第 5 章 公的年金制度の地域別断片化と省間格差
第 4 節 公的就業者年金制度の地域間格差
4.3 具体地域の考察
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しており、保険料率を引き下げる地域もしばしばみられる(福建や浙江等)。
要するに、カバー率が高く、制度内において年齢構成が高齢化している東北において、年 金給付がその他地域とほぼ変わらない水準を維持していることは、現役世代と政府の高い 負担によって実現されていることが考えられる。他方、沿海東部地域における現役者は比較 的低い負担をしながら、老後においては比較的高い年金給付が得られることになる。
さらに、ここでも東北内は格差が小さく、三省とも現役世代と財政負担が大きい特徴が明 らかである。他方、西部は比較的高い負担率に加え、域内格差も高いため、西部内の均衡し た制度展開が必要であることを示唆する。
全体的にまとめると、東部は制度が広く普及されており、なおかつ流入人口により制度内 人口構造が若年化する傾向がみられると同時に、現役世代の一人当たり負担も少ない。さら に、このような有利な立場は今後ともますます強化される見込みである。ただし、近年減少 されているものの、東部内における格差が依然として大きいことが課題として考えられる。
逆に、東北も国有企業を大量に抱える歴史的な要因から制度展開が広範囲にわたってい るが、その後の経済衰退と人口高齢化の進展により人口構造が極めて高齢化し、その上、所 得代替率も比較的に高いため、現役世代と財政負担が最も高いブロックになる。域内の格差 についてはおおむね最も小さい水準であり、すなわち、東北三省ともこのような厳しい状況 に直面していることになる。
一方、西部は依然としてカバー率が低く、併せて人口構成も比較的高齢化しているため、
現役負担が比較的高い。それゆえに、西部地域における普及拡大を図ることによって、年金 財政の持続可能性を確保することが求められる。さらに、全体的に域内格差が大きいため、
バランスの取れた制度展開が必要とされる。
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表し、地域の年金財政規模を分析するにあたって必要な指標となる。また、当該年の保険料 徴収額のみから年金基金支出額を差し引いたもの、すなわち、政府補助金を含まない残高 は、当該地域における年金財政の健全化を表す指標であり、換言すると、そこから財政補助 金に対する依存度が伺える。
図 5-8 地域別年金収支状況(2015年、ブロック別当期残高順、億元)
(注)当期残高とは、当該年度における年金基金収入(保険料徴収額+政府補助金+利息収入+
その他)から基金支出(年金給付額)を差し引いたものである。このうち、保険料徴収額が基金 支出額を上回る地域は大三角形で表す。
(資料)『中国養老金発展報告2016』より筆者作成
ここで、政府補助金を除いた保険料徴収額で年金給付支出を賄える地域は、31省のうち 東部6省(福建、山東、江蘇、浙江、北京と広東)と西部1省(西蔵)のみであり、東部を 除くほとんどの地域では各レベルの財政に多少なりとも依存している204。一方、政府補助 金等を加味する「当期残高」から見ると年金収支状況は大幅に緩和され、政府財政移転制度 がそれなりに機能していることがわかる。しかしながら、ここにおける財政調整制度は、あ
204 「社会保険基金財務制度(2017年114号)」第五章第十三条によると、年金基金における 当該年度の収支赤字が発生した場合、①繰越金、②調節金(財政調整金制度)を導入している 地域では上級政府によって調節し、③年金基金の投資商品を譲渡する、あるいは事前に現金に する、④同級の財政部門による補助と⑤国務院による関連規定に承認された範囲内で保険料率 や給付政策を変更するという順番に採用することが認められている。林(2002)で指摘された ように、地方政府は中央政府による移転給付のみならず、各地方レベルの財政力の増加や予算 外支出によって年金給付の不足分を賄っており、明確した社会保障支出への財源がない。
1,088.1
-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800 1,000
-500 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
河 北海
南天 津福
建上 海山
東江 蘇浙
江北 京广
東黑 龍 江
遼 寧吉
林湖 北山
西湖 南河
南江 西安
徽陝 西青
海内 蒙 古
甘 粛寧
夏广 西西
藏貴 州雲
南重 慶新
疆四 川 当期残高 基金支出 徴収額-支出(右目盛り)
徴収額-支出額=0
東部 東北 中部 西部
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くまでも中央政府から各地方政府へという垂直的な財政移転であり、地域間の水平的な財 政調整は行われていない。にもかかわらず、河北(東部)、東北 3 省と陝西(西部)、青海
(西部)において収支赤字を記録した。いずれにせよ、その他地域に比べて東北 3 省にお ける年金財政状況が厳しいことは一目瞭然である。
これは、就業者年金制度改革当初、賦課方式から部分的積立方式への移行に伴う「移行コ スト」から起因するもので、国有企業改革のレイオフ者への退職給付や移行期世代のみなし 積立分に対する補助金等が膨大であったためである205。それに対して、東部は財政規模の みならず、財政状況も比較的に健全化しており、特に広東省の当期残高は1,088.1億元と、
全国当期残高合計額の31%に達する。
さらに、ブロック別や全国単位では把握できない状況をより詳しく分析するために、これ から天津市、北京市、上海市、江蘇省、遼寧省、湖北省と内蒙古の7省(直轄市)別事例に ついて表5-1と表5-2を用いて説明を加えていきたい。
これらの地域を選択した基準として、まずブロック別に一人当たりGDPの最も高い4省 を選択した。その理由は、経済的に有利な代表地域をブロック別で考察することによって地 域別特徴を最大化するためである。2015年を基準にすると、東部は天津市(107,960元、
全国1位)、東北では遼寧省(65,354元、全国9位)、中部は湖北省(50,654元、全国13 位)で、西部では内蒙古(71,101元、全国6位)という4地域が対象となる。さらに、類 似したケースも念頭に置くために、一人当たり GDP の上位である東部ブロック内 3 省も 挙げている。すなわち、北京市(106,497元、全国2位)、上海市(103,796元、全国3位)、
江蘇省(87,995元、全国4位)である206。
まず、2015年における単年度の年金財政収支のうち、単に保険料収入と基金支出の関係 からみると(表5-1)、北京と江蘇における保険料収入は当該年度の基礎年金支出を上回っ ており、財政補助金がなくとも年金給付を賄うことが可能である。ところが、その他ほとん どの地域、及び全国水準において、当該年度の保険料収入のみでは年金給付を賄えず、最も 深刻な遼寧(東北)は、基金収入の4割弱が中央と地方補助金や累積積立金(累计结余)等
205 退職世代(「老人」)及び移行期世代(「中人」)に対する移行コストについては、何
(2008)が詳しく述べている。
206 各省における人口状況に関しては、高齢者扶養比率において、天津12.9%、遼寧16.8%、
湖北15.3%、内蒙古12.4%、北京13.5%、上海16.5%と江蘇17.2%であり、制度扶養比率はそ れぞれ47.1%、56.2%、50.4%、56.1%、19.9%、45.3%と32.5%である。
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に依存することになる207。それに対して、北京と江蘇の場合は制度扶養比率が 19.9%と
32.5%で極めて低い等の理由から、年金財政における保険料収入の割合が 90%強と比較的
に高い。すなわち、前述したように、年金財政状況は、経済水準のみならず、人口構成や制 度普及程度等総合的に勘案して決定される。
表 5-1 7地域における年金財政状況(億元)
2015 基金収入¹ 基金支出
合計(A) 保険料収入(B) B/A 合計 一人当たり 天津(東) 594.3 435.0 73.2% 559.5 30,924元 北京(東) 1,601.2 1,478.8 92.4% 965.5 40,781元 上海(東) 2,226.1 1,831.5 82.3% 2,035.2 43,732元 江蘇(東) 2,153.9 1,962.4 91.1% 1,844.7 27,084元 遼寧(東北) 1,630.2 1,050.3 64.4% 1,743.2 27,219元
湖北(中) 1,132.4 778.8 68.8% 1,103.6 25,047元 内蒙古(西) 567.6 402.5 70.9% 565.0 27,150元
全国 29,340.9 23,361.2 79.6% 25,812.7 28,236元
(注1)基金収入は、保険料徴収収入+中央と地方政府財政補助+利子収入+その他によって構成
される。うち、政府財政補助における中央と地方政府の負担割合は地域別に異なっており、具 体的な数値は統計上明らかではない。
(資料)『中国養老金発展報告2016』より作成
一方、基金収入総額から分析すると、天津を含む東部地域における単年度の基金収入総額 は基金支出を大幅に上回っており、すでに述べた東部の有利条件とも整合的である。言い換 えると、経済基盤が優れている東部発展地域は、若年流入人口を大いに吸収し、なおかつ比 較的早期に年金制度を導入したため、保険料収入の割合が大きく(4地域平均で84.8%)、 さらに一人当たり給付額も割高である。それに対して、遼寧は国有企業改革当時からレイオ フ者を最も多く抱えており、その基本生活保障と退職年金等に対する基金支出負担 が
1,743.2億元で比較的高い。加えて、年金財政収支額のギャップが113億元でもっとも大き
く、年金制度の持続可能性に対して大いに懸念されている。また、西部地域である内蒙古の 特徴として、国有単位被用者の割合が高く、国有企業のみに年金制度が普及されていること
207 部分的積立方式を採用することから、各地域別で管理運営する個人負担による積立金も年 金給付(原則的には個人口座部分の給付)の財源となるため、基金支出から保険料収入を差し 引いた金額が全額財政補助によって賄われるとはいいがたい。