第 4 章 中国語「V 有」に関する考察
4.4 動詞に関する制限
4.4.1 主体動作・客体変化動詞
4.4.1.2 客体の状態変化
動作の主体が客体にエネルギーを伝達し、客体の状態 に変化が引き起こされる動詞の場 合、「有」が付くと、変化された状態の継続となる。
(4.92)衣服 上 绣有 各种 花纹 和 图案,…略…
yīfú shàng xiù-yǒu gèzhǒng huāwén hé túàn 服 上 刺繍する-YOU 各種 紋様 と 絵
(服には花模様と絵が刺繍してある。…略…)
(『人民日报海外版』、2012-07-13)
(4.93)台北 双层 观光 巴士 通体 呈 红色, 车身 两侧 táiběi shuāngcéng guānguāng bāshì tōngtǐ chéng hóngsè chēshēn liǎngcè 台北 二階建 観光バス 全体 赤色になっている 車体 両側 涂有 英文 “台北 观光” 字样。
tú-yǒu yīngwén táiběi guānguāng zìyàng 塗る-YOU 英文 台北観光 文字
(台北の二階建の観光バスは全体赤色となっている。車体の両側に英文の「台 北観光」という文字が塗ってある。)
(『人民日报海外版』、2017-04-07)
状態変化は位置変化の拡張であると考えられるが、その拡張を動機づけているのは一般 的な 空 間化 メタ フ ァー であ る (Goldberg 1995:81-84;Lakoff and Johnson 1999:178-186、
2003:258;谷口2005:30-34)。Lakoff and Johnson(1999)では、「位置」と「状態」との関 係について次のように指摘されている。
(4.94)a. States Are Locations(interiors of bounded regions in space)
b. Changes Are Movements(into or out of bounded regions)
(Lakoff and Johnson 1999:179)
109
すなわち、本来の空間的・位置的な変化を示す表現が状態変化を表すために用いられる。
(4.95)のように、本来の空間的位置を表す前置詞や動詞が状態の概念を表すことになっ
ている。これは空間化メタファーによる拡張であると考えられる。 一方、状態変化を表す 動詞を用いて位置変化を表すことはできない。つまり、状態変化は位置変化からの拡張で あると言える。従って、状態変化も空間的な位置変化を示す事態認知モデルで表すことが できる。
(4.95)a. I’m in love.
(Lakoff and Johnson 1999:180)
b. The jello went from liquid to solid in a matter of minutes.
(Goldberg 1995:83)
(4.96)a. *The car became in the park.
b. *John became to the bathroom.
(谷口2005:34)
(4.93)にある動詞「涂(塗る)」の表す概念構造は図 4-8 に示すことができる。図 4-8 では、動作主(人)と対象(ペンキ)がそれぞれ trとlmとしてプロファイルされている。
「対象が目標場所に付着するプロセス」は ISに存在しないが、動詞によって喚起が可能な 意味である。「涂(塗る)」の後ろに「有」をつけると、塗られた結果状態がプロファイル されて、「結果の状態での存在」が示される。
Cause Change State
エネルギーの伝達 状態の変化 一致
IS: 直接スコープ(immediate scope) MS: 最大スコープ(maximal scope)
図 4-8. 「涂」の概念構造
人 ペンキ
塗ってある tr lm
MS IS
t
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ところで、「印(刷る)」、「写(書く)」などは一般に生産動詞とも呼ばれ、動詞の表す 動作が限界に達した後に、存在物がある領域に出現することを表す。「写(書く)」の概念 構造は図 4-9で示すことができる。動詞「写(書く)」の後に「有」をつけると、存在物(文 字)の存在状態が続いていくという意味になる。図 4-9 に示されるように、元々対象が存 在しないことから、これらの生産動詞の表す事態がプロトタイプの客体状態変化動詞から やや逸脱していると言える。しかし、生産動詞の表す動作によって、ある場所に対象が存 在しない状態から存在する状態になるという点から見れば、 やはり客体の状態変化として 捉えることができると考えられる。例えば、「写(書く)」という動詞の表す動作によって、
紙などに字が現れて状態変化が引き起こされたと解釈できる57。すなわち、「写(書く)」
という動詞が表す事態には 2 つの側面が含まれている。1 つは、文字がない状態からある 状態になるという「物の出現」である。もう 1つは、文字が現れることによって、その場 所において状態変化が起こされるという「場所の状態変化」である。
Change
Agent Change
図 4-9. 「写」の概念構造(谷口 2005:69 を参考に作成)
文(4.97)では、「写(書く)」という動作が終わった後に、対象「名片(名刺)」に「欧 洲《红楼梦》研究协会会长(欧州『紅楼夢』研究協会会長)」という文字が現れ、客体の状 態変化が確認される。動詞「写(書く)」の後ろに「有」がつくと、現れた状態が引き続き 存在していることを示している。文(4.98)では、「挖(掘る)」という動作が行われる前 に、地面に井戸があるわけではない。動作が終わった後に、井戸が現れてくるわけである。
そして、動詞「挖(掘る)」の後ろに「有」がつくことにより、地面に井戸が掘られた状態 で存在していることが表される。
57 副島(2009)も「書く」、「作る」などの生産動詞を主体動作・客体変化動詞と分類し、他動性の高 い動詞と考えている。
Patient(紙など)
文字 tr
lm
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(4.97)他 的 名片 上 写有 “欧洲《红楼梦》 研究 协会 会长”
tā de míngpiàn shàng xiě-yǒu ōuzhōu hónglóumèng yánjiū xiéhuì huìzhǎng 彼の名刺 上 書く-YOU 欧州 紅楼夢 研究協会 会長
(彼の名刺には「ヨーロッパ『紅楼夢』研究協会会長」と書いてある。)
(『人民日报海外版』、2015-05-08)
(4.98)楼内 挖有 水井,…略…
lóunèi wā-yǒu shuǐjǐng 建物 掘る-YOU 井戸
(建物の中に井戸が掘ってある。)
(『华东新闻』、2006-01-28)
このようにして、位置変化を表す動詞と状態変化を表す動詞の場合、「V有」が表す結果 状態の継続は、主体動作・客体変化動詞の結果性と存在動詞「有」の静止的な継続性とが 相まってもたらされたものであると考えられる。