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公的年金制度の個人口座における空洞化

第 2 章 都市部における就業者年金制度の形成

第 3 節 基本的な枠組みの確立と課題

3.2 公的年金制度の個人口座における空洞化

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務院による企業就業者年金制度を完備する決定(国务院关于完善企业职工基本养老保险制 度的决定、38号、以下では2005年38号文と略す)」では保険料率の内訳が8%へと見直 された(表2-1)。

表 2-1 個人口座関連指標の変遷

被用者負担率 企業負担率 個人口座規模¹ 社会プール規模 給付除数²

1995 最低3% 20% 最高16% 7%前後 120

1997 4%(~8%) 20% 11% 13%(~17%) 120

2005 8% 20% 8% 20% 56-233

(注1)個人口座規模は地域によって設定が異なるものの、ここでは、標準報酬月額(上限が設

けられている)に対する保険料率の内訳で個人口座に拠出される部分を示している。例えば、

1997年の保険料率は約24%であるが、その内訳として標準報酬月額に対する11%(被用者負

担である4%+企業負担である7%)が個人口座に拠出され、残りの企業負担分として 13%が

社会プールを構成することになる。

(注2)給付除数(计发月数)は、個人口座部分の給付時における算定指標であり、年金受給開

始時の積立金総額を給付除数で割った額が個人口座からの毎月年金受給額となる。2005年から は、退職年齢によって異なる給付序数が適用されるようになった。

(資料)1995年6号文、1997年26号文及び2005年38号文より作成

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行コスト」が必ず発生する75。言い換えると、賦課方式のもとで約束した給付額を賄いつつ、

「新人」の個人口座分の年金額を積み立てなければならない。この移行コストに対する一般 的な対処は、議会によって国有企業私有化や直接な財政移転等、具体的な資金調達方法を定 め、法律化した手段を用いて、一定期間内で相殺するように設計することが多い76。しかし、

90年代の政府財政と国有企業は移行期のショックと大幅な国有企業改革によって機能でき ず、次第に移行コストの責任主体もあいまいになっていたことが指摘される。

当時の労働部幹部によると、保険料率の設計においてアメリカの 12.4%を参照し16%に 設定する予定であったが、顕在化された移行コストの考慮から20%へ引き上げられた77。に もかかわらず、膨大な移行コストの償還に対して賦課方式の社会プールのみでは賄えなか ったため、地方政府は個人口座積立金を年金給付に充てるようになった。加えて、個人口座 と社会プールは「社会保障専用口座(社会保障专用账户)」に入るが、両者における「分別 管理」が義務付けられておらず、運営主体も地方政府に委ねられたため、世界銀行の推計に よると、1998年まで全国における隠れ債務(implicit debt)規模はGDPの94%に達する と指摘された78。推計の方法やデータの取り扱いによって空口座規模に関する具体的な数値 が異なるが、最低1兆500億元という膨大な赤字を抱える中で、適切な対策が求められて いる79

第二に、個人口座の不均衡なバランスシートが挙げられる。

個人口座のバランスシートを保つには、原則的には、①個人口座の給付除数が都市人口の 実際の平均余命を反映し、②給付増加率は口座運営利回りと等しく、③遺族に対する個人口 座の残高支給を行わないという三つの条件を満たさなければならない80

しかし、現制度の年金支給面において、個人口座は人口構造変化や経済環境の変容に連動 されないまま硬直な給付除数によって計算される。人的推計によると、女性の平均寿命は現

75 ここで各世代を切り分ける時間基準は制度が確立された1997年であり、1997年にすでに 退職した世代は「老人」、1997年に新たに就労市場へ参入した世代は「新人」で、その間の移 行世代は「中人」と呼ばれる。さらに、中国における年金制度では漸進的な改革を行うことが 多いため、「老人老办法、新人新办法」という原則に基づいて、退職世代に対しては既存改革 前の制度が適用される。

76 鄭(2016)8頁。

77 張霞・郭悦(2016)。

78 Dorfman & Sin(2000)。

79 楊(2005)。

80 楊(2016)92頁。

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在77歳まで伸びてきたが、法律上の退職年齢は1978年制度導入当時の設定から見直され ておらず依然として男性は60歳で、女性幹部は55歳(女性就業者は50歳)と定められて おり81、国際的に最も低い国の一つであると考えられる。さらに、被用者が死亡した場合、

個人口座残高は遺族によって継承されることが「社会保険法」によって法的に認められてい る。逆に、長生きしても死亡するまで給付される終身年金制度であるため、社会プールから 繰り入れを行わなければならず、これも間接的には政府補助に依存することになる。したが って、バランスシートにおける個人口座の赤字は、制度設計による給付段階の欠陥が少なか らず作用すると思われる。

表 2-2 個人口座の積立金残高に対する分析(万人、億元、%)

加入者数 名目積立金額 積立金残高 空口座規模 預金金利

2006 18,766.3 9,994 2.52

2007 20,136.9 11,743 786 10,957 4.14

2008 21,891.1 13,837 1,100 12,737 2.25

2009 23,549.9 16,557 1,569 14,988 2.25

2010 25,707.3 19,596 2,039 17,557 2.75

2011 28,391.3 24,859 2,703 22,156 3.50

2012 30,426.8 29,543 3,495 26,048 3.00

2013 32,218.4 35,109 4,154 30,955 3.00

2014 34,124.4 40,974 5,001 35,973 2.75

(注)ここで、名目積立金は本来あるべき規模を表すが、積立金残高は実際に確認できる積立金 規模である。また、預金金利は一年の定期預金金利を採用する。

(資料)定期預金金利は中国人民銀行貨幣政策司より、加入者数は『中国統計年鑑2015』、その 他は『中国養老金発展報告2015』より

一方、収入面から、表2-2でまとめられたように2006年から加入者数が年々増加する にもかかわらず、個人口座の空口座規模は年々増加し、2014年には3兆5,973億元まで拡 大した。確かに、現役世代の増加に比べて退職世代が急速に増え続けていることによる部分

81 「機関事業単位における県処級女性幹部(県処級は国家機関単位の職務等級の一つであり、

その上には庁局級、省部級と国家級が設けられている)や高級職階の女性専門技術者に関する 退職年齢の通知(关于机关事业单位县处级女干部和具有高级职称的女性专业技术人员退休年龄 的通知、2015年、14号)」によれば、機関事業単位に勤める県処級の女性幹部と専門職にお ける女性の高級技術者は60歳に定年退職することが可能であると認められている。それ以外 にも中国社会科学院(国務院直属の事業単位)をはじめ退職年齢の引き上げを主張する声が高 まっているが、法律上では依然として見直されていないのが現状である。

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もあるが(支給面の圧力)、それ以外に現役加入者の未納・滞納の可能性も十分に考えられ る。

人力資源と社会保障部(日本の厚生労働省に相当)の統計によると、2015年に年金加入 を中断した被用者は 3,887 万人に達する。というのは、年金を含む社会保障負担率が労使

合計で40%を超えている現状で、高負担率を理由に、中低層および中小企業に敬遠される

ことが少なからず存在する。さらに、制度設計において最低加入年数を15年と定められて いるが、長期加入のインセンティブが機能せず、15年で年金受給資格を満たしてから拠出 を中断することも一現象としてマスコミで報道された82。同時に、省別管理によって省境を 超える年金制度の携帯性が乏しいため、人口流動に対応できない点も年金未納・滞納を加速 し、個人口座部分における収入源の確保が困難になる。

第三に、個人積立金の運用収益率が極めて低いことである。

すでに言及したように、中国における公的年金制度の大きな特徴として、地域別に分散さ れた管理運営が挙げられるが、個人口座の積立金も地方政府によって管理されるのが一般 的である。実際には、1991年から「省レベルによる統合(省级统筹)」をスローガンに挙げ てきたが、厳密にいうと、現在4省・直轄市しか目標を達成していないと考えられる。した がって、省内においても「郷」や「市」ごとに異なる年金制度となっていることもしばしば みられる。また、限られた年金規模の安全性を確保するために、その大半を決められた銀行 預金(全体の99%)あるいは国債購入(全体の 1%)で運営することが「社会保障基金財 政専用口座管理に暫定方法(社会保障基金财政专户管理暂行办法、1999年、117号)」の第 十四条によって義務づけられている。

しかし、近年における銀行預金の運用利回りが 3%にすぎないことが問題視されている。

サミュエルソン=アーロンパラドックスによれば、積立方式が有効であると思われるのは 利回りが賃金上昇率と人口増加率の和より大きい場合であるが83、高度成長期を経験してい る中国において、3%未満の運用利回りは極めて低い水準であるといえる。さらに、2011年 の物価上昇率が5.4%であったことを加味すると、個人口座の積立金の実質価値は、むしろ 減少傾向にあるといっても過言ではない84。したがって、財政補助金の充実化を通じて個人

82 さらに、『中国企業社会保障白書2015(中国企业社保白皮书2015)』では、50%以上の被用 者が離職する際に保険料の拠出を中断すると指摘した。

83 高山(2004) 179-180ページ。

84 鄭(2008)。