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第 4 章 中国語「V 有」に関する考察

4.5 対象指向性

対象の存在様態を表す I 型の「V 有」に用いられる動詞は主に主体動作・客体変化であ る。これらの限界動詞に「有」を付けることによって、動作主が義務的に削除されて、話 し手の関心は客体である対象にあり、「対象指向性」をもつことが容易に理解できるだろう。

ただし、I型の「V有」には、「落(落ちる)」、「长(生える)」などの主体変化動詞が用い られる場合がある。これらの主体変化動詞は客体の変化ではなく、主体の変化を表すため、

客体対象に話し手の関心が示される「対象指向性」の説明は適用されないように見える。

しかし、4.2節で述べた「非対格性の仮説」を用いると、I型の「V有」は主体変化動詞が 現れているにも関わらず、「対象指向性」をもっていることを 説明できる。既に述べたよう に、非能格動詞は参与者が自力的に、意図的に行為をなす自律的事態である。これに対し て、非対格動詞は意図的ではなく、他の参与者からの力を受けて行為が行われる依存的事 態である。

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(4.107)记者 看到、 石径 上 落有 松针 松果、…略…

jìzhě kàndao shíjìng shàng luò-yǒu sōngzhēn sōngguǒ 記者 見かける 石径 上 落ちる-YOU 松の葉と実

(記者は石径に松の葉と実が落ちているのを見かけた。)

(再掲)

(4.108)过 了 一会儿、老板娘 端来 一碗 汤、 汤上 guò le yīhuìr lǎobǎnniáng duānlái yīwǎn tāng tāngshàng しばらく経つと 女将 持ってくる 1つ スープ スープの上 漂有 蛋花。

piāo-yǒu dànhuā 漂う-YOU 卵の花

(しばらく経つと、女将はスープを持ってきて、スープの上に卵の花が漂っ ている。)

(『市场报』、2007-07-10)

文(4.107)では、主語の位置に立つ「松针松果(松の葉と実)」は自力的・意図的に石 径に落ちたわけではなく、風などの外力によって落下したと考えられる。つまり、目的語 相当すると考えられる。同様に、文(4.108)では、「蛋花(卵の花)」が自力でスープの上 に現れるわけではない。動作主体の働きかけによってスープの上に漂っているという結果 状態になったわけである。図 4-12 と図 4-13 に示されるように、(4.107)、(4.108)にある

「落(落ちる)」と「漂(漂う)」は主体変化動詞であることにも関わらず、対象の変化を 引き起こす動作主体が存在している。つまり、「松针松果(松の葉と実)」と「蛋花(卵の 花)」を対象として捉えることも可能である。よって、主体変化動詞が用いられる「V有」 構文についても、主体動作・客体変化動詞の場合と同様に、話し手の関心はやはり客体で ある対象にあると言える。

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図 4-12. 「落」の概念構造

図 4-13. 「漂」の概念構造

次に、「穿(着る)」、「戴(つける)」のように、主体の服装変化を表す主体変化動詞の 場合について論じる。これらの動詞は再帰動詞とも呼ばれ、主語が動作主でありながら、

結果や効力が生じる対象でもある。より分かりやすく説明するために、ここでスペイン語 の例を取り上げる。スペイン語の再帰動詞「vestirse(着る)」、「levantarse(起きる)」が、

自分自身の動作を表す時に、それぞれ「me visto(自分を着させる)」、「me levanto(自分を 起きさせる)」という形式を取る。つまり、話者の関心が動作主=対象にあると言える。ま た、「站(立つ)」、「坐(座る)」のような主体の姿勢変化動詞についても同様なことが言え る。

一方、行為経験の存在を表すII型の「V 有」構文においては、主格の位置に動作主体が 表され、対格の位置に客体対象が表されている。一見普通の能動文と同様に話者の視点は 主格に位置する動作主にあるように見えるが、実際は客体対象にも視点が置かれている。

ここでは、動作主を疑問・解答の焦点に置く例を取り上げて、II 型の「V 有」は一般の他

Cause Change

Cause Change

風など 葉と実 落ちている状態

漂っている状態 人など 卵の花

MS IS

MS IS tr

tr

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動表現より、対象に焦点が置かれることを説明する58。例えば、文(4.109)、(4.111)に対 して行為を行ったのは誰なのかという質問文においては、 文(4.110)、(4.112)のように、

「V 了」表現は成立するが、「V 有」表現は成立しない。このことから、「V 了」は積極的 に動作主を差し出し、動作行為のほうに関心があるのに対し、「V有」は行為経験の有効性 の意味を表す場合であっても、動作主との関わりが少なく、対象のほうにも関心があると 考えられる。

(4.109)钱穆 先生 于 1942 年 发表有 《〈清 儒学 案〉序》、…略…

qiánmù xiānsheng yú nián fābiǎo-yǒu qīng rúxué àn xù 人名 尊称 1942年に 発表する-YOU 書名

(銭穆先生は1942年に『「精儒学案」序』を発表している。)

(『人民日报』、2007-08-12)

(4.110)是 谁 发表 { 了 / *有 }《〈清 儒学 案〉序》

shì shuí fābiǎo -le -yǒu qīng rúxué àn xù 断定 誰 発表する -LE -YOU 書名

(4.111)今晚,安排有 欢迎会。

jīnwǎn ānpái-yǒu huānyínghuì 今晩 手配する-YOU 歓迎会

(今晩、歓迎会が手配されている。)

(4.112)今晚,是 谁 安排 {了 / *有} 欢迎会。

jīnwǎn shì shuí ānpái -le -yǒu huānyínghuì 今晩 断定 誰 手配する -LE -YOU 歓迎会

(今晩、歓迎会を手配したのは誰?)

(作例)

また、文(4.113)のように、「V 有」直後の名詞句 NP2が不定名詞句であることは一般 である59。これに対し、(4.114)のように、NP2の位置に定名詞句を用いた文は不自然にな

58 この考え方は益岡(1987:214-217)、副島(2009:18) から学んだことが大きい。

59 「V有」と違って、「V了」、「V着」の後には定名詞 句と不定名詞句の両方を用いることが可能であ る。

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る。文(4.113)では、NP2 の位置に数量詞「一幅(一枚)」を伴う不定名詞句が使用され

ている。数量詞による個体化機能は、存在対象に個別的実体としての輪郭を与えること ―

「輪郭化(profiling)」に大きく貢献し、存在対象の卓立化を促す効果をもつと考えられる

(木村 2011:112-115)。つまり、話し手の関心は旧情報の「墙上(壁上)」ではなく、輪郭

化された新情報の「一幅画(一枚の絵)」にあると言える。

(4.113)墙上 挂有 一幅 画。

qiángshàng guà-yǒu yīfú huà 壁上 掛ける-YOU 一枚 絵

(壁上に絵が一枚掛けてある。)

(4.114)??墙上 挂有 这幅 画。

qiángshàng guà-yǒu zhèfú huà 壁上 掛ける-YOU この絵

(作例)

加えて、動作主の存在を暗示する受動表現には「V了」が使えるのに対して、「V有」は 使えないことから、「V了」構文と比べて「V有」構文は動作主との関わりが少ないと言え るだろう。なお、「V 有」構文は受身表現に用いられないことは、薛(2008)も指摘してい る。

(4.115)墙上 被 挂了 一幅 画。

qiángshàng guà-le yīfú huà 壁上 受身 掛ける-LE 一枚 絵

(壁上には絵が一枚掛けられている。)

(4.116)*墙上 被 挂有 一幅 画。

qiángshàng bèi guà-yǒu yīfú huà 壁上 受身 掛ける-YOU 一枚 絵

(作例)

さらに、「V 有」は意志動詞からなる「命令形」、「勧誘形」、「願望態」など主観表現と共

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起できない。上述の分析に基づき、「V有」は客体対象の結果状態に焦点が置かれる 1つの

「客体結果相」であると言える。

ところで、なぜ「V 有」構文はこのような「対象指向性」をもっているのだろうか。こ こでは、3.4節で述べた参照点構造を用いて、「V 有」が対象指向性をもっている理由を述 べる。既に論じてきたように、「V有」は存在動詞「有」の存在用法と所有用法を継承して いる。I型の「V 有」は存在動詞「有」の存在用法を継承している。

存在用法としての「有」の概念構造は以下の図 4-1(a)である。認知主体は場所を参照 点として、ターゲットである存在物へアクセスするプロセスを表している。最初に、認知 主体は際立ちの高い事物である場所を参照点とする。そして、参照点を経由して支配領域 にある存在物にアクセスする。この場合、認知主体の焦点は参照点からターゲットに移行 される。ターゲットである存在物はより際立って認知される対象になる。これに対し、参 照点である場所は背景的になり、ターゲットである存在物を位置づけることになっている。

前述したように、I 型の「V 有」は広義の存在表現であると考えられる。典型的存在構文 と同様に、場所は背景的に位置づけられ、対象はより際立って認知される。つまり、客体 である対象は焦点化されるわけである。

a. 存在用法 b. 所有用法

認知主体(conceptualizer) R: 参照点(reference point)

T: ターゲット(target) D: 支配領域(dominion)

心的経路(mental path) Rによるコントロール 図 4-1. 「有」における存在用法と所有用法(再掲)

D D

R T R T

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一方、II 型の「V 有」は存在動詞「有」の所有用法を継承している。所有用法としての

「有」の概念構造は図 4-1(b)である。認知主体は所有者を参照点として、ターゲットで ある所有物へアクセスするプロセスを表す。この場合、参照点としての所有者は背景的で あり、ターゲットとしての所有物は前景的である。従って、II型の「V 有」においては、

動作主(経験主)は背景的に位置づけられ、客体対象はより際立って認知される対象であ ると考えられる。要するに、存在用法であるか所有用法であるかに関わらず、「有」の表す 概念構造では、「有」の後ろの部分が焦点化される。この特徴は「V有」にも反映されてい る。