第 2 章 都市部における就業者年金制度の形成
第 6 節 小括
第1章で議論したように、新中国の建国から計画経済期において、年金、医療、住宅等を 含む包括的な保障制度が設立されたが、それは「国有企業内保障」を特徴とするもので、当 時の財政、雇用等諸システムと相互補完的であり、欧米諸国と同じく経済目標を実現する一 環として機能した。しかしながら、企業別で運営された計画経済期の年金制度は、体制移行 を経験する中で、労働力の地域間、業種間、所有形態間の流動を著しく阻害するようにな り、なお、赤字運営に直面した一部地域において年金給付費用の社会プール化が試行され、
115 小野(2016)でまとめられたように、スウェーデンにおける貸借比率(資産/債務)が 2008年に1を下回った結果、2010年から自動均衡機能が発動し、その結果年金額の調整が始 まり、2016年まで継続している。それに伴う給付水準の低下を補うために、2010年から年金 受給者向けて基礎控除の増額を通じて減税措置が行われた。
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その後1986年から国家レベルで年金改革に取り組むようになった。
その中で、国際的な年金改革動向、特に世界銀行の影響を強く受け、中国国内における年 金財政方式の議論も盛んになったが、結果として「賦課方式の社会プール+積立方式の個人 口座」という折衷案が1997年に採用されるようになった。地方政府が管理運営を担う状況 の下で、部分的積立方式へ移行する中で生じた移行コストは「個人口座の空洞化」という姿 で世間の注目を集めるようになり、その対応として取り組まれたのが2001年から導入され た個人口座の実体化試行であった。ところが、財源調達に関する不十分な設定と積立金の運 営不足により、結果として失敗するにいたったと考えられる。
以上を踏まえて、中国における就業者年金制度において前進はあったものの、依然として 課題が残されているといえる。
まず、膨大な移行コストに対して具体的な対処が必要不可欠である。もっとも、個人口座 を移行コストへ流用したことが「空口座問題」をもたらした根本的な原因であり、それを補 う財源をいかに確保するかによって公的年金制度全般の動向にも方向性を示すことになる。
さらに、人口高齢化が急速に進んでいる中、持続可能な年金財政を構築していくことも必 要不可欠である。人力資源と社会保障部の尹蔚民部長が報告したように、現在中国の年金制 度扶養率が2.88:1と年々低下する傾向にある中で、年金の給付額増加率(18.6%)が年金 基金の徴収額増加率(15.5%)を上回っており、年金給付負担が今後とも増加していくと予 想され、年金財政の持続可能性に対して大きく懸念されている。すなわち、安易に現役世代 の負担を高めるような従来の改革方法116だけでは立ち行かなくなるため、パラメータ調整 のみならず、より抜本的な改革が求められる。
上記課題に対して問題解決の鍵になると思われるのが、近年話題になっているNDC方式 である。なお、中国において部分的積立方式ではなく、完全なるNDC方式を採用すべきで あるとの主張もみられるが、具体的な制度の組み合わせについてはさらなる議論が求めら れる。すなわち、単にNDC方式に移行することによって、すべての課題が解決する「万能 薬」は存在しなく、例えば、みなし運用利回りの適切な設定や平均余命等の不確定性を把握 する技術、短期的な経済ショックや人口圧力に対応するような予備金の設立、基礎データの 収集や充実化における行政管理能力の強化等、解決すべき課題が数多く残されている。しか し、規模はともあれ、年金の持続可能性を維持する視点から、NDC方式への移行を積極的
116 改革開放後、就業者年金制度の設計当初における高保険料率の導入を指す。
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に検討すべきであるのではないかと筆者は考える。
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