• 検索結果がありません。

第 6 章 他動性と動詞の頻度による仮説の検証

6.2 研究方法

国立国語研究所のプロジェクトによる「C-JAS(Corpus of Japanese As a Second

language,以下C-JAS)」を用いて調査を行う.C-JASの詳細については,第4章で述

べたとおりであるが,日本語学習者の縦断的な発話コーパスである.韓国語母語話者3 名の3年間の発話を対象として分析する.4章の分析では,同じコーパスを用いて対格

「を」の正用について,学習初期から発話されていることを示し,習得が易しいことを 示唆した.しかし,動詞の意味的な分析については行っていなかった.さらに,本章で は対格「を」の習得に加えて,与格「に」の習得についても分析を行う.

個別の動詞の頻度については, 国立国語研究所と Lago 言語研究所が開発した

「NINJAL-LWP for BCCWJ(以下NLB)」を利用した143.NLBは,国立国語研究所が 構築した「現代日本語書き言葉コーパス(Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese: BCCWJ)」を検索するために開発されたオンライン検索システムである.

まず,C-JASの韓国人日本語学習者の「を」・「に」の正用を検索し,そのうち,二項

動詞の目的語の格として「を」「に」を取るものに限定した144.そして,それぞれの動 詞の頻度をNLBで調査した.

143 <http://nlb.ninjal.ac.jp/search/> (2016年8月28日閲覧)

144 ただし,「に」については,副詞句や三項動詞の目的語を標示する「に」は除くが,よ り広く分析するため「行く」,「入る」などGoalを表すような「に」等についても取り上 げ,二項動詞の目的語を標示する「に」の初出時期とどのように異なるかについても論じ る.

135

6.2.1ザトラウスキー(2007)による角田(1991)とH&T(1980)の他動性の認定 方法

他動性の基準に関しては,ザトラウスキー(2007)の分析を参考にした.ザトラウスキ ー(2007)は,アニメを再現して語る談話の分析を行っている.以下では,ザトラウスキ ー(2007)の方法論について簡単にまとめ,本研究が用いる他動性の基準について説明す る.

ザトラウスキー(2007)は,アニメを見た人がそのストーリーを別の一人に語っている ビデオを分析対象とし,談話における節についてHopper and Thompson(1980)の他動 性の10の特徴と角田(1991)の他動性の8つの特徴を用いて分析し,両者の合計を計算 した.そして,その合計が多いほど他動性が高いと認定した.まず,アニメの語りにお ける発話のうち,重要だと思う発話を9人の被験者に指摘してもらい,指摘数が多いほ ど発話の「重要度」が高いと認定した.そして,Hopper and Thompson(1980)の連続 性を基準とし,順番を変えると実際に起こった出来事が変わる節を「+連続性」,変わ らない節を「-連続性」と定義し,対象とした98節について「+連続性」(58節)と「-

連続性」(40節)に分けた.さらに,ザトラウスキー(2007)は,この98節を対象にHopper

and Thompson(1980)の他動性の10のパラメータと角田(1991)の8つの特徴を認定し,

それぞれの合計と「重要度」,「連続性」との関わりを調査した.

ザトラウスキー(2007)は,①「H&T(1980)と角田(1991)を比較して,各節に対してど ちらの方法の合計,各特徴のうちどれが重要度と密接な関係があるのか」,②「各節に 対してどちらの方法の合計,各特徴のうちどれが連続性と密接な関係があるのか」とい う2つの観点から考察を行っている.以下では,ザトラウスキー(2007)の具体的な方法 論を取り上げ,本研究が用いる分析の枠組みについて明確にする.

まず,ザトラウスキー(2007: 322)は,Hopper and Thompson(1980)の10の特徴につ いて,「特徴が当てはまる場合は1点,当てはまらない場合は0点」という数値化を行 った.ザトラウスキー(2007: 322)では,アスペクトについては,基本的には「シタ」が 完了,「スル」が未完了であると判断するが,「『ル』形で終わっていても談話の流れで 完了と認定する節もあった」と説明している.そして,動作主性については,ザトラウ スキー(2007: 322)では,Hopper and Thompson(1980)の「動作主性の指標(Index of

136

Agency)145」を一部修正し,(2)のような「動作主性の指標」を用いて分析した.

(2) 三人称の人間・生物を表す人称代名詞>固有名>人間・生物を表す名詞>

無生物の名詞

ザトラウスキー(2007: 322)は,対象としたアニメの語りについて,登場人物が全員ペ ンギンであるためHopper and Thompson(1980)の「動作主性の指標」の「人間」を「人 間・生物」に変えたと述べている.

そして,ザトラウスキー(2007)では,角田(1991)に基づく他動性の特徴の認定も行っ ている.ザトラウスキー(2007: 323)は,次のような基準で「①以外の特徴それぞれにつ いて,特徴が当てはまる場合は1点,当てはまらない場合には0点」という点数化を行 った.

(3) ザトラウスキー(2007: 323)による角田の8つの特徴の認定146

①「参加者二人以上」は,二項文と三項文があり,1点としたが,「帰る」,「来る」,

などの行き先があるものは参加者が1.5あると考えられるため,0.5にした.一 項文は0点とした.

②「動作が対象に及ぶ」は,「行き先があるもの」(「帰る」,「来る」,「乗る」,「当 たる」など)である.

③「変化を起こす」は,AがOに変化を起こす場合(「引っ張る」,「投げる」など) である.「SまたはAのみの移動変化」や「変化が起こるがOがないもの」は「変 化を起こす」という条件を満たさない.

④「『が-を』は『が-を』の構文を取る節は1点,それ以外は0点にした.」

⑤「『直接受動文』は,現在日本語ではかなり揺れている面があるため (中略) 認定 はやや控えめになっている.」

145 Hopper and Thompson (1980: 287)では,「動作主性の指標」について,「三人称の人

間を表す人称代名詞>固有名>人間を表す名詞>無生物の名詞」という階層を提示し,

「三人称の人間」は4点から無生物の名詞は1点まで点数が割り当てられ,この順に動作 主性が低くなると述べている.

146 ザトラウスキー(2007: 323)は,「角田の8の特徴の認定」という節で①~⑤,⑧につい て記述しているが,⑥間接受動文,⑦再帰文については基準の具体的な言及がなされてい なかった.

137

⑧「『相互文』を認定する際,控え目に考え,『AとBが叩き合う』のようにAが Bに対する関係はBがAに対する関係と同じである場合,つまり,互いに『被 動作主(Patient)』になっている場合のみにした.」そのほかに,「集合的」な場合 (「子どもが一緒に出た」など)や所有格を伴う場合(「互いの町を通り合う」など) も相互文として認定しなかった.

6.2.2 他動性の認定の基準

本研究では,ザトラウスキー(2007)のより包括的な他動性の評価の基準を採用する.

理由は,5章で概観した先行研究では,他動性のパラメータの一部しか考慮に入れてお らず, 十分に他動性の特徴が規定されていなかったが,Hopper and Thompson(1980) のパラメータと角田(1991/2009)の基準の両方を用いることでより多角的に他動性の特 徴を捉えることができるからである.

まず,角田(1991/2009)の8 つの他動性の基準をどのように認定するかについて説明 する.以下の①~⑧について,基本的に当該の特徴を持つ場合は1点とし,持たない場 合は0点とした.

(4) 角田(1991/2009)の他動性の基準に基づく評価法

①参加者2人(2つ)以上:二項動詞文は1点とした.

②動作が対象に及ぶ:AからOに達する(物理的接触がある)場合を1点,感覚で捉 えることができる場合を 0.5点とした.(「見る」,「聞く」など角田(1991/2009) の二項述語階層の分類の2類「知覚」は3類の「追求」よりも相対的に対象に及 んでいる).

③変化を起こす:AがOに何らかの変化を起こす場合は1点とした.

④「が-を」:「が-を」の格枠組みを取る文は1点とした.

⑤直接受動文:直接受動文が可能な場合は1点とした.動詞自体が直接受動文が可 能な場合であっても,学習者の発話した文を直接受動文にできなければ0点とし た.

⑥間接受動文:間接受動文が可能な場合は1点とした.

⑦再帰文:「自分を(又は自分自身を)…する」という文を作れる場合は1点とした.

138

⑧相互文:「お互いに…する,…し合う」という文を作れる場合は 1 点とした.ザ トラウスキー(2007)と同様に控えめに考え,互いにPatientになっている場合の みとした.所有格を伴う「互いの椅子に座りあう」のような場合は相互文としな い.

次に,Hopper and Thompson(1980)による他動性のパラメータの判断基準について 述べる.「Participants(参加者)」および「Affectedness of O(被動作性,対象への影響)」

については,上記の角田(1991/2009)の基準と重なるため,入れていない.以下の 8 つ のパラメータについて分析する.

(5) Hopper & Thompson (1980)の他動性のパラメータに基づく評価法

①Kinesis(動作様態):動きを表す動詞の場合は1点とした.

②Aspect(アスペクト):完了を表す場合は1点とした.ただし,「ル」形で終わって いても談話の流れで完了と認定する節もあった.

③Punctuality(瞬間性):「開始と完了の間に明白な移り変わりを示す段階がなく行 われる行為(Hopper and Thompson(1980: 252))」の場合は1点とした.

④Volitionality(意図性):意図性がある文の場合は1 点,ない場合は0点とした.

どちらともつかない場合は0.5点とした.

⑤Affirmation(肯定):肯定文の場合は1点,否定文の場合は0点とした.

⑥Mode(現実性):「実際の出来事」の場合は1点とした.

⑦Agency(動作主性) :動作主性については,三人称・固有名なら1点,人間・生 物なら0.5点,無生物なら0点という基準にした.動作主が発話されていない 場合は文脈から推定して補った.

⑧Individuation of O(対象の個別化):以下の3つを基準とした.

human, animate(Oの有性性):Oが人間または動物であれば1点とした.

definite(定性):「あの先生」など指示詞が用いられている場合を1点とした.

referential(指示性):Oがその場に存在している場合は1点とした.

Hopper and Thompson(1980: 287)では,「対象の個別化」について,最も重要な役割 を果たしているのは,定性および指示性であると述べている.「Individuation of O(対

139

象の個別化)」は,「Oの有性性」,「定性」,「指示性」の3つを合計し,3で割った数を その値とした.

上記の角田(1991/2009)の8つの基準とHopper and Thompson(1980)の8つの基準 の合計 16 点満点を 10 点満点に換算したスコアを他動性の値とし,他動性 5 以上を

「高」,他動性4.9以下を「低」とした.具体例を表1に示す.(6)の例文番号と表1の

「例文」の番号は対応している.

(6) 表1の「例文」1~3に対応する例文

1. (テレビドラマでは147) 大したことじゃないのに,なんか人を,殺したり,する

ことが多い (K3-f)

2. 【国名I】の自動車と,【国名H】の自動車を勉強してー,韓国に,帰りたいで

す (K2-a)

3. はい,仕事を もったい,持ちたいです (K3-e)

表1: C-JASの分析の例

-を

O

合計

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0 1 1 1 1 0 1 0 1 0.7 13.7 8.5

2 1 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 1 1 1 0.5 0 0 0 0.0 6.5 4.1

3 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 0.5 0 0 0 0.0 5.5 3.4