第 4 章 中国語「V 有」に関する考察
4.3.1 I 型の「V 有」構文
4.2節で述べたように、「NP1+V 有+NP2」という基本構造をもつ「V 有」構文は I型と II 型に分かれる。I 型の「V 有」構文は「L(Location)+V 有+P(Patient)」という構造を もつ。I型では、NP1が典型的な場所名詞であり、動作主が完全に背景化され、話し手の関 心は目の前の対象にある。構文全体として、問題にされているのは動詞の表す動作の結果
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としてもたらされる対象の存在の状態である。ここでは 、「対象の存在様態48」と呼ぶこと にする。このような特徴は「V着」にも見られる。(4.58)、(4.59)に示されているように、
「V 着」における変化動詞 49は存在の様態、すなわち、どのような状態で存在しているか を表し、両者の違いは絵の存在の在り方にある(刘1985:121)。
(4.58)墙上 贴着 一幅 画。
qiángshàng tiē-zhe yīfú huà 壁上 貼る-ZHE 一枚 絵
(壁上に絵が一枚貼ってある。)
(4.59)墙上 挂着 一幅 画。
qiángshàng guà-zhe yīfú huà 壁上 掛ける-ZHE 一枚 絵
(壁上に絵が一枚掛けてある。)
(刘1985:121)
「対象の存在様態」を表す「V 有」構文は、話し手にとっての〈いま・ここ〉というリ アルな特定な時空間において実体が存在することを表す。典型的存在構文に一番近く、「現 場性」が強い、「知覚性」に富んだ広義の存在表現50であると考えられる。この場合、存在 動詞「有」が中心的な働きをなし、動詞 Vが二次的なものである。その根拠として、以下 の 4点が挙げられる。
まず、文(4.60)、(4.61)のように、1つの存在構文においては、I 型の「V 有」構文と 存在動詞を用いた典型的な存在構文とが等位接続できることが挙げられる。
48 「存在様態」は野村(1994、2003)、岡(2001、2013b)などの研究で用いられる用語である。本稿 でいう「対象の存在様態」は、これらの研究を参考にしている。
49 客体変化動詞と主体変化動詞両方が含まれている。刘(1985)では「表示状态的动词(状態を表す 動詞)」と呼んでいる。
50 広義の存在表現とは、「墙上挂着一幅画(壁に絵が 一枚掛けてある)」のように、 事物や人の存在だ けを表す典型的存在構文に対し、その存在の在り方を述べる描写性の高い構文である。
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(4.60)出 延平路, 上 堤岸,有 一 精致 的 小亭, 安置有 一尊 chū yánpínglù shàng dī′àn yǒu yī jīngzhì de xiǎotíng ānzhì-yǒu yīzūn 出る 道路名 登る 堤防 YOU 1つ 精巧 の 東屋 置く-YOU 1つ 台湾 现存 最大 的“泰山 石敢当”
táiwān xiàncún zuìdà de tàishān shígǎndāng 台湾 現存 最大 の 泰山 石敢当
(延平路を出て堤防に上ると、精巧な東屋があり、台湾で現存する最大の「泰 山石敢当」が置いてある。)
(『人民日报海外版』、2007-06-21)
(4.61)船身 为 樟木质 结构, 船头 有 两只 狮子 把守,
chuánshēn wèi zhāngmùzhì jiégòu chuántóu yǒu liǎngzhǐ shīzi bǎshǒu 船体 断定 楠木構造 船頭 YOU 2匹 獅子 守衛する 四个 角 各 挂有 一个 古香古色 的 宫灯,…略…
sìgè jiǎo gè guà-yǒu yīgè gǔxiānggǔsè de gōngdēng 数量詞 角 各 掛ける-YOU 1つ 古色蒼然とした飾り提灯
(船体は楠木で作られている。船頭には守衛の獅子が2匹あり、4 つの角にそ れぞれ古色蒼然とした飾り提灯が掛けてある。)
(北京人民广播电台、『城市零距离』、2008-07-31)
次に、I 型の「V 有」構文にある場所名詞句は動詞 V ではなく、本来の存在動詞「有」
が要求して出現していることである。(4.62)に示されているように、文(a)では、「叠(畳 む)」という動詞の意味には場所が必須項として指定されておらず、場所を表す名詞句「壁 橱里(押入れの中)」が現れたのは存在動詞「有」が要求しているからであると考えられる。
その理由としては、「叠(畳む)」が省略された文(b)が成立するが、「有」が省略された
文(c)は不自然になるからである。同様に、(4.63)が示しているように、文(a)では、
「绑(縛る)」という動詞には場所名詞句が必須ではなく、存在動詞「有」の要求で場所名 詞句「身上(体の上)」が現れたと考えられる。その理由としては、動詞「绑(縛る)」が 省略された文(b)が成立するのに対し、「有」を省略された文(c)が成立しないからであ る。
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(4.62)a. 壁橱里 叠有 被子。
bìchúli dié-yǒu bèizi 押入れの中 畳む-YOU 布団
(押入れの中に布団が畳んである。)
b. 壁橱里 有 被子。
bìchúli yǒu bèizi 押入れの中 YOU 布団
(押入れの中に布団がある。)
c. *壁橱里 叠 被子。 bìchúli dié bèizi 押入れの中 畳む 布団
(作例)
(4.63)a. 德国 媒体 报道 说, 这名 蒙面 男子 身上 déguó méitǐ bàodào shuō zhèmíng méngmiàn nánzǐ shēnshang ドイツ メディア 報道する 言う この 覆面 男 身体 绑有 炸药,…略…
bǎng-yǒu zhàyào 縛る-YOU 爆弾
(ドイツのメディアによると、この覆面の男の体には爆弾が 縛ってある。)
(『京华时报』、2006-11-27)
b. 这名 蒙面 男子 身上 有 炸药 zhèmíng méngmiàn nánzǐ shēnshang yǒu zhàyào この 覆面 男 身体 YOU 爆弾 (この覆面の男の体には爆弾がある。)
c. *这名 蒙面 男子 身上 绑 炸药 zhèmíng méngmiàn nánzǐ shēnshang bǎng zhàyào この 覆面 男 身体 縛る 爆弾
(作例)
また、典型的存在構文からなる問いの文に対して、I 型の「V 有」構文が自然に用いら
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れることからも、このタイプの「V有」構文が典型的存在構文に近いことが言えるだろう。
(4.64)―桌上 有 什么?
zhuōshàng yǒu shénme 机の上 YOU 何
(机の上に何がありますか?)
―a.(桌上) 有 一本 书。
zhuōshàng yǒu yīběn shū 机の上 YOU 一冊 本
(机の上に一冊の本があります。)
―b.(桌上) 放有 一本 书。
zhuōshàng fàng-yǒu yīběn shū 机の上 置く-YOU 一冊 本
(机の上に一冊の本が置いてあります。)
(作例)
文(4.64)のように、典型的存在構文からなる問いに対し、「V有」構文は典型的存在構 文と同様に自然な答えが成り立つことから見れば、このタイプを広義の存在表現の一種と 見なすことは正当であると考えられる。答え aにおいては、本の存在だけを述べているが、
どのような状態で存在しているかという問題については 特に言及されてはいない。答え b においては、本は散らかしている状態で存在しているのではなく、「置いた」状態で存在し ているというニュアンスが含まれている。
同様に、文(4.65)のように、壁に絵が存在していることを表すだけではなく、どのよ うな状態で存在しているのかも説明されている。すなわち、絵は貼られているのではなく、
描かれているのでもなく、壁に掛けられている状態で存在している。「対象の存在様態」を 表す「V 有」では典型的存在構文と比べ、対象の存在の在り方がより具体的に規定されて いると言える。この点に関しては、张編(2010:568)も動詞V が「有」を修飾・限定して いると指摘している。
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(4.65)墙上 挂有 一幅 画。
qiángshàng guà-yǒu yīfú huà 壁上 掛ける-YOU 一枚 絵
(壁に絵が一枚掛けてある。)
(再掲)
さらに、典型的存在構文「有」構文は一般に(4.66)のような構造をもっている。つま り、存在動詞「有」の前に場所を表す名詞句が現れ、「有」の後に数量詞または量詞を伴う 不定(indefinite)名詞句が現れる。
(4.66)「事物が存在する場所」+「有」+「不定の事物」
(望月1999:208)
これに対し、I 型の「V 有」構文も類似した構造をもっている。すなわち、(4.67)のよ うに、「V 有」の前に場所を表す名詞句が現れ、「V 有」の後に定名詞句ではなく、存在主 体を表す不定名詞句が現れる。よって、I 型の「V 有」構文と典型的存在構文とは同一構 造をもっていると言えるだろう。
(4.67)「事物が存在する場所」+「V 有」+「不定の事物」
上述したように、I 型の「V 有」構文が典型的存在構文に一番近いと見なすのが妥当で あると考えられる。
次に、認知文法の枠組みで I 型の「V 有」構文の合成構造を考察する。図 4-3 に示され るように、文(4.65)の合成構造は「挂-RP」と「有」という 2つの成分構造からなってい ると考えられる。
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R: 参照点 T: ターゲット D: 支配領域 RP: 結果述語 心的経路 一致
図 4-3. 「墙上挂有一幅画」の合成構造
「V 有」と言えば、まず「前項述語(Verb[V])+結果述語(Resultative Predicate[RP])」
という動補構造(V-RP)が想起される。動補構造は中国語文法における重要な概念であり、
アスペクトにも深く関わっている。中国語のアスペクト形式は結果補語に由来することは 既に明らかにされている。動補構造(V-RP)には、「V」の部分に先に動詞「挂」が入る。
図 4-3の左下の成分構造「挂-RP」では、動作主と対象がそれぞれトラジェクターとランド マークとしてプロファイルされている。対象の位置変化は含意されているが、プロファイ ルされていない。物の存在を表す右下の成分構造「有」と統合することによって、上位の 合成構造になる。この場合、存在を表す「有」がプロファイル決定子である。図では太線 のボックスで囲われる。場所名詞句が明示され、動作主が義務的に削除される。物の存在 様態が焦点化されて、先行する行為はあまりシフトされていない。
ところで、I 型の「V 有」構文には次のように、先行する動作・行為による結果性がほ とんど感じ取れない、性質のやや異なる文が存在している。
D D
有 挂-RP
t
t
T
R
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(4.68)水果里 含有 多种 维生素。
shuǐguǒlǐ hán-yǒu duōzhǒng wéishēngsù 果物の中 含んでいる 多く ビタミン
(果物の中には多くのビタミンが含まれている。)
(4.69)他们 占有 大量 房产 和 土地 tāmen zhàn-yǒu dàliàng fángchǎn hé tǔdì 彼ら 占有している 大量の家屋敷や土地
(彼らは大量の家屋敷や土地を占有している。)
(『中国語辞典』)
例えば、文(4.68)、(4.69)は眼前描写の表現ではない。これらの表現は時間軸に 位置 づけられていない時間外表現である。ここでは、「単なる状態」と呼ぶことにする。「単な る状態」は一般に具体的な動作や行為が読み取れず、物の属性や状態を語る表現である。
つまり、前述したように、この場合、言語主体は結果状態のほうに注目しすぎて、先行す る動作のほうにまったく関心を示さない。「単なる状態」を表す「V 有」はほとんど1つの 単語になり、辞書の語彙項目となっている。例えば、「含有」、「占有」などは既に辞書に載 せられている。
文(4.68)、(4.69)においても、存在動詞「有」の文法化の度合いはそれほど高くない ため、存在の意味は強く残されている。文(4.68)、(4.69)はそれぞれ文(4.70)、(4.71)
とほぼ同じ意味を表している。ただし、(4.70)、(4.71)より(4.68)、(4.69)がもってい る情報量は多い。例えば、文(4.68)では、「含(含む)」を、存在の在り方を規定する比 喩的な表現として捉えることも可能である。つまり、「水果里(果物の中)」という場所に
「维生素(ビタミン)」が包まれて存在しているという意味が表される。したがって、「単 なる状態」を表す「V 有」構文は「対象の存在様態」を表す「V 有」構文の一種であると 考えられる。
(4.70)水果里 有 多种 维生素。
shuǐguǒlǐ yǒu duōzhǒng wéishēngsù 果物の中 YOU 多く ビタミン
(果物の中には多くのビタミンがある。)