらに、本論文の課題である公的年金制度の省間格差と近年の動向を明確にするため、① 制度の普及程度、②制度内の人口構成、③年金給付水準と④現役負担水準の全国とブロック 別の具体的な推移を考察した。複雑に変化する中で、東部は年金制度を早期に整備し、経済 状況も優れているため、人口構造が若年化し、年金財政においても比較的有利な立場にあ る。逆に、東北三省とも制度が広範囲に普及されたが、人口構成においては高齢者の割合が 高いため、ほかの地域と類似した水準の年金給付が行われている現状では、現役世代負担と

221 鄧・汪(2018)。

222 李・陳(2018)332頁。

223 大西(2004)。

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財政補助額により多く依存することを指摘した。さらに、このような二極化は近年拡大する 傾向にあり、東北における今後の財政持続可能性が大いに懸念されることを明確にした。中 部に関しては全体的に遅れているが、域内格差が比較的に小さいのに対して、西部は域内格 差が顕著であるため、経済成長だけでなく年金制度の均等な実現にも注意を払うべきであ ろう。また、具体的な地域別財政状況を概観することによって、社会保障関連費支出が単に 経済水準によって影響されるのではなく、地域別によって異なることを確認した。

最後に、経済状況や人口構成等によって地域別の年金給付負担が大きく異なっている現 状と、年金財政赤字に直面する地域がますます増加することを受けて、2018年において新 たな水平的財政調整要素を含んだ中央調節金制度が導入された。これは年金財政の地域間 格差を緩和するために行われた初めての試みであり、人口要素と経済要素を総合的に考慮 したことで高く評価されているが、負担と給付における制度的格差等に対しては依然とし て限定的であるといえるだろう。