• 検索結果がありません。

KC Corpus における対格「을/를[ul/lul]」の調査

第 4 章 学習者コーパスによる SCH の検証

4.3 日本人韓国語学習者のコーパスによる SCH の検証

4.3.2 KC Corpus における対格「을/를[ul/lul]」の調査

まず,SCH の予測(6a)(対格「を」と対格「을/를[ul/lul]」が対応する場合,どちら も無標なので対格「을/를[ul/lul]」の学習は易しい)についてKC Corpusを用いて調査 を行う.KC Corpus における日本人韓国語学習者の対格「을/를[ul/lul]」のレベルご との正用及び誤用の用例数は表14,15の通りである112.なお,韓国語の「을/를[ul/lul]」

の使い分けについては,既に3章の注64で説明したように,先行する語が母音で終わ る場合は「를[lul]」または「ㄹ[l]」,子音で終わる場合は「을[ul]」が現れており,相 補分布をなす(奥田一廣(1976: 2)).そのため,両者に意味上の違いはない.

表14: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の対格「을/를[ul/lul]」の正用

レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 レベル6 을[ul]正用 0 527 63 37 136 8

를[lul]正用 0 344 71 40 63 9 合計 0 871 134 77 199 17

表15: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の対格「을/를[ul/lul]」の誤用

レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 レベル6 을[ul]誤用 0 26(84) 2(9) 0(2) 7(11) 0

를[lul]誤用 0 14(47) 1(7) 2(5) 3(7) 0(1)

合計 0 40(131) 3(16) 2(7) 10(18) 0(1)

まず,対格「을/를[ul/lul]」の正用についてだが,データの中で最も学習経験の少な い学習者(レベル2)であっても,かなりの数の正用が見られる.共起した述語について

112 この表の用例数は,それぞれ「case particle」を選択し,得られたデータである.この 中には,二項動詞以外の対格「을/를[ul/lul]」についても含まれている.表15の( )内 は文法的誤用「grammatical errors」の数であり,共起する名詞の誤用や表現の誤用につ いても含まれているため,除いた数を( )なしで示した.

92

は,「食べる」,「知る」,「勉強する」,「買う」,「見学する」,「交換する」,「描く」,「踊 る」,「使う」,「抱く」,「恐れる」,「理解する」,「見る」,「繋ぐ」,「表す」,「持つ」な どである.初級レベルの学習者であっても,具体的な動作を表す動詞だけではなく,

具体的動作を伴わない知覚動詞や感情を表す動詞にも正用が見られる.

誤用については,綴りや文体の誤用は除いた.また,韓国語の場合,前述したよう に,先行する語が母音で終わる場合は「를[lul]」または「ㄹ[l]」,子音で終わる場合は

「을[ul]」という使い分けをするが,先行する名詞を間違えたために,後続する対格を 間違えてしまった例が見られたが,ここで問題にしている対格の誤用とは性質が異な ることから,本研究では,この誤用については問題としない.このような誤用を除く と,正用数に対して対格の誤用は非常に少ないことがわかる.

以 上 の 調 査 か ら , 学 習 経 験 が 極 め て 少 な い 初 級 の 学 習 者 で あ っ て も 対 格

「을/를[ul/lul]」の習得は,かなりの数で正用が見られること,誤用が少ないことから,

習得は易しいことが示唆され,(6a)の予測については正しいことが示唆された.

次節では,同じコーパスを用いて,SCHの予測(6b)について検討する.

4.3.3 KC Corpusにおける「타다[thata](乗る)」,「만나다[mannata](会う)」の 格標識の調査

次に,SCHの予測(6b)「与格の格標識「に」と対格「을/를[ul/lul]」が対応する場合,

より無標な「을/를[ul/lul]」の学習は難しくない」について,KC Corpus を用いて調 査する.

与格の格標識「に」と対格「을/를[ul/lul]」が対応する場合の用例については,韓国 語のケースとの比較をするため,4.2.4で取り上げた「乗る」と「会う」の2つの動詞 について調査する.まず,「타다[thata] (乗る)」についてのデータを紹介し,その後で,

「만나다[mannata] (会う)」についてのデータを見る.

調査方法については,目的格の格標示がどのように用いられているのかを調査する ため,目的語が明示されている文に限定した.その結果,「타다[thata](乗る)」は7例,

「만나다[mannata](会う)」は14例のデータが得られた.ここでは限られたデータで はあるが,ここから分析できることについて順に説明する.表16はKC Corpusにお ける日本人韓国語学習者の「타다[thata] (乗る)」について,目的語が明示された文に

93

ついての正用数と誤用数を示したものである.表17は,KC Corpusにおける日本人 韓国語学習者の「타다[thata] (乗る)」のレベルごとの使用の内訳を示したものである.

表16: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「타다[thata] (乗る)」の使用

目的語発話あり 目 的 語 に 格 を つ け な い (φ)

正用 誤用

7例 なし 5例(71.4%) 2例(28.6%)

表17: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「타다[thata] (乗る)」のレベルごと

の内訳

レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 レベル6 正用(을/를) 0 0 0 0 5 0

誤用(에) 0 1 0 0 1 0

乗るに関しては,コーパスに現れた用例が少なかった.限られた例ではあるが,以 下に用例を示す.なお,( )内の和訳は学習者自身による母語訳である.[ ]内は,KC

Corpusで提示されている正しい韓国語を示す.

(7) KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「타다[thata](乗る)」の正用(一部抜粋)

【レベル5 - k0057】유학에서 난생 처음 한국에서 버스를 탔습니다.

(私は今回留学してはじめて韓国のバスに乗った.)

【レベル5 - k0057】버스를 타기 전에 제가 탈 버스가 모르는 만큼 노선이 맣고

[버스는 모르는데 정류장이 많고,] 탈 버스를 찾아도 정류장 앞까지 버스가 오지

않아서 버스를 타기위해 뛰어야 했습니다.

(バスに乗る前に,乗るバスが分からない程,路線が多く,乗るバスを見つけてもバス 停前までバスが来ないのでバスに乗るために走らなければならなかった.)

【レベル5 - k0057】버스를 타기 후도[탄 후에도] 버스가[버스의] 달려서[속도가 빨라서] 너무 흔들기에[흔들려서] ...

(バスに乗った後もバスがとばして,ゆれるので…)

94

【レベル5 - k0057】무엇보다 버스를 타서[타고] 일본과 다른다고 생각한 것은 ...

(何よりバスに乗り日本と違うと思ったことは…)

(8) KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「타다(乗る)」の誤用

【 レ ベ ル 2 - k30022】자전거에는[자전거를] 타지않고 걸어[걸어서] 멀리 나감 하거나...

(自転車には乗らず、歩いて遠出したりします。)

【レベル5 - y30013】저는 바이크에[오토바이트를] 절[자주] 타요.

(いつも私はバイクに乗ります。)

(7)の正用の5例は全てレベル5の同じ学習者の例であったため,学習が易しいかど

うかはこれだけでは判断が難しいと思われる.誤用については,レベル 2,レベル 5 に1例ずつの合計2例であり,誤用が少ないので,学習が易しいことを示唆する.

次に,「만나다[mannata](会う)」のデータについて述べる.表 18 は,KC Corpus における日本人韓国語学習者の「만나다[mannata](会う)」の正用数と誤用数を示した ものである.なお,正用例には「와/과/하고[wa/kwa/hako](と)」(3例)も含んでいる.

また,韓国語の対格を用いているが、形式の誤用(韓国語では,対格の前が母音か子音 かによって「을/를[ul/lul]」を使い分けるが,その使い分けの誤用,1例)もここでは対 格を用いているため正用に含めた.表19は,「만나다[mannata](会う)」のレベルごと の使用の内訳を示したものである.

表18: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「만나다[mannata](会う)」の使用

目的語発話あり 目的語に格をつけな い(φ)

正用 誤用

14例 なし 12例(85.7%) 2例(14.3%)

95

表19: KC Corpusにおける日本人韓国語学習者の「만나다[mannata](会う)」のレベ

ルごとの内訳

レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 レベル6 正用(을/를) 0 2 0 3 1 3

正 用

(와/과/하고)

0 2 1 0 0 0

誤 用

(에/에게)

0 2 0 0 0 0

「만나다[mannata](会う)」の正用は,12 例(85.7%)と高かったため,(6b)の仮説が 正しいことを示唆している.「만나다[mannata](会う)」の2例(14.3%)の誤用は,どち ら も レ ベ ル 2 で ,「만나다[mannata](会 う)」 の 目 的 語 の 格 標 示 の 誤 用 と し て ,

「에/에게[ey/eykey]」を用いているものであった.(9)は、母語転移のケースとして分 析される.

(9) 【レベル2 - y0007】저는 여러분에게[여러분들을] 만나서[만나게 되서]

반갑습니다.

(私はみなさんに会えてうれしいです。)

【レベル2 - y10019】「마이고」씨나「게이샤」씨에[「마이고」나 「게이샤」를]

만나다[만날] 일을[φ] 할[φ] 수 있습니다.

(「舞子」さんや「芸者」さんに会うことが出来ます。)

また,正用例として,「와/과/하고[wa/kwa/hako](と)」の形式で用いられているもの が3例(21.4%)あった.しかし,9例(64.2%)が対格「을/를[ul/lul]」を用いており,目 的語を対格で標示する方が多かった.対格の標示を学習するのが難しくないことが示 唆される.

「와/과/하고[wa/kwa/hako](と)」については,レベル2,レベル3で見られるが,レ ベル4以降では「을/를[ul/lul]」の正用のみであり,このデータも対格の学習は難しく ないことを示唆している.

最後に,学習者コーパスの分析が示唆していることについてまとめる.コーパスの

96

データの不足の問題はあるが,「만나다[mannata](会う)」・「타다[thata](乗る)」につ いては誤用が少なかったことから,日本語で与格で目的語を標示するが,韓国語で対 格「을/를(ul/lul) 」で目的語を標示する用法は学習が難しくないというSCHの予測が 支持されることを示唆している113