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都市部における環境変容と年金改革

第 1 章 中国における公的年金制度の展開

第 3 節 体制移行期における環境変容と年金改革

3.1 都市部における環境変容と年金改革

1978 年に改革開放を初め、1993 年に社会主義市場経済体制政策が正式に打ち出され、

資源配分メカニズムが計画から市場へ大きく変容するようになった。市場原理の導入と相 まって、従来の年金制度を成り立たせた諸外部条件が崩れ始め、市場経済に適応するような 年金構造改革も余儀なくされた。言い換えると、前述図1-1の都市部国有企業の労働者に 限定した「国有単位福祉」から全労働者を対象とする「社会福祉」へ移行する社会化改革が 必要となり、普遍主義的な福祉が社会的に求められるようになった。すなわち、市場経済の 導入やグローバル化と相まって、旧ソ連型の労働保険制度を参考にした従来の福祉制度の 枠組みから踏み出し、より広い視野から構造的な見直しを行うことが必要とされた。

諸外部条件のうち人口構造から見ると、1982年から「一人っ子政策」が正式に基本国策 として憲法に書き込まれるようになったが、それに伴う年少人口と生産年齢人口の減少が 大きく懸念されるようになった。前述した急速な人口高齢化を念頭に置くと、近いうちに人 口ボーナス期の終焉を向かうことになると考えられるが 、膨大かつ貧困な高齢者が急増す ると予測される中、年金制度をはじめとする社会保障制度の整備が極めて重要になる。さら に、戸籍制度の緩和を背景に人口の地域分布に歪みが生じ、特に「沿海地域を優先する戦 略」によって東部地域への人口集中が深刻化したが、年金制度の展開においても同様な地域 から先行的に取り組みをスタートした。

一方、産業構造においては、工業化の進展につれて、都市部では製造業を優先する戦略に シフトし、中国型の高度成長期を迎えることが実現された。しかしながら、国有企業を主と

43 例えば、沈(2014)114ページと柯(2014)173ページ等で議論されている。

44 朱(2009)198頁。

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していた非効率的な生産方式は、労働力、土地や資源に対する過剰な依存によってエネルギ ーの浪費や環境問題をもたらし、国有企業の効率性を向上させることが重要課題として提 起された。その中で、サービス業等の三次産業の台頭もみられ、年平均 10%を超える勢い で増加し、二次産業を上回る主役になりつつある状況に直面した。

市場メカニズムの導入に対応するため、「統収統支」の財政制度も改革に迫られるように なった。地方政府と国有企業に経済的インセンティブを与える目的から1970年代に「財政 請負制」を導入したが、中央政府により請け負った税収上納額を上回る部分に対して、地方 政府が自主財源として取り扱うことが認められたと同時に、関連する投資規制の緩和等の 地方分権化改革が行われた。これは、中央政府への財源と権限の高度集中構造が根本的に改 革されたことを意味し、地方政府が独自の利益主体として形成されるのに対して大きく寄 与した。相対的に、中央政府の財政力と財政調達能力が低下し、地域間競争が拡大される中 で、地域間の分断化を促すことにつながった45

同時に、国有企業に対して行われていた「統収統支」も、1983年に「利改税(利潤上納 を廃止し、企業所得税を導入する)」制度へ見直された。これによって、納税後の利潤留保 が認められるようになり、経営自主権の確保と、国有企業の活性化を図った46。中央財政か ら国有企業に対する無償の資金提供も、「抜改貸」といわれる有償の銀行融資に変更され、

国有企業の財務会計と政府財政の一体化という計画経済期の財政構造が崩壊し始めた。政 府と企業の財務関係が解体し、企業会計と公共財政が分離すると、従来の年金制度は「形式 上の企業負担」から「実質上の企業負担」になり47、国有企業間における年金保険料負担も それぞれ異なるようになった。加えて、企業所得税の導入は、政府財政から企業財政を分離 することを意味するが、競争市場の中で企業は自ら利益を追求するようになり、これまで担 ってきた社会的機能はこの目標と矛盾する関係にある。ゆえに、年金保険料負担における国 有企業間格差のみならず、保険制度が適用されない私営・外資企業との間でも市場参入条件 の違いが生じ、国有企業の更なる非効率化や競争力の低下を招来した48

賃金制度においても、1979年から一連の賃金制度改革により企業の自主決定権が徐々に

45 このような局面を見直すために、1994年において分税制改革を行ったが、具体的な取り組 みについては本論文の第5章で考察を行っている。

46 張(2000)。

47 林(2000)。

48 何(2008)45-76ページ。

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拡大され、企業内分配制度が正規化された49。内部留保が認められるようになった企業は、

賃金設定において業績と関連する「浮動賃金」制度を導入し、生産性と比例して決定するこ とが可能となった。同時に、雇用制度に関しても、1986年から労働契約制度を導入し、硬 直した従来の終身雇用制度を見直した。企業側に解雇権が与えられた一方で、個人の職業選 択に関する自由度も高まり、併せて、補完制度として失業保険制度等のセーフティーネット を整備する工夫も加えられた50。国有企業における財務制度改革と前述した労働制度改革は 1984年から開始した国有企業改革の重要な構成内容として公的年金改革と密接に関連する と考えられる51。これらの改革を通じて、中央による「統包統配」制度が本格的に打破され、

労働力の配分において市場化が進められた。

他方、企業・就業構造では、私営企業や外資企業の合法化と、競争市場原理を導入して以 来、国民経済における非国有企業のシェアが大きくなった52。それにより、従来における「年 金制度の適用対象と公的所有制度の間に存在した補完的関係」が喪失するだけでなく、従来 の国有部門に限定されていた年金制度にカバーしきれない労働者が増加し、所有形態間に おける不平等な取り扱いが社会的に問題視された。加えて、「抓大放小」と言われる「国有 企業(大規模で中枢的な国有企業以外)の民営化」も大きく進行されたため、結果として企 業の所有形態が多様化するようになった。中小企業が大量に増加し、比較的に解放された雇 用環境のもとで、従来の国有企業における終身雇用制度が崩壊しはじめ、農村部からの出稼 ぎ労働者等を代表とする非正規雇用の拡大に条件を与えた。

全体的にまとめると、体制移行を経験する中で、都市部の年金制度を取り巻く環境が表1

-2 のような変容を遂げてきた。市場経済へ移行することによって社会経済環境が変化し、

そこで従来の単位保障制度が機能できなくなったと考えられる。したがって、比較的に柔軟 な労働市場が形成される中で、社会経済システムの変化に対応するような年金制度、言い換 えると、①非国有部門まで適用するような、②社会化した保険制度を求める声が高まった。

そのため、1984年の「中外合弁経営企業の労働管理規定実施方法(中外合资经营企业劳动

49 同上59ページ。

50 丸川(2002)26ページ。

51 鍾仁耀(2005)59-60ページ。

52 例えば、固定資産投資額を所有形態別でみると、1980年における非国有経済の割合は 18.1%であったが、1981年には30.5%へ上昇し、その後1997年には47.5%まで高まった。ま た、都市部における非国有部門の被用者割合も改革開放以降に徐々に増加したが、1975年の 21.8%から1985年は29.8%、1998年には56.2%と総人口の半分を超えるようになった。

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管理规定实施办法)」や 1988年の「中華人民共和国私営企業暫定方法(中华人民共和国私 营企业暂行条例)」によって合弁企業や私営企業等多様な所有形態をカバーするようになり、

その後1991年には「国務院による企業就業者年金制度改革の決定(国务院关于企业职工养 老保险制度改革的决定、33号)」において個人・企業・国家という三者負担の枠組みを明示 した。さらに、各地域における試行錯誤を経て、1997年には「部分的積立方式」による社 会化した就業者制度に抜本的に改革され、2005年において一部見直しを行った。繰り返し になるが、都市部の被用者を対象とする就業者年金制度は、公的年金制度の中で中核的な役 割を果たすため、本論文の第2章で改めて詳しく考察することにしたい。

表1-2 改革開放前後の社会経済環境

社会経済環境 計画経済期 改革開放

人口状況 農民が大半を占める(1960年代80%強、

1970年代70%強)、人口ボーナス期

東部沿海地域への人口集中、

一人っ子政策

産業構造 第一次、第二次産業を中心に 第二次、第三次産業へシフト

財政方式 統一徴収、統一分配 財政請負制

企業形態 国有化改革 国有企業の民営化(抓大放小)、多 様化した非国有経済の出現と成長

企業財政 政府財政と一体化 利改税、抜改貸

雇用・賃金制度 統包統配、終身雇用制、等級賃金制 労働契約制、浮動賃金制

(資料)各時期の行政法令に基づいて筆者作成

一方で、都市部における公共部門である「機関事業単位」では、恩給制度としての「退職 金制度」を長年継続したが、官民格差に対する社会的反発から2015年において抜本的改正 が行われた。本論文における課題の一つである「被用者年金制度における官民格差」につい ては第4章で具体的に展開する。

3.2 農村年金制度の導入と改革